タイプ
レポート
日付
2007/11/1

奨学事業レポート「チェンマイ大学によるメコン川流域広域経済圏に着目した教育支援:ラオス国立大学との共同修士学位プログラム」

奨学事業部では、世界45カ国に広がる69ものSYLFF校を定期的に訪問しています。先日、当事業部プログラム・オフィサーが、1990年に22番目の基金が設置されたSYLFF校、タイのチェンマイ大学を訪問しました。今週の奨学事業レポートでは、その際に紹介された、メコン川流域広域経済圏を視野に据えた教育分野における同校のイニシアチブである、ラオス国立大学との共同修士学位プログラム「Master of Arts in International Development Studies」をご紹介します。このプログラムは、メコン川流域におけるグローバル化の進展と、それに対する各国の経済格差に着目し、同地域最貧国であるラオスにおける人材育成に焦点を当てている点が特徴的です。



2008年10月より、タイ・チェンマイ大学(Chiang Mai University)のイニシアチブにより、ラオス国立大学(National University of Laos)との共同修士学位プログラム「Master of Arts in International Development Studies」がスタートする。本プログラムは、メコン川流域における経済開発に伴う政治的・社会的変化に呼応して立案されたプログラムで、同地域におけるグローバル市場経済の進展にはどのような利点や弊害が生じるのかを、学問的に研究することを主目的としている。同時に、同地域最貧国であるラオスの高等教育の強化と人材育成も強く意識されている。そのため、ジョイント先の大学をラオス国立大学とし、チェンマイ大学の持つノウハウを伝授すると同時に、対象をメコン川流域諸国出身者とする中でも特に、ラオス出身者にターゲットを当てることとしている。

■プログラム設立の背景:メコン川流域の経済発展と問題点

チベット高原の源流から8カ国を通ってベトナムに抜ける国際主要河川であるメコン川の流域は、グローバル市場経済の浸透によって劇的に変化し、投資、物資の流通、技術や情報の伝達が国境を越えて頻繁に行なわれるようになっている。貿易の自由化は、「地域発展」の名のもと、住民の生活水準を向上させ、より公平な所得分配を可能にすると考えられてきたが、現実には、資源搾取や暮らしの変化をもたらし、発展の恩恵も都市部にしか行き渡っていないという状況がある。

2億5千人の人口をかかえ、アジア地域の最も重要な市場の一つと考えられてきた同地域では、アジア開発銀行(Asian Development Bank)が主導する大メコン地域経済協力プログラム(Great Mekong Subregion (GMS) Program)によって域内の連携が進み、国境を越えた物資のやり取りや投資が促進された。GMSによって社会基盤整備も進められ、流通のための国際道路網“経済回廊”や、水力発電ダムおよび各地の工業部門をつなぐ電力の配管網も整いつつある。新しく建設された道路によって、地元住民や少数民族がこれまでアクセスできなかった市場にもアクセスできるようになり、域内の移動がますます活発になっている。

一方、かつては地元住民の生計を支えたメコン川流域の豊かな天然資源が、今や国内外の企業の思惑のままに利用されているという批判があり、メコン川のような国際河川では、上流、下流の流域住民の間で河川管理を巡る論争が絶えない。

このような現状や諸問題を広く深く理解しようとするとき、社会学、人類学、政治学、地理学、歴史学、経済学、法学など様々な視点からの分析が欠かせない。本修士学位プログラムは、開発分野における各国の政策や重要アクターを念頭に置きながら、地域レベルと国際レベルで行なわれている開発の関係性を検討することを目指している。政治、社会、文化、そして環境の変動について、民族やジェンダーにまつわる諸問題とからめながら総合的に検討するとともに、グローバルおよび地域レベルの開発の意味や影響を徹底的に分析し研究することも本プログラムの狙いのひとつである。

■プログラムの内容

プログラムは学際的であり、使用言語は英語である。プログラム全体は18ヶ月間(3学期)で構成されており、初めの1学期をチェンマイ大学で、残りの2学期をラオス国立大学で学ぶ。本プログラムは、中堅NGO職員や公務員、ジャーナリストなど、将来国際開発分野において第一線での活躍が期待されている若手実力者や、引き続き後期博士課程での研究を希望する若手研究者の育成を目的としている。

机上だけで知識を身に付けるのではなく、「開発」という名のもと現実社会では何が起きているのか、また地域政府はどのように対応しているのか等、実際にコミュニティへ出向いて観察や分析を行う。このような生きた現状と学問的な知識を結びつけることが、本プログラムの特徴である。

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各SYLFF校における特徴的な活動は、今後の奨学事業レポートでも随時ご紹介していきます。

(文責:井野麻美、星野文子)