タイプ
論考
日付
2009/7/17

日本語教育基金プログラム寄稿「日本語多読研究会の第十回読み物作成ワークショップに参加して」

 東京財団は「日本語教育基金プログラム(NF-JLEP)」の運営を通して、海外における日本語の普及、日本語教育の推進を行っています。このプログラムでは、日本財団が世界6カ国8大学に各々150万ドルの基金を提供しており、各大学は、その運用益を使って、日本語学生への奨学金、大学での日本語教員の養成、教材開発、カリキュラム開発に係る事業を行っています。
 この度、このプログラムによって2008年に来日した、ブカレスト大学のフォクシェネアヌ・アンカ准教授に、滞在中に参加した日本語多読の活動についてレポートして頂きました。

◇-◇-◇

「日本語多読研究会の第十回読み物作成ワークショップに参加して」

フォクシェネアヌ・アンカ
ブカレスト大学外国語学部日本語学科准教授
Dr. Focşeneanu Anca
Associate Professor
The Japanese Language Department
The University of Bucharest

 私は、日本語教育基金プログラムのフェローシップによって、2008年6月に来日し、ブカレスト大学の協定校である学習院女子大学で、客員研究員として約3ヶ月間、研究とその関連の活動を行いました。
その滞日中、日本語多読という活動を知って関心を持ち、東京、新宿で開催された日本語多読研究会主催の「第十回読み物作成ワークショップ」に参加しました。今回、そのワークショップに参加した感想を簡単に書いてみたいと思います。

 そもそも、日本語多読の活動に関心を持ったのは、私が日本語の授業のなかで、読解を教えるのが最も好きだという理由からです。それは、日本語を読むなかで、学生が面白い内容を発見できると、彼らの日本語の上達が非常に早くなると思うからです。以前、初級レベルで、凡人社の『読解20のテーマ-初級日本語問題集』(三井豊子他著)を使って、教えたことがありますが、その中の10年前に初めて使った「朝シャン」という課の文章(テーマ)を、学生が興味を持って読んでいたことを今でも思い出します。

日本語の中の異文化

 日本語多読とは、学習者に初級からでも辞書を使わずに、日本語での読書を味わってもらうというコンセプトに基づく、日本語学習方法です。そのためには、学習者のレベルに合った読み物をたくさん用意する必要があり、世界文学、日本文学、童話、日本文化紹介といった読み物を、各語学レベルに合わせて書き直さなければなりません。
私が参加したワークショップでは、このような学習者向けの読み物を作成しました。参加者はグループに分かれ、語学レベルと、書き直す読み物を選びました。私が参加したグループは、初級レベル学習者向けの『シンデレラ』を選びました。『シンデレラ』の日本語版と初級レベルの文法・語彙リストをもらい、その文法・語彙リストに掲載されているものだけを使って、『シンデレラ』を書き直す活動に取りかかりました。難しい内容を簡単な表現に言い換える工夫は、非常によい勉強になりました。
 また、ワークショップで最も考えさせられたのは、日本語での異文化の問題でした。シンデレラは王様の宮殿に招待された時に、きれいなドレスを着て行きますが、アジア文化圏の学習者にとっては、カタカナ語の「ドレス」は初級レベルでは分かりにくいため、「ドレス」という言葉をもっと馴染みのある「着物」か「洋服」に換えたほうがいいと、私のグループにいた日本人メンバー数人が提案しました。私は違う意見でした。むしろ異文化が日本語で語られるせっかくのチャンスなので、異文化のことを出来るだけ忠実に伝えたほうがいいと考えたからです。皆で議論した結果、最終的に「ドレス」をそのまま残し、その意味を絵で伝えることになりました。
 日本語多読では、日本語が媒介となって、様々な言葉や文化を持つ人々に、様々な文化圏の話(文学)を伝えています。その読み物を作成するには、日本語を母語とする教師だけではなく、様々な文化的背景を持つ、私たち外国人日本語教師の協力が不可欠であると感じました。私たち外国人日本語教師は日本語学習者としての自分自身の経験を持ち、自分の文化と日本文化を両方知っていることで、読者となる学習者の立場・学習習慣・思考構成をよりよく理解できるからです。
 外国人日本語教師と母語話者教師が協力すると、学習者は日本語という言葉を通して、自分の文化を含めて様々な文化の知識を得ることができます。

外国人の日本語教師としての貢献

 ワークショップに参加して、外国人の日本語教師としての自信を更に深めました。ワークショップでの経験を通し、日本語教育における、外国人の日本語教師という特性を生かした役割や意識を再認識できたからです。 
現在、ブカレスト大学の同僚たちとともに、日本語多読のコンセプトを用いた教材づくりを計画し、また、少しずつ自分の教育にも取り入れています。この活動が、近い将来、学生の言語習得に変化をもたらすことを願っています。
 
 日本に行く度に必ず新しい何かを感じるのですが、今回の6年ぶりの訪日においても、日本や日本語について新しい発見ができたと感じました。それは、母語話者の日本語教師と外国人日本語教師が協力すれば、まだまだ貢献できることがたくさんあるということです。そしてこの新鮮な気持は、何よりも私の日本研究と日本語教師としての仕事の励みになります。この大切な思いを可能にしてくださった東京財団に深く感謝いたします。


フォクシェネアヌ・アンカ氏(Focşeneanu Anca)

ブカレスト大学大学院博士課程卒業。言語学(日本語学)博士。現在、ブカレスト大学外国語学部日本語学科准教授。日本語学科主任。研究分野は、日本語学、日本語教育、日本文化。主な担当科目は、現代日本語の構造、日本語学入門、ビジネス日本語、日本文化論。ルーマニア日本語教師会会員で、2005年から2008年までは、ルーマニア日本語教師会会長を務める。