ガーナレポート(3)-田代絢子

2012−2013東京財団AFGFPフェロー田代絢子さんのガーナレポート第三弾をお届けします。


レポート目次ページ「自分と交わした3つの約束」
東京財団アキュメンファンド・グローバルフェローズプログラム(AFGFP)
ガーナレポート(1)-英語版- (英語版レポートはAcumen Blogにも掲載されています)

GADCOの自社ブランド・Copaを通じ、ガーナの小規模米作農家を生産者として国内の消費者市場に繋げるCopa Connectプログラムは、ガーナの貧困スパイラルの克服と食糧安全問題の解決を目指している。今回のレポートでは、そのビジネスモデルと、持続的インパクトを生み出すメカニズムに焦点を当てたい。昨年11月末にガーナにやってきた頃には大枠のコンセプトしか存在しなかったCopa Connectだが、その後数ヶ月の間に世界中のパートナー企業・組織と交渉や議論を重ね、また地元農家とのパイロット実施を経たことで、戦略からエコノミクス、オペレーションまでのプロトタイプが段階的に出来上がっていった。

ビジネスモデル


ガーナレポート(1)にも記した通り、 ガーナの小規模米作農家は、国内消費者市場における米需要の拡大にも拘わらず、深刻な貧困スパイラルに陥っている。この問題の核となっているのは、ガーナにおける米生産バリューチェーン上の課題である。
まず、生産段階における課題――そもそも、市場価値のある米品種、具体的には高級香り米であるジャスミンの種子の入手は、ほぼ不可能である。種子の発芽環境を整えるのに欠かせない耕耘機や、代掻きのためのトラクターなど、基本的な農機のアクセスは不足し、良い農業の実践に関する知識を得る機会は限られている。収穫高の向上を手助けする高品質の肥料・農薬やサービス、さらにはそれらを入手するための資金や手頃な金融サービスの供給も不足している。
次に、収穫後の処理・加工や、それに伴うロジスティクスにおける課題――適切なタイミングで収穫できるか否かで、米の品質・収量・食味は大きく変わってくる。また、収穫直後の籾米は含有水分が高いため、そのままの状態で長時間放置しておくと品質が急激に低下してしまう。しかし、収穫作業は天候やコンバインなどの農機の入手タイミングに左右され、結果として作業に余裕がなくなる事態に陥りがちである。そのため、必要なロジスティクスを確保するなど、一連の作業が速やかに行えるよう収穫後のプロセスを事前に検討・準備することは必然ともいえる。しかしながら、ガーナの零細農家の大半は、収穫後の稲を保管するのに適当なストレージも、乾燥機や精米施設などへのアクセスも持たない。
最後に、市場機会へのアクセスに関する課題――生産された米が、国内消費者市場において商品価値を持つためには、高級品種の香り米で、割れ米や欠け米を含まない高品質であること以外にも、パッケージ包装がなされていること、信頼できるブランドのもと販売されていることなどの要件を満たす必要がある。しかし、ガーナの零細農家は、そうした消費者のニーズを満たせないがために、市場機会へのアクセスを絶たれている状況にある。

Copa Connectは、上記3つのバリューチェーン上の課題を克服するためのインフラストラクチャーを提供し、ガーナの零細農家が国内の消費者市場向けに高品質米を高い収量で生産するためのスキルとインセンティブを創出する。
参加農家の生産性を最大化するためにCopa Connectが提供するソリューションは、以下3種類のインフラとして整理できる。

1.生産インフラ


Copa Connectに参加する零細農家は、GADCOのCopa ブランド米の生産者として、GADCOひいてはその顧客が求める品質のジャスミン米を生産せねばならない。零細農家から調達した米は、GADCOの精米施設に輸送された後、GADCOが運営・管理する大規模農場で生産された米と一緒に精米され、最終的には全く同一のCopa商品として包装・販売される。そのため、零細農家もGADCOの厳しい品質管理水準を満たす必要がある。
参加農家はまず、GADCOのエキスパート・チームがデザインした生産プロトコルを与えられる。プロトコルには、単位面積あたりのインプット(種子・肥料・農薬)量、および各インプットの施用タイミング(田植えから収穫までの日単位カレンダー)が定められており、参加農家はこのプロトコルに沿って生産を行う。米作りは、Copa Connect専属の農学者であるチームメンバーが言うところの「サイエンスそのもの」である。品種によってライフサイクルが異なり、単位面積あたり必要とするインプットの量も同様に違ってくる。インプットは多すぎても少なすぎてもだめで、正しい量を施用しないと、収量だけでなく品質にも影響が生じる。病気や害虫への耐性も異なるため、生産者は米のライフサイクルのどのタイミングでどういった対策を講じるべきなのか明確に理解していなければならない。灌漑施設の有無や、耕作地の土壌条件によってもプロトコルは異なる。Copa Connectに参加する零細農民たちのほとんどは、過去10~20年間米を作り続けてきたベテランだが、これまで科学的根拠に基づいたプロトコルを与えられて生産したことがなく、インプット施用量もその時々のキャッシュフローに左右されていたので、「良い農業」は実践できていなかった。
次にGADCOは、参加農家に、それぞれの耕作環境・面積に合わせてカスタマイズしたインプット・パッケージを届ける。このインプット・パッケージには、GADCOの大規模農場で独自に開発・生産された高品質・高収量のジャスミン米種子のほか、GADCOが独自のルートで調達した肥料や農薬が含まれる。現在、ガーナの零細農家が一般市場で入手できる肥料や農薬の種類は限られており、品質が良くなかったり、古い処方の製品であったりすることも珍しくない。GADCOは、世界的なインプット企業とのパートナーシップを通じて、Copa Connectに参加する零細農民たちの状況に最も適したパッケージをデザインし、参加農家が、一般市場では手に入らない高品質のインプットを手頃な価格で入手できるようにしている。全てのインプットはGADCOがサプライヤーから直接調達し、施用が必要なタイミングで参加農家に配布するが、農家は、収入が生じる収穫期までそのコストを返済する必要はないシステムとなっている。また、GADCOが零細農家にインプットを供給する過程でマージンを得ることもない。GADCOは、零細農家のキャッシュフローへの負担を大幅に軽減するだけでなく、その購買力を活かしてパートナー企業からできるだけ有利な条件でインプットを代理調達し、零細農家から収穫後に回収するコストとして計上しているのだ。今日、ガーナの零細農家の多くは、地元の高利貸しから資金を調達してインプットを購入しているが、その際の利率は50%を超える。Copa Connectの場合、利率はゼロである。
(写真右上:種子をプロジェクトサイトに運ぶGADCOスタッフ)

また、GADCOは参加農家のプロトコル順守を確実なものとするため、ワークショップ型のトレーニングと、生産期を通じて農家を技術的に支援するためのエクステンション・サービスを提供している。トレーニングでは、理論を重視した講義形式のセッションと、デモプロットにおける実践型のセッションを20~30人規模のグループごとに実施する。Copa Connect専属のエクステンション・オフィサーは、各農家の耕作地を定期的に訪れ、観察記録を専用のモバイルソフトウェアを通じてSogakopeのGADCOチームに報告する。農民たちは、稲の病気や雨天後の洪水など、緊急を要する問題が発生した際にも、適宜エクステンション・オフィサーに連絡できるようになっており、GADCOチームも連携してトラブルシューティングを行う。なお、各農家の基本情報や耕作状況、インプットの配布状況などは全てこのICTを通じて記録され、SogakopeのGADCOチームによって常時モニタリングされている。


なお、農業機械へのアクセスに関しては、2013年3月に終了したパイロットでは導入しなかったが、その後の第一フェーズでは一部の地域において、基本的かつ小規模な農機についてのみ提供を開始している。今後プログラムが拡大するにつれ、零細農家の機械化のための資本を追加投下し、提供するサービスの幅も徐々に広げていく予定である。なお、パイロットの結果から、生産プロトコル、インプット・パッケージおよびトレーニングとエクステンションといった基本的なサービスの提供だけでも大きなインパクトを生み出せることが分かっている(*この点については次回のレポートにて記述する)。参加農家が、これまでの慣行をやめ、良い農業を実践するようになるには、根本的な意識の改革と新しい知識・スキルの獲得が必要となるため、まずは基本的なサービスに注力しようというスタンスをとっている。
(写真:トレーニングの様子)

2.加工インフラおよびロジスティクス


参加農家が米の収穫を終えると、GADCOは農家を訪れ加工前の籾米を買い上げる。それから、トラックでSogakopeにあるGADCOの大規模精米施設へ運搬し、乾燥から籾摺り、精米、商品包装まで、全ての加工処理を行う。収穫後すぐに農家から生産物を引き取ることで、収穫後のロスを最小化し、約1ヶ月の加工プロセスを通じて、零細農家の生産物に消費者市場向け商品としての付加価値を与えることが可能となる。また、農家は収穫物の引渡し時点で、GADCOから報酬を即座に受け取ることができる。零細農家は、米のライフサイクルを通して、生産にかかる多くのコストを負担する。そのため、収穫後のキャッシュニーズは深刻である。しかしながらガーナでは、収穫物の引渡し後、買い手からの支払いを何ヶ月も待たねばならないのが普通だ。そのため、GADCOによる即座の報酬支払いが、零細農家のキャッシュフローに与えるインパクトは甚大なのである。
(写真:収穫後の籾米の乾燥は、これまで農家の手により行われてきた。乾燥機はおろか、風雨の進入を完全に防げる適当なスペースもないため、自然乾燥の最中に収穫物が傷み、商品価値を失う。写真は、乾燥中の降雨により浸水した籾米の山の一部。)

3. 販売・流通インフラ


零細農家から調達した米は、GADCOの大規模農場で収穫された米と混ざり、Copaブランド米として国内プレミアム市場に流通する。GADCOは、自社の既存事業である大規模農場での米生産・販売のために、西アフリカを代表する大手流通企業と戦略的パートナーシップを既に確立している。零細農家は、Copa Connectの参加を通じて、この販売・流通プラットフォームを活用することが可能となる。GADCOの収益の源泉は、流通パートナーに高級品種・高品質のCopaブランド米をプレミアム価格で販売することで得られる利益であり、生産者であるCopa Connect参加農家にも生産高に応じたシェアが分配される。
(写真:パッケージに詰められたCopaブランド米)


インパクトの源泉


以上のソリューションは全て、オールインワンのパッケージサービスとして、参加農家に対して原価で提供される。Copa Connectの協働の対象は紛れもなく、貧困のスパイラルに陥った零細農家ではあるが、Copa Connectは純粋なビジネスであり、慈善事業ではない。これらの零細農家は、GADCOの販売するブランド米の生産者であり、ビジネスパートナーなのだ。そして、GADCOがガーナの零細農家の暮らしに長期的にインパクトを与えていくためにも、Copa Connectはビジネスとして持続的に収益を生み出していかねばならない。では、サービスの対価を零細農家に全てチャージするというビジネスモデルのCopa Connectは、どうやってインパクトを生み出しているのか。
Copa Connectに参加することによって、零細農家が受け取る報酬は2種類ある。一つは収穫直後の籾米の対価で、もう一つは加工後の商品を国内消費者市場向けに販売することで得られる市場プレミアムである。
収穫された籾米を買い付ける際、まずGADCOは生産物の品質を確認し、グレードに応じて買い取り単価を決定する。農家がGADCOの生産プロトコルを順守し、エクステンション・オフィサーの的確な指導を受けていれば、悪天候などコントロール不可能なアクシデントの場合を除き、基本的には最高グレードを得ることが可能である。GADCOの買い取り価格は、各地域のオープン市場での買い取り価格をベンチマークしており、通常より高めに設定されている。オープン市場では、品質に関係なく全ての籾米が同一価格で買い取られるため、生産者にとって高品質の米を生産するインセンティブはない一方で、GADCOの品質管理システムは零細農家が生産者として重要なディシプリンとビジネスマインドを育むきっかけをもたらしている。また、Copa Connectに参加する農家の単位あたりの収穫高は、そうでない農家と比較して顕著に高くなることがパイロットで証明されている。籾米の対価は、買い取り単価と重量によって決定されるため、生産性が大幅に向上すれば、農家の収入もそれだけ向上するのは言うまでもない。また、先述した通り、農家は生産物の引き渡し時点で、GADCOから直接、対価の支払いを受ける。インプット・パッケージなど、Copa Connectが米のライフサイクルを通じて農家に提供したサービスのコストは、この時点での農家の売上から差し引かれる。こうした支払いメカニズムにより、農家のキャッシュフローリスクが軽減されるだけでなく、GADCOにとってもコストの回収が簡単になる
市場プレミアムは、Copa Connectに参加する零細農家のみが享受できる追加ボーナスのようなものである。繰り返し述べているように、ガーナの零細農家は国内消費者市場へのアクセスを絶たれているため、通常彼らの収入は加工前の籾米の対価のみである。しかも、大体のケースにおいて、収穫物の買い手は、オープン市場での流通機構において独占的な力を持つ「マーケットマミー」(仲買人である地元の女性たち)で、不当な価格設定を受け入れざるを得ない状況である。一方、GADCOは生産者である零細農家に対し、加工後の商品のレベニュー・シェアリング(利益分配)を約束しているのが特徴だ。この市場プレミアムは、今日のガーナにおいてはGADCOとの協業なしには決して手に入ることのない付加価値である。

収穫量の増大、生産物の品質向上、そして市場プレミアムの獲得――実は、インパクトの源泉はこれだけではない。バリューチェーンの垂直統合による効率化こそが、参加農家に還元できる利益を最大化する上では欠かせない要素である。ガーナレポート(1)でも触れたように、ガーナの米セクターのバリューチェーンはことごとく細分化しており、結果として生産者である零細農家の取り分が極小化している。今日、ガーナにおいて米生産のバリューチェーンをR&Dから販売に至るまで全てコントロールできているのはGADCOだけだ。これまで、様々なアクターが零細農家の生活水準の改善に取り組んできたが、彼らを生産者としてバリューチェーンに取り込むというアプローチを取った場合、農家の純所得の改善幅はせいぜい20~30%程度であった。一方、Copa Connectには、GADCOのプラットフォームを通じて、ガーナの小規模米農家の純所得を2倍、あるいは3倍にまで増やすポテンシャルがある。具体的な事例は、次回のレポートで詳細に触れたい。

「変化」の触媒


世界中に先例はあるものの、一般に小規模農家を生産者としてバリューチェーンに取り込むビジネスには高いリスクがつきものであり、事業規模が拡大し、収益構造が安定するまでは投資の呼び込みが困難である。一方で、GADCOのようなオペレーターの観点からすると、利益の生まれにくい不安定な立ち上げ期にこそ、事業を軌道に乗せるためのあらゆるリソースと、リスク共有のためのパートナーが必要となってくる。
そこで重要となってくるのが、Acumenの提唱する”Patient Capital”(忍耐強い/寛容な資本)であり、それを実践するプレイヤーとの長期的なパートナーシップだ。Patient Capitalとは、早急な金銭的リターンではなく、長期的な社会的インパクトを追求する新しい投資形態である。GADCOは、Copa Connectの実現を目標に、ガーナの米市場の歪んだ構造を是正するため、バリューチェーンの垂直統合に数年の歳月と多額の資金を投じているが、そうした取り組みを早期から支援してきたのは、Acumenをはじめとするインパクト・インベスターたちである。
また、零細農家を生産者とする高級米生産のバリューチェーンを強化するため、Copa Connectは様々なパートナーシップを結んでいる。例えば、スイスに本拠地を置くSyngentaは、種子や農薬を主力商品とする世界的なアグリビジネス企業で、GADCOと共同で高品質・高収量のジャスミン米の種子の開発を行っているほか、ガーナのオープン市場では決して入手ができない高品質の農薬をGADCO経由で零細農家に提供している。また、ノルウェーに本社を置く世界最大の窒素肥料メーカーのYaraは、Copa Connect参加農家に高品質の肥料を提供するほか、蓄積された知見に基づき、ガーナの小規模米作農家の土壌条件や生産環境を考慮した肥料の組み合わせを提案している。また、これらの企業は、零細農家が生産したジャスミン米が消費者市場に出荷され、実際に収益が生まれるまでの期間である6ヶ月間、提供したインプットのクレジット・リスクを負担している。このリスク・シェアリングにより、零細農家が収穫後までインプットの購入代金をGADCOに返済しなくてもよいというシステムが可能となっている。
また、Copa Connectのビジネスオペレーションと、その効率化を支えるパートナーは、GADCOがこの画期的な新規事業を成功させるためには欠かせない存在である。途上国における零細農家の生産性向上のため設立されたSyngenta Foundation for Sustainable Agricultureは、灌漑された土地で耕作する農家を対象としたプログラム導入に特に貢献しており、専属のエキスパートチームをガーナに定期的に派遣し、効果的な生産プロトコルのデザインや、トレーニングの実施を通じた参加農家の技術支援を、GADCOのCopa Connectチームと共に行っている。また、Syngenta Foundationが開発した零細農家ビジネス向けICTは、参加農家のモニタリングの効率を著しく向上させている。一方、米国・ワシントンDCに本拠地を置くACDI/VOCAは、灌漑施設へのアクセスのない零細農家とのプログラム実施に貢献している。Tigo Cashのモバイルマネーは、零細農家からの調達における決済の効率化には欠かせないテクノロジーであり、ガーナの零細農家の金融包摂とICTリテラシーの向上という開発効果ももたらす。
さらに、Copa Connectがガーナの零細農家にもたらすインパクトをRCT(Randomized Controlled Trial: ランダム化比較試験)によって評価するため、GADCOは世界銀行と3年間のパートナーシップを結んでいる。

パートナーに対するピッチ、それに続く交渉・議論、そして現場での試行錯誤の数々は、Copa Connectの立ち上げ期においては特に重要で、パラダイムシフトとインパクトを生み出す新しいシステムを作り上げるために、私が最も時間とエネルギーを投じた仕事の一つである。そして、「変化」の触媒となるために、力を合わせて共に走ることの威力と魅力を改めて教えてくれた、非常に大切なミッションであった。


(ガーナではまだ新しいモバイルマネーを農村地域に導入するため、Copa Connectのパイロットサイトを訪れたTigo Cashチーム。Tigo Cashのトレードマークである青いシャツを着て、ブランドの浸透を図る。Acumen Global Fellows ProgramのマネージャーであるJohn-中央-と、Copa Connectに参加する農民たち。左端はGADCO専属の農学者-当時-と私)
(パイロットフェーズ(~2013年3月)のGADCO Copa Connectチーム)

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