東京財団 外交史ブックレビュー

東京財団 外交史ブックレビューvol.042

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2012.10.22
     ◆◇ 東京財団 外交史ブックレビュー Vol.042 ◇◆
     http://www.tkfd.or.jp/research/project.php?id=19
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日本政治外交に関連する最近の優れた書籍・論文等を、気鋭の研究者が紹介し
ます。外交の実務に携わる方々には必須のものばかりです。是非お読みくださ
い。

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■┓『「持たざる国」の資源論 持続可能な国土をめぐるもう一つの知』
┗┛  佐藤仁著(東京大学出版会、2011年)

   評者:村井哲也(明治大学法学部兼任講師)


近年における新興国の経済発展による資源高騰、これに伴う持続可能性と環境
問題のいっそうの深刻化、2011年3月の東日本大震災による原発事故とエネル
ギー問題の発生は、改めて我々に様々な問い直しを迫っている。それらは、
「原料」の確保といった単純な危機意識だけに止まるものではない。戦後日本
の政治社会、そのものに対する問い直しを迫っているのである。

東日本大震災の直後に出版となった本書は、決して単純でない資源概念の問い
直しの歴史を丹念に辿っている。歴史は、直接は役に立たない。だが、過去に
試みられながら忘れ去られた様々な可能性には、新たな政策やアイディアの水
脈がある。この目的意識の下、同時代に日本人が求めた国の方向性や国土の姿
のみならず、それを下支えした「知のあり方」が浮き彫りにされていく。

本書は、資源を「原料」でなく自然の一部分とみなし、「資源論」を社会生活
の長期向上利用を議論する場と位置づける。日本の「資源論」は、内発的な問
題意識からの実践志向の知であり、地理学のみならず政治学にも広がる学際領
域のはしりであり、それにもかかわらず専門分野として忘れ去られた。「持た
ざる国」のラベルづけで資源を「原料」というモノに還元し、その不足の海外
確保の優先が、常に日本の「主流」だったからである。

しかし現在、東北被災地での「森は海の恋人」運動や「コモンズ論」のよう
に、資源を可能性と捉えることで現場での有機的な連関を回復し、生活者の
視点からつなぎ直す学際的な試みが始まっている。この視点からの「資源論」
は、いまや世界的な広がりを見せつつある。

ただし、こうした「草の根(ローカル)」の視点に偏ると、政府の政策という
側面が見落とされる。ゆえに本書は、これをあえて脇に置き、政府内部の「上
からの視点」を再検討する。これには、著者による問題関心の転換が影響して
いる。もともとタイ農村における開発と環境の専門家である著者は、現地のフ
ィールドワークを重ねるうち、一括りな政府批判だけでは解決にならないこと
を認識した。政府内部にも様々な立場があり、「上からの視点」=「悪」では
ない。国家の統治や権力にも目配りしなければ、有機的な「資源論」を展開で
きない。

日本の近現代史に目を転じた著者は、むしろ「主流」に建設的な批判を投げか
けたのは、政府と近い関係にあった「資源論」の担い手たちであったことを発
見する。確かに有機的な「資源論」は、1970年代以降に「原料」確保へ矮小化
された。だが、それ以前の批判者に注目して「主流」を逆照射することで、
「資源論」は1つの思想であり、社会変革の構想であり、様々な問い直しへの
水脈であることを、本書は明らかにしようとしている。


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 http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=1045
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           日本外交に関心を持つ方々へ

          北岡伸一(東京財団上席研究員)

清沢洌は『外交史』(1940年)の序文に、「外交史に関する知識が、今日ほど
必要とされてゐる時はない。この知識を基礎とせずして造りあげられたる外交
政策と、外交輿論は、根のない花である」と書いています。

これは、時代を超えた真理だと思います。現代の日本は、当時ほど切迫した状
況にあるわけではありませんし、当時とは比較にならないほどの言論の自由が
あり、情報収集も容易です。にもかかわらず、現代の外交政策や外交世論が、
正確な外交史の知識の上に築かれているとは、決して言えないのではないでし
ょうか。

その一方で、戦後外交に関する研究は着実に発展しつつあります。外交文書の
公開や情報公開制度の利用等によって、新しい史料が利用可能となり、アメリ
カ等外国の文書に主として依拠した研究から、より総合的複眼的な視点が提示
されつつあります。それらの研究は、しかし、まだ専門研究者の間で共有され
るだけで、広い外交論議の基礎として十分利用されてはいないというのが現状
です。

このニューズレターは、そうしたギャップを埋めることを目指しています。す
なわち、戦後日本外交史およびこれに密接に関連する分野(日米関係史、日中
関係史、その他の国際政治史、日本政治史、地域研究など)において最近登場
した優れた研究を、対外政策に関心を持つ幅広い層、いわゆるforeign policy
constituency に紹介しようとするものです。日本外交を「根のある花」にす
るために、ささやかな貢献ができれば幸いです。

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『外交史ブックレビュー』第42号(2012年10月22日発行)

発行元:東京財団 政治外交検証研究会(リーダー:北岡伸一上席研究員)
    〒107-0052 港区赤坂1-2-2 日本財団ビル3階
    http://www.tkfd.or.jp/research/project.php?id=19

編集責任者:五百旗頭薫(東京大学社会科学研究所准教授)
      細谷雄一(慶應義塾大学法学部教授)
      宮城大蔵(上智大学外国語学部准教授)

編集担当:林大輔(慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程)
     松下薫(東京財団広報渉外担当オフィサー)

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