ニューヨークレポート(2)―強い信念と困難を乗り越える力を得た研修(井上直美)

今回は、NY第6週目から第8週目までの研修レポートです。

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NY研修6週目から8週目までのテーマ


第6週:Understanding patient capital
第7週:Becoming an Influencer: Communications & Storytelling
第8週:Investor Gathering

NYでの研修も終盤を迎え、9人のフェローはまるで家族のように仲良くなり、何でも話し合えるようになりました。この最終3週間で得たことは3つ。Patient capital とは何か、伝えることの大切さ、そして強い信念を持ち続けることの重要さです。以下、これら3つについて詳しく述べていきます。

Patient Capital とは何か

この研修を通じてなぜPatient Capital が必要なのか、そしてその実行には何が必要なのかを深く理解しました。なぜPatient Capitalが必要なのか?BoPマーケットで事業を行う起業家は、一日の収入が2、3ドルの人々を相手にしており、顧客が商品を買う時に判断を下す支出レベルはこの範囲内です。また、ターゲットとなる地域は、インフラストラクチャーや道路は整っておらず、高いレベルの汚職に悩まされている地域が多くなります。そして、起業家が提供するサービスは顧客にとっては新しく素晴らしいものであったとしても、顧客の多くはそれまでに援助に裏切られてきているため、外からのサービスに対して疑念がある場合が多く、信頼関係を築くのには時間がかかります。これらの理由から、Patient CapitalはBoPマーケットでの事業に重要な手助けとなります。また、財務とマネジメントスキルだけではなく、ビジネスに必要なネットワークや関係各所とのネットワーク構築も提供します。これら起業家に必要なサービスを提供するのもPatient Capitalの役目の一つです。

さらに、Patient Capitalの実行には通常のビジネスで求められるスキルに加え、倫理、思想、哲学、人間性、ビジョン、そしてそれを伝える能力が非常に重要であるということを改めて認識しました。ビジネススキル以外の資質は、社会的リターンを求めるPatient Capital にとって必須なのですが、短期間で簡単に習得するのは難しいものです。なぜFellows Programの最初の数週間に哲学や思想などについて長い時間をかけて議論をするのか、Fellow の選考過程で社会的なビジョンや志が求められるのか、今更ながら理解することができました。Patient Capitalのレクチャーを受けている途中では、これを研修のはじめに実施した方がAcumen Fund を理解できるだろうと仲間と議論したものですが、すべての研修が終わって改めて考えてみると、やはりこのプログラムは研修の終盤にあるべきだと納得できました。Patient Capital を理解し実行するには多くの視点を持ち、事業の本質を見抜き将来性を社会的、財務的に判断し、経営者へ助言できる能力が必要なのです。次に実際の研修の内容について簡単に述べます。

トレーニングでは、Patient Capitalとは何かについて、ベースの知識を学んだ後、投資家と被投資企業の両方の立場になり企業分析と提案を行いました。初めに事業分析のやり方やAcumen Fundが考えるPatient Capital とは何かについてAcumen Fundのポートフォリオマネジャー等からレクチャーを受けました。次に実在する企業の事業を分析し、自分がAcumen Fundのポートフォリオマネジャーだったら投資を行うか否かを検討しました。投資対象企業の適性を、投資条件や投資価格などの前提条件を明らかにした上で判断を提示するというトレーニングでした。事業、法務、財務状況など各視点から分析し、Acumen Fundのポートフォリオチームへ提案しました。

さらに、過去にAcumen Fundの投資候補だった企業について、Acumen Fund の各ポートフォリオマネジャーとして、投資をするか否かを検討しました。企業から提出されたビジネスプラン、財務状況などの資料をもとに、投資判断および企業に対する改善アドバイスをポートフォリオマネジャーへ提案。Patient Capitalの投資先として、検討対象企業が条件を満たしているか、満たしていない場合は何が必要かを分析しました。そして、最後の仕上げとして、プログラムの最終日にケースコンペティションを行いました。これは、フェローが2チームに分かれて企業の経営者になりきり、Acumen Fundへ投資を仰ぐというものです。各チームで分析した情報をもとにプレゼンテーションを実施し、投資獲得を競いました。NY滞在中に培った知識やスキルをフル活用して挑み、非常にやりがいのあるプログラムでした。

Patient Capital の投資に正解があるわけではなく、今回の研修を通じてプロトタイプの技術セットを手に入れられたわけではありません。Patient Capitalがマーケットソリューションとして成り立つためには、金銭的リターンが必要であり、それに加えて社会的リターンを求められます。よって、Patient Capitalとは、ただ単に寛容な資本であるだけではなく、事業として成り立った上で、社会にどのようなインパクトを与えるのかを考える必要があります。NYの研修で哲学や思想について深く考え議論し、他の仲間たちと疑問点や新たな発見について議論し合う機会があったことで、金銭と社会的リターンの両方を満たす事業を見る視点を養うことができたのではないでしょうか。

伝えることの大切さ

伝えることがいかに大切であるかということを、伝え方の技術、伝え方の手段そしてインフルエンサーとして知られるリーダーたちの経験を直接会って聞くことの3つの方法から学び、最後にInvestor Gathering (年に一度Acumen Fundのパートナー、アドバイザー、ボードメンバーやサポーターたちが集まり1年を振り返り、今後について話し合うイベント。今年は創立10周年の祝賀と合わせて2日開催された。) でのパフォーマンスを通じてその大切さを実感しました。実際に経験から学んだことについては、次項で触れるため、ここではどのようにして伝えることの大切さを学んだかを3つの点に沿って述べることにします。

まず初めに、伝え方の技術について。ストーリーテラーやネゴシエーションの専門家からレクチャーを受け、さらに練習を行いました。ストーリーテラーの技術というのは、日本ではあまり聞かないものですが、日本風にいうと人の心を動かす話し方の技術、というようなものです。実際に体を使い、頭を使い、技術の習得に励みました。効果的な伝え方をするために、通常会話で使う英語と少し違う話し方を用いるのです。純粋日本人でただでさえ英語が大変な私にとっては、初めは非常に苦痛でした。しかし、JacquelineがTED Talkで話している内容を聞き、それを実践しているのを確認すると、重要性を理解することができました。また、ネゴシエーションのレクチャーでは、利害が一致しない二者に分かれ、ある事項について交渉を行うトレーニングを実施。十分な情報がない中で、相手の考えていることを最大限に引きだし、自分の利益と相手の利益の合致点を見つけることに努めました。言葉の内容はもちろん、ジェスチャや表情などで交渉をスムーズに進めるスキルについても学びました。
JacquelineのTED Talkはこちら
次に、伝える手段として、ブログやFacebook, Twitter, などのソーシャルメディアの有効な使い方についてレクチャーを受けました。複数のメディアを使って、どのように情報を発信していくか、どのような情報を外に発信するのかを考えました。多くのフェローはブログを持っていないのですが、ブログを作成し、開始することをみなで決意しました。そして最後に、インフルエンサーとして知られるリーダーたちと直接会って、彼らがどのようにこれらのメディアを利用しているか、新たなメディアについてどのような使い方をしているかの話を伺いました。中には、Facebookが名刺代わりになっている著名人もいて、その活用ぶりには目を見張るものがありました。

どのメディアにも、長所と短所の両方がありますが、ストーリーを効果的に伝えるというのは、Acumen Fundにとっては非常に重要であり、これからフェローたちが強化していかないといけないスキルの一つです。ブログに関しては、過去何度か長続きしなかったことがありますが、私も近日中にオープンしたいと思います。


強い信念を持って進んでいくことの大切さ

最後に、NYでの研修を通じて会った素晴らしい人たちから強い信念を持って進んでいくことへの大切さを学び、前へ進むことへの自信をもらいました。Acumen Fund創始者のJacqueline NovogratzをはじめとしたAcumen ファミリーの面々は、自分たちが創造する変化を社会にもたらすことを心から信じて、強い情熱を持って前へ進んでいます。数多くの支援者がJacqueline の目指す社会に賛同し、自分たちが信じる変化を社会へもたらそうと心から願っているのです。強い信念を持つものの意思は、周りにいる人にも伝播する。このことを、NYトレーニングの最終日に開かれたInvestor Gathering で数多くの支援者に直接会い話をした際に強く感じました。

私はJacquelineのように素晴らしい能力や魅力は持ち合わせていないけれど、強い信念を持つことで周りにいる人の心を動かすことができる、そう実感することができたのは、Investor Gatheringがきっかけでした。プログラムの最後に、私たちフェローはパフォーマンスを行いました。Fellowで何度も議論を重ねた結果、なぜ自分がFellows Programに参加しているのか、各個人のストーリーを話すことにしました。私も、自分の信念について、上手くない英語で一生懸命話しました。そのパフォーマンスが終わった後、多くの人が私のストーリーをきっかけに話しかけてくれました。直接話しかけてきてくれた人の中には、私のストーリーを聞いて涙を流していた方もいたのです。Acumen支援者だけではなく、カメラを回していたテクニカルスタッフの一人も、会の終了後に私を探して「Thank you for sharing your story」とわざわざ言いに来てくれました。話しかけてくれた人たちのおかげで、強い信念を持ち続けて進んでいくことの大切さと、そうすることへの自信をもらうことができました。

NYでの研修は、楽しいことが多かった半面、思うように事が運ばず落ち込むことも多くあり自信を無くしたことも多かったです。しかし、この日の素敵な出会いによって、今後起こりうるだろう様々な困難を乗り越え、強い信念を持ち前へ進んでいくことを心に誓い、ナイロビへ旅発つ決心ができました。

※2011 Investor Gathering: Acumen Fund Global Fellows Class of 2012はこちら
井上直美さんのブログはこちら