東京財団 外交史ブックレビュー

東京財団 外交史ブックレビューvol.032

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2011.07.14
◆◇ 東京財団 外交史ブックレビュー Vol.032 ◇◆
      http://www.tkfd.or.jp/research/project.php?id=19
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
───────────────────────────────────
▼ ブックレビュー

日本政治外交に関連する最近の優れた書籍・論文等を、気鋭の研究者が紹介し
ます。外交の実務に携わる方々には必須のものばかりです。是非お読みくださ
い。

……………………………………………………………………………………………

■┓『日本再軍備への道―1945~1954年』柴山太著
┗┛ (ミネルヴァ書房、2010年)
    評者:吉田真吾(日本学術振興会特別研究員)

1945年から1954年にかけて行われた日本の再軍備の起源と展開を叙述する本書
は、序章・終章と本論10章の全12章からなり、二段組みで750頁以上に及ぶ、
非常に重厚な研究である。これだけの厚みを生んでいるのは、本書が対象とす
るアクターの多様さである。従来、日本再軍備は、日本政府(特に吉田首相や
外務省)の政策過程、米国政府の政策過程、そして両国間の外交交渉を中心に
描かれてきた。こうした二国間外交史に対し、本書は、より多くのアクターを
設定することで、「西側防衛・治安体制」(761頁)の一環としての日本再軍
備に関する包括的分析を試みる。それを可能にしているのは、著者の飽くなき
までの史料への情熱であろう。本書では、近年主流となっているマルチ・アー
カイブの手法に基づき、日米英の史料をふんだんに用いている。日本と英国の
史料も充実しているが、本書の真骨頂は、JCS(およびその内部機構)、陸
軍、極東軍などの米軍の史料の質と量であろう。これほどまでに米軍部の史料
を徹底的に使用した日本再軍備に関する研究は、管見の限り皆無である。この
ことだけでも迫力が垣間見えてくるが、本書は内容的にも日本再軍備に関する
第一級の歴史研究である。

 続きはこちら↓
 http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=785

……………………………………………………………………………………………

■┓『中国「反日」の源流』岡本隆司著(講談社メチエ、2011年)
┗┛  評者:五百旗頭薫(東京大学社会科学研究所准教授)

本書は冒頭に、中国における「反日」の歴史的源流を解説すると宣言してい
る。読者は裏切られない。しかしはるか17世紀の明清交替期に遡り、日中にお
ける国家と社会の関係を比較したスケールの大きな叙述に引き込まれていく。

第一部「「近世」の日本と中国」では、中国の重要な特徴を国家と社会の隔絶
に求め、明清期の税財政の構造(14世紀元明交替の混乱で貨幣経済が機能しな
くなった北方を維持するために、南方の商業経済から乖離した現物主義による
徴税・財政を採用・継続したこと)と人口動態(都市化率の低さと、経済発展
・人口増大・食糧不足による移住)にその原因を見出している。

いわゆる「倭寇」も、現物主義を維持するための強引な貿易制限と、決済手段
としての銀に対する中国国内の需要との矛盾に起因するものであった。だがカ
テゴリカルに「倭寇」と命名され、反日のプロトタイプになったという。社会
に対する疎遠さが、外界に対する疎遠さにつながっている、というのが本書の
重要な論点 である。

これに対して日本では、統治者が被治者をきめこまかく収奪・保護する傾向が
強く、「クローズド・システム」に基づく勤勉革命が幕末以前に達成されたこ
とを、確認している。

第二部「「近代」の幕開け」では、中国において政府が提供しない秩序を提供
した郷団や秘密結社を主軸に、近代初頭の社会秩序を描いている。秘密結社が
大規模化した白蓮教徒の反乱や太平天国の乱と、それらを鎮圧した団練は、対
決しつつも、こうした団体としての存在性格を共有していた。後者で活躍した
李鴻章らに よる督撫重権が清朝の政治の中核を担っていくが、それは既存の
社会秩序が肥大化したものであり、社会秩序を変革するモメントには限界があ
った。洋務運動 が、中体西洋といった言葉から想像されるような便宜主義的
なものではなく、抜本的な改革の必要性にかなり気付いたものであっただけ
に、この構造的制約はい たいたしい。李鴻章は不吉かつ鋭い予感を抱きなが
ら、海軍による示威と外交技術の練磨に望みを託していく。

第三部「近代日本の相剋」では、この外交面に即して、日清関係の展開をあと
づけている。

 続きはこちら↓
 http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=786

───────────────────────────────────
▼ 新刊・書評紹介

2011年5月に刊行された政治外交関連の新刊図書・雑誌記事・書評のリストで
す。外交に関する情報収集や研究のデータベースとしてお役立てください。

 5月の新刊図書・記事・書評リストはこちら↓
 http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=784
 
───────────────────────────────────
▼ 編集後記

良書とは、良書それ自体が大きな価値をもつと同時に、それをめぐって真摯な
議論と検証を行うことによって、よりいっそう大きな価値が生まれるのだろう
と思います。今回のニューズレターでは、『日本再軍備への道』と『中国「反
日」の源流』という、二冊の優れた歴史家の手による良書に対して、それぞれ
若手・中堅の評者によって真剣な論評を加えています。「真剣勝負」が生み出
す独特な緊張感と清廉さが見られ、ブック・レビューを読むだけでも学問の最
先端に触れられたような気がしました。

そのような良書を見つけ出し、光を当てて、それを第一線の研究者に若手・中
堅研究者によってレビューを行うという知的な営為は、奔流のように書物が溢
れる時代において、これまで以上に大きな意味を持つような気がします。節電
によって予定よりも長い休暇を得られるようになった方々もおられるかもしれ
ません。知的な「充電」をするためにも、暑い夏の季節に本格的な読書を楽し
んでみてはいかがでしょうか。(細谷)

───────────────────────────────────
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

日本外交に関心を持つ方々へ
北岡伸一(東京財団上席研究員、東京大学教授)

清沢洌は『外交史』(1940年)の序文に、「外交史に関する知識が、今日ほど
必要とされてゐる時はない。この知識を基礎とせずして造りあげられたる外交
政策と、外交輿論は、根のない花である」と書いています。

これは、時代を超えた真理だと思います。現代の日本は、当時ほど切迫した状
況にあるわけではありませんし、当時とは比較にならないほどの言論の自由が
あり、情報収集も容易です。にもかかわらず、現代の外交政策や外交世論が、
正確な外交史の知識の上に築かれているとは、決して言えないのではないでし
ょうか。

その一方で、戦後外交に関する研究は着実に発展しつつあります。外交文書の
公開や情報公開制度の利用等によって、新しい史料が利用可能となり、アメリ
カ等外国の文書に主として依拠した研究から、より総合的複眼的な視点が提示
されつつあります。それらの研究は、しかし、まだ専門研究者の間で共有され
るだけで、広い外交論議の基礎として十分利用されてはいないというのが現状
です。

このニューズレターは、そうしたギャップを埋めることを目指しています。す
なわち、戦後日本外交史およびこれに密接に関連する分野(日米関係史、日中
関係史、その他の国際政治史、日本政治史、地域研究など)において最近登場
した優れた研究を、対外政策に関心を持つ幅広い層、いわゆるforeign policy
constituency に紹介しようとするものです。日本外交を「根のある花」にす
るために、ささやかな貢献ができれば幸いです。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
───────────────────────────────────
ブックレビューへのご意見・ご感想は info@tkfd.or.jp までお寄せください。

▼ バックナンバー閲覧、配信登録はこちら
 http://www.tkfd.or.jp/ml/

▼ 配信停止はこちら
 

───────────────────────────────────
**********************************************************************
『外交史ブックレビュー』第32号(2011年7月14日発行)

発行元:東京財団 政治外交検証研究会(リーダー:北岡伸一上席研究員)
    〒107-0052 港区赤坂1-2-2 日本財団ビル3階
    http://www.tkfd.or.jp/research/project.php?id=19

編集責任者:五百旗頭薫(東京大学社会科学研究所准教授)
      細谷雄一(慶應義塾大学法学部教授)
      宮城大蔵(上智大学外国語学部准教授)

編集担当:林大輔(慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程)
     松下薫(東京財団広報渉外担当オフィサー)

**********************************************************************