タイプ
論考
プロジェクト
日付
2010/10/13

現代アメリカ・プロジェクトから『オバマ政治を採点する』(日本評論社)を刊行

現代アメリカ・プロジェクトから「オバマ政治を採点する」(日本評論社)を刊行



本書は、「オバマ大統領を支える高官たち―政権移行と政治任用の研究」(日本評論社、2009年)に続く現代アメリカ・プロジェクトが刊行する書籍第2弾である。

このプロジェクトは、日本にとって最も重要な国であるアメリカ社会を分析し、その成果をさまざまな形で発信することを目的とする。2007年度の開始当初から大統領選挙を研究の座標軸とする方針を立て、予備選挙の準備段階から本選に至る全過程と新政権の成立、その後の政権・政策運営を追いながら、政治、経済、外交、安全保障、思想、宗教、環境といったアメリカ社会の諸側面を分析している。

当然のことながら、初めの1年半余りは大統領選挙の動静を中心に、キャンペーン活動や政策論争など、主として内政、外交の分析を行った。中でも足立正彦氏が中心となって行ってきた人事分析は、予備選挙の段階から本選に至るまでの候補者とその陣営の動きを、そしてオバマ政権成立後は政権の主要人事の動向を克明に追跡する画期的な事業だった。その成果の一部は「オバマ大統領を支える高官たち」にも含まれている。

今回の「オバマ政治を採点する」は、政権発足後1年半余を経た時点におけるオバマ政権の政権運営および政策の実績を評価するものである。オバマ大統領は、金融危機への対応や医療保険改革などで画期的な成果を上げたにもかかわらず、就任当初69%あった支持率が42%にまで低下した。11月の中間選挙で、民主党はかろうじて上院では過半数を維持できても、下院では過半数を失うのが確実な情勢である。

「チェンジ」を掲げて若い有権者の間に旋風を巻き起こしたオバマ候補が勝利し、初の黒人大統領の誕生にアメリカが湧き、世界が感動したのは記憶に新しい。核なき世界の追求を訴えたオバマ大統領がノ―ベル平和賞を受賞したのもちょうど1年前である。オバマの出現に新たな時代の幕開けを予感した者も少なくなかったのではないか。その若者たちはどこへ行ったのか。

さらに、保守とリベラルに分裂したアメリカを一つにすると約束したオバマ大統領だが、その「大きな政府」路線が保守派の批判にさらされている。とりわけ、草の根レベルで影響力を増しているティーパーティーはオバマ批判の急先鋒となっている。また、超党派の政治を約束したオバマ大統領にとって、依然として深刻な議会の党派対立は、大きな誤算であったといえる。

こうしたオバマ政治に対する批判の要因は何であろうか。この問いに的確に答えることが本書を企画した動機である。そのためには、オバマ大統領のこれまでの実績を客観的かつ総合的に評価してみる必要がある。大規模な景気刺激策にもかかわらず、一向に改善しない経済状況、特に雇用と所得の低迷が、オバマ批判の重要な要因であることは間違いない。しかし、他にもさまざまな要因が働いていると考えられる。

本書でオバマ大統領の政権運営と政策の実績の評価を担当したのは、久保文明上席研究員(東京大学教授)以下22名のプロジェクト・メンバーである。本書の特徴は、各テーマの定性的な評価に加えて、グレード(点数)を付けたところである。評価したテーマとそのグレード(点数)は次の通りである(ただしプラス、マイナスは省略)。

(B)政権運営     (B、A)対欧・対露外交   (C)経済・財政
(B)リーダーシップ  (B、C)中東政策      (C)通商政策
(C)主要スタッフ   (C)対中外交        (C)環境・エネルギー
(C)政治任用     (B)対北朝鮮外交      (B、C)貧困・福祉・犯罪
(B)議会対策     (B)日米関係        (A)医療保険制度改革
(C)広報・報道戦略  (B)インターネット・フリーダム
(A)電子政府     (B)核廃絶
(B)世論からの評価  (B)ミサイル防衛
(C)国防戦略

少々乱暴ではあるがこれらのグレードを単純に足し算してみると、A評価が2.5票、B評価が11.5票、C評価が8票となる。これをオバマ政治の総合的評価とみなせば、そのグレードは「Cに近いB」となる。この数字は当たらずとも遠からず、ある程度的を射た数字ではないだろうか。

ちなみにA評価を得たテーマは、電子政府、対露外交、医療保険制度改革の三つである。これらはすべて目に見える結果を出したテーマだ。残りのテーマについては、その執筆者が指摘するように、実績を評価するのにもう少し時間が必要というものが多い。

オバマ大統領の任期はまだ半ばにも達していないことを考えれば、今後、公約した政策の実績を積んでいくことは十分予想される。また、民主党が中間選挙で下院の過半数を失うとしても、そのこと自体はアメリカ政治でよく見られるパターンだ。したがって、今回の評価はあくまで暫定的なものと捉えるのが適切である。

これだけ広範なテーマを扱った本書の分析は、オバマ政権の背負っているさまざまな課題の現状を理解し、今後の展開を考える上で大変有益な材料だ。本書の価値をさらに高めるために、オバマ大統領が再選をめざす2012年の大統領選挙までに、もう一度オバマ政治の採点を行う必要がある。

片山正一(研究員兼政策プロデューサー)