タイプ
レポート
日付
2015/10/29

米国ポートランド視察リポート「住民自治のまちづくりを考える ~日本のヒントを探る」

東京財団研究員兼政策プロデューサー
三原 岳
 
非営利、独立、民間のシンクタンクである東京財団(秋山昌廣理事長)は人材育成プログラムの一環として、全国の基礎自治体職員を対象にした「東京財団週末学校」を毎年実施している。住民を主体とする地方自治(住民自治)の実現と、地域の潜在力を活かした多様なまちづくりのため、自らの頭で考えて行動できる人材の育成を目指しており、その一環として米オレゴン州の「ポートランド州立大学」(PSU、Portland State University)と連携した国外調査プログラムを実施している。東京財団は2004年度からポートランドでの調査を実施しており、筆者が参加した調査では今年8月8~16日の間、週末学校参加者とともに渡米し、ポートランド市における住民自治の取り組みを学ぶ機会を得た。本リポート[*]は住民自治によるまちづくりの事例として、ポートランド視察で得た視点やヒントを基に、日本の課題を論じることとしたい。

 週末学校ポートランド調査の内容

まず、週末学校の概要を説明する。週末学校は地域のリーダーとの対話などを通じて、地域の課題と向き合い、基礎自治体職員として住民とともに取るべきリーダーシップを実践的に学ぶことに力点を置いており、2004年度から実施(現在の名称とスタイルになったのは2009年度以降)しており、毎年20人程度の参加者を受け入れている。
 
毎年のプログラムは少しずつ異なるが、参加者は東京での講義や実習、米オレゴン州ポートランドの国外調査、熊本県水俣市の国内調査を含めて、計10回程度の講義を受け、その集大成として、自らが地域の課題にどうコミットするか宣言する「私の政策提言」を作成する。
 
プログラムの根底にあるのが「住民自治」の考え方である。行政学の整理に従うと、地方自治の本旨には自治体の自律的領域の拡充を図る「団体自治」と、「自治体における自己統治」を目指す「住民自治」の2つがある。
 
具体的には、前者は「国から自治体に多くの権限を移譲することによって自治体の仕事の範囲を広げ仕事量を増やすこと」「自治体による事務事業執行に対する国の統制を緩和すること」とされ、後者は「地域住民が自治体の運営に日常的に参加し、住民の総意に基づいて自治体政策が形成・執行されるように仕組みを変革していくこと」とされている(西尾勝『地方分権改革』)。この定義に沿うと、これまでの地方分権改革は機関委任事務の廃止、国・地方税財政改革を目指す「三位一体改革」に代表される通り、団体自治を充実する制度改革だった。
 
しかし、「自治体に権限や財源が来ても、その自治体に主権者である市民の意思に基づいて運営していく仕組みがないと、あまり意味がない。市民の意思で行政をコントロールできる仕組みをつくることが大切」(福嶋浩彦『市民自治』)であり、自治体が移譲された権限を十分に生かしつつ、主権者である地域住民の意思に沿った政策を各地域で進めなければ、団体自治を進めたとしても画餅に終わる。実際、「自治体の所掌事務拡張路線は一切不要であるとまで言わないが、地方自治の更なる発展にとって(団体自治が)決定的な課題とは思えない」との評価がある(西尾勝『自治・分権再考』)。
 
週末学校では、住民自治の考え方を最前線で実践する基礎自治体職員を育成することを通じて、実効的な地方自治や地域の多様性に応じたまちづくりの実現を目指している。

ポートランドにおける住民自治の歴史

次に、ポートランドにおける住民自治の歴史を説明する。ポートランドの住民自治は40年近い歴史を持ち、全米で最も進んでいるとされている。
 
その最初となったのが高速道路建設に対する反対運動。連邦政府と州政府が1970年代、市中心部を貫くウィラメット川沿いに高速道路の建設計画を進めようとしたが、環境悪化を恐れる住民の反対運動が高まり、建設計画を断念。その後、高速道路予定地の川沿いに公園が整備された【写真下】。ポートランド 住民自治さらに、道路整備を目的としていた国の補助金の一部を使い、「MAX」と呼ばれる路面電車【写真下】を整備することで、早くから環境に配慮したまちづくりを進めていた。マックスはバスなどと合わせて、「住民の足」として機能している。ポートランド 住民自治 このほか、1974年には「ネイバーフッド・アソシエーション(Neighborhood Association、近隣自治組合)」という制度を創設した。これは市内を7つに区分して市民が身近な問題について解決策を議論・決定する場であり、近隣組合をバックアップする行政の組織として「近隣参加局(ONI、Office of Neighborhood Involvement)」を設置している。
 
近年の取り組みとして注目されるのは長期戦略計画である。まず、2005年に策定作業が始まった活動では向こう20年間の方向性について、住民が主体となってビジョンを策定した。具体的には、住民40人超で構成する委員会が中心となり、イベントやディスカッション、演劇、インタビュー、アンケートなどの手法を使い、約1万7000人の住民から意見を募った上で、報告書を策定した。
 
さらに、2009年にはポートランド市都市計画及び持続可能性対策局(BPS、Portland Bureau of Planning and Sustainability)を中心に、「ポートランド・プラン」の策定作業がスタートした。これは2035年に向けた方向性とともに、公正性、教育、繁栄、健康の各分野について、2017年までに市が採るべき政策を示しており、ここでも▽地域の課題と解決策を行政、住民がともに議論、▽アンケートやプレゼンテーションを通じた住民からの意見募集、▽少人数のグループディスカッション、▽住民向けイベントの開催、▽住民主催のイベントでの説明、意見徴収―などを通じて、住民自治の手法を徹底させた。
 
その際には民族的マイノリティや高齢者の組織、ビジネス関係者などにも関わってもらいつつ、具体的な開発計画に関しても事前に住民と十分な対話を行っている。
 
筆者らが8月8~16日に実施したポートランドの調査では、住民組織のリーダーや自治体の担当者、ネイバーフッド・アソシエーションに参加する住民、ネイバーフッド・アソシエーションの現場、ポートランド・プランを策定・運用するBPSなどを訪問した。

 日米の違い

では、こうした事例から学べる点は何だろうか。大前提として、日米両国の自治制度が大きく異なる点を踏まえる必要がある。
 
日本の自治制度は明治期以降、国を中心とした一律の行政制度に組み込まれ、戦後は「国―都道府県―市区町村」という三層構造が確立し、政令指定都市や広域連合など一部の例外を除けば、どこの自治体もほとんど同じ組織・権限で同じ事務を司っている。
 
しかし、米国の自治制度は多様である(岡部一明『市民団体としての自治体』、小滝敏之『アメリカの地方自治』)。例えば、執行部と議会の関係では一律に二元代表制を採用している日本と異なる。特にポートランドは「コミッショナー制度」を採用する数少ない全米の主要都市である。ポートランドの市議会議員はわずかに5人に過ぎず、それぞれが所管行政を持つスタイルを採用している。
 
さらに市役所だけでなく、都市計画を所管する「広域地域政府」、住民の意思で創設される「特別区」などが存在する。住民の議決があれば、自分たちで自治体を作ることさえできるほか、市区町村の区域が定められていない「非法人化地域」さえ存在する。
 
その違いを比較するため、筆者たちが視察した事例として、オーク・グローブ(Oak Grove)地区の住民組織アーバン・グリーン(Urban Green)を取り上げる。ポートランド市の周辺は現在、人口増加圧力が強く、郊外の開発が進んでおり、自然を多く残した同地区も宅地や商業地が造成されている。しかし、この地区は非法人化地域であり、基礎自治体が存在しない。こうした中で、乱開発を懸念した住民の1人が近隣住民とともにアーバン・グリーンを発足させ、自然保護の運動を開始した。
 
ポートランド 住民自治 特に、懸案となったのは路面電車マックスの新しい駅(パークアベニュー駅)と隣接する立体駐車場の建設問題【写真右】。アーバン・グリーンは都市計画行政を所管する広域地域政府であるメトロ(Metro)に協議を打診。これに対し、メトロは環境との共生を図るプログラムを進めるに際して、地域の関係者に伝える活動に協力してもらうようアーバン・グリーンに依頼した。これを受けて、アーバン・グリーンは交通事業を手掛ける特別目的自治体の「トライメット(Trimet)」とパートナーを組み、地域の環境団体、トライメット以外の行政機関にも参加を呼び掛けた。
 
ポートランド 住民自治最終的に、行政機関や民間団体などさまざまな意見を調整した結果、駐車場の規模を当初予定の1000台→355台に減少させるとともに、植樹用地を大幅に拡大する設計を採用。さらに、ゼロエネルギーを目指して駐車場の最上階となる3階に太陽光発電を置いた【写真右】。それにもかかわらず、予算や工期に大幅な変更はなかったという。駐車場では建設に関わった団体の名称とロゴマークが紹介されており、メトロやトライメットなどの自治体だけでなく、パートナシップの象徴としてアーバン・グリーンなど市民組織も名を連ねている【写真下】。ポートランド 住民自治 調査ではオープンを9月に控えた駅と駐車場を視察するとともに、アーバン・グリーンのリーダーから話を聞いたほか、メトロ、トライメット、アーバン・グリーンのリーダーを交えたディスカッションも行った。
 
しかし、こうした差異に着目し過ぎると、住民自治の本質的な部分を見逃す可能性がある。以下は住民自治の視点を中心に、日本に共通する課題や論点を抽出したい。

 日米の共通点とヒント(1)Fearへの配慮

(1)Fearへの配慮日本における住民自治の充実に向けたヒントとして、筆者が気付いたキーワードは2つ挙げたい。それは「Fear」(恐怖)、「Joy」(楽しさ、喜び)である。両者に近い言葉として、Scare(不安)、Pleasure(喜び)などの言葉も出ており、自治体職員や住民組織のリーダーなど様々な立場の人が異なる事象について、こうした言葉を何度も口にしていた。
 
このうち、Fearについては以下のような場面である。
  • 住民自治を考える時、恐怖と期待の双方に配慮する必要がある。行政サイドのアイデアが余りに先進的だったので、それにおびえる人をどう理解してもらうか考えた(11日午後、トライメットの担当者)
  • 住民には「行政が意見を聴いてくれない」という懐疑心や恐怖心がある(13日午前、BPSの担当者)
 
ここで言う「Fear」とは、(1)「自治体による政策の結果、自分達の生活に影響が出るかもしれない」という恐怖、(2)「自分たちの知らないところで、自治体の政策が決まっているかもしれない」という恐怖―の2点を指すと理解している。
 
つまり、住民にとって行政機関とは公権力を行使する存在であり、自治体の政策が生活に影響を与えたり、自分たちの知らないところで政策が決まったりしていると感じた場合、住民は恐怖を感じる。この恐怖が大きくなると、自治体行政に対する不信と不満につながり、住民の満足度は下がる。さらに住民の反対運動などが高まると、自治体行政の実効性も疑わしくなる。
 
実際、住民運動は通常、ゴミや景観など身近な問題から始まる。ポートランドの調査中でも「ごみ問題など自分達で解決すべき身近なテーマについて、他のメンバーと対話しながら対応策を決めている」(10日夜、ネイバーフッド・アソシエーションのリーダー)、「自分達の住む地域の開発計画が具体化した瞬間、住民は関心を持つようになる」(13日午前、BPSの担当者)などの声が出ていた。
 
以上を踏まえると、自治体が政策を進める際、「どこに住民の懸念材料があるか?」「どんな不安を住民に与えるか?」「どうやって不安を解消できるか?」を考え、こうした恐怖を少しでも取り除くため、丁寧な情報共有と説明が求められる。同時に、自治体としても政策を住民に「身近な問題」として理解してもらうための分かりやすい説明や工夫も必要になる。

 日米の共通点とヒント(2)Joyへの配慮

(2)Joyへの配慮もう1つが「Joy」については、具体的に以下のような場面である。
  • 市民活動は楽しかった。人と人の繋がりを持つことで、負担が大きいけど楽しい作業になった(11日午前、アーバン・グリーンのメンバー)
  • ビアホールで施策を説明するなど、住民が参加しやすい楽しいイベントを企画する(11日午後、トライメットの担当者)
  • 住民自治の場を考える上では、家族を取り込んで食事を楽しむことが重要(12日午後、ネイバーフッド・アソシエーションのメンバー)
 
つまり、多くの人の関心を惹き付けたり、住民自治の幅を広げたりする上で、「楽しい場」をどう作るかが重要な視点と思われる。日本の場合、住民が自治体行政に参加する手段は審議会や首長・行政職員に対する要望の場などに限られるが、緊張した雰囲気の中で難解な行政用語が飛び交う場だけでは、二の足を踏む住民が多くなり、住民から生の意見が出ると思えない。多少の「遊び」を交えたJoyの空間づくりが必要であり、それは行政機関だけが考えるのは限界があるかもしれない。実際、ポートランド市は住民組織に補助金を支出し、住民主導による演劇を通じて長期戦略計画の策定・周知を行っている。
 
しかし、人が集まって「楽しい」だけであれば、それは単なる「お喋りの場」に終わる可能性がある。筆者自身が市民活動に関わった経験から考えても、「人が集まることによる楽しさ」だけでは住民活動は持続しない。
 
そこで、ポートランドでは様々な人が以下のフレーズを口にしていたことに注目したい。
  • 自分が住む地域の将来を決めるのは私たち自身であり、その意見表明を行政が受け入れた瞬間、何かを変えられると思った(11日午前、アーバン・グリーンのメンバー)
  • 住民が変化を期待できないと、持続可能な参加にならない(12日午前、ONIのメンバー)
  • 住民の声を聴いたら丁寧にフィードバックする。参加することで変化することに気付いて貰う。説明するから変化を感じられる(12日午後、ネイバーフッド・アソシエーションのメンバー)
 
これらから抽出できるヒントとは、住民の参加を経た結果、行政の意思決定や政策が変わったことを住民に明示する重要性である。自治体行政に限らず、人間は助言・行動が受け入れられないケースや、どこに反映されたか分からない場合、参加する気をなくす。
 
特に、政策決定の場に参加する住民の手間暇(機会費用)は決して小さくない。例えば、審議会に参加する住民にとって、事前に膨大な資料を読み込んだり、国や自治体の政策・制度を勉強したりする必要があり、その準備に必要な手間暇は自治体職員や業界団体の関係者に比べるとはるかに大きい。
 
それにもかかわらず、しばしば日本ではアリバイづくり的な住民の参加か、ガス抜き的に住民の意見を聴くケースが多いが、もし自分の参加している場がアリバイづくりか、ガス抜きの場であることに気付いた場合、住民はどう考えるだろうか。あるいは自分の意見が政策にどう反映されたか分からない場合、住民はどう振る舞うだろうか。
 
通常であれば失望感が大きくなり、その手間暇を払おうとは思わなくなる。その結果、アリバイづくりの場に加わってくれる人は公共心に溢れた「スーパー市民」か、手間暇が気にならない暇な人か、その場に参加することで利益を受ける人か、その場に参加しなければならない人に限定されることとなり、幅広い住民の参加や住民自治は覚束なくなる。
 
この観点で見ると、日本の自治体の取り組みは十分とは言えない、そればかりか自分達の結論だけが「絶対に正しい」というスタンスで住民の意見を聞き、その意見を反映することを「負け」と思う文化がないだろうか。これでは単なるアリバイづくりと言われても仕方がない。
 
住民自治を考える上では、住民が行政に関わっていることで「変化」を感じられる機会を作ることが必要なのではないだろうか。
 
ポートランド市議会この点を強調するため、ポートランド市役所(City Hall)の議会(Council Chamber)で見たことを本リポートの結びとしたい。議会の議場【写真右上】に来た人はバックボーンを聞かれることなく、誰でも3分間発言できるルールとなっており、議場後方の時計【写真下】には「意見表明に時間を費やした市民の思いを受け止めなければならない」という思いを込めて、背面に以下のような文章が刻まれている。
 
より良いポートランドの建設と『私達の時間』を豊かに過ごすため、時間とビジョンを持ち、この議場に来てくれた市民を讃える。
 
住民自治の充実に向けて、日本の自治体に最も必要なのは制度的な枠組みではなく、「住民の時間や努力を無駄にせず、真摯に聞いて政策に反映させる」という首長、自治体職員、議員の謙虚な姿勢ではないだろうか。
 
(2015年10月08日『地方行政』第10592号より転載)
 

[*] ポートランドの事例については、PSUが主催するプログラムに沿って記述しており、PSUが作成した資料を参考にしている。