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2009年08月07日

新たな税制改革議論の場を―税制調査会はどう変えるのか

1、民主党マニフェスト

民主党のマニフェストについては、財源問題の信ぴょう性をめぐる議論が多いが、ここでは、日本の国家像を決める場である、税制改革議論の在り方について考えてみたい。民主党は、マニフェストに、税制改革の政策決定方式の転換を次のようにうたっているからである。

「与党税調を廃止し、財務大臣のもとに、政治家をメンバーとする新たな政府税制調査会を設置、政治家が責任を持って税制改正を行う、従来の政府税制調査会(総理の審議会)を廃止し、代わりに税制の専門家を集めた専門家委員会を政府税制調査会の下に作る」としている。(民主党政策INDEX2009)

2、現行の税制議論のシステムー政府税調

現行の税制議論のシステムは、総理の諮問機関である政府税制調査会が税制改正の背景、論理を議論し、それとほぼ同時並行的に自民党の税制調査会で議論を通じた意思決定が行われる仕組みとなっている。双方をつなぐのが、財務省主税局の役割である。

そこで、まず審議会について考えてみたい。審議会は、省庁ごとに設置され、縦割り行政の中で仕切られている。審議会で審議する議題・アジェンダを考えるのは事務当局(はやりの言葉では「官僚機構」)なので、審議は当然その範囲内で行われる。「官僚がおぜん立てした政策を、学者や業界関係者等の有識者が加わり議論して答申をまとめるという形をとることによって、ガス抜きを行うとともに、外部からの批判をかわすことができる」ので、「官僚の隠れ蓑」という批判が根強いが、いまだに多くの審議会が存在し活動し多くの意思決定がなされている。

政府税制調査会は、諮問を受けて、税制改正についての考え方を答申する総理大臣の諮問機関である。そのメンバーは、作家、労働組合の幹部、新聞社の役員など、必ずしも税制の専門家とはいえない人たちが含まれている。彼らは「有識者」と呼ばれる人たちである。また、金融業界など業界の利益を代表している人たちも加わっている。
かつて事務局として参加した経験では、これらの方々は、「私は・・・の立場でこの議論に参加させていただきたい。」と自己紹介をする。つまり、個人の意見ではなく、自分の所属する機関・組織の代表として、その声を伝えるために参加するのである。公表議事要旨を読んでも、これらの方々が、税制の専門的な見地から発言することは少なく、「大局的な見地からの」意見が表明されている。

税制改革が国民全体に関係する以上、広く国民各層からの意見を反映させることには、それなりのメリット・理由がある。しかし、今日のように複雑で国際化した経済・社会の下で税制を考えていくに当たっては、専門家の知識の活用は欠かせない。先進諸国の税制がどのような潮流にあるのか、経済活動のグローバル化で税制はどう変わるべきなのか、これらの観点は、専門家の知見を求めなければ判断できない。

3、英・米・独の税制改革議論

英国・米国・ドイツではどのように議論が行われているのか。英国では、国民全体に大きな影響を及ぼす税制改革については、民間シンクタンクが世界の最優秀学者を集めて議論を行い、それを報告書として公表し、政府はそれを尊重しながら改革を行っている。30年前のミード報告書、今年の秋に出る予定のマーリーズ・レビューがそれだ。

ドイツでも同様である。メルケル大連立政権の下、消費税の引き上げ、法人税の引き下げ、金融所得の分離課税という大改革を3年かけて行ったが、改革の背景には、財務大臣の下に置かれた専門家グループの報告書や、経済専門家委員会(5賢人会議)の提言がある。
米国では、国を二分するような税制改革や年金制度については、与野党がともにコミットする超党派の諮問委員会を大統領が立ち上げ、その道の専門家(税法学者、エコノミスト、会計士等)だけを集めて報告書を作成する。その過程で、委員は有権者の意見を聴く公聴会を全国各地で開催する。専門家集団は、その意見を自ら作成する報告書に反映をさせていくが、マスコミ代表とか消費者代表とかの非専門有識者は加わらない。報告書は、2つ3つの選択肢(クリントン時代の年金改革は3つの選択肢、ブッシュ時代の税制改革は2つの選択肢)を作り、政治がそれを選択するという方式がとられている。

もう一つ重要な点は、各国の官僚システムの協力である。専門家によって行われる議論に、米国財務省が、各種データの供与、歳入や税負担の見積もり面での協力(財務省モデルに基づく税収予測等)、法律面での技術的なサポート等を全面的に行っている。

このような欧米の方法は、「審議会方式」に対して、「ホワイトペーパー(白書)方式」と呼ばれることがある。

4、自民党税調とは異なる意思決定メカニズムを

こう考えてくると、我が国に必要なのは、いわゆる「官僚の作文」である現在の政府税調答申ではなく、専門家の現状分析と将来の方向性を明示する高度な報告書である。ガス抜きのための審議会は廃止して、「専門家の分析を官僚機構が全面的にバックアップする」形で選択肢を作成し、それをベースに政治が国民・マスコミと対話しながら選択・決定していくという新たなメカニズムが望ましい。その点で、民主党のマニフェストである現行政府税制調査会の廃止・専門家委員会の設置には全面的に賛成だ。

問題は、政治家だけの新たな政府税制調査会が、業界の個別利害から離れて、税制の理論を軽視することなくオープンな議論を行うことが本当に可能かという点である。○×方式やインナー方式を根幹とする現行の意思決定と大きく変わるためには、政治家に大局的な国家観が必要とされる。大いに期待したい。

投稿者: 森信茂樹 日時: 15:21 | パーマリンク | コメント (0) | トラックバック (0)

 
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