タイプ
レポート
日付
2007/10/18

奨学事業レポート「“中国における高等教育の国際化とSYLFFプログラムの役割”―北京大学校務委員会主任 閔維方教授による考察」

奨学事業部が運営するSYLFFプログラムには、世界45カ国69校の高等教育機関が参加していますが、そのうち10大学は中国に位置しています。これまでに、これら10大学でSYLFF奨学金を受給した大学院生の累計は約5,000名にのぼり、全世界で一万人近いSYLFF奨学生全体の半数以上を占めています。

今週の奨学事業レポートでは、その1校、北京大学の最高運営機関である校務委員会主任(最高責任者)の閔維方教授による、中国における高等教育の国際化の発展状況とSYLFFプログラムの役割に関する考察を、日本語でご紹介します(原文英語)。



中国における高等教育の国際化とSYLFFプログラムの役割


中国では、国内の経済改革と対外開放政策の進展に伴い、高等教育の国際化が急速に進んでいる。特に、中国がWTO加盟時に教育分野における公約をして以来、その変化は著しく、多くの大学が、国際的なアカデミック・コミュニティーの一員になってきている。この歴史的な変動の中で、東京財団の運営するSYLFFプログラムの果たす役割は極めて大きい。

1. 中国における高等教育の国際化の社会的・経済的要因


中国における高等教育の国際化の第一の要因は、改革開放政策である。中国はその五千年の歴史の中で、開国と鎖国を繰り返してきた。しかし、?小平をはじめとする近年の国家リーダーによる改革開放路線は、かつてないほど本格的かつ組織的に進められている。硬直化した計画経済から社会主義市場経済へ移行したのに並行して、中国の扉はかつてないほど大きく開放されてきている。現在では、国際社会からの孤立状態で国家の繁栄はない、という認識が国内においても一般的である。この認識は過去の孤立経験から得られたものであり、この考えに基づいて、中国政府はさらに改革開放政策を推し進めているのである。

中国における高等教育の国際化を牽引するもう一つの要因は、中国の改革開放経済の進展とあいまって情報・コミュニケーション技術が驚異的に発展したことである。驚くほどの低コストで知識・情報を世界中と瞬時にやりとりできるようになったことで、中国社会は大きく変化した。この情報・コミュニケーション分野における技術革命は、「ニュー・ワールド・エコノミー」、即ち知識基盤経済を生み出した。この経済システムにおいては、新たな情報や知識の創出・普及・適用が経済発展の最大の要因となっている。さらに、この知識基盤経済は本質的に国際性を持っており、資本・投資・生産・経営・市場・労働・情報・技術などが、国境を超えて構成されている。このような状況が、経済のグローバル化をもたらしたといえるだろう。

知識基盤経済時代における大学は、知的機関として、国の経済成長や社会発展にとってますます重要な役割を担うようになってきている。知識基盤経済における大学の役割は、教育・研究・知的貢献の3つの分野に分けることが出来る。大学における教育とは、学生の能力育成のためだけになされるものではなく、知識や情報を伝え、広める場でもある。また、大学における研究活動とは、新しい知識の創出と情報処理であり、大学による知的貢献とは、新しい知識や情報の普及と応用である。つまり、知識基盤社会における大学とは、教育・研究および実社会への知的貢献を通じて、情報や知識の創出・加工・普及・応用を総合的に行うべき機関なのである。

これらを通して経済発展と国際理解を促進することが、現在大学に求められている役割である。知識基盤経済が元来国際的な要素を備えており、また世界経済がますますグローバル化されていく中、様々な国の大学出身で多種多様な背景を持つ人々と交流する機会は増える一方である。中国における高等教育の国際化は、このような要素が生んだ産物といえる。

2. 中国における高等教育の国際化の主な側面


中国における高等教育の国際化は、以下のような側面でその進展が著しい。

(A)1970年後半から1980年初めにかけて、中国から100万人以上の学生や研究者が、アメリカ合衆国や日本、ヨーロッパ諸国、南米や東南アジア、オーストラリア、ニュージーランドなどに渡って勉強し、そのうちの30万人が帰国した。彼らは、知識や技術だけではなく、国際レベルで物事を考えるということ、また、国際理解とはどういうことかということを、留学生活での実体験を通じて学んできている。急速な経済成長と社会の変化に対応して各種の学術プログラムが立ち上げられているが、留学経験者の多くは、それらのプログラムにおいて現在中心的な役割を担っている。また、彼らが留学生活を通して培った海外ネットワークは、中国の高等教育の国際化に一役買っている。現在、在外中国人学生および研究者は70万人を超え、彼らは中国と諸外国を結ぶ架け橋の役割を果たしている。

(B)中国の高等教育機関は、多くの留学生を受け入れている。現在、178カ国から集まった13万人の学生が、31の省級行政区(22省4直轄市5民族自治区)にある420もの大学で勉強している。留学生のキャンパスにおける存在も、大学の国際化に一役買っている。

(C)海外の高等教育機関の中国参入が認可されたことも、重要な側面である。2003年、中国政府は、外国の教育機関が中国で運営する場合は、中国の教育機関と協力して事業を進めなければならない、との方針を打ち出した。これに対する申請審査は2005年に終了し、現在、英国ノッティンガム大学(Nottingham University)や中国・ドイツ両政府の共同による同済大学(Tongji University)中独技術学院などが開設されている。このような海外からの教育機関は、高等教育における新たなマネージメント手法を提示している。

(D)中国の高等教育機関の国際的な活動は年々増えている。海外の大学との、学生・教員の交換プログラムや共同学位プログラムも増加している。国際関係学における早稲田大学および東京大学との共同学位プログラムなどが、その一例である。また、イェール大学とは、生命科学・ナノサイエンス・ナノテクノロジーなどの分野で国際共同研究所を開設している。また、インターネットを通じた情報共有システムの構築や図書館サービス、国際会議の開催などがある。


3.中国における高等教育の国際化とSYLFFプログラムの役割


中国の高等教育が国際的なアカデミック・コミュニティーに参加していく過程において、SYLFFプログラムは重要な役割を担っている。まず、SYLFFプログラムは、世界規模で活躍する将来のリーダー育成を目的とした国際奨学金プログラムであることから、プログラムの遂行そのものが国際化のプロセスといえる。同プログラムは、参加する学生に対し、学術的によりハイレベルな目標を設定すると同時に、国際理解を促すインセンティブになっている。
また、中国のSYLFF10大学はSYLFFを通して、同じくSYLFF基金校である44カ国59大学と様々な形で連携し、国際的なネットワークを形成している。更に、中国のSYLFFフェロー達は、SYLFFフェロー協議会や各SYLFF校におけるアソシエーション(フェローの同窓会)を通し、世界のSYLFFフェローのネットワークと繋がっている。このネットワークを通じて、フェローたちは様々な国際会議やセミナー、その他の関連事業に参加することができるのである。最近始まったSYLFFネットワーク・データベースも、世界各地に散らばるフェロー同士がコミュニケーションを取るのに欠かせない。このように、中国の高等教育機関がSYLFFプログラムに参加したことによって得てきた恩恵は計り知れない。SYLFFプログラムは、SYLFF校・SYLFFフェロー間の相互理解を通じた協力関係の推進に大きく貢献しているのである。SYLFFプログラムの今後の発展を願ってやまない。