タイプ
論考
日付
2009/8/6

第3回「自民党のマニフェストの問題」

自民党のマニフェストの問題


山下一仁 東京財団上席研究員


食料自給率向上の虚しさ

農業部分の自民党のマニフェストの冒頭には、「食料自給率50%を目指し、考えられるすべての対策を講じ、努力する農家の経営を支え、所得最大化を実現するとともに、農山漁村を活性化するための政策を着実に実施する。」とかかれている。

自民党農政は、2000年から食料自給率を40%から45%に引き上げるという目標を掲げてきた。しかし、2009年になっても、食料自給率は40%からあがる気配すらない。10年間1%の引き上げもできなかったのである。50%を目指すとしても、具体的にどのような政策をとろうとしているのか不明である。食料自給率を引き上げるのであれば、今までの政策のどこが間違っていたのか検証した上で、具体的な政策を掲げる必要があるのに、そのような道筋は提示されていない。

60年の79%から40%への自給率低下は食生活の洋風化のためであるというのが農林水産省の公式見解である。しかし、コメの需要が減少し、パン食など麦の需要が増加することは予想されていた。本来であれば、米価を下げてコメの生産を抑制し需要を拡大し、麦価を上げてムギの生産を増加させ需要を抑制させるという正しい経済政策が適用されるべきだった。

しかし、実際には、米価を大幅に引き上げて農家の所得を保障しようとしたため、コメ消費はさらに減少した。他方で、生産者価格が物価上昇程度の引き上げにとどまった国産麦は安楽死した。生産は60年の383万トンから75年には46万トンにまで減少した。その反面、60年代麦の消費者価格(製粉メーカーへの国の売渡価格)は引き下げられ、麦の消費量は60年の6百万トンから今では8.5百万トンに増加した。この結果、麦供給の9割はアメリカ、カナダ、豪州からの輸入麦となった。

その後73年の穀物危機を契機として国産麦の生産者価格を引き上げたため、麦生産は100万トンまで回復しているが、いったん品質の違う輸入麦に移った需要は戻らない。今では讃岐うどんの原料はオーストラリア産のASWという品種である。これ以上麦の生産を増やしても、今の品質では製粉メーカーは引き取らない。

国民1人1日あたり供給熱量(キロカロリー)の内訳は、60年のコメ1106、畜産物85、油脂105、小麦251に対し、2006年ではコメ595、畜産物394、油脂368、小麦320となっている。コメの独り負けである。

第1回「時計の針を30年戻した自民党農政」で書いたように、この2~3年の自民党農政の特徴は減反の強化による米価維持である。自民党農政は米価によって農家の所得を補償しようとする政策から脱却できないのである。これは、自民党農政がコンビを組んできた農協が高い米価の維持に固執するからである。高米価、減反政策は、食料自給率を低下させてきたばかりか、食料安全保障に不可欠な農地資源の減少を招いてきた。減反政策が実施された1970年まで一貫して増加してきた水田面積は、その後一貫して減少してきたのである。

「水田フル活用政策」の問題点

今回の補正予算での「水田フル活用政策」は自民党が選挙の目玉としようとしたものである。これはマニフェストにも掲げられている。しかし、これも減反による高い主食用米価を前提として、転作作物の一つとして安価な米粉用、飼料用のコメ生産を行わせるため、主食用米価との価格差を補填させようとする減反政策に他ならない。コメの価格は、国内の主食用15千円、輸出向け10千円、米粉用、飼料用4千円と想定される。米粉用、飼料用にコメを生産させようとすれば、農家に国内の主食用との価格差11千円を払わなければならない。しかし、輸出向けに生産させようとすれば5千円ですむ。同じ予算額を用意していれば、輸出向けに生産させたほうが倍以上の水田を維持できる。それがなぜできないのか。これを行えば、WTO上日本には禁止されている輸出補助金に該当するからである。

飼料用にコメを処理した例として、食管制度時代2度にわたり、総額3兆円をかけて実施した過剰米処理がある。今回の「水田フル活用政策」は第3次過剰米処理に他ならない。前二回はやむをえず在庫として積みあがったものをえさ用に処理したのだが、今回は進んでえさ用に過剰米を作ろうとしている。しかし、世界のどこにもコメを家畜のえさに使用している国はない。とうもろこしや小麦、大麦、大豆と異なり、主食用とえさ用の価格差が大きすぎるからである。世界の誰もが目を剥く財政資金の無駄使いである。

真に食料自給率を向上させようとするのであれば、減反政策を廃止して、価格を9.5千円程度に下げることである。価格低下分を主業農家に補填しても現在の減反補助金2000億円と同額ですむ。こうすれば、輸出も可能になる。主業農家への補填は輸出に際して交付されるものではないので、輸出補助金に該当しない。というより、このような政策はアメリカやEUがやってきたものである。食料自給率とは国内生産を国内消費で割ったものだから、輸出も含めて国内生産が増加すれば、食料自給率を向上する。

自民党もバラマキへ

全ての農家に一律に効果が及ぶ価格支持と異なり、直接支払いのメリットは問題となる対象に直接ターゲットを絞って政策を実施できることである。食料生産を担う主業農家に直接支払いの対象を限定すれば構造改革効果を発揮できる。しかし、対象を限定するという政策上の最大のメリットこそ、政治的には最大のデメリットとなる。

自民党が、民主党のバラマキ所得補償案に対抗しようとして、07年から実施した経営安定政策の対象農家を4ヘクタール以上に限定したことは評価できた。しかし、07年の参院選で民主党に負けた自民党は、対象農家については市町村長の特例を認め、「対象者を絞る」という構造改革路線から後退した。さらに、今回のマニフェストでは「これらの施策は、全ての意欲ある農家を支援対象とし、面積・年齢要件は撤廃する。」となった。意欲がないと自分で言う農家はいない。これは全農家を対象とすることに他ならない。

自民党は総額1兆302億円の農林水産予算を2009年度の補正予算に計上させた。その目玉事業として、零細農家や高齢農家が農地を安心して貸し出せるよう、自民党は農地を貸し出した農家に地代相当分15千円(10a当たり)を交付するという約3千億円の農地集積加速化事業を盛り込んだ。これも今回のマニフェストに盛り込まれている。しかし、現在農地が主業農家に集まらないのは、零細農家や高齢農家が農地を出そうとしないからではない。農地はどんどん出てきている。米価が下がって主業農家の地代負担能力がないから、主業農家が農地を引き取れなく、農地が間に落ちて耕作放棄されているのである。農地を出している零細農家や高齢農家に農地を出すために助成しても、すでに出そうとした農地に無駄なカネが流れるだけである。主業農家に助成しない限り、農地は流動化・集積しない。これは無駄な事業であるばかりか、自民党が相変わらず、零細兼業農家を向いていることを示している。