ニューヨークレポート(1)―(井上直美)

東京財団アキュメンファンド・グローバルフェロー井上直美さんのレポート第一弾をお届けします。

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1. NY第6週目までの研修テーマ

第1週:A Vision for Leadership in the Social Sector (Introduction)
第2週:Understanding of Acumen’s approach and their role as leaders in the social sector
第3週:Self and the World - Good Society Reading (オフサイト)
第4週:Empathy: Learning to Listen
第5週:Building Self-awareness (オフサイト)

2. Leaderとは

ハロウィーン間近の土曜、大雪がNYを襲った。季節は夏から冬へと大きく変わったが、「リーダー」とは何かの答えはまだ見つかっていない。自己を見つめる毎日で、自分が何を信じて、何を譲れないのかを確認し、目をそらしたくなる弱みを再確認して思わずため息が出ることもある。ここでの日々は自分への問いかけの連続だ。答えが出たかと思えば、他のメンバーとの会話の中でそれが覆され、再び迷路に逆戻りする。日々のカリキュラムでは、リーダーとして必要な思想、考え方、ビジネススキルや経営知識等について学ぶ。特に、フェロー同士のディスカッションから学ぶものは大きい。その会話はエンドレスで、プログラム終了後も続き終わりがない。日常では出会うことが無い著名人のセミナーを受ける機会も多くあり、大変エキサイティングな毎日を過ごしている。学ぶことだらけの毎日だが以下3点、私が研修を通じて感じたことを皆さんと共有したい。

理解するということ

“You can see what you see but you cannot really see (what’s going on the ground).”
そう私に強く静かに話してくれた21歳で2人の子供を持つアフリカ系アメリカ人のAyishaに出会ったのはBronxの若者向けDrop-In House。少年少女が一時的に身を寄せて食事やソーシャルワーカーとの面談などのサービスを受けることができる場所だ。Ayishaに会ったのはメトロ2回乗車券と5ドル紙幣だけを持って、NYでの貧困にある人たちとempathyを築く1日の最後のことだった。その日は、NYでも黒人やヒスパニック系の貧困層が多く住むBronxへ向かうことから始まった。女性用シェルターで滞在する女性と話した後、Medicaid Centerで医療サービスを受けるために長蛇の列に並んだ。しかし、オフィサーに怒鳴られてトイレすらも借りられない自分に腹が立った。太陽が高く上り、昼が過ぎると喉の渇きと空腹を満たすために、食糧支給所を探して救世軍の配食に強い日差しの中3時間並んだ。隣に並ぶ人たちとアメリカの社会福祉制度について議論をしながら、与えられるサービスを待つしかない状態で、寂しく、空虚を感じ、不安になった。

そして、一日の最後に出会ったのがAyishaだ。髪を一つに束ね、カーリーヘアのウィッグを付け、フリルのついたカラフルなノースリーブシャツを身にまとった彼女。ホームレスを経て、その朝私が訪問したシェルターに住み、今も自分の家はない。複雑な家庭環境に育ち、高校も出ていない。彼女は私に、シェルターの中の現実や負のサイクルから出る難しさを説明し、それらは決して外にいる人には分からないと伝えた。私は、その日の自分を振り返った。5ドル札は無いものとしてポケットにしまい、食べ物と寝る場所を探して歩き廻ったけど、その結果、自分はどれだけNYで貧困にある人のことを理解できたのだろうか。Sympathy(同情)ではなく、理解できたと言っていいのか?今でもまだ悩み続けている。貧困にある人達のことを理解して、彼らのためにとアクションを起こすことの責任の重大さと難しさを胸にした。


魅力的な人間であるということ

フェローのメンバーは、どの人も個性的で魅力的な人たちばかりだ。そんなメンバーとの交流を通じて学んだのが、他との違いを認め、現実を知り、謙虚な姿勢を保ちつつも、今の自分に自信を持つことの大切さ。結果的に人を惹きつけることが自然とできると思う。個々人は違う、だからこそ面白い。優秀なフェローに囲まれていると、つい自分のマイナスな点にばかり目が行き、自分を否定してしまいそうになる。しかし、研修の中で過去の偉大なリーダー達を振り返り、自分自身を振り返り、仲間たちの経験から学び、リーダーにはいろいろな形があっていいのだと認識した。

そして仲間たちとの交流の中で、自分の育った環境、培ってきたもの、信条から生まれる自分にしかないものがあることに気づく。それは、ある試みがきっかけだった。研修の中で私は敢えて自分の弱い部分であり、異質な部分を露出し、グループに疑問を呈することを試みた。自分を一種の危険にさらす、勇気の要る行為だった。信頼関係ができていない中では難しいかもしれない。結果学んだのは、明確な理由と信念があるなら、グループの中で異質になることを恐れないで意見を出すことで、相互理解を図ることができるということだ。さらには、異質の部分が自分の個性として認められ、人を惹きつける特別な要素になることもあるということを知った。自分と異なる文化やコミュニケーションのスタイルを持つフェロー達が自分のどこに興味を持ち、評価をしているか。それは自分の期待と必ずしも合致しないが、これらの意見を聴き、理解することで新たな自分の魅力を発見することもできる。新たな発見だった。一つ一つ前へ進もうとしている自分にもっと自信を持ってより魅力的な人間になる努力を怠らない一年にしたいと心に誓った。

理想のリーダー像とは

理想のリーダー像を描き、感じ、イメージする力の大切さと楽しさを経験した。研修では、過去の偉人、歴史上の人物、経済学、哲学、文学、人類学、経営学などいろいろな知識やスキルを学んだ。リーダーとして必要なスキルを考えイメージを膨らませた。例えば、Good Society のセッションでは、過去の偉人たちから学び、自分にとっての理想のリーダー像を模索した。国家、社会、個人、それぞれのリーダーとしての役割とは、理想のあり方とはいったい何か、私にとっては難しい問いかけばかりだった。未だ問いかけの途中だ。その問いかけの中、今と将来の自分の姿をメトロポリタン美術館にある美術品の中に投影するというエクササイズに参加した。個人的にプログラムの中で選んだ作品がしっくりこず、休日に美術館に一人で行き再度作品を選びなおした。左が2回目に選んだ、将来の私のリーダー像のイメージ。たくさんの美しい色のドットが集まって一枚の絵をなしている。近くから見ると一つ一つの点が主張し違和感があるが、遠くから見ると素晴らしい1枚の絵に見える。写真の具合で暗く見えるが、現物はとても明るい色彩だ。異なる個性を生かしそれぞれが輝く、しかし集合体としてもまとまっている、暖かな光に照らされた未来をイメージした。グループとして、個々の良いところを引き出せる10年後の私がこれを振り返ったらどう感じるだろうか。少し怖くもあるが、楽しみでもある。


3. おわりに

NYでの研修、特にリーダーシップ研修で体験するワークは、日本の企業研修で受けたことがあるか、または自分で個人的にやったことのある内容が多かった。しかしながら、それを行う以前に経験するGood Society セッションやフェローとの会話を経た結果得られるものは、これまでに自分が経験したことの無いものだった。個人の内面との対話、そして他との交流を経て築く深い理解は、この研修の醍醐味ではなかろうか。ここに集まった9人は異なる環境を経て、異なる理由の元にここにいる。しかし、私たちには心の奥底で共有している何かがあるようだ。そこに、それぞれへの信頼関係が加わり、関係を強いものとしている。この一年だけではなく、将来にわたって相談し合える仲間とオープンに語り合える環境をフェロープログラムが提供してくれていると強く感じた。