ナイジェリアレポート(4)-小早川鈴加

2013−2014東京財団AGFPフェロー小早川鈴加さんは、2013年11月より、ナイジェリアでの現地研修を受けました。レポート第四弾をお届けします。


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東京財団アキュメン・グローバルフェローズプログラム(AGFP)

ある日のトラブル・シューティング

私は公共交通機関に乗ってまわりの人と話をしながら彼らの日々の生活について色々と教えてもらうのが好きだ。けれど、ラゴスで一人それをすると確実に迷い、何より安全上の問題もあるため、一人で公共交通機関を使って出歩くことはできない。なので、パガの体格のいい営業マンと一緒に移動する時には、これ幸いと彼らが普段使っている公共交通機関での移動を希望し、案内人兼通訳ついでにボディガード役をお願いしていた。私と一緒に行動する時は快適な運転手つきの社用車が使えると思っていた営業マンたちは、わざわざ面倒で汗臭くてクーラーがなくて煩い移動手段を好む私を『変な外国人』と思っていたようだ。(後に、これがアキュメンの知るところになると、「見るからに外国人であること、女性であることがリスクを高めるという自覚を持ってください。治安上の問題があるので同行者がいても交通公共機関は禁止!流しのタクシーもどうしてもという昼間以外は禁止!信頼できる知り合いの車にしか乗らないこと」と言い渡されてしまった。アキュメンの本部には出張時の泊り先や同行者の情報などをいつも共有していて、彼らはいつも私の安全性に最大限の気配りをしてくれて、とても心強かった。)
(写真右上:バスの中からの風景。前の人の編み込まれた髪の毛が豪華だ。こういう時は、「素敵なヘアスタイル、どうやってやるの?」と聞くと話が弾む。そこから、どういう時間やお金の使い方をしているのか聞いていく。)

そんなある日のこと、私はセールスの部門長とバスに乗って出先から会社へと戻っていた。そこで、隣に座っていたセールス長にひっきりなしに電話がかかっているのに気が付いた。あまりに何度も何度もかかってきていたので内容を聞いたが、彼は話したがらない。やっと教えてくれたところによると、エージェント(パガの代理店)での預金の引き出し時に、電波状況が悪いために引き出しコードが記されたSMS(携帯のメッセージ)が届かず引き出しができない状況で、目の前の顧客が怒っており何とかしてほしい、という電話だったとのことだった。セールス長は、「今に始まったことではないし、ネットワークの問題は我々には何もできない。今ちょうど渋滞に差し掛かってこちらも動けない。どうしようもない」とシートの背もたれに深く腰掛けてしまった。
(写真左上:エージェントが入っているテナント。わかりにくいが、二階の右上のお店がパガのエージェントだ。街中でパガのオレンジのサインを不意に見つけると「営業マンよ、よく頑張って開拓した!」と心の中でエールを送る。)

その後しばらくして再度電話がかかってきたので出るように促すと、彼は電話に出て顔色を変えた。「エージェントがお金を隠して意図的に引き出しをさせていないと疑われて、地元の自警団に連行されそうだと言っている」(こういったケースでは警察組織は機能しないが、ラゴスでは地元の人で自警団的な組織を作っていることがある。)私も青ざめた。今すぐ関係者に連絡だとセールス長に話したものの、彼は「もうコールセンターも知っている内容だから、すでに伝わっている」と、忙しい上層部に電話するのには抵抗があるようだった。私はいてもたってもいられず、会社の近くに着いたバスから飛び降りて、会社のビルの最上階まで駆け上がり、そのまま会議中だったマネジメント層のミーティングルームのドアをバーンと開け放ち、「緊急事態なので、協力してほしい」と訴えた。

その後のパガの対応は迅速だった。まずは問題のエージェントの顧客に連絡して事情を説明し、こちら側のマニュアル操作で預金引き出しを可能にした。その後、数時間のうちにSMSが届かなかった場合の預金引き出し時の本人確認の方法を変更し、電話で引き出しコードを渡すことができるようにシステム自体を変えた。その間にカスタマーセンターで調べたところ、同様の引き出しコードで苦情を言っていた顧客のデータが40件以上出てきて、何という事だと天を仰いだが、それについても一件ずつ謝罪の電話を入れて、事態への誠実な対応に努めた。長い一日だった。

リーダーシップについての学び

毎日、想像もしていなかったような色々なことが起き、そのトラブルシュートに追われる日々を過ごした。同時に、多くの人に助けてもらい、また同僚たちや開発部門のスタッフがいかに沢山の仕事を抱えているかを知って圧倒されたりもした。スタッフの管理、組織内における問題点の洗い出しと、オペレーション業務の見直し、営業プロセスの改善などは、前職でマネジメント・営業・プログラムコーディネーター・レポーティングオフィサーとしてこなしてきた仕事と共通する部分が多くあり、これまでの経験が役立つと感じることは多くあった。前回述べた課題点については以下のような形で手を打っていった。

  • 開発の遅れ(人手不足)?計画に対しての遅れの原因を明確にし、開発部門からの新しいスケジュールを出してもらう。また、開発部門での人材を増やす
  • 製品テストでひろいきれなかった多数のバグ(金融サービスの会社としてあってはならない)? 一つひとつ見つけて、具体的な内容を共有し、修正する。確実に直ったと確認できるまで、何度もテストする
  • 商品・サービスシステムの複雑さ(代理店へのコミッション支払いの仕組み、生命保険の対象条件、サービス料金など)と、商品・サービスが理解されていない?営業向け、エージェント向けのトレーニングプログラムを作成
  • パガ・セービングを扱うためには、エージェントは人を雇いマネジメントする必要があるが、エージェントにその余力がない?雇った人材への初期トレーニングをパガで行う
  • 地方へ進出する体力がない?地方展開の準備

  • 上記のような仕事をこなしながら、色々な民族から構成される200人の従業員の中でただ一人の日本人として働く上で感じたのが、以下の点だ。

    1)チームで動く:時間がかかっても、プロセスを共有する重要性
    アフリカの諺に、『早く進みたいなら、一人で。遠くへ行きたいなら、皆で(“If you want to go fast, go alone. If you want to go farther, go together”)』というものがある。

    トレーニングプログラムを作っていた時のこと。なるべくチームのメンバーに内容を作ってもらおうと思っていたのだが、とても時間がかかるのと、私が元々日本で企業研修といった商品を扱っていたり米国でトレーニングを組んだりしたことがあったので、ついつい手を出してしまうことがあった。けれど、一度私が手を入れ始めると、彼らが積極的な意見を出さなくなることに気が付いた。それを見ていた別の部門長が、とても貴重なアドバイスをくれた。「手を出したくなる気持ちもわかるけれど、スズカがつくったトレーニングではなく、彼らが自分で生み出したという感覚をちゃんと持てるようにする必要があると思う」と。ナイジェリアにいられるのが9カ月という短い期間であることに焦りを感じて気が急いてしまったけれど、時間がかかっても一緒にプロセスを共有するというのは、長期的に見てとても大事なことである。トップスピードで走れる人はそれはそれでヒーローだが、一人で走り去ってしまう人はおそらく孤独だ。忍耐強く待つことができ、必要な時に相手が気が付かないくらいの力で少しだけ手を差し伸べ、時間がかかっても皆で一緒に前に進むことを可能にするリーダーシップの必要性と強みを感じた。
    (写真右上:携帯電話を使って、サービスについてエージェントに説明しているところ。一緒に行って、どんな会話をしているのかに注意をはらう。後から、内容についてのフィードバックを行う。)

    2)「異質であること」を受け入れ、利用する
    私は何処へ行っても、道行く人から「オインボ、オインボ(白っぽい人、外国人という意味)」と呼ばれ続けた。見かけだけで外の人間だと言葉に出して言われるのは、社会に溶け込みたい気持ちを否定されるような気分だったが、外部の人間だからこそ、それまでの慣例に縛られない動きをすることもできる。

    エージェントの安否を気遣って、私は(おそらく重要な案件を進めていたと思われる)会議に押し入ったわけだが、それは社員の立場ではなかなかできないことだ。『重役会議よりも顧客の問題を解決するほうが大事である』と行動で示すことで、『顧客への価値提供の重要さ』といった理念を少しずつ浸透させていくといったことも、アウトサイダーだからこそできる強みだ。ルールや慣例を無視した形になってしまったが、日々顧客からの声に応えたいと思っている現場サイドからは、私が関わると問題が解決して顧客が喜ぶと歓迎された。私の持つサービス品質への期待値の高さや、顧客中心の考え方は、それまでとは違った視点をもたらすきっかけになったのではないかと思っている。
    (写真左上:パガの同僚たちと。パガは女性社員が特に元気で優秀だった。)