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2007年05月31日

No.603 イスラム社会にある名誉の殺人

  最近になって、イスラム社会に古くからある「名誉の殺人」が、ニュースとして伝えられる頻度が高くなってきている。

  「名誉の殺人」が、最近になってどうして頻繁に起こるようになったのか、という原因について説明が不十分であり、そもそも名誉の殺人とはどのようなものであるのか、という説明が全くなされていないのではないか。

  また、名誉の殺人を犯した者はどう裁かれるのか、ということについて、ほとんどの日本人は知らないだろう。そこで簡単に、これらの日本人が共通して抱く「名誉の殺人」をめぐる疑問に対し、説明を試みてみることにした。

  「名誉の殺人」とは家族の女性が既婚であれ未婚であれ、婚姻関係にない男性との間でふしだらな行為をした場合に、その女性の家族や親族が家の名誉を守るために、その女性を殺害するというものだ。

  この場合、実際にはふしだらな行為にまでは至っておらず、単なる噂であった場合でも、殺人が行われることがあるのだ。

  そもそもふしだらな行為とは、性的関係に至る以前の、ひそかに男性と会う行為も、家族以外の男性と散歩や食事をするといった、行動を共にすることもそのうちに含まれるのだから、日本女性の場合はほとんどが、その対象にあたるということであろう。

  これまでは報道の自由が比較的保証されており、女性の行動に対する社会的規制も緩やかなトルコやヨルダンで、珍しい事件としてほんの数件が報じられただけだった。

  最近になって、大きく報じられたものにはクルドの少女のケースがある。この殺人現場の状況は、携帯カメラで撮影していた人物が、外国の報道機関に売り込んだのであろうか。大人たちに殴られ、蹴り倒され血みどろになって死んでいく少女の殺害の様子が、アメリカのインターネット・テレビを通じて世界中に流された。

  シリアからは、数千人にも及ぶイラクからの難民女性の売春のニュースが、CNNなどを通じて報じられている。もちろん彼女たちの実態が明らかになれば、家族は彼女たちを殺さざるを得ないのだ。しかし、他方では、イラク難民たちには、それ以外に難民状態で、生活の糧を得る手段がないことも事実なのだ。

  パレスチナからは、過去3年間で48人の女性が名誉の殺人によって家族の手で殺されたということが、エルサレム・ポストを通じて報じられている。エルサレム・ポストの報じるところによれば、以前にはパレスチナ社会で起こる「名誉の殺人」の発生件数は、年間にして10〜12人だったということだ。

  パレスチナで起こった「名誉の殺人」の発生件数は、過去3年間で48人という数字であり、年間にして16人、つまり以前に比べ50パーセント程度増加しているということになる。

  「名誉の殺人」を行った者については、アラブ世界では犯罪にあたる場合と、そうではない場合とがある。犯罪にあたる国でも、結果的にはうやむやに済まされ、処罰されないのが普通だ。犯罪にあたらない国の場合は、以前に定めた旧い法律が「名誉の殺人」を認めているからだ。

  それはイスラム法によるのであろう。姦通罪はイスラム法では死刑にあたるからだ。それを家族が行うということであろう。殺害の仕方はいろいろで、絞殺、毒殺、刺殺、銃殺などがある。

  もう30年以上も前に、アラブに留学していた頃、この「名誉の殺人」を主題にした悲しい女性を主人公とした小説を読み、半分は小説の上の話だろうと思っていたが、実際に起こっていたのだ。

  男性についても姦通は重罪なのだが、問題になったという話は聞いたことがない。シリアに難民として逃れてきた女性たちが、売春で家族全員の生活を支えているが、彼女たちを買っているのは同胞のアラブ人たちだということだ。

  こうした実態を改善しない限り、アラブ人がどうイスラム教を立派な宗教だと説明しても、非イスラム教徒には理解してもらうことは難しいのではないか。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 11:02 | パーマリンク

2007年05月30日

No.602 アメリカ・イラン直接会議の成果?

  イランでホメイニ革命が起こったのは、1979年のことだった。その後まもなく、イランの急進派学生たちによって、同年11月に、在イラン・アメリカ大使館は占拠され、館員が444日にも及ぶ長期間にわたって人質となった。

  こうした経緯があったことから、アメリカ政府はこれまでイランに対し、好意的な姿勢をまったく見せなかったし、対話の機会を持とうともしなかった。

  それどころかことあるごとに、アメリカはイランに対し国連などの場で、制裁案を出してきていた。
  ところが今年の5月28日に、急遽イラクの首都バグダッド市で、イラクのマリキー首相の仲介の下で、アメリカとイランが直接対話を行うことが決まった。

  これにはイラク問題で行き詰まったアメリカが、イランとの間で対話を持つことによって、何らかの進展が見られるのではないか、という期待があったからだといわれている。

  しかし、アメリカ政府内部にもイラン政府内部にも、この直接対話に対しては批判が無かったわけではない。アメリカではチェイニー副大統領のグループが反対し、イランでもアハマド・ネジャド大統領側は、会議の開催を好ましく思わなかったようだ。

  しかし、結果的に会議が行われたということは、アメリカのブッシュ大統領とイランのハメネイ師という、両国のトップ二人が直接対話に賛成したからであろうと見られている。

  さて結果はどうであったのだろうか。大方の評価はアメリカとイランという敵視し続けて来た国同士が、直接対話の会議を開いたこと自体に意味があるとし、成果はそれなりにあったとする向きもある。

  しかし、他方では形式的に会議が行われただけで、何の成果も無かったという評価もある。そこで客観的に評価してみると、「さしたる成果は無かった」ということになるのではないか。

  つまり、アメリカとイラン双方が5月28日の会議のあとで、今後両国は継続して直接対話の会議を開催するとは明言しなかったからだ。

  それではなぜアメリカとイランは、この時期に直接対話の会議を持ったのであろうか。イラン側には核開発に時間を稼ぎ、少なくともアメリカに空爆など軍事攻撃をさせたくない、という意向があったからであろう。

  アメリカ側からすれば、自然にイランの影響力が中東地域で拡大していくなかで、何らかの動きをしなければ、イランの影響力拡大と反比例して、反米感情が拡大していく、という不安があったのであろう。

  アメリカはまた、現段階では軍事行動に出たくない、ということもあったのかもしれない。問題はアメリカの直接対話に反対している勢力が、会議の成果が無く、イラン系アメリカ人がスパイ罪で投獄されたことなどを重大問題し、強硬な手段を採るべきだ、と主張し始めるのではないかということだ。いずれにしろ、今回のアメリカ・イラン直接会議は成功したと受け止めるべきではあるまい。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 15:34 | パーマリンク

2007年05月29日

No.601 シモン・ペレスがイスラエル次期大統領に立候補

  元イスラエルの首相を務め、現在副首相に地位にいるシモン・ペレス氏が、イスラエルの次期大統領選挙に、カデマ党の代表として立候補することが正式に決定した。

  これはオルメルト首相の推薦があってのことだ。当初、オルメルト首相はシモン・ペレス氏に首相職に就くよう申し込んだが、大統領職であれば受けるが、首相職は受けないと断られていた。

  シモン・ペレス氏の年齢からすれば、混迷を極める現時点で、イスラエルの首相になるのは、体力精神力ともに耐えられないと判断したのであろうか。

  シモン・ペレス氏以外に次期大統領選挙には、リクード党のレウベン・リブリン氏が、労働党からはコレッテ・アビタル氏が立候補する予定だ。

  シモン・ペレス氏はこれまで、パレスチナとの共存を図ってきた和平派の人物であることから、もし彼が新大統領に就任することになれば、現在のような混沌状況から抜け出せるかもしれないという期待がもたれよう。

  それと同時に、イスラエルはアメリカに誕生するであろう民主党政権と協力し、新しい形の和平がイスラエルとパレスチナとの間で進むかもしれない。

  イスラエル・パレスチナ関係ばかりではなく、世界中が混沌のなかにあるいま、大物の政治家の再登板が期待されるのかもしれない。しかし、流れは大きく変わっているだけに、彼らがどれだけ能力を発揮できるかは不明だ。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 16:32 | パーマリンク

2007年05月28日

No.600 イスラエル労働党党首選挙今日

  今日、つまり5月28日にイスラエルの労働党では、新党首の選出選挙が行われる。現在のペレツ国防相に代わり、新党首に就任するのは誰なのか、内外の注目を集めている。

  現在労働党の新党首に名を挙げているのは、元首相のバラク氏と元国内治安長官だったアミ・アヤロン氏だ。

  この選挙で注目されるのは、新党首が果たしてカデマ党の出身の、オルメルト首相を支持するか否かだ。

  オルメルト首相に対する支持は、現在イスラエル国内で大幅に低下しているが、それは昨年起こったレバノン戦争で、イスラエルが惨敗したことが主たる原因となっている。

  アミ・アヤロン氏が労働党の党首に選出されれば、労働党が連立内閣から離脱する可能性が、非常に高いと予測されている。それは、彼がオルメルト首相の辞任を強く求めているからだ。

  現在の段階の得票予想では、アミ・アヤロン氏が32.3パーセントで、バラク氏が30.2パーセント、そしてペレツ氏が7.14パーセント得票するだろうと見られている。

  もし、第一回の投票で誰も当選域に達しなかった場合は、6月11日に第二回の投票が行われることになっているが、その場合には、アミ・アヤロン氏が47パーセント、そしてバラク氏が36.4パーセント得票するだろうと予測されている。

  いずれの結果が出るかは別にして、現在のイスラエル国内は、混沌とした状況にあり、力のあるリーダーが選出されない限り、イスラエル国内ではますます意見の対立が激しくなっていくものと思われる。

  中東で最強の国家であったイスラエルも、最近では軍事的にも政治的にも、非常に難しい状況に陥りつつあるということだ。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 16:53 | パーマリンク

No.599 イエメンの刀狩はいたちごっこか

  南北イエメンが統一されて以来、すでに17年が経過している。北イエメンの大統領であったアリー・サーレハ氏は、統一後も大統領としてその座に留まり続けている。

  しかし、イエメンはいまだに部族社会であり、地方においては部族の力のほうが、中央政府の力に勝っているといわれている。

  このため、イエメンとサウジアラビアとの国境地帯などは、まさに無法地帯(中央政府の力は及ばなくとも、部族によって秩序は保たれているのだが)となっている。

  したがって、こうした地域では自由にどのような商売も成り立っており、サウジアラビアとの国境地帯には、武器兵器の市場があることで知られてきた。

  そのため、イエメンの周辺諸国で起こるテロ事件には、イエメンの武器市場で購入した武器が使われるケースが多かった。

  イエメン国内ではなく、外国で使われる分には、イエメン政府にとって問題は無かったのだろうが、最近では、サアダ地域のアルホーシ部族の反乱などで、使われる武器が種類と量を増し、イエメン軍にとっても、手強いものになりつつある。

  そこで、イエメン政府は国内に出回っている武器を、買い取ることを決めたようだ。しかし、武器商人にしてみれば、それは絶好の大量販売の機会になるのかもしれない。イエメン政府がイエメン国内への武器の搬入を抑えない限り、いたちごっこが続くのではないか。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 16:01 | パーマリンク

No.598 エジプト米のムスリム同胞団との対話に不満

  エジプト大統領府のスポークスマンである、スレイマーン・アワード氏は、アメリカの民主党議員がムバーラク大統領との会談の後に、エジプト議員集団と会談したことに不満を述べた。

  アメリカの民主党議員代表団の団長デービッド・ブライスらは、エジプトの議員集団と会談を行ったが、この中にはエジプト政府が政治活動を禁止している、ムスリム同胞団の議員も含まれていた。

  エジプト大統領府のスポークスマンは、エジプトのムスリム同胞団議員との会談をしながら、他方では、同じムスリム同胞団を母体とするパレスチナのハマース政府との会談を拒否しているのは、理にかなっていないと非難している。

  エジプト政府にしてみれば、今回の民主党議員団とムスリム同胞団の会合は、エジプト国内政治に対する、明らかな利敵行為ということになろう。

  アメリカ側の意図がそうなのか、あるいは単なる無知からのものなのかは、今後の動向を見ない限り分からない。

  ただ言えることは、ムバーラク体制の問題点を、アメリカ側は十分に承知しており、ムスリム同胞団議員との会談は、アメリカ議員団の単なる無知からのものではない可能性があるということだ。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 15:33 | パーマリンク

No.597 ハタミ元大統領09年選挙立候補

  イランの戦う宗教者協会のムハンマド・アリー・アブタヒ委員は、2009年のイランの大統領選挙に、ハタミ元大統領が立候補すると発表した。

  彼に言わせれば、現在のイランの政局を見るとき、ハタミ氏の立候補はぜひとも必要だということだ。
  同時にハタミ元大統領は、第8回立法委員会メンバーにも、立候補する予定だということだ。

  現段階でハタミ元大統領が2009年の大統領選挙に立候補するのは、イランの大学生の政府に対する不満を解消することが狙いのようだ。

  しかし、ハタミ大統領が辞任した裏には、彼が大統領任期になんら成果を挙げなかったことが、主な辞任の理由として挙げられている。そうであるとすれば、今回のハタミ氏の担ぎ出しは、イランの対外的印象をよくするためではないのか。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 15:31 | パーマリンク

No.596 ファタハ・イスラームのバックには誰が?

  突然のように、レバノンのトリポリ市に近いナハル・アルバーリド。パレスチナ難民キャンプで、レバノン軍と武力衝突を起こしている、ファタハ・イスラームという名の組織をめぐり、いろいろな説が飛び出してきている。

  ある者はファタハ・イスラームの後ろにシリアがいると主張し、ある者はサウジアラビアとアメリカがスポンサーだ、と主張している。

  ファタハ・イスラーム組織は、あくまでもパレスチナの抵抗闘争の中から誕生した、純粋なパレスチナ抵抗組織だと主張する者もいる。この説をとなえている中心は、ファタハ・イスラームの主導者アブドルラッザークアブスィの家族などのようだ。

  またある者はファタハ・イスラームの後ろに、サウジアラビアがいるが、それはサウジアラビア政府が以前からシーア派の台頭を快く思っていなかったために、この組織に支援を送ったのだと主張している。

   しかし、どう考えてもアメリカやサウジアラビアが、ファタハ・イスラームの支援国だとは思い難い。それは、アメリカによって支援されているレバノンのシニオラ首相が、パレスチナ難民キャンプから、ファタハ・イスラーム組織を寝こそぎ排除する、と言っていることから察せられる。

  ファタハ・イスラーム組織のメンバーには、一部パレスチナ人も加わっているようだが、難民キャンプの住民の語るところによれば、サウジアラビアやイエメン国籍など出身国は各国にまたがっており、彼らはパキスタンの服装をしているということだ。

  そして、彼らは資金を潤沢に持っており、四輪駆動車を購入している。買い物では全く値切らないし、イスラームの祭日には、複数の羊を買い、肉を近隣の人たちに配っていたということだ。しかも、彼らの女性家族は、黒いアバーヤですっぽりと身体を包み、全く見えない状態になっているということだ。

  これらの情報が正しいとすれば、彼らはアフガニスタンからレバノンに移り住んできたアフガン帰りということを想像させる。つまりアルカーイダやアフガンでかつて戦闘したムジャーヒデーンのメンバーということになる。

  彼らがレバノンのキャンプにたどり着くには、どこかの国が支援する必要があったろう。その国はアメリカやサウジアラビアではないのではないか。それより、反アメリカの立場にある中東の国が、彼らを受け入れたものの、対応に苦慮して体よく追い出した、ということのほうが推測として楽ではないか。

  そうなると、彼らはイラクの義勇軍としてシリアに入った可能性があろう。また、アフガニスタンから陸路イランに入った可能性もあるのではないか。

  アメリカ軍はレバノン政府に対し、大量の武器を緊急援助したということだ。そのレバノン政府、アメリカの支援する組織に対し、全面的攻撃を加えるということはありえないのではないか。

  ファタハ・イスラーム組織は、一定の国家によって手厚い支援を受けているというよりは、ある程度の協力関係があるというレベルなのかもしれない。真相はいまだに不明だ。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 00:45 | パーマリンク

2007年05月27日

No.595 トルコ軍6万がイラク国境に集結

  トルコ国内で連続して起こっているテロ事件を理由とし、イラク国境に大規模にトルコ軍が配備された。一説には6万人といわれているが、ブユルカヌト将軍は「15万人の軍を配備した」と主張している。

  以前、トルコがイラク国境を越えてクルド攻撃を行ったのは、1990年の初期だったが、今回は越境攻撃に至るのか否か今のところ不明だ。イラク領土内に越境する可能性は、現在のトルコ国内政治を考えると十分にありうる。

  エルドアン首相は先に行われた大統領選挙をめぐり、世俗派の国民と軍との間で政治的対立関係にあり、クルド問題を根拠に、全国民的な反クルドの対応を考え実行することにより、軍との一体感を示すことにより、世俗派の国民を引き付けることができよう。

  しかし、そのことは欧米諸国を敵に回しかねないことでもある。トルコの政治評論家の中には、「今までトルコ側がクルド問題の解決について、アメリカ側に相談したが、なんら具体的な解決案が出てこなかったことから、今回の強硬な動きにどうアメリカが反応してくるのか、リトマス試験紙のようなものになるのではないか」と述べている者もいる。

  アメリカ政府高官はもちろん、現段階では「トルコが話し合いによって、クルドとの間の問題を解決することを願っている」と武力行使について反対の立場を述べている。また「軍事力の行使は何ら問題の解決には役立たない」とも語っている。

  彼はまた、「トルコ政府は一連のテロ事件について、クルドのPKKが実行したという十分な証拠を持っていない。それにもかかわらずもし、トルコがあくまでも軍事力を使ってクルド問題を解決しようとすれば、トルコはもとより地域全体が不安定化する」という予測を述べている。

  皮肉なことに、今回のトルコとクルドPKKとの緊張により、15万のトルコ軍がイラク国境に配備されたということは、アメリカ軍のイラクからの段階的撤退にとっては、すこぶる好都合なことではないのか。
私はアメリカ軍のイラクからの撤退の穴を埋めうるのは、トルコ軍だけだと予想しているのだが。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 12:16 | パーマリンク

2007年05月25日

No.594 米・イラン双方による危険な挑発合戦

  ここに来て急に、アメリカとイラン双方が相手を挑発するような、言動が目立ち始めている。
  アメリカはイランに対する更なる制裁決議を国連で決議しようとし、ヨーロッパ諸国、なかでも、フランス、ドイツがそれを支持する動きを見せている。

  このアメリカによる制裁の動きは、敏感にイランの経済に影響を与えているとイラン国内の評論家やアナリストがコメントしているし、イギリスに拠点を置き、ドバイ経由でイランとのビジネスを展開しているイラン人の企業家も、欧米でのビジネスと交換に、イランとの取引をすることはできない、と自主規制を強める動きをしている。

  しかし、そうした現実とは別に、アハマド・ネジャド大統領はイラン中部都市イスファハーンでの講演で、イランの核開発がすでにピークに達し、エネルギー源としての核施設が稼動間近だ、と語っている。もちろん、彼はイランの核開発が、核兵器を目指すものではないことも強調している。

  こうしたイランの核開発の進展ぶりを受け、ヨーロッパ諸国のなかには、イランの核開発が平和利用を目的としているのであれば、部分的に核開発を認めざるを得ないのではないか、という意見も出始めている。

  しかし、アメリカ政府はイラン側との外交的接触を試みながらも、そうした妥協的な姿勢とは、明確に一線を画しているようだ。

  先に記したように、ペルシャ湾内でのアメリカ海軍の訓練は、イランに対するあからさまな挑発行為であり、この訓練の規模は、2003年のイラク攻撃時と、その規模をほぼ同じにするものだと伝えられている。

  アメリカのブッシュ大統領とイランのアハマド・ネジャド大統領の、意地の張り合い挑発合戦が火を噴かないことを祈るばかりだ。もし、イランとアメリカが一戦を交えることになれば、それは世界経済全体に大きなダメージを与えることが予測されるからだ。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 14:18 | パーマリンク

No.593 エジプトが民主戦線党結成許可

  エジプトの諮問会議が野党結成を検討していたが、今回民主戦線党の結成が正式に認められた。
  この民主戦線党の党首には、元与党国民民主党の重鎮であったウサーマ・アルガザーリ氏が就任した。彼はエジプトの政治改革が進まないことに業を煮やし、与党を離脱し新党の結成を試みていたが、今回正式に彼の政党が認められることとなった。

  今回の新党の結成が正式に認められたことによって、エジプトの政治世界は34党から35党体制に変わったことになる。

  民主戦線党は汚職追放、エジプトをエジプトらしさに引き戻す、本物の民主化などをうたい文句にしている。

  これら以外に本物の民主化のために表現の自由やスト結党の権利、各種団体結成の自由などを党是に掲げている。

  今回民主戦線党の結党が認められたことは、与党あるいはムバーラク大統領の許可があってのことであることは推測に難くないが、結党後の活動次第では、大きくエジプト国内政治を揺るがすことになるかもしれない。

  それだけエジプトをはじめ、アラブ・中東世界はいま激変の時期に突入しているのだ。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 13:46 | パーマリンク

2007年05月24日

No.592 米・イランが再度緊張

  アメリカのイランに対する軍事攻撃は無かろう、という判断が一般化し、両国間の緊張状態は、いったん沈静化に向かったかのような印象を与えている。

  しかし、ここに来て再度、両国間の緊張が高まっているのではないか、と思われる動きが重なっている。イランのアフガニスタン難民に対する強硬な追放措置もそのひとつであろう。

  そして、イラクでの5月中の米兵死者数は85人にものぼり、その背景にはイラン側の関与が取りざたされている。アメリカはイランが反アメリカ反イラク政府のグループに対し、武器を供給していると同時に、ミサイルなどの製造用部品と、そのノウハウを提供していると非難し続けている。

  しかし、イラク国内の反アメリカ・イラク側のグループは、「イラク国内には武器が山ほどあり、外国から供給される必要は全くない」とイランの武器供与について否定している。

  それはそのとおりであろう。サダム体制末期に、多くの武器が対アメリカのゲリラ戦に備え、各地に隠匿されていたのだから、それがいくらでも出てくるということであろう。そうした実情が、アメリカが折々発表する「イラン製武器発見」という発表に、信憑性を持たせないのであろう。

  イギリス海軍の領海侵犯でも、結果的には、イラン側に対する挑発工作が失敗したのではないか。
  ここにきて、アメリカはペルシャ湾内に浮かぶ戦闘艦空母などを使い、大規模な軍事演習を開始したが、これもイランに対する挑発であろう。もしイラン側が何らかの行動を起こせば、アメリカはそれを口実に、一気に軍事行動に出る可能性があるということだ。

  イスラエルからは何度と無く、ブッシュ大統領の在任時期に軍事行動が起こるという予測が出され、アメリカの大統領候補もこぞって「イスラエルの安全をアメリカが守る、必要とあればイラン攻撃も辞さず」といった威勢のいい演説を繰り返している。

  IAEAも、イランの核開発が危険水域をすでに超えていると発表し、その発表を受け、アメリカは新たな制裁措置を国連で決定しようと思っている。フランスのサルコジ大統領も、イランに対する新たな制裁について、前向きの姿勢をすでに発表している。

  そうした中で起こったアメリカ兵人質事件は、どうやらアメリカ兵の死体発見で幕を閉じようとしている。その死体がアメリカ兵のものであり、白人兵であり、死体が虐待行為によって損傷しているということになれば、この事件とイランとの関連が取りざたされよう。

  つまり、アメリカとイランの緊張関係は、いまだに続いているということであり、少なくともアメリカのブッシュ大統領は、イランとの間で何時でも戦争を始める意思がある、ということを忘れてはなるまい。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 14:49 | パーマリンク

2007年05月22日

No.591 エジプトイスラム原理主義者大量釈放

  エジプト政府が、135人のイスラム原理主義者を、釈放することを決定した。彼らはガマーア・イスラーミーヤ(イスラム集団)、通称ガマーアと呼ばれるイスラム原理主義強硬派のメンバーだ。

  そのメンバーのほとんどが、10年以上の刑務所生活を送っていたわけであり、今回の釈放決定はまさに、人道的な措置ということになろう。もちろん、この釈放されるメンバーの中には、主導的立場のより強硬な人たちは、含まれていない。

  アルカーイダのナンバー・ツーとして世界的に知られ、アフガニスタンに潜伏しているといわれている、アイマン・ザワーヒリもこのメンバーであり、サダト大統領暗殺にかかわったのも、このグループのメンバーだった。

  さて、今回の釈放が果たして、エジプト国内政治とイスラム原理主義者の活動に、これからどのような影響を及ぼすかということになるが、決して甘いものではないのではないか。

  イスラム原理主義者たちは刑務所の中で、相当厳しい処遇を受けたはずだし、彼らの思想信条は強まることはあっても、弱まることはあるまい。したがって、彼らはこれまでよりも、強固な反体制の考えを持っている、と判断すべきであろう。

  ただ釈放される多くのメンバーが、40代後半から50代後半と思われることから、体力的にはとてもテロができる年齢ではあるまい。アラブの人たちの身体は日本人に比べ、10歳は早く老化すると思われるからだ。

  したがって、彼らが刑務所から出てでくることは、若者を指導することになろう。しかし、釈放された後も、警察の厳しい監視下に置かれるであろうことから、若者に対する指導は容易ではあるまい。

  そのような中で彼らが活動する場合には、秘密裏に彼らの声を録音したテープが出回り、彼らの著作が秘密裏に国内で配布されるということであろう。こうした手法は、アラブ社会では大きな効果を持つのが普通だ。

  秘密であればあるほど、大衆はそのテープや印刷物にありがたみと真実味を感じその発信者を支持するのだ。

  ムバーラク大統領は国内外に対し、寛大な大統領のイメージを作りたいということから、今回の決定を下したのかもしれないが、それは逆に、彼の生命の危険性を高めたのではないか。

  サダト大統領も、ナセル大統領の後継者となったときから、ナセル大統領とは異なる政治姿勢を示すために、ムスリム同胞団の活動を黙認し、結果的にはムスリム同胞団の一派によって、暗殺されることになったのだ。

  ムバーラク大統領の場合はどうなのであろうか。その予測は釈放後のガマーア・メンバーに対する、エジプト政府の監視の度合いを見ないことにはまだ判断できまい。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 23:26 | パーマリンク

No.590 シリアはなぜ今レバノン情勢を悪化させたいのか

  レバノン北部の都市トリポリに近いナハル・アルバーリド・パレスチナ・キャンプで、レバノン軍兵士とパレスチナ勢力との武力衝突が起こっている。

  レバノン軍と戦っているパレスチナ勢力は、ファタハ・イスラムという組織だ。つい先日の5月20日の日曜日には、レバノン軍とファタハ・イスラム組織との戦闘で、38人もの犠牲者を出す結果となった。

  ファタハ・イスラムという名から連想するのは、アルカーイダとの関連だが実態は違うようだ。そのファタハ・イスラムという組織は、もともとはファタハ・インテファーダと呼ばれた組織だったということだ。

  このファタハ・インテファーダ組織は、パレスチナの故アラファト議長に対抗し、パレスチナのファタハ組織を分裂させ、パレスチナ組織を弱体化するために、故アサド大統領が1983年に結成したものだということだ。

  この組織のリーダーはシャーケル・アル・アッバースィで、彼はシリア国内でテロ攻撃を実行しようとして逮捕され、3年間の刑に服している。シャーケル・アル・アッバースィに対するこの3年間の刑は、他の受刑者の刑期に比べ非常に短期間だということだ。

  シャーケル・アル・アッバースィはその後釈放され、彼はシリアのエージェントとして働くようになり、組織名はファタハ・インテファーダからファタハ・イスラムに変更されたということだ。

  現在、そのファタハ・イスラムのメンバーは約100人程度といわれているが、半数がレバノン人で残りはパレスチナ人やサウジ・アラビア人シリア人が含まれているということだ。

  そうした経緯から、今回レバノン北部の都市トリポリの近くで起こっているナハル・アルバーリドの戦闘は、シリアの指示に従って起こされたものだということだ。

  それではなぜ今このような戦闘が起こされたのか、ということに対する説明は、アメリカ、イギリス、フランスが国連で、レバノンの故ハリーリ首相暗殺事件に関する、本格的な調査をするための国際法廷設置を進めているからだというのだ。

  この動きがレバノン国内の混乱によって延期されることを狙って、シリアがファタハ・イスラム組織に対し、レバノン軍との間で戦闘を始めるように、仕掛けたのだということだ。真偽のほどはわからない、このメモはエルサレム・ポスト紙の記事を元に書いたものであることを記しておく。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 00:21 | パーマリンク

2007年05月21日

No.589 米・イラン会議にイラク副大統領が苦言

  今月の28日に、イラクの首都バグダッド市で、アメリカとイランの代表がイラクの治安改善について話し合うことが、5月18日付けのアルハヤート紙で報じられた。

  この決定に対し、クルド出身のズイバリ外相は賛成しているが、ヨルダンの死海リゾートで開催された、ワールド・エコノミック・フォーラムにイラク政府を代表して参加した、スンニー派のターレク・アル・ハーシミー副大統領が苦言を述べている。

  彼に言わせれば、アメリカとイランがイラクの治安について話し合うことは、イラクの内政に直接的に干渉することになり、イラクの主権を侵すものだというのだ。

  確かに、当事者であるイラクを除き、イランとアメリカの大使がバグダッドの治安改善について直接話しあう、しかもその会議をイラクの首都で開催するというのは、イラク政府の存在を無視した、あまりにも強引なような気がする。

  それでも、このアメリカとイランの会議から、イラクの治安改善に向けたしかるべき成果が出てくることが期待できるのであれば、イラク側の受け止め方も異なろう。

  現段階でささやかれている、アメリカ・イラン会議に関する予想は、結果的にアメリカとイラン双方が、自国の立場を強調し相手国を非難して終わるのではないか、つまり成果らしい成果は出ないのではないかというものだ。

  そこで気になるのは、なぜアメリカがこのような無意味な(現段階では明確に結果を予測することには無理があるが)会議をイラクの首都で、わざわざ開催する必要があるのだろうか、という疑問が沸いてくる。

  そこで考えられるのは、アメリカはイラン側のかたくななイメージを、この会議を通じて創り出し世界にアピールし、イランに対するより厳しい対応に、正当性をつけるためではないかということだ。

  アルジャズイーラはアメリカがパキスタンのバルチ族を利用し、すでにイランに対する秘密軍事作戦を始めていると報じている。そのために多くの武器や資金がバルチ側に渡っていると言うのだ。

  その結果、アメリカから支援を受けるバルチ族が結成したジュンド・ル・イスラム組織は、20人の革命防衛隊員を殺害したと発表している。アメリカの秘密部隊も、2004年以来イラン国内で破壊工作を実施している、という報告がなされている。

  こうした秘密作戦のレベルを、本格的な軍事行動のレベルに移すための口実創りに、この会議が開催されるのではないことを祈るのみだ。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 14:16 | パーマリンク

No.588 パレスチナの魔法の呪文

  パレスチナのガザ地区では、パレスチナ人同士の殺し合いが続いている。このためすでに先週だけでも50人以上ものパレスチナ人が、パレスチナ人の銃弾によって死亡し、その何倍ものパレスチナ人が負傷している。

  ハマースの幹部の一人が、この惨状の中で語った言葉が、実にパレスチナ人らしい。「パレスチナ人同士で殺し合いが起こっているのは、欧米諸国が経済制裁したためだ、そこにはイスラエルの陰謀が働いている。そのような現状をアラブ諸国は見て見ぬ振りをしている。」と評したのだ。

  彼の論法によれば以下のようになる。

  :パレスチナ人同士が殺し合いをするようになったのは、欧米諸国が経済援助をしてくれないために、
   パレスチナ人の経済状態が悪化したことが原因だ。
  :欧米諸国が経済援助を止めたのは、イスラエルの陰謀によるのだ。
  :結果的にパレスチナが経済的苦境に陥ったにもかかわらず、アラブ諸国は見て見ぬ振りをしている。
  :パレスチナ人同士が殺し合いをすることになった原因は、欧米とアラブとイスラエルにあってパレス
   チナ人にはない。

  実にばかげた論理としか言いようがない。パレスチナ人同士が殺し合いをするようになった理由は、マハムード・アッバース議長が率いるファタハが、大金を持っているにもかかわらず、イスマイル・ハニヤが率いるハマース政府を追い落とすために、資金を出そうとしないことに原因があるのだ。

  しかもファタハは、イスラエルとの間でどんどん妥協し、自分たちの立場を外部から補強しようとしている。

  そのことを放置していたら、エルサレムも西岸もやがてはイスラエルによって完全に押さえられてしまう、という不安がハマース側にはあり、それにもかかわらず、妥協を続けるマハムード・アッバース議長とファタハに、ハマース側は我慢がならないのだ。

  パレスチナ人はこれまで以下のような論法を使ってきた。

  :パレスチナのイスラエルに対する闘争は、エルサレムを奪還するためのものだ。
  :したがって、世界中のムスリムには、エルサレム奪還闘争をしている、パレスチナ人の闘争を支援
   する義務がある。
  :パレスチナ人のこの崇高な闘争を支持しないムスリムは、ムスリムとはいえない。

  この単純な論法は、単純ではあるが故に反論の余地がない。そのため、これ
まで長い間アラブ諸国をはじめ、世界のイスラム諸国はパレスチナを支持する側に回ってきたのだ。

  そればかりか、世界中のムスリムの反政府闘争には、常にエルサレム問題やパレスチナ問題が取りざたされてきている。ビンラーデンが率いるアルカーイダの闘争も然りだ。

  すべての責任を外部や他者に押し付け、自分の側を正当化する無責任なパレスチナ人の論法が、イスラム世界で存在し通用する限り、イスラム原理主義の運動は止むことはないだろうし、パレスチナの独立もありえないだろう。

  パレスチナ人の手中には、世界中で通用する「エルサレムの解放」「パレスチナの建国」「パレスチナ難民の帰還権」という、小切手をいやおうなく切らせる魔法の呪文があるのだから。それがある限り、パレスチナの幹部たちは、パレスチナ国家樹立を真剣には考えないだろう。彼らが考えるのは、いかにしてその魔法の呪文を唱える権利を、パレスチナ人の間で自分たちだけが独占するかだ。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 00:28 | パーマリンク

2007年05月19日

No.587 イギリスはイラク難民を冷遇

  インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙が、「イギリスのイラク難民に対する対応が冷たい」という記事を掲載した。

  イギリスには現在、7,500人程度のイラク難民が居住しているようだが、彼らは正式に仕事に就くことはできないし、難民としても認められていないようだ。もちろん、永住許可が下りることも期待できないだろう。

  これらのうち昨年までに、正式に亡命を認められた人は、950人いるようだ。
 さてそれでは、アメリカの場合はどうであろうか。昨年は202人イラク人が入国を許可され居住しているが、今年中には7,000人を受け入れる、とアメリカ政府は発表したようだ。

  イラクのサマーワでアメリカ軍の通訳をしていた知人から、アメリカへの移住許可証は取っておいたほうがいいかどうかの、問い合わせを2ヶ月ほど前に受けたことがあるが、アメリカも放っておくわけには行かない、と少しは考え始めているようだ。

  その第一段階が、アメリカに貢献したイラク人を受け入れる、というものであろう。しかし、入国許可が与えられたイラク人がアメリカに渡ったとしても、すぐに仕事があるわけではないから、当分の間生活できるだけの資金を用意しなければなるまい。

  アメリカ政府はそこまで親切に、イラク人移住者の面倒を見るとは思えないのだが、私の予測が間違っていることを期待する。

  もちろん、アメリカ在住のイラク人の知人や親族を頼るということはあろうが、それとて何処まで面倒見てくれるか分からないのではないか。

  イギリスに陸路を通過してたどり着いた人たちは、16,000ドルもの大金を支払ったということだ。
そして彼らは、イギリス在住のイラク人の親類や、知人の家に居候しているのだ。そのような状況は、アメリカに渡った場合でも、あまり変わらないのではないか。

  ここで考えなければならないのは、いったい誰がこのようなイラク人難民を作り出したのかということだ。その責任をサダムに押し付けることはできまい。難民が発生したのは、アメリカやイギリスがイラク統治を始めてからのことだ。

  もっとはっきり言えば、アメリカやイギリス軍がイラクに軍事侵攻することによって、イラク難民は発生したのだ。しかも、その数は何百万人にも達しているのだ。

  難民たちの中には生活苦から、乞食をしたり泥棒をしたり、売春婦に身をやつさなければならない人達がたくさん出ている。そのことは、アメリカのCNNテレビも既に報じている現実なのだ。

  売春をして家族の生活の糧を稼いだ女性が、そのことが家族や親類周囲の人たちにばれて、名誉の殺人の対象になるという、悲惨な状況まで起こっているのだ(名誉の殺人とは、女性がみだらな行為をしたり、そのような疑いをもたれた場合、家族がその女性を一家の名誉のために殺害するということ)。

  その難民発生の原因を作ったアメリカやイギリスが、イラク難民受け入れに、しかるべき対応をするのは義務であろうし、シリアやヨルダンに大量に流れ着いているイラク難民についても、応分の責任を果たすのが道理であろう。

  民主主義を実現する、というアメリカの理想をイラクに押し付けた結果は、イラクを破壊するだけで、その後の復興がうまくいかないからといって、難民を放置していいという理屈は何処にも無い。

  問題は、日本にもこの責任の一端があるということを、どれだけの日本人が自覚しているかということだ。日本はイラクの戦後復興を支援したのだ、というかもしれないが、その根底にあったのは、アメリカとの良好な関係を維持すること、であったろう。

  イラクへの自衛隊派遣の目的は違うが、日本はそのために、アメリカ軍のイラク侵攻を裏から支えたのだ。少なくとも、世界中の国々は日本がとった行動についてそう認識しているのだ。

  イラクへの自衛隊派遣の是非はともかくも、日本は世界からそう見られているという現実を、日本人は明確に認識しておく必要があろう。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 23:05 | パーマリンク

No.586 トルコのデモ大山鳴動…

  トルコのイスタンブールやイズミールで、イスラム系大統領の選出に反対する大規模なデモが行われたことは、世界的にも話題になった。

  しかし、このデモは結果的に何を生み出したのだろうか、ということを考えると、デモ主催者側の期待した結果とは、全く反対の結果を生み出すのではないだろうか、と思えてならない。

  そもそも、トルコの議会で次期大統領の選出をめぐり、与党AKPの推すギュル外相の立候補に反対する動きがあり、軍がクーデターを起こすと警告し、野党は新大統領選出に反対し、議会を欠席するという動きに出た。

  与党AKP 側は、エルドアン首相よりも温厚なギュル外相を大統領選挙に立候補させることにより、トルコ国内の混乱を避けようとしたのだった。

  結果的に、ギュル外相の大統領選挙出馬は取り下げられ、軍のトップはエルドアン首相に対し、自分にはクーデターをする意思が無かった、といった内容の言い訳をする形になった。

  次いで起こったのが大規模デモだったが、これもニュースを少し詳しく読んで考えると、どう見ても全国から動員したものであり、デモ開催地の住民が集まったものではなかった。

  それが何より証拠には、イズミールのデモの場合、同市に入る道路は、すべて渋滞に陥っているからだ。つまり、多数の人たちが他の地域から集まりデモに参加したということだ。

  大規模デモがこのような形で行われたのだが、結果は、野党側には次の一手が全く無いということだ。逆にエルドアン首相側、与党AKP側では大統領の選出を国民投票にゆだねる案を出し、それが実行される運びとなっている。

  そのような国民投票で選出される大統領は、これまでの大統領以上に権限を有することになろう。しかも、国民投票によって大統領が選出されることになれば、現在でも多数を占めている、与党AKPのメンバーの推薦候補が選出されることは、ほぼ間違いあるまい。

  次の大統領選挙にギュル外相が与党AKPから推薦されるのか、あるいはエルドアン首相が選出されて立候補するのかは、現段階では不明だ。

  もしエルドアン首相が押されて、大統領に立候補することになれば、野党は自分たちの目論見と全く反対の結果を、与党に対する一連の反対の動きで生み出したことになる。

  しかも、その新大統領は、国民投票によって選出されるのだから、アメリカの大統領やロシアの大統領と変わらない、絶大な権限を有するものに変わっていこう。
現在のトルコ国内の政治的流れを見ていると、与党AKPから大統領と首相が選出される、という可能性もほとんど確かであろう。

  国の流れ、時代の流れは、なかなかその方向を変え難いものなのかもしれない。トルコはいま、新しい方向に向かって確実に流れ始めているのだ。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 10:19 | パーマリンク

2007年05月18日

No.585 イスラエル国民は米のイラン攻撃に期待

  欧米諸国の中では、アメリカによるイラク攻撃が間違いであったし、イランに対する軍事攻撃も反対だ、という意見が高まる中で、イスラエル国民はアメリカによる、イラン攻撃が実行されることを強く望んでいる、ということが明らかになった。

  これはイスラエルのバルイラン大学が世論調査を行った結果だ。それによると、71パーセントのイスラエル国民が、アメリカによってイランが攻撃されることを期待しているということだ。

  また、アメリカが行ったイラクに対する軍事侵攻についても、イスラエル国民の59パーセントが正当化できるとしている。そして、アメリカはイスラエルにとって信頼すべきパートナーだ、という意見が65パーセントに達している。

  当然のことながら、ブッシュ大統領に対する判断でも、73パーセントのイスラエル国民が支持している。

  イスラエルはなぜこうまでもイランを敵視し、恐れているのであろうか。それはレバノンのヘズブラや、パレスチナのハマースに対するイランの影響力と支援が、イスラエルにとって明確な脅威になっているからであろう。

  イランの核兵器開発の可能性について、イスラエルが過敏なまでに反応するのも、現実に日々イスラエル国民が直面している、ヘズブラやハマースの脅威に裏付けられているからであろう。

  数日前に、元テルアビブ大学ジャッファ・センター所長で、現在、ブランデイズ大学の中東研究クラウン・センター・デレクターのシャイ・フェルドマン氏の発言を紹介した。 シャイ・フェルドマン氏によれば、「ブッシュ大統領はイラン攻撃の機会を失ったわけではない、ブッシュ大統領は2009年1月の退陣の間際に、イランに対する軍事攻撃をするだろう」とコメントしているという内容のものだった。

  イスラエル国民はいま、大きな不安の中にいるのではないか。シャロン首相が倒れ、その後任になったオルメルト首相によって引き起こされたレバノンのヘズブラとの戦争は、イスラエル国民が過去に経験したことの無い、無様で悲惨な結果をもたらすこととなった。

  そのことに続いて、政府幹部の汚職とスキャンダルが続出し、イスラエル国民は政府要人に対する信頼感を無くしたのであろう。ヘズブラとの戦争を調査した結果は、イスラエル政府にとってすこぶる厳しいものとなったが、だからといって現状を打開するものではない。

  イスラエル国民の不安と不満を解消できるのは、アメリカによるイラン攻撃だけなのだろうか。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 14:38 | パーマリンク

No.584 イランは着実に核の濃縮作業を進めている

  アメリカのチェイニー副大統領とイランのアハマドネジャド大統領が、湾岸諸国をほぼ同時期に訪問した話は報告した。そして、二人の訪問がどのように湾岸諸国に受け止められたのかについても報告した。

  すでに報告したように、結果はアハマドネジャド大統領の勝利であった。湾岸諸国はイランが遠い将来に所有するかもしれない、核兵器に対する不安よりも、今年中にでもアメリカが行うかもしれない、イラン攻撃の方に強い懸念を抱いているということだ。

  無理も無いことだろう。アメリカがイランを攻撃することになれば、米軍基地のあるカタールは、イラン側から攻撃されようし、クウエイトやバハレーン、アラブ首長国連邦も攻撃の対照となろう。述べるまでも無く、サウジアラビアも対象から外れることはあるまい。

  アメリカはイランを攻撃する場合、湾岸各国の基地からではなく、海上から攻撃すると言っているが、戦争が始まってしまえば、そんな悠長なことは言っていられなくなる、というのが常識であろう。

  したがって、湾岸諸国はまずアメリカの脅威に対して、ノーを言ったのであろう。イラク国民の間にも、アメリカ軍の駐留に対してノーを言う者が大半になっているし、ヨーロッパ諸国でも同様だ。最近ではアメリカ国内でも反戦機運が高まり、議会でもイラク駐留に厳しい反応が出ている。

  湾岸諸国はなんとかこうした世界的なムードを活かして、イランとアメリカの軍事衝突を避けたいということであろう。

  問題はイランがこうした湾岸諸国の反応を、どう受け止めるかだ。イランが湾岸諸国の反戦機運をイラン支持だと解釈し、アメリカに強気の対応を繰り返していると、アメリカは我慢の限界点に達し、イランに対する攻撃を断行する危険が出てこよう。

  また、イランが湾岸諸国のアメリカに対する批判的な反応を誤解し、核開発を強引に進めれば、世界がイランに対して不安を抱くことになろう。実はその危険性が懸念される。イランはいま、大量の濃縮設備をそろえ、着々と濃縮作業を進めているのだ。

  イランはこれまで、核開発はあくまでも平和利用だ、と主張していることを真に受けている国は少ないだろう。したがって、イラン有利の風潮の中だからこそ、イランは慎重かつ丁寧に自国の核開発の実情を、世界に対して説明し、公開すべきであろう。

  そうでなければ、アメリカと世界の反戦機運の流れを、突然にして逆転させる危険があろう。そのような状況が発生したときに、被害を受けるのはイランや湾岸諸国ばかりではない、世界中の国々が被害を受けることになるのだ。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 01:10 | パーマリンク

2007年05月16日

No.583 湾岸歴訪はアハマド・ネジャドの勝利か

  5月の半ばに、アメリカのチェイニー副大統領とイランのアハマド・ネジャド大統領が湾岸の幾つかの国を訪問した。チェイニー副大統領の方が訪問先国は多く、主にイラク対応について協力を要請して回ったようだ。

  他方、イランのアハマド・ネジャド大統領の訪問先は、オマーンとアラブ首長国連邦の二カ国だけだった。アラブ首長国連邦政府はチェイニー副大統領の訪問と、アハマド・ネジャド大統領の訪問が重ならないように、細心の注意をし、両者を迎えたようだ。

  アラブ首長国連邦とイランとの間には、1970年代初頭から続いている、アブー・ムーサ島大小トンブ島の領有問題があるが、両国はこの問題については深入りを避けたようだ。両国がこの問題について触れたのは「平和的話し合いによる解決化国際司法裁判所での解決。」というものだった。

  、今回のアメリカのチェイニー副大統領と、イランのアハマド・ネジャド大統領の湾岸各国訪問の後、湾岸各国首脳がサウジアラビアの首都リヤドに集まり、両者の訪問について意見を交換した。

  そのことを報じたロンドンで発行されている、サウジアラビア系のアルハヤート紙は、アメリカのイラン攻撃の危険性について、湾岸各国首脳間で意見の交換があったと記している。

  このタイトルからも分かるように、今回のチェイニー副大統領とアハマド・ネジャド大統領の湾岸各国訪問に対する、湾岸各国首脳の印象は、チェイニー副首相に対しては、極めて冷たいものであったことがうかがえる。

  湾岸諸国会議議長(GCC)のアブドルラハマン・アテイヤ氏は「イランに対して武力行使することは、イラクにとっても地域の国々にとっても何の役にも立たない。われわれは、武力では無く対話によってこの問題を解決すべきだと考える」と述べ、間接的にアメリカのイランに対する強硬な対応に反対の立場を明らかにした。

  またアメリカのイラク対応については(計画の無い占領)と表現し、イラク情勢を悪化させていると言い切った。しかもイランに対する対応では「GCC各国はイランに対する武力行使に強く反対する」と述べ、あくまでも対話による解決を主張している。

  他方、アハマド・ネジャド大統領に対する反応は、すこぶる良好とまでは行かないまでも、ごく普通の反応、自然な反応であったことがうかがえる。

  それは、イラン政府側の対応が、極めて謙虚であると同時に、丁寧なものであったことを意味しているのではないか。アハマド・ネジャド大統領はアラブ首長国連邦訪問に際し、兄弟愛と友好を前面に打ち出した。この他、アラブ首長国連邦では、イランとの間に通商拡大や、イランへの投資問題が話し合われたとも報道されている。

  湾岸諸国の中では、オマーンとイランとの関係は、格別に良好な関係を維持し続けてきている。それは、イエメンとの国境地域で1970年代に起こった大規模な地域部族の反乱に、イラン政府がオマーンに対し、支援を送ったという経緯があるからであろう。

  こうした湾岸諸国の反応に、アメリカが気づかないわけは無い。そうだとすれば、アメリカは何らかの形で失地挽回を図るであろう。そうしたことがあってか、イスラエルのエルサレム・ポスト紙は、元テルアビブ大学ジャッファ・センター所長で、現在、ブランデイズ大学の中東研究クラウン・センター・デレクターのシャイ・フェルドマン氏の発言を紹介している。

  シャイ・フェルドマン氏によれば、「ブッシュ大統領はイラン攻撃の機会を失ったわけではない、ブッシュ大統領は2009年1月の退陣の間際に、イランに対する軍事攻撃をするだろう」とコメントしているということだ。

  チェイニー副大統領の今回の湾岸各国歴訪を見ても、アメリカが今後イランに対して、何らかの強硬手段をとろうとしていることは充分に予測できる。問題は条件が整うか、ということとタイミングであろう。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 23:14 | パーマリンク

2007年05月15日

No.582 カダフィ大佐の火遊びかイエメン介入

  イエメンのアハマド・サーレハ体制は、リビアのカダフィ体制ほどではないが、長期政権を続けている。その中から、彼の後継者は彼の子息になる可能性が高い、と周囲の誰もが予測している。

  そうしたイエメンの政治状況のなか、イエメンのサアダ地域の有力部族であるアル・ホウシ部族が、アハマド・サーレハ体制に反旗を翻し、抵抗闘争を続けている。

  アル・ホウシ部族が長期間にわたって、抵抗闘争を続けていられるのは、支援国があるからだ。それはリビアでありイランのようだ。

  このためイエメン政府は、リビア政府に説明を求めたが、納得のいく説明を聞くことができなかったようだ。

  イエメン政府のリビアに対する疑念は、西側情報筋からも確認したため、在リビアのフセイン・アリー・ハサン大使を召還することを、イエメン政府は決定した。

  リビア政府はアル・ホウシ部族のリーダーである、アブドルマリク・アル・ホウシの兄弟であるヤヒヤ・バドルッデーン・アル・ホウシの引渡しも拒否しているということだ。

  イエメン政府はリビアが、アル・ホウシ部族に巨額の資金援助を送っている、という情報も得ており、これまでリビアに対し何度となく警告していた。

  イエメンは石油をはじめとする、これといった資源が無く、アラブの中でも最も貧しい国のひとつだ。

  こうした国に対し、産油国が他国の国内政治に、介入するのは容易なことであろう。

  カダフィ大佐の革命ごっこが、スーダンに次ぎイエメンでも始まったが、それは、石油価格の高騰と、リビアのアメリカ・ヨーロッパ諸国との関係改善がそうさせたようだ。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 00:24 | パーマリンク

2007年05月14日

No.581 クルド地域がテロのターゲットに

  だいぶ前に、クルド地域はアメリカ軍が治安権をイラク軍に委譲し始めると、他のイラクの地域同様に、危険地域になるという予測を書いた。

  最近のクルド地域は、まさにそのとおりになり始めている。エルビルでテロが起こり、次いでマフムールでも大規模テロが起こり、50人以上の人たちが死亡し70人以上の人たちが負傷した。

  多分犠牲者の数は、今後ますます増加するものと思われる。それは、爆破されたビルの、瓦礫の下敷きになっている人たちがまだ沢山いるからだ。

  今回の事件を機に思い浮かべたことは、チェイニー副大統領がイラクを訪問した折に、近い将来イラク側に対して治安権を委譲することを、彼が口にしたのではないかということだ。

  そのことは、イラクに駐留するアメリカ軍にとっては朗報であろうが、イラク政府にとっては、危険極まりない通告であったろう。このチェイニー副大統領の発言は、多分にイラク政府内部から、スンニー派シーア派の各グループに、即刻伝えられたものと思われる。

  それは当然であろう。スンニー派もシーア派も、イラク政府内部におり、彼らはしかも要職にあるのだから、チェイニー副大統領がマリキー首相に、何をどう伝えたか知ることができる立場にある。

  結果的に、スンニー派もシーア派も、そろそろ大規模テロをクルド地域で始めてもいい、大丈夫だ、という判断を下したのであろう。

  もし、スンニー派やシーア派が、クルド地域でのテロを起こさなければ、キルクークはクルド地域の一部とされ、キルクークから産出される石油は、将来的には分離独立、あるいはイラク国内の自治権ある独立自治政府の、重要な財源となろう。

  これまでクルド側は、スンニー派シーア派のアラブ人や、トルコマン人をキルクークから追放することを始めていた。そして将来は、キルクークはクルド人がほとんどの居住者であることを根拠に、キルクークの領有権を主張しようとしていたのだ。

  1991年の湾岸戦争以来、アメリカの庇護がクルド人に与えられ、クルド地域は平和で発展する地域とされてきたが、今後はそうはいかないのではないか。場合によっては、スンニー派やシーア派の地域以上に、危険な地域となるかもしれない。

  そのとき、クルド人を助けてくれるのは、トルコだろうと考えていたが、トルコ人たちに言わせれば、クルドとの間ではあまりにも多くのトルコ人の血が流されていることから、クルド人がイラクのアラブ人に攻撃されても、助けないだろうということだ(一般大衆の感情とトルコ政府の判断は、異なる可能性があるが)。
 そこでクルド人がいま模索し始めたのは、イランとの関係改善のようだ。しかし、これもアメリカの手先として、クルド人がイランに対するゲリラ作戦や、情報収集活動をしてきたし今でもしているだけに、難しいのではないか。

  イラクがサダム体制の時代には、現在イラクの大統領に就任しているタラバーニ氏が、イランとの良好な関係を築き、サダム体制に抵抗していたのだが、現段階ではタラバーニ氏をリーダーとするPUK支持のクルド人も、バルザーニ氏の率いるKDP支持のクルド人も、イランの庇護を受けることは出来ないのではないか。

  そうなると、今後のクルド地域の状況は危険度を増し、悪化していくということではないか。当然のことながら、クルド人の運命も他のイラク人と変わらない、悲惨なものになるか、あるいはもっと悲惨な状況下に置かれる可能性があろう。

  イラクのクルド地域はイラク国内では安全であり、諸外国が活発にビジネスを展開している、という判断が日本政府にはあるようだが、もう少し様子を見たほうがいいのではないか。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 10:42 | パーマリンク

2007年05月13日

No.580 チェイニーの湾岸訪問不人気

  チェイニー副大統領がエジプト、ヨルダンそしてサウジアラビア、アラブ首長国連邦など湾岸諸国を歴訪し、イラクへの対応協力を求めた。湾岸各国はそれなりに歓迎し、副大統領を受け入れるにふさわしい、もてなしをしたようだ。

  しかし、本音では相当、今回のチェイニー副大統領の訪問に、不満があったようだ。サウジアラビアはイラクの混迷打開に、スンニー派の政治参加をより一層拡大するよう、チェイニー副大統領に要請している。その甲斐あってか、チェイニー副大統領はマリキー首相に対し、スンニー派の受入れと、早期の国内安定化を要求した。

  湾岸各国のマスコミはチェイニー副大統領が「最後の訪問に来た」「チェイニーは失敗を認めるべきだ」など厳しいコメントをしている。

  このチェイニー副大統領の歴訪とほぼ時を同じくして、イランのアハマド・ネジャド大統領がオマーンとアラブ首長国連邦を訪問した。二人の訪問については各国が、それぞれに日程をずらし、神経を使った対応をしている。

  アハマド・ネジャド大統領は、チェイニー副大統領が主張する「イランの核兵器保持の危険」を否定し、湾岸各国に対し不安を抱く必要が無いことを強調することが、訪問の主たる目的のようだ。

  しかし、湾岸各国の本音は、アメリカに対しても、イランに対しても、信頼できないということであろう。もし戦争になれば、これらの湾岸の国々は、双方の攻撃による危険にさらされるからだ。

  アラブ首長国連邦政府がかろうじて口にした「平和的な解決を希望する」というのが湾岸諸国に共通する正直な気持ちであろう。この訪問で湾岸各国ではアメリカに対する不信感が強まっており、各国政府は国民の前で、アメリカ支持を明確に示すことが無くなっていることに注目すべきであろう。

  湾岸各国政府も各国の国民も、アメリカの財政難を知っており、チェイニー副大統領のイラク問題への協力要請が、資金支援を意味していることを、充分に分かっていよう。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 11:51 | パーマリンク

2007年05月11日

No.579 両親によって売られた少女たち

  イスラエルのエルサレムポストが、パレスチナの西岸地区ラマッラで起こった人身売買のニュースを伝えている。そのニュースによれば、12歳と13歳の少女が両親によって、23歳と25歳の青年に売られたというのだ。

  しかも、この人身売買は売った側の少女たちの両親はもとより、買った側の青年たちの両親も、人身売買の事実を認めているということだ。

  買った側の母親も、買った青年たちも、その行為は合法である、と主張しているということだ。
  エルサレムポストは、2000年に始まったインテファーダ以来、パレスチナの各地、なかでもラマッラでは犯罪が激増していると伝えている。その増加の割合は、200パーセントにも達しているそうだ。

  人身売買のほかには、金持ちの誘拐事件も頻発しているらしい。現在、同地域で指名手配になっている犯罪者の数は2,300人にも達しているそうだ。以前に、イスラエルから車が盗み出され、パレスチナの地域で売買されている、というニュースが伝えられたことがある。

  インテファーダはパレスチナ人の大衆による、イスラエルの占領に対する抵抗運動なのだが、混乱を招き通常の活動が停滞することから、パレスチナ人の経済状況は悪化し、おのずから犯罪が増加するのであろう。パレスチナ人に言わせれば、「そこまでわれわれの生活は逼迫しているのだ」と現状を説明するだろう。

  しかし、今回の人身売買はパレスチナ人によるパレスチナ人に対する犯罪だ。彼らはこのことをどう説明するのだろうか。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 15:42 | パーマリンク

No.578 イスラエル・オルメルト後継は誰が

  イギリス軍のイラク戦争参戦が主な原因で、ブレア首相が辞任を発表し、6月末には首相の座を降りることが確定した。

  イスラエルでもレバノン戦争の責任問題が拡大し、オルメルト首相の支持が急激に低下している。結果的には、彼の辞任が語られ始め、誰が次のイスラエル首相に就任するのか、ということが真剣に検討されるにいたっている。

  オルメルト首相は労働党、現在のカデマ党の重鎮であるぺレス元首相に、後継の首相になってほしいようだ。そのことをオルメルトがペレス元首相に持ちかけたところ、ペレス元首相は「大統領職は受けてもいいが首相職はいやだ」と断った。

  年齢的にも首相の職は務めるのが大変であろう。そうなると次の候補者ということになるが、そこで登場してきているのはバラク氏だ。彼はカデマ党の幹部であるが、軍や情報機関シンベトの責任者でもあった経歴がある。

  カデマ党に対抗するリクード党も、政局の混乱を狙って首相の座を奪取しようとする動きに出ようが、そこからはネタニヤフ元首相、現在外相のツビ女史が話題に上ってこよう。

  イスラエルの国内はアラブ諸国同様に、現在混乱と不安定の状態にある。しっかりした人物がこの難局で首相に就任しなければ、イスラエルは過去に経験をしたことの無い、危険に直面するかもしれない。

  混乱の中では、国民の目を外部に向けさせるという手法が、これまで世界中の国々によってとられてきたが、イスラエルの混乱の場合には、シリアやレバノン、イランに対する軍事行動となる可能性もあることから、早急に回避してほしいものだ。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 15:09 | パーマリンク

No.577 イラン攻撃分析会議を開催すべし

  アメリカの大統領選挙が絡んでか、共和党、民主党の両党候補たちは、一方でイラクからのアメリカ軍撤退を唱えながらも、他方では、ブッシュ大統領はなぜイランを攻撃しないのか、という勇ましい意見を述べる者が少なくない。

  それは選挙資金や票を意識しての発言であろう。強国アメリカを真に代表するのは自分だ、ということをアメリカの有権者たちに示したいのであろう。そのために、イランとアメリカの関係は、イラク問題が処理できていないからイランへの攻撃は困難であろう、という推測の裏で、緊張状態が続いたままになっている。

  実際に、アメリカがイランを攻撃した場合、どのようなことが起こりうるのか、現段階では多くの予測がありながらも、その実害についての実感があまり無い、というのが正直なところではないか。日本人の多くは、そのアメリカによるイラン攻撃ということ自体を、意識の中においてすらいないようだ。

  そこで、世界の英知がどこかに集まり、アメリカがイランを攻撃し場合、どのようなことが起こりうるのかを、真剣に分析討議してみてはどうだろうか。

  また、もし起こらなかった場合には、どのような別の状況が発生してくるのかについても、検討してみるべきであろう。私が考えるところでは、そのいずれも世界経済に少なからぬ影響を与えることになるのではないか、ということになるのだが。

  アメリカによるイラン攻撃が起こった場合、あるいはそのことが起こらない場合のシュミレーションを、世界の英知が集まって検討してみれば、これは単にアメリカとイランの問題だけではないことが実感できよう。

  現在の政界情勢の中で緊張を創り出すことは、結果的にその緊張が解除されても、世界の仕組みに大きな影響を及ぼすような状態になっているのだ。それだけ現在の世界状況はデリケートであり複雑な仕組みになっているのだ。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 11:28 | パーマリンク

2007年05月08日

No.576 アサド大統領シリア・米関係に進展は無い

  レバノンのラフィーク・ハリーリ首相が何者かによって暗殺されたのは、すでに4〜5年ほど前のことになるが、その犯行の影にシリアが関与しているのではないかということから、シリアとアメリカの関係が悪化し、在シリア・アメリカ大使が召還されるということが起こっている。

  以来、今日までシリアとアメリカの関係は冷却状態にあったが、エジプトのシャルム・エルシェイクで開催されたイラク復興会議のなかで、ライス国務長官とシリアのムアッリム外相との対談が実現した。

  両国の高官による直接対話がもたれたのは、2005年2月以来であったことから、シリア・アメリカ関係に大きな進展があったかあるだろう、という期待が高まっていた。

  しかし、シリアのアサド大統領はこの会談が周囲の期待ほどのものではなかったことを、NBC―TVとのインタビューで語っている。彼によれば「この会談は両国関係改善への突破口にはならなかった」ということのようだ。

  そればかりか、アサド大統領はこの会談について、「貧弱な関係を終わらせたに過ぎない」とも語っている。そして、「アメリカがシリアに対して厳しい立場をとり続けているのは、アメリカがイラクで失敗していることから、スケープゴートを必要としているのだ」と語っている。

  こうしたネガテイブな反応をアサド大統領が示した裏には、シリアとイスラエルとの軍事緊張が高まっていることがあろう。国連平和維持軍の司令官やヨーロッパの外交官、トルコの外交官らは、「シリアにイスラエルと戦争する意思は無い」と分析しているが、やはり何が起こっても対応できる準備が必要ということであろう。

  その準備のひとつは、シリア国民の間に楽観を許さず、緊張状態を維持することであろう。そのことが念頭にあったアサド大統領の発言でもあろう。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 14:32 | パーマリンク

No.575 スンニー派はイラク政府から離脱か

  イラクの副大統領職にあるターリク・アルハーシミー氏が、5月15日をデッド・ラインとし、イラクにドラステイックな変化が起こらない限り、副大統領の職から辞任すると発表した。

  これはマリキー政権にとって大きな問題となっていこう。現在のイラク政府は、シーア派主導のアメリカに操られたものだ、という評価が内外でなされている。その傀儡政府ともいえる現状に参画しているスンニー派議員や要職にある人たちは、アルカーイダの非難の的にもなっている。

  ターリク・アルハーシミー副大統領が今回辞任を口にしたのは、もし5月15日までに憲法が改正され、スンニー派シーア派クルドなどが対等の参加者である状態が生まれなければならない、という判断からだ。

  この日までに、イラク憲法が改正されなければ、ターリク・アルハーシミー副大統領は彼の組織のメンバーである44人の議員とともに、現政府から離脱する方針だ。合わせてターリク・アルハーシミー副大統領は、「ブッシュ大統領に招待されているが、現段階では訪米の意思が無い」とも語っている。

  問題はターリク・アルハーシミー副大統領と彼の仲間である44人の議員が、そろって現体制から離脱した場合、スンニー派とシーア派の対立感情は高まり、より本格的な武力衝突が起こる可能性が高いことだ。

  ターリク・アルハーシミー副大統領は武力闘争を始める意思がある、とは発言していないが、その可能性をにおわす発言はしている。こうした状況は、アメリカ国内で苦しい立場に追い込まれているブッシュ大統領を、よりいっそう厳しい状況に追い込んでいくことになろう。

  そのことを見込んで、ターリク・アルハーシミー副大統領は高い値付けの取引を始めたのかもしれない。スンニー派国民がサダム体制打倒以来、イラク政府の枢要な地位から外されたままだが、今回のターリク・アルハーシミー副大統領の発言を機に、スンニー派受け入れの枠が広がるのかもしれない。

  そしてアルカーイダの裏切り者発言(アルカーイダによる、アメリカに操られるイラク・シーア派政府への加担者は裏切り者とする非難)に対する、ある種の答えでもあったのではないかとも推測される。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 13:31 | パーマリンク

2007年05月06日

No.574 アメリカの新提案とパレスチナ人の本音

  アメリカがパレスチナ・イスラエル間の関係緩和と和平の前進に向けて、新提案を発表した。

  しかし、それはパレスチナ側には全く歓迎されなかった。というよりは、かえってアメリカの誠意を、パレスチナ人たちは疑うようになったのではないかと思われる。アメリカの提案は現在、パレスチナ人がおかれている状況を、全く理解していないのだ。

  (アメリカ提案の骨子)
  :ヨルダン川西岸地区とガザ地区を結ぶバス便の再開
  :PAはロケット攻撃を6月21日からやめさせる
  :イスラエルは6月中旬に道路封鎖を解除する
  :パレスチナの治安維持権はマハムード・アッバース議長に6月15日から一任する
  :パレスチナとイスラエルは協力、事務連絡機能を正常化する

  パレスチナ人がいま最も強く求めているのは、経済封鎖つまり外国からの援助凍結を解除することだ。パレスチナ人公務員の多くは、過去数ヶ月にわたって給与未払い状態が続いている。

  一般人はそれ以上に経済的に苦しい状況に陥っているのだ。その苦しみがアメリカには分からないのであろう。同時にマハムード・アッバース議長が握っているPLO の資金は、なぜこの経済的窮地に使われないのか疑問だ。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 13:58 | パーマリンク

No.573 エルドアン統合参謀長と激論

  ネットを通じて、トルコがイスラム系の大統領を選出するのであれば、軍部は軍事クーデターも辞さないと発表した。

  その中心人物ブユルカヌト統合参謀長が、イスランブールの首相公邸でエルドアン首相と2時間にわたる対談を行った。

  この結果、ブユルカヌト統合参謀長は軍事クーデターの可能性を否定したと伝えられている。一説によれば、ブユルカヌト統合参謀長はネットで軍事クーデターも辞さず、という声明を軍部が発表をするのに、乗り気ではなかったということだ。

  冷静に考えれば、現在のトルコは軍部が軍事クーデターを起こす状況には無い。軍部のエルドアン首相政府に対する恫喝の後、すばやくEUとアメリカは軍事クーデターに反対した。

  他方で、エルドアン首相は大統領の直接選挙案を提出し、国民投票によって大統領を選出することを考え始めた。

  このことは、当然のことながらトルコ国民が直接に大統領を選出する選挙を行うものであり、イスラム系政党の独走ということではなくなるので、選挙の結果、たとえギュル外相が選出されてもエルドアン首相が選出されても、文句の付けようが無くなるということであろう。

  トルコはいま軍部がクーデターを起こしている状況には無い、ということがトルコ国民にも分かっているだろうし、軍部も分かっているだろう。

  問題は、一気にイスラム系政党が大統領を選出してしまうことに対する、不安と不満が国民の一部と軍部にはあったということでは無いか。

  今回の一連の流れは、結果的にエルドアン首相に一層の力を与えることになったのではないか。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 13:30 | パーマリンク

2007年05月05日

No.572 アメリカのイラン攻撃は民主党政権でという予測

  アメリカがイランを攻撃するのかしないのかは、友人たちとの間で散々話し合ってきた。アメリカがイラク問題を抱え、イラン攻撃を実行することは決して容易ではないことを分かりながらも、これまでイラン攻撃の可能性について、何度となく述べてきた。

  それは、アメリカのブッシュ大統領が狂気だからとか、イランが憎いからではない。常識的に考えてアメリカがイラン攻撃を実行しなかった場合の、中東世界の変化が危険極まりないものであり、世界の経済に及ぼす影響が、あまりにも大きいと考えたからだ。

  アメリカがイランを攻撃しなかった場合に考えられることは、イランが地域の覇権国になるであろうということだ。その結果、イラクのシーア派はもとより、湾岸諸国のシーア派も動き出すであろう。

  そればかりか、パレスチナのハマースをはじめとする、スンニー派アラブ諸国の反体制派や、世界中のイスラム原理主義グループも、勢いを増していくことになるだろう。

  そのために、アラブ各国の中の親米派の国々は、こぞって体制不安に陥っていくことになろう。昨今、サウジアラビアがアブドッラー国王を先頭に、独自の外交活動を始めたのは、そのことを懸念してではないか。サウジアラビアが中東地域の安定に、責任を感じたからではあるまい。

  アメリカがイランに対して攻撃を加えない結果、イランが地域の大国になっていけば、アメリカのドルに対する信用も低下していこう。そうでなくとも、最近では世界的にドル離れ、ユーロへの転換が目立つようになってきている。今後ドル安は一気に起こるかもしれない。その結果は、イラクやイランではなく、アメリカ国内の不安定化であろう。

  このようなシュミレーションが許されるとすれば、世界の経済は不安定化に向かっていくということであろう。世界最大の市場であり、消費国家であるアメリカの経済が悪化するということは、世界中の製品がアメリカ市場を当てにできなくなるということなのだ。

  アメリカがブッシュ大統領の時代にイランを攻撃するとすれば、残された時間はあと数ヶ月だけであろう。アメリカの大統領選挙戦が本格化した段階では、ブッシュ大統領といえども、イラク対応が未処理の状態のなかでの、イランに対して新たな戦争を仕掛けることは難しいのではないか。

  最近、民主党の大統領候補がイラン攻撃を、自分の大統領就任の後に断行するといった、威勢のいい発言をしているようだ。それはイスラエルに対するリップサービスかもしれないのだが。

  しかし、ブッシュ大統領から次の大統領に代わる2年後のアメリカに、イランとの戦争を始める体力が残っているだろうか。つまり、軍資金はあるのか?  兵隊はいるのか?  戦争に向けて国民の意思を統一させることができるのか?  ということだ。

  その大前提は何と言っても、アメリカのイラクに対する対応が、2年後にどうなっているのかということだ。もし、全面撤退できていないとすれば、アメリカ国民の厭戦気分は限界点に達していよう。戦争で費やされる資金も巨額に上り、それはアメリカの経済を悪化させていよう。

  そして、世界中がアメリカの対外行動を非難するようになるだろう。アメリカが弱ってきているだろうから、それはなおさらのことであろう。アメリカが後退していくなかで、EUはその後釜になりきれるのだろうか。EUにはアメリカに代わって、世界をリードしていけるだけの実力は無いのではないか。そうだとすればロシア、中国が台頭してくることが予測されよう。

  そのとき日本はどうなのだろうか。そんなことを考えさせられるゴールデンウイークならぬグレーウイークを過ごした。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 23:46 | パーマリンク

2007年05月04日

No.571 予想通り失敗に終わったイラク復興会議

  シナイ半島にあるエジプトのリゾート地、シャルム・エルシェイクで開催されたイラク復興会議は、予想通り失敗に終わったようだ。無理からぬことであろう、エジプトは他国の復興よりも、自国の大統領職後継問題、経済問題、民主化問題で混乱を極めているのだから。

  結果的に、イラク復興会議は復興ではなく、治安問題にテーマを変えたようだ、とアラブ諸国のマスコミは皮肉っている。

  当初の計画では、イラク復興に向けた国連主導の、5カ年計画が話し合われる予定だった。その計画に沿って、各国はイラクの経済立て直し、復興、各国からの援助と投資が主題であったはずだった。

  結果的には、イラクの経済と政治が主題になっているが、現在イラクは560億ドルの債務を抱えている。この債務をどう処理するかは誰にも分からない。石油価格の高騰で好景気の、湾岸諸国に頼るということであろうが、湾岸諸国もいい顔は見せなかった。

  湾岸諸国をはじめとするアラブ諸国は、イラクのスンニー派国民の役割が増大することを望むであろうし、これに対して、シリアやイランはアメリカに責任ありとするだろう。したがって、復興から治安に変更した主題も、何の結論も生み出さないで終わる、ということになるのが当然であろう。

  そもそも、アメリカが何時イラクから撤退するのかを明示しない限り、復興計画の立てようが無いというのが、イラクのマリキー首相をはじめ、アラブ各国首脳の本音であろう。したがって、今回の会議を機に、イラクの将来に向けた和平と繁栄の目途を立て、イラク国民に希望を持たせることは、不可能だったということだ。

  アラブ各国マスコミは以下のように今回の会議の失敗を指摘している。
  :アメリカはイラク撤退の期日を示さなかった。
  :会議参加国はイラクをテロリストの温床にしないことに合意できなかった。
  :イランの地域における外交力を認める結果となった。
  :イラクとアメリカが共同歩調をゴールに向けて示せなかった。
  :イラクのマリキー首相はアメリカに撤退時期を問うた。
  :アメリカは自国の失敗を認めなかった。 

投稿者: 佐々木良昭 日時: 19:20 | パーマリンク

No.570 イラク撤退・アメリカのジレンマと矛盾

  アメリカの民主党は議会で、アメリカ軍がイラクから早期に撤退することを、ブッシュ大統領に求めているが、ブッシュ大統領は全くこの民主党の要求を受け付けようとしていない。もしそんなことになれば、イラク国内も、周辺諸国も、世界中も、非常に危険な状態になるからだという理由だ。

  この場合、ブッシュ大統領の主張が正しいだろう。もし、アメリカがイラクから今年中、あるいは来年の早い時期、あるいは来年の遅い時期にでも撤退することになれば、反米、反親米勢力は勢いがつくからだ。

  イラクだけをとって考えてみても、もしアメリカ軍が撤退することになれば、キルクークをめぐる石油争奪戦がクルド、スンニー、シーア派の間で起こるだろう。これまで唯一安全が保障されているといわれてきたクルド地区も、そうなれば戦場になろう。

  アメリカ軍撤退後のイラクでは、これまでに起こった殺傷事件に対する、復讐が堂々と行われることにもなろう。したがって、イラク国内はアメリカ軍の撤退と同時に、戦場と化すことはほぼ間違いあるまい。
マリキー首相らが、アメリカ軍の撤退を望まないのは、彼らの生命と地位、財産が危険にさらされるばかりではなく、イラク全土の混乱が目に見えて予測できているからだ。

  そのことに加え、もしアメリカ軍がイラクから撤退することになれば、イランは地域の覇権国になっていくだろう。湾岸諸国はイランが行う湾岸各国内のシーア派への支援を前に、なんらの手立てもできなくなろう。

  シーア派ばかりではない。湾岸諸国の中の反政府勢力が、イランの支援を受け勢いを増していこう。サウジアラビアはその場合、最も危険な状態になっていくであろう。サウジアラビアにはシーア派国民がおり、彼らは石油地帯に居住している。また同国では反政府のイスラム原理主義勢力の活動も活発だ。

  それでもアメリカ軍がイラクから撤退するというのであれば、まさに無責任の極みであろう。アメリカの手で行われたはずのイラクの復興は、全くといっていいほど成果が生まれていない。イラク国民が全く協力的でないこと、イラク国内がテロの頻発によって、建設されたものも破壊から免れないからだ。

  早期のアメリカ軍の撤退は、イラクのあらゆるものを破壊し、65万人を超えるイラク人を殺害し、その後に何の責任も果たさずに放置するということだ。同時に湾岸諸国を危険な状況にさらし、放置するということでもあるのだ。

  それでもアメリカ軍がイラクから撤退することになれば、アメリカ軍の撤退を要求している反米派の勢力は、撤退するアメリカ軍に対し、花束を贈るのではなく、攻撃を加えることになろう。アメリカ軍の基地は強盗の格好の餌食となろう。

  こうしたことが起こっていけば、親米の湾岸諸国の国民の間からも、新たな反米の人たちが誕生してくることになろう。いまですら多くの湾岸の国民は、アメリカに対し控えめながらも、批判的な言葉を口にしているのだ。

  彼らが控えめなのは、アメリカ軍が自国内に駐留していることと、アメリカ政府の自国政府への強い影響力を知っているからだ。

  これらの国々の人たちからしてみれば、アメリカ軍が自国内に駐留することが問題の原因であると同時に、アメリカ軍が駐留しなくなったときの危険も無視できない、という非常に複雑な状態にあることを熟知しているのだ。それだけに彼らの心理は複雑であり、結論を生み出せないでフラストレーションを高めているのだ。

  そうした心理状態は、実はもう10年以上前から続いているのであろう。湾岸諸国の金持ちの多くが、アルカーイダをはじめとするイスラム原理主義テロ組織に対し、資金を提供してきたのは、そのフラストレーションのはけ口だったからではないのか。

  アメリカでは湾岸諸国の人たちも例外なく、アラブ人、イスラム教徒として差別され、危険視されている。不当逮捕、不当国外追放、資産の凍結といったことは、これまで何度となく報じられてきた。そのことを湾岸諸国の国民は、事実以上に過大にイメージを作り上げて、受け止めてもいるのだ。

  イラク戦争はいったい何をアメリカにもたらしたのか、そしてこれからもたらし得るのか??
  イラク戦争で犠牲になった人たちの遺族はいったい何をその代償として得ることができるのか??
  イラクから難を逃れヨルダンやシリアに流れ出したイラク難民はいつ帰国できるようになるのか??
  イラク国内残留イラク人やイラク難民が元のような生活に戻れるのは何時なのか??

  誰にとっても無意味な戦争だったということになろう。しかし、だからといって今になっては、その戦争を投げ出せないことも事実だ。アメリカは前進することも後退することもできない、窮地に陥ってしまったのであろう。

  アメリカの大統領選挙活動が、今年の9月ごろから本格化するが、その中ではイラクに対する対応が焦点のひとつとなろう。民主党側は攻める側であり、非難する側であることから、ブッシュ大統領のイラク政策を激しく非難しようが、それは責任のない現実無視の非難のための非難でしかあるまい。

  もしヒラリーあるいは他の民主党の立候補者が、新大統領に就任したとき、彼らはイラク問題をどう処理するつもりなのだろうか。これまでブッシュ政権はイラク軍や警察を訓練し、彼らに治安を任せる時がくる。そうすれば大幅な撤退が可能になるといい続けてきた。しかし、現実は全くそうはならなかった。

  民主党から大統領が出れば、そこには何か魔法の杖でもあるというのだろうか。あるいは反米勢力が一瞬にして親米勢力に変わり、そこにある問題がすべて片付くというのだろうか。

  大統領選挙という異常な興奮状態の中では「アメリカンドリーム」はこんな夢も見せてくれるのかもしれない。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 00:21 | パーマリンク

2007年05月02日

No.569 エジプトの外交力低下?日本はどうする

  フランスのアラブ研究所長とエジプトのアハラム戦略研究所のアナリストが、そろってエジプトの外交力の低下を指摘している。

  エジプトはこれまで、アラブ外交で大きな役割を果たしてきている。なかでも、スーダンはエジプトの一部として関心を示し、これまで大きな役割を果たしてきた。パレスチナ問題でもイスラエルとパレスチナの仲介役調整役を果たしてきていた。

  しかし、最近になってエジプトの外交パワーは、あまり成果を発揮できなくなってきている。その一方で、サウジアラビアの外交力が注目されるようになってきた。

  サウジアラビアはメッカで、パレスチナの対立するPLOとハマースを招待し、和解工作に成功し、統一政府の結成で大きな役割を果たすことができている。

  もちろん、その裏にはサウジアラビアの石油価格高騰による経済的な余裕と、そのことから来るパレスチナの組織に対する資金援助もあったろう。

  同様に、エジプトが得意としてきたスーダン問題でも、サウジのアブドッラー国王は、スーダンのバシール大統領と電話で話し、国連のスーダン平和維持方針を、受け入れさせることに成功している。

  他方、エジプトではムバーラク大統領の後継に、彼の次男ガマールを推す工作が進んでおり、これに反対する勢力を抑え込むのに、ムバーラク大統領側は四苦八苦している。

  加えて経済問題も大きな頭痛の種となっている。アメリカは現在のムバーラク大統領の民主化推進や、経済改善政策に方針に必ずしも賛成していない。

  5月の3日から4日にかけて、エジプトのリゾート地シャルム・エルシェイクで、イラクをめぐる国際会議が開催されるが、そこでもしかるべき成果は期待でき無いかもしれない。アラブの識者は、最近のエジプトの外交を皮肉って「外交のパワーブローカーからイベント企画屋に変わった」と評している。

  日本は外交力を低下させているエジプトとの間で、戦略的協力関係を強化していく方針だということなのだが???

投稿者: 佐々木良昭 日時: 17:32 | パーマリンク

No.568 トルコのクーデターの可能性

  昨夜、トルコから訪日した旧知の、宗教界の幹部の人と夕食を共にした。時期が時期だけに、話題はトルコの一般的な現状分析に加え、トルコ軍が軍事クーデターを起こすか否か、について主に話し合うことになった。

  最初に私なりの感想を述べてみた。トルコ軍が軍事クーデターを起こすことについては、EUもアメリカも早い段階から反対の立場を明確に示していること、アメリカがやがてはイラク問題で、トルコ政府と軍に一定の役割を担ってほしいということになるだろう、ということなどを述べ、結果的にトルコ軍は軍事クーデターを起こすことはないだろう、という自分なりの判断を述べてみた。

  これに対し、トルコからの来訪者は100万人規模のデモがイスタンブールであったことについて触れ、われわれもデモをやろうと思えば、あの2倍でも3倍でも集められると語っていた。

  100万人規模のデモの内訳は、宗教的な大統領が誕生することに対し、反対で集まった人たちばかりではない、実はあのデモに参加した芸能人を見ようと思って集まった人、物見遊山で集まった人など、ノンポリも少なくなかったと語っていた。

  トルコ軍の政府に対する恫喝があった後、4月30日の月曜日まさにアメリカで起こったブラック・マンデーのように、トルコの株式市場は3.75パーセントも暴落したが、もしそのような状態が継続することになれば、トルコの一般大衆が一番被害をこうむることになろう。

  この人の話によれば、テレビのインタビューに答えたデモ参加者の人たちの中には、デモ企画者の意向とは全く異なる意味で、参加している人が少なくなかったということだ。そして、この人たちのグループがギュル外相の大統領立候補を支持するデモを行わないのは、必要のない衝突を起こすことは得策でないからだということだった。

  彼がエルドアン首相やギュル外相を支持する側の人物であることから、当然の判断と発言内容ということであろうが、案外トルコ人の本音は、彼の意見に近いのかもしれない。

  トルコの経済界は、強い体制が政治家(エルドアン首相)によって維持されるほうが、経済の発展にプラスだ、と考えているようだ。そうであるとすれば、軍部がクーデターを起こしたほうがいいと望む国民は、少ないのではないか。もちろん、一時的な感情の盛り上がりはあろうが、それは決して長期的なものにはなるまい。

  ブユカヌト統合参謀長がクルドに対する強硬な対応を口にしたが、トルコ国民はいま、クルドと戦争を起こしたいとは望んでいない。トルコが難局にあるとき、軍がクーデターを起こして国家国民を救った、という時代はすでに過ぎ去ったのではないか。

  トルコ軍によるクーデターの記録
  :1960年5月27日  経済悪化
  :1971年3月12日  貧困
  :1980年9月12日  左翼、宗教、クルド対応
  :1997年2月28日  エルバカン宗教政党政権打倒

  この原稿を書き終えた後に、トルコの憲法裁判所がギュル外相の大統領就任は憲法違反になるという判断を下した。その判断を踏まえ、エルドアン首相は早期の議会選挙を実施し、国民の判断にゆだねる方向だ。

  トルコが軍の台頭を許さずに、政治の世界だけで国家の方針を貫いていけるのか否か、もうひとつのハードルを越える必要があるようだ。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 16:42 | パーマリンク

 
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