走れインドの救急車―インドレポート(1)―(藤田周子)

2010-2011東京財団AFFPフェロー藤田周子さんは、ニューヨークでのリーダーシップ研修(2カ月)の後、2010年11月半ばからムンバイにあるアキュメン・ファンドの投資先Dial 1298 (Ziqitza Healthcare Limited)で研修を行っています。12月末までの研修レポートをお届けします。

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活動内容

最初の2週間はオリエンテーションを兼ねて、ムンバイ市内の救急車オペレーションについて学んだ。終日救急車クルーに同行して救急車の出動、患者搬送に立ち会ったり、コントロールルーム(コールセンター)で、出動要請の電話を受けたり、救急車と連絡を取り合ったりする現場を目撃した。
その後、具体的なプロジェクト「標準作業手順書(Standard Operation Procedure) 開発」に着手。同社は現在3つの州で州政府の救急車サービスを受託している。これらのオペレーションを標準化することで、品質を担保するとともに、新規エリアでの迅速なサービス開始にも活かしたいとのニーズによるもの。
3月半ばのパンジャブ州でのサービス稼働に間に合わせるのが当面のターゲットで、まず第1ステップとして、12月は私が既存3拠点を1週間ずつ訪問し、現状のオペレーションをヒアリングすることになった。ヒアリング対象は、コールセンター、救急車フィールドスタッフ/マネージャー、保守、(医薬品)在庫管理、医師、IT、人事、経理、財務等、主要機能をほとんど網羅する。当プロジェクトは現在のところ、CEO直轄で、専任は私1名。

リーダーシップについての学び

業務ヒアリング、業務設計・改善などのプロジェクトは、コンサルティング会社勤務時に何度も経験しているため、業界・国は違えども、勝手が分かっていて取り掛かりやすいと感じた。また、フィールドアサインメント中のテーマの一つとして、できるだけ多くの従業員に会うことを挙げていたので、願ったり叶ったりのアサインメントである。
慣れているとはいえ、同じことを繰り返していては進歩がないので、ニューヨーク研修での学びを生かすよう心掛けた。今後に役立つと思う学びを以下に3点挙げる。

1)Be personal / Be vulnerable
リーダーに必要な能力として、ニューヨーク研修で繰り返し出てきたメッセージ。普段からついタスクをこなすことに集中してしまいがちなので、今回は意識してこれを心掛けた。例えばヒアリングの合間に、少々脱線して相手の家族や趣味、出身などを(いつもより多く)聞いてみたり、私自身について話したり。一番盛り上がったのは、勉強中のヒンディー語を披露したときで、一気に距離が縮まり、その後の会話がスムーズになった。

2)品質に妥協してでも、人を巻き込むことを優先する
今回のヒアリングは1人で1か所1週間(移動を考慮すると最大5.5日から6日)、とマンパワー及び時間的制約があった。必要な情報を聞いて記録するだけで精一杯の日程である。しかし、私は今回情報収集に加えてもう一つの目的を持っていた。それは、物理的に離れていても、SOPについてともに議論し、現場で使い、さらには将来それを改善し続けていってくれる仲間をつくること。どんなにきれいな資料を作ることができても、周りに自分事として考え、行動してくれる人がいなくてはリーダー失格である。だから、少々資料をまとめる時間が削られても、チャイを飲みながら苦労話を聞いたり、夜遅くまでオフィスに残って語り合うことを心掛けた。仕事の理解の前に、人の理解が不可欠。これまで私は品質にこだわり過ぎるあまり、忙しくなると特に、それを忘れてしまいがちだった。成果が現れるのはこれからだが、現時点での手ごたえはまずまず。今後も引き続き意識していこうと思う。

スケールアップ時の課題に触れる
実地研修中にできるだけ多くの従業員に会いたいと思っていた理由は、どういう人(教育、スキル、モチベーション、行動スタイル、管理スタイル)がインドで社会的企業に集まってくるのかを自分の目と耳で理解したかったためである。経営者(起業家)、マネージャー、フィールドスタッフ、それぞれがどのような人たちなのか?
今回も多数の救急車スタッフ(運転手、救命救急看護師)を教育し、遠隔管理する苦労と工夫を直接見ることができた。ケララのように全車両に目が届く範囲(25台)だったらよいが、ラジャスタン(189台)は一筋縄ではいかない。出勤していると偽ってサボっていたり、突然出勤しなくなるスタッフまでいるという。あるいは燃料や医薬品を必要以上に申請する可能性すらあるという(転売目的)。
組織の社会的ミッションにどれだけ共鳴し行動に反映させるかは、人によってさまざま痛感した。ミッション、ビジョンの力で従業員のモチベーションをもり立てつつ、一方では厳しい管理の仕組みで従業員をコントロールする。従業員の教育レベルの差が大きいインドという国、急速にスケールアップしている1298という企業にとって、後者(コントロール)の強化が今必要になっている。
個人的には過去数年間ミッション優先のリーダーシップを間近に見、また私自身も実践してきた。今回はコントロール(パワー)をどう使うかという、言わば反対側からのアプローチになる。戸惑うことも多いと思うが、その分成長の機会にもなるものと期待している。

さいごに

以上、始まったばかりではあるが、将来インドのような国で社会的企業、ビジネスにかかわりつづけたいと考えている私にとって、大変有意義な学びが続いている。
1月はムンバイにて、各部門のリーダー等と相談しながら標準手順書の作成を進めて、2月のパンジャブ州での研修及び稼働準備に備える予定。


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