タイプ
レポート
日付
2015/10/21

10年後の世界を見据えた政策をマルチステークホルダーでつくりあげるには

Apply for GGF2027





原口正彦(コロンビア大学PhD課程、The Earth Institute, Columbia Water Center在籍。Sylffフェロー)

GGFに参加した理由と開始当初の戸惑い

グローバル・ガバナンス・フューチャーズ(Global Governance Futures, 略称:GGF)が始まる前に私がGGFに期待していたことは、各国のヤングプロフェッショナルと政策提言を作りあげたいというものだった。私は地球工学に関する検討部会に参加予定だったため、自然科学の専門知識が求められるだろうと推測し、専門書を読み込み意気揚々とベルリンで開催された第1回ローカル・セッションに乗り込んでいった。しかしながら、セッションが開始してすぐ自分の予想していたことと異なることに気がついた。予め見込んでいた自然科学的観点のみならず、ビジネスや国際法の観点、そして包括的な枠組みを作るという市民社会論的な観点など、実に様々な視点から議論が始まったからだった。また、グローバル・ガバナンスに関心があるフェローが集まるのだから友好的な議論が繰り広げられると踏んでいたが、実際には議論は白熱した。なかには白熱するあまり声を荒げたり、会場から出て行くものがいたりと、友好的な議論とは真逆な雰囲気での始まりに戸惑った。この一年これからどうなるのだろうかと不安に思ったし、グローバル・ガバナンス構築に向けて提言するということは一体どういうことなのか全く分からない状態でGGFは始まった。

もう一つの参加理由として、以前参加した類似の多国籍プログラム(グローバル・ユース・エクスチェンジ事業、略称:GYE)で感じた課題を自分自身が乗り越えているか知りたいという思いもあった。GYEは、外務省が主催し、世界30カ国から1人ずつユースを集め、国際社会が直面している課題に提言するというものであった。そのプログラムを通して痛感したことは、自分自身の語学力やディベート力、専門知識に対する乏しさだった。その後、米国留学と海外勤務を通してそれらのスキルを培い自信が出てきたが、果たして現在の自分は国際社会で通用するのか、また、グローバル・ガバナンスを議論するうえで必要なスキルとは何なのかといった問いへの答えを探すことにも関心があった。
本稿では、グローバル・ガバナンスを作るということは一体何を意味するのか、また、グローバル・ガバナンス構築への提言を行うにあたり必要なスキルはどういったものか、GGFを終えたいま、自分の考えをまとめたいと思う。また、グローバル・ガバナンスに日本が積極的に関わっていくには何が必要かについても、あわせて考えを整理したい。

地球工学検討部会

私は、3つの検討部会のうち地球工学に関する検討部会に所属していた。本部会のフェローの経歴は、国連勤務の弁護士や経営コンサルタント、環境分野のNGO職員、政策提言をおこなうシンクタンク職員、地球工学を専門にする研究者と多彩だった。メンバーで議論を重ねた結果、地球工学の中でも「太陽放射管理」(Solar Radiaion Mangement、略称:SRM)にテーマを絞り込み、シナリオプランニングの手法を用いて2つのシナリオを作成した。結論となる政策提言では、1) 気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change、略称:IPCC)によるSRMに関する特別報告書作成、2)国連下でSRMに関する助言組織の設立、3)気候変動に関する国際連合枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change、略称:UNFCCC)下での交渉プロセスの設置の3点についてまとめあげた。また、地球工学の成功が、化石燃料の使用を促進し、かえって地球温暖化効果ガス削減の努力を無にしかねないという懸念(通称、モラルハザード問題)などについても議論を繰り広げた。

政策提言をまとめあげるまでの道のりは簡単ではなかった。各フェローの間では毎セッション激論が交わされて、東京セッションでは朝から終電の時間まで議論が及んだ。議論が白熱した主な理由は、各フェローの専門分野が異なっていたからである。地球工学の専門家は1名のみで、それ以外の8名の専門は、市民社会論や国際法から工学まで多岐にわたっていた。手法として用いられたシナリオプランニングは多様なステークホルダーの視点を盛り込むのに長けていたが、それでも議論をまとめあげるのには苦労した。しかしながら、よくよく考えてみれば、それこそグローバル・ガバナンスを作る過程に必要なプロセスだったのではないか。様々な背景や文化、利益を持つものが共通の課題にマルチステークホルダーとして関わっていき、ルールや枠組みを作っていくことが、まさにグローバル・ガバナンスを作っていく過程だったように思う。

必要とされた身体的・精神的・知的タフさ

様々な経歴を持つものが参加していて、検討部会中に激論を飛ばすからこそ、公式プログラム後の懇親会も重要な役割を果たしていた。日中の激論が禍根を残さないためにも、検討部会でエネルギーを使い果たしていたとしても「飲み会」に参加できる身体的タフさが必要だった。

また、「飲み会」で仲良くなったとしても次の日には激論が交わされることになるので、検討部会での討論では精神的タフさも重要だった。つまり、議論を粘り強く行い、反論されてもさらにかぶせていける位の主張力を持つことが求められた。
一方で強く主張するのみならず、丁寧に論理的に根拠に基づいて説明していく知的タフさも不可欠だった。例えば一つのエピソードをあげると、実務家のフェローが、自然科学で常識と言われている内容を理解していないことがあった。その誤りを訂正する際には、非専門家に専門知識をわかりやすく説明するスキルが必要だった。 逆に、私自身は日頃触れている自然科学の視点のみならず、ビジネスや国際法、そして市民社会論的視点が求められた。

日本はどのようにグローバル・ガバナンスに関わっていくべきか

各国の政策担当者や専門家はグローバル・ガバナンスをどのように捉えているのだろうか。GGFへの参加を通じて感じたことは、日本と他国との間にある認識のギャップだ。他国の政策立案者たちとの対話を通じて抱いた印象はグローバル・ガバナンスを構築するための積極的なはたらきかけであったが、日本では「グローバル・ガバナンスはどうなるのか」という受け身な視点を感じた。もちろん、ここではありきたりな日本政府の国際影響力にその原因を求めるつもりはない。むしろ、グローバル・ガバナンスに少しでも関わる一人ひとりの意識と力が重要ではないかと考える。GGFへの参加を通じて、グローバル・ガバナンスを主導するには身体面や精神面だけでなく知的な面でのタフさが試されているし、多様なステークホルダーを巻き込んでいく「巻き込み力」のようなものが肝要だと考えるようになった。タフさを持って、様々なステークホルダーを巻き込んでいき、小さなところから積み上げていくことが、最終的にはグローバル・ガバナンスを構築することにつながるのではないか。そう考えると我々一人ひとりが果たす役割は大きいし、少人数の政治家や官僚にまかせていても状況は変えていけない。一人ひとりが現状を少しずつ変えていってこそグローバル・ガバナンス構築につながると考える。

始まったばかりの政策コミュニティ

今回、GGFフェローや協力者を通じてゆるやかな政策コミュニティが形成された。例えば、GGF期間中に、地球工学検討部会のドイツ人フェロー、Stefan Schaefer氏が勤務先で主催したClimate Engineering Conferenceに招待してもらった。結果、会議で地球工学に関する最新的見地を学ぶことができ、GGFでの討論に還元することもできた。また、普段アメリカの大学に所属する私にとって、日本の地球工学研究者と交流出来たことも貴重な経験となった。日本での地球工学研究の現状について知ることができ、さらには共同でシンポジウム報告論文を執筆することができた(詳細はこちら)。

ベルリンで開催された第1回セッションでは議論が紛糾し、これから1年間グローバル・ガバナンスを議論するにあったってどうなることかと途方に暮れた。しかし、全5回のセッションを終えて政策提言書をまとめあげた現在、様々なアクターを巻き込んでルール作りをしていくことこそがグローバル・ガバナンスを作りあげることではないかと指摘したい。

また、グローバル・ガバナンスの構築に貢献するために必要とされるスキルとは何なのだろうか。確かに、語学力やディベート力、専門知識は必須だろう。しかしながら、GGFを終えた今、それだけでは不十分だと考える。異なる文化や国境、専門分野を乗り越えることのできる力(クロスボーダー力)、身体面や精神面に加えて知的な面でのタフさ、それに「巻き込み力」があってこそグローバル・ガバナンスの構築に貢献できるのではないか。

GGF2025を終えて一歩引いて私自身のことを振り返えると、日々の業務や研究活動でグローバル・ガバナンスに貢献できているかというと、程遠いかもしれない。しかしながら、GGFは世界中に散らばっているヤングプロフェッショナルたちをつないでくれて、新たな道を一歩一歩進んで行くための「ガッツ」をくれた。そのことに感謝し、現在募集がかかっているGGF2027が成功することを願っている。
Apply for GGF20272027年の世界のために政策をつくるリーダーシッププログラム」詳細はこちら