ナイジェリアレポート(3)-小早川鈴加

2013−2014東京財団AGFPフェロー小早川鈴加さんは、2013年11月より、ナイジェリアでの現地研修を受けました。レポート第三弾をお届けします。


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東京財団アキュメン・グローバルフェローズプログラム(AGFP)

パガ・セービングス部門


パガのビジネスは、全体としてはとても順調に成長していた。しかし、私が担当することになるパガ・セービングスという低所得者向けの預貯金を扱う部門は、会社にとっては問題児ともいえる部門だった。そのことを実感したのはパガに入ってすぐのことだ。

「あなた方は、本気でこのプロジェクトに取り組んでいるんですか? 私にはとてもそうとは思えません。」

パガの社長、副社長、製品管理長、私を含むパガ・セービングス部門の社員は、ある金融包括を進める団体のグラント責任者からそう問い詰められていた。私がパガに参加してからすぐ、数週間もたっていない時のことだ。プロジェクトに資金を提供してくれている団体と会うとは聞いていたが、私が初めて会社の外の関係者と会ったそのミーティングは、和やかさとはほど遠いものだった。そのグラント責任者は厳しい表情でこう続けた。

「2012年度にあなた方が提案書を提出した時点での目標値に対して、顧客獲得数もサービスを展開するエージェントの数も数%以下の達成率。2013年6月に出してもらった修正目標に対しても、10%以下という惨憺たる結果。計画では今月末までにはナイジェリア36州中で12州に展開しているはずが、未だラゴス1都市のみでの展開。全くサービスが普及していません。これは一体どういうことですか?」

確かに、パガはこの団体に対してナイジェリアの金融包括を推進するプロジェクトを提案し、同団体のグラント案件としては上から数えるほど大きい額のグラントを勝ち取っていた。そういえば2年ほど前の企画書にそういった内容が書いてあったな、と私は冷や汗をかきながら以前目を通した過去文書の内容を思い出す。グラント責任者はパガ・セービングスの開発がいかに予定に対して遅れているかを理路整然と述べてその理由を問い質し、その場にいたパガ側の面々がその説明をする。私は、まるで成績が悪くて教頭先生に呼び出された生徒みたいな気分だ(実経験あり)と思いながら、これから何をすべきかについて考えを巡らせた。

このミーティングで槍玉に上がっている事業部門が、今後私が責任者になる、銀行支店を使わない金融サービス(Branchless Financial Services)部門である。計画に対して実施が遅れに遅れている同部門。更に、システムには信じられないようなバグだらけで、コミッションの支払いシステムも複雑なためセールス部門長さえそれを正しく理解しておらず、おまけに儲かってもいない部門だった。さて、どこから手を付けるべきか。頭を抱えたが、私には9カ月しかなく、止まっている暇はない。模索しながら走る毎日だった。
(写真:ナイジェリアでのお金(ナイラ)と、エージェントでの出入金を記録するログブック)

セービング・サービスへのニーズ


課題満載とはいえ、パガ・セービング スの貯蓄サービスへの貧しい人達からのニーズは大きい。BBCニュースで「正直さを褒められたナイジェリアの子供たち」で報道され、ダンビサ・モヨがその著書「援助じゃアフリカは発展しない (Dead Aid, Dambisa Moyo, 2009) 」で紹介した以下のエピソードが、そのニーズを端的に表している。

『2005年4月、北東ナイジェリアのマイドゥグリで、二人の少年がサッカーをしている最中に、6千ドル(60万円ほど)を偶然見つけた。マイドゥグリは、ナイジェリアの活気ある首都アブジャや、最大の商業都市ラゴスとは異なる地方都市である。このお金は遺失物ではなかった。その後わかったことは、信頼できる正規の銀行システムがないので、このお金の持ち主は、貯めたお金をきちんと黒プラスチックの袋に入れ、ゴミ捨て場の近くに隠すことにしたのである。』

銀行は遠く、敷居も高く、待ち時間が長く、エリート的で、少額からコツコツと貯蓄をするのには向いていない。ナイジェリアには「アラジョ」と呼ばれる集金人がお金を集めて保管してくれる貯蓄システムがあるが、それだとお金を持ち逃げされてしまう危険もある。家に保管しておけば、盗まれたり、つい使ってしまう可能性もある。強盗にあったり、ならず者が家に押し入ってくることも珍しいことではないお国柄だ。少額からでも安全にお金を貯められて、それをしかるべきビジネスや教育に使える方法があれば、色々な可能性が広がる。貯蓄が集まれば、国の成長、金融発展、投資を促す重要な財源にもなる。ナイジェリアには1億7千万の人がいるが、その多くを占める貧しい層は未だ正規の銀行サービスを受けていないといわれている。もし、それまで効果的にお金を貯められなかった層(ナイジェリアの大人の60%以上といわれている)が貯蓄をすることができれば、また、それによって彼らがより豊かになることができれば、ナイジェリアの経済も活性化し、貧困削減の道筋になるかもしれない。パガのセービング部門は、可能性に溢れ、ニーズもある分野なのだ。

それが何故、色々な課題に直面し、立ち行き困難な状況に陥っているのか。それについて説明する前に、パガの仕組みにもう少しだけふれておきたいと思う。
(写真:パガ・セービングスのエージェント向け説明会。説明会を開くと、地元のビジネスオーナーが集まり、どんなサービスなのかについての質疑応答が活発に行われる。)

パガの仕組み‐とにかく便利


パガは、支払いやお金の保管、受け取りを安全に、シンプルに、便利にするというサービスを提供している。私自身もユーザーとしてサービスを使っており、とても便利だ。

例えば、私が銀行口座を作ろうとした時のこと。銀行の入口でセキュリティチェックのために鞄を開けて中を探られ、ボディチェックを受け、じろじろと遠慮のない視線を受けながら人で溢れたカウンターにやっとたどり着いたものの、様々な書類を要求され、結局書類が足りずにすごすごと引き返したことがあった。もし私が農村出身の、英語が書けない女性だったとしたら、二度と銀行に足を踏み入れないだろうと想像するのに十分な体験だった。

パガなら、携帯電話番号を使って、全国に5000以上あるパガと提携している代理店(エージェント)またはオンラインを通じてあっという間に口座開設ができる。口座入金も簡単で、お金を持っていって電話番号を告げれば、面倒な用紙記入などもなく入金完了のお知らせがメールで送られてくる。現金の引き出しはATMでもエージェントでも可能で、携帯メールを通じて送られてくる「預金引き出し番号(一度のみ使用可能のワンタイムパスワード)」とあらかじめ設定している「PINコード(暗証番号)」の組み合わせによってセキュリティが確保されている。

また、クレジットカードがあまり使えないこの国では、パガの口座はオンラインでの支払いにもとても便利だ。更に、水道・ガス料金、ケーブルテレビ代、電話代の支払い等も、混みあった窓口に行くことなく簡単に済ませることができる。銀行送金もできるし、銀行口座がない人に向けた送金もできる。

たった数年で数多くのサービスを展開し、その背景にある複雑なシステムを構築した開発力、5000店以上のパガのサービスを展開するエージェントを開拓し、パガのサービスを提供できるようにトレーニングしたその営業努力にも頭が下がる。前途は洋々、サービスは革新的、人材が揃っている。最初は、私などこの組織に必要なのだろうかと思ったのだが、パガ・セービングス部門に関しては全く別だった。とにかく人手が全く足りない(とくに開発部門で)、貧しい人をターゲットにしているという意識も足りない、商品に正確さが足りない、ホスピタリテイもスピード感も商品競争力も営業力も何もかもテコ入れが必要だった。
(写真:全国に5000あるPaga のエージェント。エージェントは小売店やネットカフェ、ケーブルテレビディーラーなどが多い。)

パガ・セービングスの課題


パガのサービスがお金の支払いが必要なすべての人を対象としているのに対して、パガ・セービングスは主にUnbankedまたはUnder-bankedと呼ばれる、銀行のサービスからあぶれた人達を対象としている。彼らの声は開発部門やマネジメント部門には届きにくく、また彼らから利益を得るのは難しい。誰にでも理解しやすいように、パガの預金サービスは極限までシンプルでわかりやすくなければならないが、サービスに生命保険などもあわせて組み込んでいるために、サービスを提供する代理店(エージェント)の十分な知識が必要とされる。しかし、エージェントを訪問して聞いた商品についての話と、セールススタッフの話す内容、営業部門長が話す内容、製品開発部門長が話す内容には齟齬があり、一体誰の言うことが本当に正しいのかと混乱することもしばしばだった。

また、開発仕様書とにらめっこし、データを分析していくうちに、様々なバグを発見することになった。金融サービスを提供する会社として、正確な預金管理やエージェントへ支払うコミッション管理ができないデータのバグはあってはならないものだ。初歩的なプログラムのミスからコミュニケーションのミスによるもの、なぜそんな事態になったのか想像もつかないようなものに至るまで、様々なバグのオンパレードに、頭の中で(責任者呼んで来い、訴えてやる!……あれ、今の責任者は私だったっけ)とコントのようなことを考えつつ、開発部門と一つひとつバグを潰して確認していく地道な作業をこなしていった。

パガ・セービングスのサービスを提供してくれるエージェントには、人を雇って商品を扱うことを推奨している。パガには5000近いエージェントがあるので、もしそれぞれが1人雇うことができれば、5000人分の雇用を創出できることになる。パガは将来的に2万人の雇用を創出したいと考えていて、これは駆け出しのベンチャー企業としては十分にインパクトのある数字である。しかし、その多くが個人商店で構成されるエージェントは人を雇ってお金に関わる仕事をさせることには消極的だ。実際に人を雇ったエージェントから「あんたが言うから人を雇ったのにお金を持ち逃げされた、どうしてくれる!」とクレームを受けることもあった。投資家が喜ぶ素晴らしい計画が書かれた企画書と、実際の現実は全く違うものだった。

色々な人と話し、相談しながら、リストアップした問題点への対策と行動計画を立て、実行し、改善していく毎日だった。ハードルは数多くあった。開発の遅れ、慢性的な人手不足、バグの多さ、コミッション・システムの複雑さ、商品理解が進んでいないこと、エージェント・マネジメントの難しさ、エージェントが人を雇う難しさ、マス・マーケットを取りにいかないと儲からない仕組み。更に、それらを改善したうえで、商品の拡販のための計画立案、予算取り、営業プロセス管理、進捗管理、地方進出の準備、ドナーへの報告などもする必要があった。これらにかかりきりになっていると、日々は驚くほどあっという間に過ぎていった。広島にいる家族から「音信不通だが大丈夫か」と連絡をもらい、そこで初めて「ああ、前回話した時から2カ月以上たったのか」とやっと認識するような状態だった。
(写真:ミーティングにて)