バルチスタンと呼ばれる地域をご存知の日本人はそう多くはあるまい。しかし、この地域が日本にとっても、世界にとっても、今後重要な地域になっていくものと思われるので、簡単にご紹介することにした。

バルチスタン地域は、パキスタンの南西部に位置し、インド洋に面している。述べるまでもなく、そのことは、バルチスタンがオイル・ルートの要衝にあることを意味している。
しかも、バルチスタンにあるグワダール港は、今後、軍事的にも経済的にも重要性を増していくことになりそうだ。
グワダール港は水深が深く、大型船舶も停泊が可能であり、今後、中央アジアの石油、ガスの積出港としても脚光を浴びることになろう。加えて、中国とパキスタンとの関係が緊密であることから、パキスタン政府は中国の援助の下に、グワダール港の開発を始めている。
もちろん、中国政府の目的は、グワダール港を将来の中央アジアの石油、ガスの積出港として使うだけではなく、インド洋に軍港を持ちたいという野望によるものだ。
しかも、グワダール港を抑えることにより、中国はバルチスタンのマクラン海岸線から、インド洋で活動するアメリカ海軍をはじめ、湾岸、中央アジア地域で活動するアメリカ軍の通信を傍受できることになるのだ。
もちろん、中国のこの地域に対する関心と行動は、パキスタン政府との協力の下に進められているのだが、今後、この状態をアメリカやイギリスが放置するとは思えない。したがって、両国はグワダール港を含む、バルチスタン地域に対する、積極的な行動を展開してくるものと思われる。
そうした状況を考えると、バルチスタンについて、もう少し詳しく説明する必要があろう。
バルチスタン地域とは、前述のようにパキスタンの南西部、インド洋に面した地域だが、この地域は、西はイラン、北はアフガニスタンに接している。当然のことながら、イラン国内にも400万人のバルチスタン人が居住しており、今後バルチスタン民族運動が活発化すれば、イランもその影響を受けることになろう。
もし、バルチスタンの分離独立運動が活発化し、651万人のバルチスタン人がパキスタンから独立することになれば、パキスタンは最も多くの地下資源を有する地域を失うことになるし、領土の40パーセントを失うことになるのだ。
それでは、現実にバルチスタン人の分離独立への動きはあるのだろうか。バルチスタン人はこれまで、分離独立までは主張しないが、自治権を要求する運動を展開してきたし、実際にその目的で、パキスタン軍との衝突を繰り返してきてもいる。
バルチスタン人とパキスタン軍との武力衝突は、1948年、1958年、1962年、1973年から1977年にかけて起こっている。それでは、バルチスタン人が分離独立、あるいは自治権を主張する裏には、どのような根拠があるのであろうか。
12世紀ミル・ジャラル・ハーンの主導の下に、この地域の44部族が統一され連邦化している。15世紀にはリンド・ラスカリによって、17世紀にはバルチスタン土候国が誕生したとされている。13、14世紀に起こったモンゴル、タタールの侵入も、多くの避難民を生み出し、民族アイデンティティ形成に影響を与えたようだ。
イギリスのアフガニスタン侵攻に際しては、バルチスタンの部族長たちに対し謝金を出し、自治権を約束することにより、バルチスタン人によるイギリス軍のアフガニスタン侵攻に対する、反対運動を抑えたという経緯がある。
エネルギー資源が世界で大きな問題となっている現在、バルチスタン地域は、パキスタンのガス、石油、石炭産出地域として重要であり、同国のエネルギー資源の40パーセントを産出している。バルチスタンで最初にガス資源が発見されたのは、スイ地域で1953年だった。
しかし、ガスについて述べれば、バルチスタンで消費されるのは17パーセントに過ぎず、同地域の多くがその恩恵にあずかっていない。残り83パーセントは、バルチスタン地域以外であり、バルチスタン地域よりも低価格で消費されているのだ。
バルチスタン地域はガスや石油ばかりではなく、金、銅、銀、プラチナ、アルミニウム、ウランまでもが埋蔵されている、という調査報告がある。ちなみに、アメリカが2002年にアフガニスタンを攻撃した際に使われたのが、バルチスタンの軍事基地であった。そして、現在ではイランとの戦争を想定し、バルチスタンの軍事基地の重要性が再評価されていよう。
こうして考えてみると、バルチスタン地域がいかに重要であるかがわかるが、そこで思い浮かべるのは、バルチスタンが今後、どのようなきっかけで自治権獲得、あるいは分離独立に動き出すかということだ。
そのきっかけは、インドとパキスタンとの武力衝突、イランに対するアメリカの軍事攻撃などではないかと思われるが、同時にアメリカ軍部が発表した新中東地図が、この可能性を裏付けているのではないか。あの構想の中では、明確にバルチスタンの分離独立が記されていたのだ。
中国政府バルチスタン地域への台頭著しい今、アメリカやイギリスが手をこまねいているとは思えない。したがって、バルチスタンをめぐる顕著な動きは、非常に近い将来起こってくるのではないかと思われる。
投稿者: 佐々木良昭 日時: 16:23 | パーマリンク