東京財団 外交史ブックレビュー

東京財団 外交史ブックレビューvol.026

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2010.08.04
◆◇ 東京財団 外交史ブックレビュー Vol.026 ◇◆
      http://www.tkfd.or.jp/research/project.php?id=19
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1. ブックレビュー

■『中国返還後の香港―「小さな冷戦」と一国二制度の展開』倉田徹著
  (名古屋大学出版会、2009年)
評者:前田宏子(PHP研究所国際戦略研究センター主任研究員)

■『近代日本の鉄道構想』老川慶喜著(日本経済評論社、2008年)
   評者:稲吉晃(東京大学客員研究員)

2. 新刊図書・雑誌記事・書評紹介(2010年5月)

3. 編集後記

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1. ブックレビュー

このコーナーでは、日本政治外交に関連する最近の優れた書籍・論文等を、気
鋭の研究者が紹介します。特に外交の実務に携わる方々は必須のものばかりで
す。是非お読みいただければと思います。

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■『中国返還後の香港―「小さな冷戦」と一国二制度の展開』倉田徹著
  (名古屋大学出版会、2009年)
評者:前田宏子(PHP研究所国際戦略研究センター主任研究員)

本書は、1997年に中国に返還された香港が、中国と良好な関係を維持し安定を
保ってきた原因について考察するものである。香港返還前は、香港の将来に対
して悲観的な見方が世界に広がっていた。返還後の香港と中央政府の間には摩
擦が生じ、中央政府は香港政治に干渉し、「一国二制度」は形骸化するのでは
ないかと危惧されたのである。また、強い「香港人」意識を有する香港市民ら
の中国共産党に対する不信感と反感も、香港の統治を不安定化する要因になる
と考えられていた。

だが実際には大方の予想を裏切り、香港が中国に返還された後、中港関係は全
体として良好に推移し、香港市民の中央政府に対する態度も顕著に好転した。
本書は、その理由と過程について、中港関係を規定する制度や返還以来の政治
過程、政府間・社会生活・個人の心理レベルにおける変化を分析しながら、解
明していくものである。

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  http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=611

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■『近代日本の鉄道構想』老川慶喜著(日本経済評論社、2008年)
   評者:稲吉晃(東京大学客員研究員)

鉄道は、近代を代表する交通インフラである。貨物を大量に輸送できるだけで
なく、輸送の高速化・定時性・コスト低下などをもたらした点で、鉄道は経済
に大きなインパクトを与え、市場規模の拡大をもたらした。鉄道がもたらすイ
ンパクトは、決して経済的なものにとどまるものではなく、人々の空間・時間
認識にまで影響を与える。鉄道敷設は、国民国家の形成や対外進出、都市文化
と郊外生活の生成、地域社会の振興など、さまざまな場面で近代世界を彩って
おり、経済史はもちろんのこと、政治史・外交史・社会史・思想史などさまざ
まな分野で研究対象とされている。

ところが、以上のような豊富な研究の蓄積がありながら、鉄道敷設を通じて全
体としてどのようなネットワークを構築しようとしていたのか、あるいはネッ
トワーク構築のためにはどのような方法がふさわしいのか、という鉄道敷設を
めぐる構想を正面から取り上げた研究は、意外と少ない。本書は、実証的な鉄
道史研究における大家である著者が、明治期の日本鉄道史のさまざまな局面で
現れる鉄道構想を整理し、一冊にまとめたものである。

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  http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=610
 
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2. 新刊図書・雑誌記事・書評紹介

2010年5月に刊行された政治外交関連の新刊図書・雑誌記事・書評のリストで
す。外交に関する情報収集や研究のデータベースとしてお役立てください。

 リストはこちら↓
  http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=620

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3. 編集後記

1997年の香港返還は、中国の前途を占う試金石として注目を集めましたが、い
つしか世の関心も薄れてしまったことに気づかされます。果たして「試金石」
の結果はいかなるものであったのか。実証的に深く掘り下げ、その答えを説得
的に示す今回の著作です。繁栄と安定確保への処方箋、共産党支配の維持と政
治改革。そこには21世紀最大の関心事となった「中国の行方」について、崩壊
論や脅威論の喧噪からは見えない着実な手がかりがあります。本ブックレビュ
ーにて、まずは議論のエッセンスをご一読いただければと思います。(宮城)

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日本外交に関心を持つ方々へ
北岡伸一(東京財団上席研究員、東京大学教授)

清沢洌は『外交史』(1940年)の序文に、「外交史に関する知識が、今日ほど
必要とされてゐる時はない。この知識を基礎とせずして造りあげられたる外交
政策と、外交輿論は、根のない花である」と書いています。

これは、時代を超えた真理だと思います。現代の日本は、当時ほど切迫した状
況にあるわけではありませんし、当時とは比較にならないほどの言論の自由が
あり、情報収集も容易です。にもかかわらず、現代の外交政策や外交世論が、
正確な外交史の知識の上に築かれているとは、決して言えないのではないでし
ょうか。

その一方で、戦後外交に関する研究は着実に発展しつつあります。外交文書の
公開や情報公開制度の利用等によって、新しい史料が利用可能となり、アメリ
カ等外国の文書に主として依拠した研究から、より総合的複眼的な視点が提示
されつつあります。それらの研究は、しかし、まだ専門研究者の間で共有され
るだけで、広い外交論議の基礎として十分利用されてはいないというのが現状
です。

このニューズレターは、そうしたギャップを埋めることを目指しています。す
なわち、戦後日本外交史およびこれに密接に関連する分野(日米関係史、日中
関係史、その他の国際政治史、日本政治史、地域研究など)において最近登場
した優れた研究を、対外政策に関心を持つ幅広い層、いわゆるforeign policy
constituency に紹介しようとするものです。日本外交を「根のある花」にす
るために、ささやかな貢献ができれば幸いです。

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『外交史ブックレビュー』第26号(2010年8月4日発行)

発行元:東京財団 政治外交検証研究会(リーダー:北岡伸一上席研究員)
    〒107-0052 港区赤坂1-2-2 日本財団ビル3階
    http://www.tkfd.or.jp/research/project.php?id=19

編集責任者:五百旗頭薫(東京大学社会科学研究所准教授)
      宮城大蔵(上智大学外国語学部准教授)

編集担当:林大輔(慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程)
     松下薫(東京財団広報渉外担当オフィサー)

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