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「現代アメリカ政治研究プロジェクト」第2回研究会報告

July 9, 2007

1 第二回研究会の目的

「現代アメリカ政治研究プロジェクト」の第二回研究会が、6月21日の午後7時から、東京財団A会議室(日本財団ビル三階)にて開催された。この第二回研究会では、研究メンバーの松岡泰氏(熊本県立大学)、西山隆行氏(甲南大学)両氏により、2008年大統領選挙に向けて現在予備選挙を戦っている、二人の有力候補についての報告が行われた。すなわち、民主党のバラク・オバマと共和党のルドルフ・ジュリアーニの二人である。

2008年大統領選予備選挙には、すでに多くの候補者が名乗りを上げ、それぞれ本選挙候補の座を勝ち取るために、活発な活動を展開している。とりわけ、今回の大統領選挙の特徴は、名乗りを上げた候補者の顔ぶれがきわめて多様であり、また個性的な人物ぞろいな点にあろう。それは、すでに指摘されているが、当選すれば「初の女性大統領」となるヒラリー・クリントン上院議員を筆頭に、いわゆる「初の・・・」という形容詞がつく候補者が多い点に、象徴される。

今回の報告で取り上げられた二人の候補者、オバマとジュリアーニも、それぞれきわめて個性的な存在である。民主党の候補者である上院議員のオバマは、当選すれば「初のアフリカ系大統領」となる。選挙経験や政治経験の点で乏しいものの、清新なイメージで急速に注目を集め、ヒラリー・クリントンと並ぶ有力候補として浮上している。他方で共和党候補者のジュリアーニは、当選すれば「初のイタリア系大統領」となる。ニューヨークという大都市で市長を務め、その行政手腕は高く評価されてきた一方、ワンマンとの批判もあり、また宗教保守派の影響力の強い共和党の中でも、社会文化的には「リベラル」と称されている。

第二回研究会の目的は、この民主、共和両党の有力候補二人の政治的な経歴、それぞれの政党内での政治的立場、その政治的戦略、今後の予備選挙を戦う上での展望、などの点について考察を行い、それを通じて、2008年大統領選挙がいかなる性格をもっているのか、選挙は今後どのように展開していくのか、そして民主、共和両党が選挙を戦う上で直面している課題は何か、といった点を明らかにすることにある。

2 第一報告 松岡泰氏「人種問題と選挙戦術―民主党の大統領予備選挙を中心に」

はじめに、松岡泰氏(熊本県立大学)により、「人種問題と選挙戦術―民主党の大統領予備選挙を中心に」と題された報告が行われた。報告は、オバマ候補の戦いを中心に、現代アメリカにおける人種問題と選挙戦術との関係について、明らかにしようとするものだった。

基本的に、共和党が白人層に支えられた政党であるのに対して、民主党は様々なマイノリティを支持基盤としている。とりわけ黒人層は、その大半が民主党の支持者で占められている。しかし、人種に絡めた選挙戦術を積極的に行うのはむしろ共和党であり、古くは南部白人層の支持を得るための「南部戦略」、最近ではヒスパニック層の支持を得るために、彼らの宗教心に訴える戦略、などをとってきた。一般的に、黒人の候補者にとって、白人が多く居住する選挙区で当選することは、困難である。また1992年以降、共和党の選挙戦略のひとつとして導入された「マイノリティ多数派選挙区」により、黒人は特定の選挙区に集中するようになったため、黒人候補者は主にこうした選挙区でしか当選できなくなった。同時に、その必要性自体が低下したこともあり、黒人候補者が白人を意識した選挙戦術を行うことも少なくなった。1984年に大統領選挙に立候補した黒人候補者であるジェシー・ジャクソンも、ブラック・ナショナリズムを背景としており、黒人層からは多くの支持を集めたが、白人層からはほとんど支持を得られなかった。

では、今回大統領選挙に出馬しているバラク・オバマは、どうであろうか。彼は、1961年に、ケニヤからの黒人留学生の父親と、カンザス州育ちの白人の母親のあいだの子供として生まれた。彼自身、以前は、自身が黒人であるとの意識は、希薄だったといわれる。その後1997年には、イリノイ州議会の上院議員となり、2004年の連邦議会選挙において、上院議員として初当選を果たした。松岡氏は、今後オバマが大統領選挙を戦う上でのポイントとして、以下の三点を指摘している。第一は、選挙をこれまで二回しか経験していない点、また、これらの選挙でもかなり幸運に恵まれたかたちで当選を果たした点である。こうした選挙経験の乏しさは、今後彼が選挙を戦って行く上で、影響を及ぼす可能性がある。第二は、白人票をどう獲得するか、という点である。たとえば、ダグラス・ワイルダー・バージニア州知事は、黒人色をなるべく薄めるかたちで選挙戦を戦う戦術を取ったが、オバマはどうするのだろうか。第三は、黒人の有権者とヒスパニックの有権者との関係性である。従来までは、黒人とヒスパニックの間にはかなり程度住み分け関係が成立していた。しかし現在は、ヒスパニック系移民が急速に増加しており、従来までの関係は崩れている。ヒスパニックの増加により、黒人がその地域から締め出される状況を生じており、両者の関係はなかなかうまくいっていない。そのため、黒人とヒスパニックが連携して民主党を支持することは、以前よりも難しくなっているが、オバマはそれをやり遂げられるか。

最後に、民主党のもう一人の有力候補である、ヒラリー・クリントンにとって、オバマの台頭がどのような意味を持っているのか、という点についての言及がなされた。ヒラリー・クリントンは、これまで多くの黒人票を獲得してきた。しかし現在、世論調査などでは、黒人の間でのオバマの支持率が急激に上昇しており、ヒラリーの選挙戦術は見直しを迫られている。民主党候補者にとっては、予備選挙を勝ち残る上で黒人票が鍵を握っている点を考慮すれば、これはヒラリーにとってはかなりのマイナスといえる。また、オバマの出現によって、「スーパー・チューズディ」をどのように戦うかという点も、ヒラリーにとっては重要課題となっている。この「スーパー・チューズディ」とは、80年代後半に民主党の穏健派が、党内リベラル派に対抗して創設した制度である。具体的には、南部の州で一斉に予備選挙を行うことにより、民主党穏健派の大統領本選挙候補者選出に当たっての影響力を高めるとともに、北部で強い党内リベラル派の影響力を弱めようとしたものだった。しかし実際には、南部には黒人が多いため、この制度は、黒人候補者が出たときには、その候補に有利に働く傾向にある。すなわち、「スーパー・チューズディ」は、オバマに有利に働く可能性も高い。しかしヒラリーは、南部だけでなく他の地域でも一斉に予備選挙を行うことによって、こうした影響を緩和しようとしており、その意味ではかなり周到に選挙戦略を組み立てているといえる。

3 第二報告 西山隆行氏「ジュリアーニの経歴と大統領候補としての動向」

続いて、西山隆行氏(甲南大学)が、「ジュリアーニの経歴と大統領候補としての動向」と題された報告を行った。報告は、ジュリアーニの経歴やニューヨーク市長としての業績などを概観するとともに、その基本的な政治的立場について考察するものだった。

まず報告は、ジュリアーニの「大都市市長としての経歴は、大統領選挙に有利に働くか否か」という点についての検討からはじまった。一般に、近年の大統領選挙では、州知事出身者が有利な傾向にあるが、大都市市長としての経歴はどうだろうか。現時点では、ジュリアーニは、共和党の候補者のなかでも、きわめて有力とみられている。しかし西山氏によれば、大都市市長としての経歴は、選挙を戦う上でそれほど有利には働かない側面もあるという。アメリカには、都市と農村、都市政府と州政府との間に、大きな差異や対立が存在するからである。たとえば、財政負担の問題や、農業政策をめぐる対立が、これにあたる。また、多様性の強い都市では、市長は社会的争点についてリベラルな立場をとらざるをえないため、保守的な農村部との間に対立が生じる傾向にある。こうした点は、典型的な都市派であり、大都市で長い間市長を勤めてきたジュリアーニにとっては、マイナスに働きかねない。

次に、ジュリアーニの経歴とニューヨーク市長としての業績について、報告がなされた。ジュリアーニは、1944年に、ニューヨーク市に生まれた。1981年から1983年まで、レーガン政権下で司法次官に就任し、1983年から1989年にかけては、ニューヨーク州南部の地区検事を勤め、多くの有罪判決を勝ち取った。そしてその後、1994年から2002年にかけて、ニューヨーク市市長を務めることになる。ニューヨーク市は、民主党が強くリベラル派の強い地域であり、また市長の権限が極めて強い。彼はこうしたニューヨーク市において、強力な行政手腕を発揮する一方で、人脈の拡大や新しいアイディアの吸収に積極的に取り組んだ。

彼のニューヨーク市長としての業績は、犯罪対策、財政再建、減税、景気回復、社会福祉改革、児童福祉、テロ対策、など多岐にわたる。とりわけ、コンピューター管理技術や「割れ窓理論」に基づいた犯罪件数の大幅減、ワークフェア政策による福祉受給者の大幅削減、2001年同時多発テロ発生以前からのテロ対策への積極的取り組み、などは、特筆すべきである。また、国連設立50周年記念を目的に、同市で開催されたリンカーン・センターでの演奏会においては、アメリカ人と同じ価値を共有していない人間として、アラファトを追い出すといった事件もおこしている。しかし、州共和党との関係は、必ずしも良好なものではなかった。もともと共和党と自由党とのフュージョンから立候補し、共和党組織から独立した支持基盤の下に行動したため、さらに銃規制強化を打ち出すとともに、州知事選挙では共和党ではなく民主党候補を推薦するなどの行動をとったためである。

では、ジュリアーニの、主要な政治的争点に対する基本姿勢は、どのようなものだろうか。人工妊娠中絶問題については、個人的には中絶を嫌悪しており養子縁組などの措置を勧めたいが、女性が異なる選択をした場合はそれを尊重する、との立場を打ち出している。しかし同時に、保守派の批判をかわすために、連邦裁判所判事に厳格解釈主義者を任命し、法的に問題に対処すべきである、と主張している。また、同じく社会的問題として重要な同性結婚については、同性愛者同士の結婚を支持しはしないが、ドメスティック・パートナーシップ法によって、同性愛者の法的権利は認めるべきであるとしている。さらに移民問題については、これまでは不法移民の取り締まりに相対的に消極的な姿勢を示していたが、近年ではそれを国土安全保障上の問題として位置づけ、メキシコとの国境にハイテク・フェンスを設置し、警備員を増強すべきである、としている。また、イラク問題については強硬派であり、イラク戦争を対テロ戦争の一環として位置づけるとともに、撤退期限を設けず、むしろイラクへの増派を検討すべきであると主張している。彼は、現在は『アメリカに対する12の公約』と称された政治公約を掲げて、大統領選挙を戦っている。

今後大統領選挙を戦うなかで、また連邦レベルの共和党と連携していく上で、やはり重要なのは、人工妊娠中絶などの社会的問題である。こうした問題について相対的にリベラルなジュリアーニと、共和党保守派やその支持基盤である宗教的保守派との間には、やはり無視し得ない亀裂が存在するからである。したがって、本選挙では強いかもしれないが、予備選挙の段階では、こうした問題が不利に働くのではないか、との指摘がなされた。

4 質疑応答

両氏の報告の後、出席メンバーとの質疑応答が行われた。

松岡氏の報告については、オバマはこれまでのところベストなシナリオで戦っているといってよいのか、彼の出現によってヒラリーはかなり苦戦を強いられているといってよいのか、今回の予備選挙候補者のなかでは、エドワーズが左、ヒラリーが右に位置するのに対して、オバマはどこに位置づけることが可能か、イラクからの撤退を訴える一方、軍拡の必要性も主張しているが、オバマの外交姿勢をどうとらえればよいか、オバマは民主党リベラル派によって担がれた候補といってよいのか、オバマへの支持はヒラリーが穏健化したことへの反発と見てよいのか、オバマのスタッフはどの程度充実しているのか、選挙戦が早期に進行していることはオバマにとって有利に働くのか否か、「スーパー・チューズディ」は大統領選挙の帰趨にどのような影響を与えるのか、オバマの支持層はどのようなひとびとからなりどれほど強固なのか、といった点について、質疑応答が行われた。

これに対して西山氏の報告については、ニューヨーク州はジュリアーニ支持ではまとまっていないのではないか、ジュリアーニは民主党支持層からも支持を得られるのではないか、宗教的右派からの反発が強いが経済的右派からの支持は高いのではないか、民主党が共和党候補者のなかで一番嫌がるのはジュリアーニであるため、最終的には共和党は彼のもとにまとまるのではないか、ジュリアーニとユダヤロビーとの関係性はどのようなものか、宗教保守派の票を取るためにはジュリアーニはどうすればよいのか、ジュリアーニはニューヨーク市民からどのように評価されているのか、ジュリアーニが政策通で行政手腕があることはプラスには働かないのか、ワンマンとしての性格ゆえ彼は当選後議会と衝突するのではないか、といった点について、質疑応答がなされた。

文責:天野 拓

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