No.603 イスラム社会にある名誉の殺人
最近になって、イスラム社会に古くからある「名誉の殺人」が、ニュースとして伝えられる頻度が高くなってきている。
「名誉の殺人」が、最近になってどうして頻繁に起こるようになったのか、という原因について説明が不十分であり、そもそも名誉の殺人とはどのようなものであるのか、という説明が全くなされていないのではないか。
また、名誉の殺人を犯した者はどう裁かれるのか、ということについて、ほとんどの日本人は知らないだろう。そこで簡単に、これらの日本人が共通して抱く「名誉の殺人」をめぐる疑問に対し、説明を試みてみることにした。
「名誉の殺人」とは家族の女性が既婚であれ未婚であれ、婚姻関係にない男性との間でふしだらな行為をした場合に、その女性の家族や親族が家の名誉を守るために、その女性を殺害するというものだ。
この場合、実際にはふしだらな行為にまでは至っておらず、単なる噂であった場合でも、殺人が行われることがあるのだ。
そもそもふしだらな行為とは、性的関係に至る以前の、ひそかに男性と会う行為も、家族以外の男性と散歩や食事をするといった、行動を共にすることもそのうちに含まれるのだから、日本女性の場合はほとんどが、その対象にあたるということであろう。
これまでは報道の自由が比較的保証されており、女性の行動に対する社会的規制も緩やかなトルコやヨルダンで、珍しい事件としてほんの数件が報じられただけだった。
最近になって、大きく報じられたものにはクルドの少女のケースがある。この殺人現場の状況は、携帯カメラで撮影していた人物が、外国の報道機関に売り込んだのであろうか。大人たちに殴られ、蹴り倒され血みどろになって死んでいく少女の殺害の様子が、アメリカのインターネット・テレビを通じて世界中に流された。
シリアからは、数千人にも及ぶイラクからの難民女性の売春のニュースが、CNNなどを通じて報じられている。もちろん彼女たちの実態が明らかになれば、家族は彼女たちを殺さざるを得ないのだ。しかし、他方では、イラク難民たちには、それ以外に難民状態で、生活の糧を得る手段がないことも事実なのだ。
パレスチナからは、過去3年間で48人の女性が名誉の殺人によって家族の手で殺されたということが、エルサレム・ポストを通じて報じられている。エルサレム・ポストの報じるところによれば、以前にはパレスチナ社会で起こる「名誉の殺人」の発生件数は、年間にして10〜12人だったということだ。
パレスチナで起こった「名誉の殺人」の発生件数は、過去3年間で48人という数字であり、年間にして16人、つまり以前に比べ50パーセント程度増加しているということになる。
「名誉の殺人」を行った者については、アラブ世界では犯罪にあたる場合と、そうではない場合とがある。犯罪にあたる国でも、結果的にはうやむやに済まされ、処罰されないのが普通だ。犯罪にあたらない国の場合は、以前に定めた旧い法律が「名誉の殺人」を認めているからだ。
それはイスラム法によるのであろう。姦通罪はイスラム法では死刑にあたるからだ。それを家族が行うということであろう。殺害の仕方はいろいろで、絞殺、毒殺、刺殺、銃殺などがある。
もう30年以上も前に、アラブに留学していた頃、この「名誉の殺人」を主題にした悲しい女性を主人公とした小説を読み、半分は小説の上の話だろうと思っていたが、実際に起こっていたのだ。
男性についても姦通は重罪なのだが、問題になったという話は聞いたことがない。シリアに難民として逃れてきた女性たちが、売春で家族全員の生活を支えているが、彼女たちを買っているのは同胞のアラブ人たちだということだ。
こうした実態を改善しない限り、アラブ人がどうイスラム教を立派な宗教だと説明しても、非イスラム教徒には理解してもらうことは難しいのではないか。
投稿者: 佐々木良昭 日時: 11:02 | パーマリンク