走れインドの救急車―インドレポート(3)―

2010-2011東京財団AFFPフェロー藤田周子さんは、ニューヨークでのリーダーシップ研修(2カ月)の後、2010年11月半ばからムンバイにあるアキュメン・ファンドの投資先Dial 1298 (Ziqitza Healthcare Limited)で研修を行っています。3月31日のパンジャブ州における救急車業務スタートに向け、追い込みの日々をレポートします。

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活動概要

2月はほぼ全面的にパンジャブ州向けの準備に終始した。(3月31日にパンジャブ州アムリッツァルで州内全域から「108」への電話を受け付けるコールセンターが稼働し、救急車90台が各地で患者搬送業務を開始する予定。)ITベンダー最終選定やコアメンバー向けトレーニングから始まった2月だが、月末の時点での私の役割は以下のとおり。
1)プロジェクト管理
2)研修企画及びコーディネート
(対象:運転手250名、救急救命士250名、コールセンター60名、その他50名)
3)救急車業務手順、ツールの整備
4)コールセンターおよびGPSソフトウェア開発(の監督)


リーダーシップについての学び


足りないものを補う
1月末のレポートでは、1298の業務に日々忙殺されるあまり、広い視野でリーダーシップ能力を磨く機会がほとんどないとの問題意識について触れた。1か月経った今、状況は変わらないが、心境はだいぶ違っている。1298が今必要としているもの、足りないもの(スキル)を私が補えるならば、サポート役だろうが、裏方だろうが、喜んで役に立ちたいと思っている。それはリーダーシップとは言わないかもしれないけれど。
例えば、上記1)のプロジェクト管理。これまでCEOが一人で統括していたところに私がサポートとして加わり、進捗およびイシュー管理をルーチン化した。パンジャブ州のメンバーと毎朝行う電話会議では、CEOが口、私は手、そして二人分の目と耳と頭を使って、広範なタスクを管理し、指示していく。前面に出るのはCEO。私は彼女が意思決定しやすいように情報を整理し、また全体会議ではカバーしきれなかった詳細をあとから個別にフォローアップしていく。
あるいは、4)のソフトウェア開発。技術者(システム開発業者)と社内の業務部門の間を取り持つ人がいない。幸い私は前職で経験があったので、いつの間にかこれも担当することになった。(並行して他州のソフトウェア開発も監督し始めている。)
ニューヨークでBill Mayer氏が言っていたことを思い出す。「誰にでも得意なことがあって、それはどこに行っても、子どもの時でも大人になってからでも、意識するかどうかにかかわらず何度も何度も使うことになる。それがあなたのGiftだ。」
私のGiftが何なのかはまだ言語化できていない。それどころか雲を掴むような気分だ。ただ、過去に別の状況で使ったスキルが、今ここでも役に立っていて、CEOをはじめとする面々から信頼を得られていることは確か。自分ができることを決めつけず、でもないものねだりもせず、目の前のニーズに真摯に応えて行きたい。特に3月末までは集中して。

段階的コミュニケーション
 今回、研修を企画し進めていく上で、どの情報をいつの時点で提供していくかの工夫を体験的に学んでいる。ついつい気が急いて、最初の数日間で100%の情報を伝えなければいけない、そして相手もそれを望んでいるはず、と思ってしまうのが私の癖。例え私はそう望むタイプであったとしても、全員がそうとは限らない。先のことにばかり目が向いて、目の前のニーズが疎かにされる可能性も高い。今回は徐々に情報を提供していく研修方針を試みており、今のところ順調。(インド、特に現場スタッフにはこのアプローチの方が適しているかもしれない。)これが3月末までうまくいけば、私自身の思い込みを崩し、アプローチのレパートリーが増えるよい機会になるだろう。

同じ業務、価値観の違い
第一点目でも触れたが、このところ私が担当している業務の多くは、以前コンサルティング会社やメーカーで経験した業務と同じである。業界も国も違うけれど、やったことのある仕事ばかり。利益最優先の多国籍企業と、ソーシャルミッションを掲げるソーシャルベンチャー。BOPビジネス、ソーシャルビジネス等の呼び名は、後者を何か特別な存在のように感じさせるが、求められているスキルは同じなのだ。これはある意味よい知らせである。なぜなら、ソーシャルベンチャーが必要としているスキル・ノウハウを持っている人は市場にたくさんいるということ。また、通常の企業で働いていてBOPビジネスなどに関心はあるが働くきっかけがないと思っている人にとっても、実は機会はたくさんあるのだということ。
 そこで重要なのは、そして決定的に違いを生むのは価値観である。何のためにお金を稼ぐのか。個人として、企業として。現在パンジャブ州向けの研修を企画しており、徐々に入社予定者に会う機会も増えている。多くが(そして運転手などブルーカラー層になればなるほど)社会的ミッションに関係なく応募してきている。リンゴを荷台に乗せて運ぶのと、患者を搬送することは、同じ運転でも決定的に異なる行為なのだと、いかにして理解してもらうか。人の価値観にどうしたら影響できるのか。これが目下の課題の一つである。

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