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第百回 印パ横断鉄道テロと両国の情勢 2007年02月
深夜の列車テロ 2月18日深夜、日付の変わる直前、パキスタンとの国境ワガを目指していたデリー発の急行「友情号(サムジハアータ)」が爆破された。この列車は、国境ワガでパキスタン車両に交替、ラホールが終着の横断急行だった。デリーを出発して1 0 0キロ足らずのハリヤナ州パニパット近くで事件は起こった。
2車両に爆弾が仕掛けられ大破、犠牲者は時間の経過とともに増え続け、20日深夜、68名を数えた。重症、負傷者は2車両のほぼ全員ということだ。21日時点で、依然、不明者が20名近くあり、死者は増えることになるだろう。
19日の早朝から各テレビ局は、現地に記者、カメラを配備、刻一刻の中継がおこなわれた。 正午過ぎには、マンモーハン・シン首相は官邸に各担当大臣を集め、状況把握と対策を指示、その後「まったく遺憾な、非人道的テロでありインド政府は総力を結集して犯人逮捕にあたる」と声明した。迅速な対応だった。 夕刻には、政府からの死者への弔慰金、負傷者への見舞金が支払われるという報道もでた。
また、パキスタンからの報道では、折から来印することになっていたカスリ外相は、予定通り訪問する、と自ら表明した。昨年のムンバイ列車テロ以来、両国のピース・トーク、定期平和会談は中断していた。それが、ようやく再開されることになっていたのだ。その、まさに機先を削ぐような事件だったのである。
劇場型への演出 2月20日午前10時30分、ハリヤナ州とデリーの警察当局者による合同記者会見が開かれた。テレビ中継された会見は、ヒンディ語と英語でおこなわれ、異様な熱気が画面から伝わってきた。
警察は、電池式の発火装置の模型を作成、ガラス瓶の爆薬も実物大を提示した。さらに、容疑者2名の似顔絵を公開、捜査協力を求めた。実に速やかで、手回しがいい。 記者団からは、犯人像について、矢継ぎ早に質問が飛んだ。
カシミール分離主義者、ラシュカル・エ・タイバではないか。イスラムなのかヒンドゥなのか。カスリ訪印に反対するイスラム過激派、原理主義者ではないか。そして、遂には、犯人と目されるひとりが拘束されているというのは、ほんとうか、というものまででてきた。実は、噂として犯人検挙がでていたのだ。鉄道担当大臣も、この朝、記者の問いかけに、そのように聞いている、と答えていたのだ。
会見での警察は、こうした犯人像への質問には一切明確な言質を与えなかった。容疑者検挙についてもあいまいに、捜査中、との答えだけだった。
22日になると、各メディアはそれぞれ、2人拘束、容疑者5人逮捕、なかには7人というものまで現れた。
現場中継からはじまった今回の報道は、メディアにとっては格好の劇場型事件になった。対応する警察当局も、公開記者会見、爆弾サンプルや似顔絵の素早い提供など、メディアに乗った趣がある。当然、筋立ては犯人逮捕に向かう。しかし捜査は、そう簡単にいかないだろう。事件の背後は大きく、暗く深いのである。
テロは印パ接近への牽制か ムンバイ列車テロの時とは、警察の対応は大きく変わっている。昨年のあの事件では、当初からパキスタン領カシミール在住のイスラム、と決めつけていた。その後も、ムンバイ警察は、指紋まで検出していると発表していた。しかし結局、指紋は公開されなかった。こうした対応が、パキスタンとの定期協議を中断に追い込んでいたのだ。
今回の事件とムンバイの通勤列車テロの最大の違いは、攻撃された犠牲者たちだ。 ムンバイでは一等車が爆破されている。大都市のエリートがターゲットになってしまったのだ。今回は国境を越える夜行列車で、多くがインド訪問を終えたパキスタン人乗客だ。 きわめて素朴に考えて、帰国する同国人を狙うテロなど想定できない。
事件の翌朝、アメリカのメディアは、アフガニスタン、パキスタン国境地帯にあらたなテロ訓練キャンプが多数、復活していると報じている。アメリカのテロ情報当局者の見解である。
翌21日、『タイムス・オブ・インディア』は、アフガン治安警察約2 0 0名が、同地域のタリバン占有の町を攻撃、奪還した、と報じている。
アフガン北西部のこの地域は少数民族バローチの居住地帯で、鬱積している不満をタリバン受け入れに費やしていることは、周知の事実だった。ここに、昨年末頃からタリバン・キャンプが復活、というより補強されていたのは、インドでは盛んに囁かれていた。『タイムス・オブ・インディア』は、1月、アル・カイダナンバー2のザワヒリやオサマ・ビン・ラディンも訪問していたと報じていた。
このパキスタン国境地帯は、インドにも至近距離でカシミールへの山間道はフリーパス状態なのだ。インドが最も恐れているのは、カシミール分離派と国内のマオイスト、ナクサライトなどのゲリラ、テロ組織が合体作戦をとることだ。それが、アフガン・パキスタンの組織と協同したとき、国内問題を離れ、警察力では対応できなくなる。
印パ、ピース・トークの緊急性 パキスタンでは、最近、頻繁にテロが発生している。
ハリヤナの列車テロで騒然としていた21日、パキスタンのパンジャブ地方議会の女性厚生大臣ジル・エ・ヒューマ・ウシュマンが射殺されている。犯人は、直ちに逮捕された。テロの理由は、彼女が黒いイスラム・ベールをつけないからだと言い、女のくせにでしゃばっている、とも言っているという。ウシュマン大臣は、40代とおもわれる美人で、パキスタン元首相で女性政治家ブットを継ぐとパンジャブでは言われていた。
また、旬日以前にはカラチでハンバーガーショップ、マクドナルドが爆弾に襲われた。この店は筆者も知っていて、たびたびそのシートに座ったことがある。繁華街の平穏な地域だ。そのカラチでは16日、銃撃戦があり、自爆テロを計画していたとして3人が逮捕されている。
16日には、西部のクエッタで、裁判所法廷が自爆テロに見舞われ10数名が死亡している。裁判官も犠牲になっている。
約1か月の間に10回近いテロが頻発しているのが、現在のパキスタンなのである。 この一連のテロのいままでと違うところは、少数民族バローチが仕掛け、ターゲットにもなっていることと、女性大臣やハンバーガーショップを攻撃する原理主義的な色彩が見られることだ。
ムシャラフ政権は、反テロを最大課題のひとつとして掲げ、原発建設をはじめエネルギー問題と工業振興、米中バランス外交を推進している。 今年の見通しを含めて、3年間、G D P成長率4 〜 5パーセントが達成されることは約束されている。テロで国内が不安定化するのは最大の痛手になる。 インドと平和推進、治安の安定を協同することは緊急要件なのである。
Xデイ、アメリカのイラン爆撃 12日、アメリカのゲーツ国防長官がパキスタンを訪問している。この訪問の直後からパキスタン国内のテロは活発化した。ムシャラフ大統領は、アフガン国境の掃討作戦強化を約束するとともに、アフガン政権にも同様の強力な作戦遂行を要請した。
しかし、この訪問後、もうひとつのささやきが、インド、イギリスなどに流布しはじめた。アメリカによるイランへのピンポイント攻撃である。 アメリカのイラン・キャンペーンは核問題からイラク反政府テロへの支援問題に軸を移している。
イラクの多国籍軍は、つぎつぎと撤退を表明し、アフガン駐留N A T O軍も疲弊しきっている。起死回生はイラン攻撃、というシナリオはブッシュ政権内に浮上して当然だろう。3か月ほど前から噂になっていたこのアメリカの構想は、いよいよ現実性を帯びてきている。
インドの列車テロの背後には、南アジア、近東の深い闇があるのである。
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