走れインドの救急車―インドレポート(5)

2010-2011東京財団AFFPフェロー藤田周子さんは、ニューヨークでのリーダーシップ研修(2カ月)の後、2010年11月半ばからムンバイにあるアキュメン・ファンドの投資先Dial 1298 (Ziqitza Healthcare Limited)で研修を行っています。インドのパンジャブ州で受託した90台の救急車運用開始に一区切りをつけ、ムンバイに戻った藤田さん。あらためて、自分が実践してきた細かい進捗管理・品質管理を要求するオペレーションと、インド流の「なるようになるさ」的オペレーションを比較し、それぞれの有効性を考える日々を送っています。

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活動概要

パンジャブでの稼働開始フェーズに一区切りがつき、5月初めからムンバイに戻っている。次の私のアクションは、以下の通り。

1)救急車追加投入準備のコーディネート
この先数か月間、ラジャスタン州で約200台、パンジャブ州で150台の救急車を追加投入する予定になっている。私の役割は車両手配、採用、研修等一連の準備作業をコーディネートすること。具体的にはプロジェクト管理のためのスケジュール表や役割分担表を作成し関係者と共有したり、各担当者による日次での進捗報告を徹底させ、CEOや担当者との電話会議を毎日実施している。

2)ITシステム定着化
パンジャブ州のコールセンターと救急車に導入したITシステムの総仕上げ、ユーザ支援、および同システムのラジャスタン州への導入準備。(私が業者選定から関わった案件。評判よく、活用範囲を拡大することになった。)

3) CEOのマネジメントサポート
この一環として、創業メンバー+各部門長による月次レビューミーティングのコーディネート。

リーダーシップについての学び

1) 大規模オペレーションでの品質・効率
やはり今月も直面したのは、コミュニケーションスタイルの違い。例えば、コールセンター、経理、倉庫などに新しい業務手順を伝達する必要がある。しかし、手順を作った私はムンバイ、現場はパンジャブ。しかもマネージャーがいて、その下にスタッフが何人もいる。伝言ゲームが続くうちに、手順がどんどん変わっていってしまうのではと危惧する気持ち。さらには時間が経つうちに記憶が曖昧になり、各自が推測で動いて、いつのまにか当初とは異なるルールが伝わっていく、というケースも考えられる。
そこで当然のように、常に立ち戻ることができる共通理解を記したドキュメンテーションをしっかりやろう、と考えた訳だが、いざ現場研修となった段階で、CEOに「それ(文書)は送らないでいいから」と言われて、ええ?!と驚いた。
半信半疑ながらもその指示に従って、せっかく用意した業務マニュアルも結局回覧せず、電話でマネージャーに説明し、何度も念押しして理解を確かめ、あとはマネージャーがスタッフに同じ内容を(やはり資料なしで)説明して、終了となった。ITシステム開発でも傾向は同じで、同僚のやり方を見ていると、ベンダー相手にとにかく口頭で伝えるばかり。
私の心配をよそに、口頭でやり通して、うまくいったように見える。もっとも私はその後パンジャブ現地でどのようにオペレーションが行われているか、自分の目で確認したわけではないので、正確な効果判断はできないが。ただオペレーションは滞りなく行われているので、及第点には達していると言っていいだろう。
なるほど、こういうやり方でも大丈夫なのか、と感心する一方で、あまりに属人的なこのやり方は、同社のように急激に人数が増え続けている環境では、効率的とは言えない。それとも人件費の安いインドでは、労働集約的なこのやり方がちょうど良いのだろうか。インドの文化には、今回のようなやり方の方が合っているのだろうか。規模拡大とオペレーションの品質向上を両立していくためのバランスは、どのあたりにあるのか。(私にとっての)常識が覆されて、何を基準に判断すればよいのか混乱した出来事だった。

2) タスクマネジメント
Ziqitzaでは日々、従業員が増えている。ムンバイ本社でも私が来た11月から比べると20人くらい新しい人が加わっている。私より社歴の浅い人(入社6ヶ月未満)が半分を占めるだろうか。
分業が進むにつれて重要になってくるのが、どれだけ上手に指示を出せるか。教育、経験の差が大きいのか、アウトプットの個人差が大きいように感じる。最近入社した人たちは、社内ルールなどの理解が十分でないために、期待されているアウトプットが出なかったり、苦戦したりする。おまけにこちらがちゃんと聞いておかないと、分からない(またはどこまでわかっているか)が伝わってこない。だから、まず指示を出すときに、事細かに、ステップごとに説明し、さらに頻繁に細かくフォローアップしないといけない。しかも相手は(良くも悪くも)細かく指示されることに慣れているから、曖昧な指示だけだと全然動けない。私はまだまだ指示の出し方を磨く必要がありそうだ。

3)人のマネジメント
私はフェローという曖昧な立場なので、機能上必要に応じて指示する人たちはいるものの、人事制度上の部下は持っていない。それでも自分のわずかな経験と、周囲を観察した結果から考えると、タスクを消化させることばかりに意識が集中していて、個人のモチベーションを上げたり、エンパワーして、組織のボトムアップの力をつけるという視点が欠けているように見える。まるで、誰もが取り替え可能な部品のように。。。もちろんこの会社は、人の命を救うという誰の目にも明らかなミッションがあるので、従業員の意識はまとまりやすいとは思うが。

今回挙げた1~3のすべてに共通するのは、私の中で、何が経営における普遍的な価値観で、何がその土地・文化特有の(且つ尊重されるべき)価値観なのか、そのバランスがよくわからず混乱し、ぎくしゃくしているということ。インド流の「なるようになるさ」的な大らかさは、ターゲット達成のために必要な細かい進捗管理・品質管理とは相容れず、どこまで後者を主張していいのか悩み中である。

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