タイプ
その他
日付
2008/4/1

「現代の自治体職員が求められる能力とは」~リーダーシップとマネジメント能力~

東京財団では、全国の市区町村職員を対象とする研修プログラムを実施しています。この研修は、国内外の事例から地方自治の最新理論や知識を学ぶと同時に、実際に事業を展開するために必要なツールや手法を習得する実践的な研修です。

自治体が真に自立するために、日本の自治体職員はどのような能力を身につけるべきか。この4年間、「市町村職員研修国内外研修プログラム」の米国研修を担当したポートランド州立大学マーカス・イングル教授の分析とご見解を紹介いたします。

なお、本稿には塚本壽雄教授(早稲田大学大隈記念大学院公共経営研究科)から返信が寄せられていますので、併せてご覧ください。


私が高校生だった頃、英文学のクラスで、有名な引用句を暗記するという課題がありました。私が好きだった言葉の1つは、19世紀のアメリカの作家であるヘンリー・デイヴィッド・ソローの「あなたの城を空中に描きなさい。その城があるべきところに。次に土台をその城の下に築きなさい。」という名言です。これは、「中央集権の終焉、自治体の自立」という新時代に、日本の自治体が直面している専門能力の開発という大きな課題を表わす比喩のように、私には思えます。

私たちはソローの言葉から次のことを思い起こします。すなわち、人生は2つの不可欠な要素―「城を建てること」と「土台を築くこと」―で成り立っているということです。同様に、日本の地方自治体職員の責務もこれらと同じ2つの要素を含んでいると考えることができます。自治体職員の仕事のひとつは城を建てることに関するもので、これはリーダーシップの範疇です。もうひとつは、しっかりした城の土台を造ることに関するもので、これはマネジメントの次元にはいります。

リーダーシップは、新たにやるべきことについてビジョンを示して人を鼓舞し、目的意識を喚起することで、人間のエネルギーを解放します。これらは新しい城を描くうえで必要なことです。また、情熱や感情、既成概念に対する疑念、リーダーに従う者の満足感、忠誠心、自信といった領域にかかわるものです。

これに対しマネジメントとは、やるべきことを明確にするもので、そして、計画した結果に対して能率的、効果的に成果を達成するよう他の人々をリードすることです。この作業は土台を築くために必要なことです。このことは、東京財団が昨年発刊した書籍『地方行政を変えるプロジェクトマネジメント・ツールキット』でも取り上げられているように、ニュー・パブリック・マネジメントの領域にはいるものです。また、公共経営関連の書物で述べられているように、リーダーシップは「変化」を前提にした概念であり、マネジメントとは「対応」に焦点をあてる概念です。

従って、単純化すると、地方自治体にとって専門能力開発の課題は、「地方自治の新時代において、自治体職員が持つべきリーダーシップとマネジメント能力の適切なバランスはどのようなものか?自治体職員がそれらを身につける最善の方法は?」と表現できます。この課題の両面について更に考えていきましょう。

地方自治の新時代におけるリーダーシップとマネジメント能力
日本の地方分権改革により地方自治体は、独立して幅広く行政を行うための新しい権限を行使できるようになりました。これは、地方自治体が財政的な独立性とともにより多くの自由裁量権を手に入れたことを意味します。多くの小規模自治体が、財政的に自立するために合併という選択肢を選びました。それでも、いまだに多数の地方自治体は制限の多い財政環境のなかで自治体経営を行っています。同時に地方自治体は、市民やその他の利害関係者に対し今まで以上の説明責任を求められ、より厳しく監視されています。

日本の地方自治体におけるこのような変化は、すでに地方自治の構造と機能に対して直接的な影響を与えています。明らかな変化は次の2つです。

第一に、中央政府から地方自治体への垂直的な命令系統に変化が起きています。地方自治体は新しい権限を得るとともに、その自治権が拡がりました。将来どのような自治体になりたいかを自分たちで決める権利を新たに手に入れたのです。また、行政サービスの優先順位付け、資金確保、管理について、最善の方法を決定する責任を負うことにもなりました。

地方自治体の行政機能も変わりました。自治体が唯一の行政サービス提供者ではありません。自治体の役割は公共サービスの仲介者です。他の自治体、企業、市民や市民グループの参加を得て水平的に協働し、公共サービスの提供を仲介するのです。

地方自治体の構造と機能にかかわるこれらの変化は、行政業務の本質を変え、自治体職員の役割と責任の範囲を広げます。自治体が合併や歳入不足、強まる公的な監視といった問題に取り組んでいるので、職員は個人として、組織の一員として、リスクテークや結果責任をとることが求められます。職員の新しい職責は次のとおりです。戦略的な構想や計画立案を補助すること、地域課題の解決を目的とした透明度の高いプロジェクトチームを率いること、そして、責任のありかが明確でない状況で様々な外部関係者や市民グループと協働するという新しい権限を行使すること、などです。

地方自治の新時代に自治体職員が求められるリーダーシップとマネジメント能力の適切なバランスという問題について、ここまでの簡単な分析からどんな答えがでるでしょう。自治体職員は双方の分野で高いレベルの能力が必要である、というのが私の結論です。カール・クノーレンバーグはその論文「Leadership and Management in Local Government」のなかで「本当の問題は、その管理者がリーダーであるかどうかよりも、むしろ、その管理者はどんなタイプのリーダーか、という点ではないか」と述べています。

リーダーシップ能力が必要なことは明らかです。自治体は、将来のビジョンを示さなければなりません。どの方向に向かっているのか、どんな結果を期待できるのか、という意味において、その地域の伝統や価値に立脚していなければなりません。また、地域の雇用や強い税収基盤を確保するために、ビジネス界の関係者を投資へと向かわせるビジョンでなければなりません。このように人々を感化する働きは「城を建てる」ことに関わるもので、リーダーシップの本質的要素です。

一方、伝統的な経営手法と現代的なものを組み合わせて、公共サービスを能率的で効果的に提供するためにマネジメント能力も必要です。ヒエラルキー的な考えではなく、創造的かつ柔軟的な方法で市民や他の利害関係者と協働できる新しい思考法が必要になるでしょう。この重要な公共経営手法は「土台を築く」ことに関わるもので、マネジメントの本質的要素です。

どのように身につけるか-研修プログラムなどの活用-
専門能力開発という課題の別の側面は、日本の自治体職員がリーダーシップとマネジメント能力を身につける最良の方法を編み出すことです。私は「どのように身につけるか」について主に3つの可能性があると思います。

(1)第一の可能性は、良い成果を挙げている既存の自治体職員向けプログラムを拡充し改良する方法です。東京財団の支援のもと、早稲田大学大学院公共経営研究科とポートランド州立大学ハットフィールド行政大学院が協働で実施している「市区町村職員国内外研修プログラム」は、特にニューパブリックマネジメントとプロジェクトマネジメントに焦点をあて、管理的なマネジメント手法を扱う研修です。このプログラムはこれまで4年間、改善を重ねており、今後も日本中に受け継がれていく可能性があります。バランスのとれたリーダーシップとマネジメント能力を開発するという課題に取り組むために、このプログラムでは、行政に求められるリーダーシップに関するセッションを今年追加します。このセッションは、リーダーシップの学習とマネジメントの学習のバランスより適切にするために、将来的には拡充するかもしれません。ただし、この方法には潜在的な障害があります。既存の自治体において、行政のリーダーシップが発揮された例は非常に少ないということです。このことは、我々を第2の可能性へと向かわせます。

(2)現在の状況は、日本の自治体がリーダーシップを発揮した優良事例を研究するためには最適です。日本の皆さんも「必要は発明の母」であるとお考えなら、過去10年の間に「行政がリーダーシップを発揮する試み」は数多く行われてきているはずです。当然、日本各地の自治体職員は、周りの人々を感化し、影響を与え、導くためのリーダーシップ発揮法を考え出しています。そのような成功事例をいくつか考察する研究機会がそこにあります。その研究で、自治体職員の行政リーダーシップのコンセプトと実行例を確認するとともに、記録として残すことができるはずです。先述の書籍『プロジェクト・マネジメント・ツールキット』では、マネジメントの概念とツールが紹介されていますが、マネジメント能力に加えて、リーダーシップ育成のための資料・材料(ツールキットを含む)が加えられるべきでしょう。

最後に、もし自治体職員が、リーダーシップとマネジメント能力を伸ばすことに関心があのなら、専門能力開発のネットワークや組織を設立・育成することがとても大切です。自治体職員の役割や責任が進化・発展しているので、職員の皆さんは、直接情報交換を行うことができる職員同士のネットワークをとおして、継続的な学習環境に自分の身を置くことが必要です。そのようなネットワークの萌芽は、「市区町村職員国内外研修プログラム」の修了生同士のつながりに見ることができます。しかし、そのネットワークをより活発にし、リーダーシップとマネジメントの実施例を共有する媒体にしていくためには、もっと創造的で先進的な考えが必要です。

まとめ
この短い論文のなかで、私は、日本の自治体職員が直面している専門能力開発という重要な課題の2つの側面を考察しました。地方自治の新時代に成功を収めるために必要なリーダーシップとマネジメントのバランスに関していえば、その両方の能力が必要になります。ソローの比喩が述べているように、変化する自治体の役割は、「城を建てる」ことと「土台を築く」ことの組み合わせが必要です。自治体職員がリーダーシップとマネジメント能力をいかに身につけるかという課題に関しては、すぐに使えるいくつかの方法があります。すなわち、現在の研修プログラムの継続と拡充、優良事例の研究と収集、日本を縦断し互いに影響しあえる学習ネットワークを確立すること、などです。


本稿に対する塚本壽雄教授(早稲田大学大隈記念大学院公共経営研究科)からの返信もご覧ください。