タイプ
レポート
プロジェクト
日付
2007/9/14

第3回研究会報告

1 第三回研究会の目的
第三回研究会を、8月6日の午後6時30分から、東京財団A会議室(日本財団ビル三階)にて開催した。第三回研究会のテーマは、ブッシュ政権の外交政策の評価と展望についてであり、研究メンバーの高畑昭男氏(産経新聞編集委員兼論説委員)、足立正彦氏(住友商事総合研究所シニアアナリスト)の両氏によって、報告が行われた。

2001年の9・11テロ事件以降、ブッシュ政権は、外交的な強硬路線、単独行動主義路線に大きく舵を切り、対イラク戦争に踏み切った。しかし周知のように、その後イラク情勢は泥沼化し、イラク人、そして米兵の死者数も増加の一途をたどっている。こうした情勢悪化を受けて、2006年の中間選挙で共和党が大敗を喫した現在、ブッシュ政権の外交政策は大きな見直しを迫られているといえよう。きたる2008年大統領選挙においても、これまでのブッシュ外交をいかに総括するか、対イラク政策をいかに評価するかという点が、重要な争点になることは、間違いない。

もちろん、現在アメリカが直面している外交政策上の問題は、それだけではない。しばしばイラク問題の陰に隠れがちであるが、中国やイランとの関係も、今後のブッシュ外交や大統領選の帰趨を考える上で重要である。「世界の工場」として急速な経済成長を遂げる中国、またイラクに代わり勢力を拡大し核開発を進めるイランとの外交関係は、今後のアメリカの対アジア・対中東政策を占う上で、無視できないからである。

第三回研究会では、ブッシュ政権のこれまでの外交政策を総括するとともに、2008年の大統領選挙に影響を及ぼすことが予想される外交政策課題について、包括的な検討が行われた。


2 第一報告「ブッシュ外交の中間総括」(高畑昭男氏)
まず高畑昭男氏により、「ブッシュ外交の中間総括」と題された報告が行われた。ブッシュ外交は、大きくは第一期目と第二期目に分類されるが、第一期目は、さらに9月11日のテロ事件以前と以後に区分される。テロ事件以前のブッシュ政権は、「慎みある外交」を志向し、対外関与を必要最低限度にとどめる方針を打ち出していた。しかし、テロ事件以降、その外交方針は大きく変化する。先制攻撃論、単独行動主義、自由と民主主義の世界的拡大(レジームチェンジ)などを掲げ、積極的な対外関与を打ち出していくのである。Fareed Zakariaは、こうしたブッシュ外交を、「恐怖の外交」(恐怖感に根ざした外交)と呼び、それがアメリカの国際的な評判の失墜につながったと批判した。以上のような外交方針転換の背景には、リアリストであるパウエルらがはずされる一方で、ネオコンと保守強硬派が政権内で力を握り、国務省と、国防総省・副大統領府の間に、深刻な対立関係が生じるといった、政権内での政治力学上の変化が存在した。最終的に2003年には、アメリカは有志連合とともに、イラク戦争に踏み切ることになる。

これに対して、2005年以降の第二期ブッシュ外交の特色は、単独行動主義から国際協調やむなしとの立場へと方針を転換し、現実的な調整を重視するようになった点にある。国務省、とりわけコンドリーサ・ライスが政権の外交政策において指導的な役割を果たすようになり、ネオコンや強硬派の影響力が相対的に退潮した。ライスの外交姿勢は二面的であり、ネオコンや保守強硬派に共鳴する一方で、スコウクロフト流のリアリズム的立場も、同時に重視するという側面をもっていた。こうした方針転換は、ライスが、指名承認の公聴会の場で、「今こそ外交の出番」であるとして、国際協調の下にテロの脅威と戦うと宣言した点に象徴される。実際、ライスはボルトンらの強硬派に距離を置き、国務省では全体的に旧知の欧州派リアリストたちを要所に起用する人事を行うとともに、発足後すぐさま米欧関係の修復につとめた(他方、結果を出せるネゴシエーターが不在であるとの見方もある)。また、北朝鮮問題では米朝協議を六カ国協議に先行させる決定を下し、対イランについてもより柔軟な姿勢をとるなど、その外交政策は明確に変化した。

しかし、第二期ブッシュ政権のもとでは、対アジア外交が空洞化しつつあることも否めない。たしかにアジア外交チームのなかで中国派が復帰するなど、対中関係の調整は重視されている。しかし、知日派がホワイトハウス、国務省から姿を消すなど、日本との同盟関係に配慮が不足しがちな懸念がある。ヒル大使は元駐韓大使だが、もともと欧州・ロシア外交が長い。日本に対するシンパシーは薄く、拉致問題などにもあまり関心がないとされる点も、影響していると考えられる。またASEAN諸国の間では、中国の影響力拡大やバランサー不在への懸念が高まっているにもかかわらず、ライスがARFに二度も欠席するなどASEAN外交に対する戦略や配慮が欠けるきらいがあり、東アジア共同体構想にも冷淡な姿勢をとっている。全体的に見て、第二期ブッシュ政権においては中国重視が強まる反面、アジア全体を見据えた長期戦略や政策がおろそかになりがちな点は否めない。

ブッシュ外交を全体的に評価すれば、その成果としてロシア、中国、インドなど大国との関係の安定化、パレスチナ国家創設構想の具体化、G8の拡大中東民主化構想(長期的に見れば評価できる)、核の闇市場摘発、大量破壊兵器拡散防止構想、などの点を指摘できる。しかし、評論家の間では、クロッカーのように、ブッシュ政権が戦略的な外交を軽視している点、「戦略」、「力」、「外交」の相互関係を誤解・誤用している点を批判し、外交は「知的な力の適用」であるべきではないか、と指摘する声も存在する。他方、ハースは、イラク問題については、「兵力増強策」と「期限付き撤退」との中間的妥協案を打ち出し、超党派的支持を得るべきである、イラン問題については、対話に着手し、HEU問題で妥協点を見出すべきである、中東和平問題では、パレスチナ国家樹立の詳細な構想を再提示し、アジアでは日中を含む地域安保枠組みの構築を促進すべきである、などの具体的な提言を行っている。


3 第二報告「2008年米大統領選挙と外交課題」(足立正彦氏)
 続いて足立正彦氏が、「2008年米大統領選挙と外交課題~米中関係とイラン核開発問題」と題された報告を行った。今後のブッシュ外交、そして2008年大統領選挙において、ドミナントなイシューはやはりイラク問題であるが、対中国関係やイランの核開発問題も、無視することはできない。まず米中関係についてであるが、通商分野において、保護貿易主義が台頭している点が注目される。2006年の中間選挙で民主党は大勝したが、上下院で「公正貿易派」が勢力を伸張させたのである。実際、国際貿易のための失業者支援のための貿易調整支援プログラムの更新が提案されるなど、保護貿易主義への傾斜が見られる。2006年8月には米中戦略経済対話(SED)を設置するとの合意がなされたが、中国人民元改革に実質的な進展がみられないなど、順調とはいえない。こうした中、中国に為替制度改革を迫る強硬法案が提出されるなど、対中国関連法案の提出が活発化している。また安全保障分野でも、中国の軍事力拡大や台湾問題などについて、懸念する声がみられる。

 大統領選の主要候補者のなかでも、対中政策は重要なイシューとなっている。民主党内では、保護貿易主義寄りの立場でないと勝利できないとの声が広がり、ヒラリーなどは、明確に労組寄り・保護主義寄りの立場を表明している。他方オバマは、伝統的な保護主義勢力とは一線を画す一方で、経済に焦点を当て低所得者層に浸透しようとしている。共和党内では、ジュリアーニは『テロ対策』を重視する一方で、中国を含むアジア外交については未だ立場を鮮明にしていない。しかしマッケインは、アジア地域の重要性を認め、中国に対してはプラグマティックなアプローチを取るとしている。現時点では、対中関係は大統領選の主要な争点ではない。しかし、有権者の間での関心が高まる中、不公正貿易慣行などの問題がクローズアップされつつある。民主党が勝利すれば、保護貿易路線がさらに台頭する可能性は高い。

 イラン核開発問題も、重要な争点である。2005年の8月にアハマディジャネド大統領が就任したあと、イランは平和目的と主張する核開発プログラムを積極的に推進する一方で、欧米は核兵器製造の疑いがあるとしてその凍結を要求している。しかしイランが、国連安保理の要求を無視し、地下核関連施設でウラン濃縮活動を拡大したため、緊張が高まった。この問題は、勢力を拡大させるイランと、それを憂慮する欧米、イスラエル、親米スンニ派アラブ諸国との間の、中東地域における覇権争いの一局面として位置づけることができる。具体的なイラン制裁の動きも進んでおり、国連安保理決議1737、1747が採択されたほか、米財務省も金融制裁を発動した。さらに連邦議会下院も「2007年イラン制裁強化法案」を可決するなど、イランのエネルギー分野に投資を行っている外国企業に対する規制・監視を強化している。また州・地方自治体レベルでも、対イラン経済制裁を強化しようとする動きが見られる。しかし、国連安保理の間でも、イランとの経済関係を強化しつつある中国などは、イランに対する追加的経済制裁強化に消極的である。

国連制裁や金融制裁の結果、イラン国内ではインフレやガソリン価格の上昇が生じており、大統領に代表される強硬保守派はその支持を失いつつある。こうしたなか、次の大統領選挙をにらんで、民主党内では、対イラン対話重視路線支持というコンセンサスが形成されつつあるが、共和党内は、武力行使という軍事的な選択肢も排除すべきではない、との立場で、主要候補が一致している。米政府は、今後とも基本的には、イランへの制裁を強化していくだろう。実際、軍事面でもペルシャ湾での空母を増強するなど威嚇を強化しており、イランへの武力行使をめぐる議論も再燃している。しかし、政権内部では必ずしも意見が一致しておらず、ライスが対話を重視する一方で、チェイニーはイスラエルを重視する姿勢を見せている。今後は、イランの核開発の進捗状況、米政府の国連安保理プロセスのコントロール、イランの国内政治の展開、などを見定める必要があろう。
 

4 質疑応答
報告後、参加者との間で、質疑応答が行われた。
高畑氏の報告については、アジア外交の空洞化によって、日米関係はどう変化したのか、アメリカがアジアに対する明確な指針を持たないときにこそ、日本が積極的にアジアに関与すべきではないか、本当にブッシュ外交はリアリズム路線へと変化しつつあるのか、欧州シフトとはどのような意味を持っているのか、アメリカは北朝鮮の核問題に対する日本の脅威をどう考えているのか、国務省界隈ではライスの評判は必ずしも芳しくなく、しばしばポリシーのなさを指摘されているが、彼女にそんなリーダーシップがあるのか、ライス外交の核となるべきものは何か、ブッシュ政権の二期目の外交について、何かみるべき政策的成果はあるのか、イランやイラク問題について、今後ブッシュ政権は何か積極的に行おうとしているのか、完全にディフェンシブな外交姿勢に後退してしまっているのではないか、具体的な外交戦略は存在するのか、といった質問がなされた。

これに対して、足立氏の報告については、アメリカとイランはイラク問題だけでなく、核開発問題についても直接的な交渉を行っているのか、保護貿易主義の台頭は、中間層の不満を吸収するためのポーズではないのか、中国との通商問題は実際にどの程度深刻なのか、過去の日本との貿易摩擦のケースとどちらが深刻なのか、民主、共和を問わず、自由貿易の中でやっていかなければならないという点では、基本的なコンセンサスが存在しているのではないか、今後、グローバリゼーションの弊害をいかに緩和していくべきなのか、EUやロシアのイラン問題への対応はどうなのか、イランの核開発の場合、未だウラン濃縮の段階であり、北朝鮮とは違い、まだ時間的余裕があるのではないか、イスラエルロビーは、アメリカのイラン政策に重要な影響力を及ぼしているのではないか、といった質問がなされた。
                           

文責:天野 拓