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論考
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2008/8/6

第11回研究会報告 ポスト・ブッシュ政権の外交政策―多国間主義への回帰か? 講師:米国ダートマス大学マイケル・マスタンドゥーノ教授)

現代アメリカ研究プロジェクトでは、2008年7月24日、米国ダートマス大学のマイケル・マスタンドゥーノ教授を講師に迎えて、研究会を開催しました。 マスタンドゥーノ教授は、国際関係論および米国外交政策の専門家であり、米国、ヨーロッパそして日本の経済競争、冷戦終結後の国際関係理論、およびアジア太平洋地域の国際関係についての多くの論文・著作を発表されています。 マスタンドゥーノ教授は、ブッシュ政権後の米外交政策が多国間主義に回帰する可能性について、大変興味深い分析を提供してくださいました。以下にその要旨をまとめます。


ポスト・ブッシュ政権の外交政策―多国間主義への回帰か?


米国大統領選挙は、その時々の経済状況や立候補者の人格などといった国内要因によって決まることが多いが、今年2008年の大統領選挙はこれまでとは多少違って、異例なまでに外交問題が争点となっている。アフガニスタンとイラクの戦況という直接国民の目に映る争点、そして世界におけるアメリカの役割と評判というより広い意味を持つ問題が、今回の選挙においては重要性を持っているのである。

外交政策のうち鍵となる争点の一つは、単独主義に関するものである。現ブッシュ政権は、単独主義的外交政策を実行し、国内および国際社会における論争を巻き起こした。ブッシュ政権の外交政策は、特にヨーロッパにおける同盟国と米国との間に軋轢をもたらしただけでなく、首都ワシントンの政策コミュニティーの内部でも、米外交政策を単独主義的で誤った方向へ向かわせたとの批判が上がっている。過去数年間、これらの人々の間で浮上してきた疑問は、ブッシュ政権が任期を終える2009年以降、米国の外交政策は多国間主義へと軌道を修正するのだろうか、ということであった。ワシントンの政策コミュニティーでは、外交政策が多国間主義へと回帰し、「通常の状態」へ戻るだろうという認識が広まっているように見える。このような認識は、第二次世界大戦以後の外交政策は、共和党、民主党どちらの政権にもかかわらず、基本的に多国間主義を尊重してきたが、現ブッシュ政権の単独主義的外交政策が例外であるという前提の上に成り立っている。ブッシュ政権第一期目の外交政策は、イラク戦争のように単に国家支出を増大させたという意味でも、また世界における米国の評判を下げたと言う意味でも、非常にコストの高い単独主義政策であった。

よって現在、ワシントンの政策コミュニティーでは、米国が多国間主義的な政策路線へと戻るためには、民主党大統領候補のバラック・オバマを当選させるのが最も確実なやり方であるという考えが主流となっている。現にオバマは、多国間主義外交政策についてよく言及しており、昨年末のフォーリン・アフェアーズ誌上で、「米国は世界から撤退することも、世界を脅すこともしてはならない」として、武力行使をためらわない現ブッシュ政権の政策を非難している。

このような多国間主義への回帰という見方は、耳に心地よく聞こえる上に、米国による罪の償いという大団円を予期させる話であるが、私はあくまでも幻想に過ぎないと考えている。このような見方は米外交政策の歴史と、現ブッシュ政権の外交政策の経過を部分的であるにせよ見誤らせる視点であり、将来の米外交政策に対して高すぎる期待を持たせることにもなると思うのである。次期政権が多国間主義へと回帰することを期待する人は、結局は落胆することになるだろう。

米国は、大戦後の多国間主義の黄金期とも呼べる時代においてさえも、多国間主義について両義的な態度を示してきた。多国間主義政策に対して気乗りのしない態度を示すと同時に、自国の利益に適う時にはそのような政策を取ってきたのである。ここでは、次の四つの点について論じることにする。まず米国の多国間主義に対する両義性、次に第二次世界大戦以後の多国間主義の黄金期における米外交政策の特徴、そして現ブッシュ政権が単独主義のみならず多国間主義的な外交政策をも採ってきたこと、最後に今回の選挙後に米国の外交政策が変わるとしたら、どちらの方向へ転換するのかという点である。

(1)米国の多国間主義に対する両義性
米国は建国期以来、世界において政治的主導権を握るようになった一方で、世界に対して相反する考え方を持ってきたといえよう。ジョージ・ワシントン初代大統領は、任期終了演説において米国は「諸外国との恒常的な同盟関係を取り結ぶべきではない」と述べたが、この見方は広く共有されていた。政治権力が集権化され専制が敷かれた「旧世界」から独立を果たした米国は、権力を分立し、諸外国との戦争を避けようとしていたのである。米国はヨーロッパとは大西洋によって隔てられていたために勢力均衡戦争に巻き込まれること無く、ヨーロッパ諸国とは異なった方向へと舵を取ることができた。

この傾向は19世紀を通じて続いた。20世紀に入ってようやく、米国は第一次世界大戦に参戦したが、それも戦争末期になってからのことであった。世界とヨーロッパの秩序を取り戻すためにウィルソン大統領は国際連盟を提唱したが、米国連邦議会の反対にあって米国の参加は阻まれた。戦間期には、グローバル経済または国際政治システムに関して、米国は国際的リーダーシップを発揮することはなく、第二次世界大戦に参戦したのも、1941年末真珠湾において自国に対する攻撃を受けた後のことであった。このように1945年以前から、米国は多国間制度への関与について相反する態度を示してきたのである。

このような両義的態度は、米国の文化的・知的伝統によって補強されてきた面もあった。ウィルソン的国際主義—戦後アメリカの多国間制度に対する関与の基になっている考え方—は、米外交政策を形成する唯一の知的伝統ではない。この他にはジェファソン的伝統、ジャクソン的伝統という二つの系譜が存在する。

ジェファソン的伝統とは、国内民主主義を保護するために、米国の国際的関与を最小限にとどめるべきであるとする考え方である。強硬な外交政策を実施するためには、国内政治システムが中央集権的になる必要があり、米国の場合には大統領権力が他の二権を浸蝕し民主政体を脅かす可能性があった。ジェファソン的伝統はこれに反対する。実際に、ニクソン政権下でヴェトナム戦の時期には、政権によって反戦活動家や政府外交政策に批判的な人々を監視するような動きが見られた。今日でも、ジェファソン的伝統は生きている。つまり外部の脅威から米国を守るという名目のもと、愛国者法のような措置を通じて行政府が国内の市民的自由を侵害しているという点で、「テロに対する戦争」への批判が起きているのである。ブッシュ政権を批判するリアリストは、今日米国はヨーロッパやアジア諸国との恒常的同盟関係を取りやめ、代わりに「オフショア・バランス」戦略を採るべきだと主張している点で、ジェファソン的伝統を継承している。

もう一つの系譜であるジャクソン的伝統とは、荒野におけるアメリカの個人主義—自助、栄誉、愛国心—を掲げる考え方である。この考えのもとでは、米国は孤立を維持するが、攻撃を受ければ猛烈な反撃を加える。とくに、ロナルド・レーガンやジョージ・W・ブッシュのような西部の共和党の外交思想がこの系譜にあたる。
このように、ウィルソン的関与主義および多国間主義というのは、冷戦期の米外交政策において主流ではあったかもしれないが、唯一の考え方ではなく、ジェファソン的伝統やジャクソン的伝統も存在していたのである。

(2)第二次世界大戦以後における外交政策の転換
第二次世界大戦の終結は、米外交政策に大きな転換をもたらした。米国は選択的関与から、グローバルな関与へと戦略をシフトしたのである。これは米国の政策決定者が冷戦の始まりに伴い、1947年の段階でソ連の封じ込めが最適戦略であると考えていたためであった。効果的に共産主義を封じ込めるためには、グローバルな規模で行なわれる必要があったのである。戦間期に米国が何ら手を打たなかった失敗を繰り返さないために、米国は多国間主義に基づいた措置によって国際秩序を取り戻し、冷戦体制を整えることにした。まず国際連合、西欧諸国との間にNATO、世界経済再建のためのGATTや国際通貨基金、世界銀行といった多国間制度によって支えられるブレトンウッズ体制が整えられた。

このように多国間主義は、レトリックにおいても実践においても、米外交政策を決定する重要な系譜となったが、一方で政策決定者は多国間主義制度に対してプラグマティックなアプローチを採った。

つまり、日本や韓国、オーストラリアといった国々との「ハブ・アンド・スポークス」のように、東アジア安全保障問題においては多国間主義ではなく二国間の同盟を重視した。同地域には、NATOのような多国間安全保障制度は存在しない。また、中東やペルシャ湾岸地域では、米国は多国間制度を構築しなかった。イスラエルや、サウジアラビアやイランといった非民主主義国家との二国間関係のほうが重要視されていたのである。米国は1990年までこの地域では、同地域諸国が石油供給を支配しイスラエルに対する重大な脅威となることのないよう、オフショア・バランシング戦略を採ってきた。ラテンアメリカにおいては、米州機構への加盟と支持のように、米国は多国間主義を実践してきたかのようにも見えるが、実際は形式上のものにすぎず、米国の「裏庭」における伝統的な帝国支配を続けた。

さらに、国際連合への関与にしても、米国が第二次世界大戦終結時に描いていたようには実現しなかった。冷戦により世界は競合するブロックへと分割され、国連は機能不全に陥った。旧植民地諸国が独立を果たして国連に加盟するにつれ、米外交における国連の地位は低下してしまった。

このように、米国の多国間主義「黄金期」と呼ぶべき第二次世界大戦以後であってすら、多国間主義外交政策は限定的であり、主に米国の西洋諸国との関係及び世界経済へのアプローチについて当てはまるといえる。一方、単独主義政策を選択する際も、共和党・民主党政権共に、また安全保障および経済の両分野にわたって見られた。ヴェトナムへの長期介入、ニクソンショック、中国との国交回復などは、単独主義外交政策の良い例である。また、ソ連との経済協力関係を結んだヨーロッパ諸国に対するレーガン政権初期の経済制裁や、1985年プラザ合意に至るまでの米ドル単独管理のように、米国は「我々の利益に適えば単独主義政策を採り、多国間主義政策の方が米国の国益に合致する場合には他国は協力せねばならない」というプラグマティックなアプローチを採ってきたのである。よって、冷戦期における米国の多国間主義へのコミットメントは、方針に基づいたものでも継続的なものでもなかったということができる。

(3)現ブッシュ政権の外交政策の特徴
このように第二次世界大戦後の米国の外交政策の系譜を俯瞰した上で、ブッシュ政権の外交政策は次のように特徴づけることができる。京都議定書、地雷条約や国際刑事裁判所制度への不参加の例が示す通り、ブッシュ政権の政策は単独主義的なものが多い。また、アフガニスタンへの介入初期段階では、ほぼ単独で軍事作戦を展開している。

ただしその一方で、ブッシュ政権が多国間主義政策を放棄したとは言いがたい。現政権はこれまでのどの政権にも劣らず、ドーハラウンドのような国際貿易交渉、国際通貨基金や世界銀行へのコミットメントといった多国間主義アプローチを採っている。東アジアにおいては二国間同盟の他に北朝鮮問題に関する六カ国協議があり、大量破壊兵器の拡散を阻止する「拡散に対する安全保障構想 (PSI) 」、アフガニスタンにおけるNATO諸国との協力、ミサイル防衛構想、NATOの東方拡大など、多国間主義政策も採られているのである。ただしこのような多国間主義政策がブッシュ政権の前面に出てこないのは、対立を招くようなスタイルやレトリックであるとか、アドホックな「有志連合」、共和党の保守化に伴い外交政策が政治化されたことに原因がある。

(4)2008年大統領選挙後の米外交政策の変化の可能性
11月の選挙で民主党オバマ候補が勝利した場合には、最低でもレトリックの面で外交政策が転換する可能性を期待できよう。オバマ候補は、米国の国際的評価を建て直し、他国との友好関係を修復すると宣言している。多国間主義のレトリックが、実際に政策として実現することもありえるだろう。テロに対する戦争の過剰な政策を沈静化するためのキューバ・グァンタナモ刑務所の閉鎖であるとか、京都議定書からの離反を軌道修正するために、環境問題に関する多国間主義イニシアチブを取るなどの策が考えられる。いずれにせよ、前政権の単独主義政策とは一線を画すことは間違いなかろう。また、ロシアの台頭に対抗するためにNATOなどの多国間主義政策を採ることもありえるだろう。

ただし、米国が政策方針として、継続的な多国間主義を採ると期待することはできない。これまでに見てきた米外交政策の伝統が示す通り、黄金期におけるような多国間主義政策を実行することはないだろう。というのも、両極化が進んだ現在の米国国内政治の状況では、外交政策に関する超党派合意はもはや存在しない。また、次期政権は好むと好まざるとにかかわらず現ブッシュ政権のテロに対する戦争およびイラクにおける軍事作戦を引き継ぐことになる。民主党大統領が就任すれば、紛争への軍事介入に関して慎重な態度を取る一方で、米国の安全保障においてテロに対する戦争が重要な位置を占め続けるであろうことは予測できる。そして、どちらの政党の候補者が選ばれたとしても、米国が世界秩序を維持し、必要であればその秩序に従わずとも行動する強力な国家であり続けることには変わりがない。まず米国の国益を最優先し、他国がそれに従うことを期待し続けることになるだろう。

つまり次期政権は、短期的には多国間主義を奉じるであろうが、この方針が継続することは期待すべきではない。他の国々は、米国は必要であれば時に単独主義行動を取ることも、また同盟国と多国間主義的協調を図ることも、両方可能であるという事実に適応した方が賢いと言えるだろう。



質疑応答

Q:特に核政策の観点から、イスラエルとイランが中東地域で共存すると米国が考える可能性はあるだろうか。これまでイスラエルは軍事的優越を維持してきたが、インティファーダや2006年のレバノン侵攻により、イスラエルの優越性には疑問符がつくようになった。ただしイランの核保有問題が絡んでくると、全く話は異なる。次期政権を民主党または共和党どちらが勝ち取るにせよ、米国は脆弱なイスラエルを静観できるのか。

A:これは米国国内政治と連動しているので、非常に難しい問題である。過去八年間の米国外交政策を振り返れば、米国の政策がイスラエル寄りになりすぎたために、米国が中東地域において誠実な仲介役を果たすことはもはやできないことを認めざるを得ないだろう。同地域における米国の信頼性は失われてしまったのである。次期政権で外交政策に変化をもたらそうとしている大統領候補者は、再び米国が誠実な仲介役となるように政策を修正すると考えられるかもしれない。しかし過去数日間中東に滞在していたオバマ候補を見ればわかるように、大統領は米国国内政治における政治の動向に対応せざるを得ない。

米国国内でイスラエルを支持する声が強いために、中東地域における勢力均衡を米国が傍観することは困難になってしまっている。このような理由で、核を保有するイランを米国は認めることはできないのだが、同時に妥当であるとする皮肉なジレンマに米国は直面することになる。つまり、核保有を阻止する手段が無いために、核を持つイランとの共存を米国は学ばねばならないかもしれないのであるが、ただそのような状態を静観することは不可能である。米国にとってイランの核保有は脅威と映るが、イスラエルが同じことをしてもそのようには映らない。逆に、米国にとってイスラエルは同地域における非好戦的な国家であるが、同地域の他国の人々にとってはそうとは映らない。

よって非常に難しい状態になるわけなのだが、実際に米国には、イランの核保有を阻止する選択肢として何が残されているだろうか?軍事力行使による単純な解決は不可能であり、またイラク及びアフガニスタンにおける米国軍駐留のため、外交及び多国間チャンネルを通じた努力が続けられている。次期政権をどちらの政党が担うことになるにせよ、イランの核保有問題は大きな困難を突きつけることになるだろう。

Q:中東地域において米国が選択すべき外交戦略は何だろうか。米国内では、正しい外交戦略とは「オフショア・バランシング」であると唱える論者がいる。この論調は、テッド・カーペンター (Ted Carpenter) のようなリアリストらの間で特に聞かれるように思う。この意見についてどう考えるか。

A:私自身は概して、オフショア・バランシングの効果については疑念を持っているが、しかし中東地域においてはオフショア・バランシング戦略が適していると考える。1990年に至るまで、米国は同地域においてこの戦略をとってきた。イスラエルが軍事的に劣勢にある間は、同国を防衛することが米国の利益にかなっていたし、また石油資源およびその運搬経路を守る必要があったわけだが、米国はオフショア・バランシングによってこの二つの目的を達成した。1967年や1973年に起きたアラブ・イスラエル戦争では、米国は仲介役としての役割を果たした。

しかし1990年の湾岸戦争はこの状況を一変させた。当初米国は、オフショア・バランサーとしてイラクに侵攻した。当時イラクの軍事力は非常に強力であり、国家としてのイラクを破壊することなく弱体化させる必要が米国にはあったのだ。ただし1990年以後、米国は同地域への駐留により、オンショア・バランサーとなってしまった。米軍は国連による終戦決議や飛行禁止区域を施行し、サダム・フセインの暴挙を抑止する必要があったわけなのだが、それにより中東では米軍の駐留が恒常化した。2003年以後のイラク戦争では、現在イラク政府と米国が交渉中の米国軍常駐基地の設置の例に見られるように、さらに中東での米国軍の存在感を維持することになった。

米国がオンショア・バランサーとなってしまったために、二つの問題が生じるようになった。第一に、中東地域における米国軍の存在が維持されることにより、常に米国はテロの攻撃対象となってしまった。第二に、米国がイスラエル=パレスチナ問題を解決することをより困難にしてしまった。なぜならば、米国軍の中東地域駐留と、イスラエル寄りの姿勢を見せていることにより、同地域における誠実な仲介役としての信頼性を失ってしまったからである。

よって、米国が中東地域で採るべき外交戦略は次のようになるだろう。まず誠実な仲介役としての信頼性を取り戻すために、中東地域における外交的な関わりを維持する一方で、地域への軍事的関与によって中東諸国のテロリストの攻撃対象とならないようにすることである。過去数年間の間に米国は中東地域政策について誤った方向へ舵を切ってしまい、これによりヨーロッパ諸国との信頼関係が崩れ、またアジア地域への注目を低下させることになった。これから米国が採るべき戦略は、中東地域からの軍事的な撤退と、イスラエル=パレスチナ問題の誠実な仲介役としての信頼を取り戻すための外交努力であると思う。共和党、民主党それぞれの大統領を比べてみれば、民主党政権の方がこのような政策を行なう信頼を得やすいと考えられる。ただし問題は、民主党大統領が政権就任したとして、米国がイスラエルをものともしない態度を取るのに、大統領が国内政治の文脈で強い政治力を発揮できるかという点である。これは非常に難しい問題で、近年の例で言えばクリントン政権時代にイスラエル=パレスチナ間の合意を取り結ぶまで成功したが、和平は長続きしなかった。

現ブッシュ大統領の採った戦略は、失敗に終わったが興味深いやり方であった。ブッシュ政権内では、中東地域とくにイラクにおいて米国が軍事的勝利をおさめることによって影響力を拡大できると考えた。電撃的に勝利すれば、中東諸国は米国を見る目を変え、中東地域の紛争問題解決に寄与するであろうと考えたのである。これは実際には全くの失敗に終わったが、考え方としてはブッシュ政権内で突如浮かんだものではなく、キッシンジャーの1973年戦争に対するアイディアと似ている点がある。1973年戦争でキッシンジャーは、もしイスラエルが米国とともに軍事的に勝利すれば、アラブ諸国はソ連ではなく米国に頼るようになり、地域和平がワシントン・DC主導で実現するものと考えていた。同じように、レーガン政権の1982年、レバノン侵攻の際にも同じような理屈が使われた。しかし、米国はその度に失敗してきた。


Q:オフショア・バランシングがアジア地域でうまく行かないのはなぜか。

A:アジア地域においては、米国がオンショア・バランサーとして果たす役割が残っているからであると私は考える。例えば日本と中国のように、この地域における国家パワーの盛衰に伴う争いが起こる可能性があるが、米軍の駐留は日本を安心させ、中国は自ら認めたがるわけではないのだが米軍の存在は中国にも安心感を与えているのである。また中国の台頭にともなって、東南アジア諸国の間では地域秩序が不安定となると心配する声が聞かれているが、これらの国では米国と中国の二国が軍事的に競争している状態をよしとしている。もし米軍が東南アジアから撤退すれば、東南アジア諸国は中国からの直接の影響を受けやすくなり、中国による帝国主義的な東南アジア地域支配の可能性が高まってしまうからである。このように、アジア地域においては米国がオンショア・バランサーとして建設的な役割を果たしていると言えるだろう。もし朝鮮半島が統一され、韓国における米軍駐留の必要性がなくなり、また日本が軍事外交政策方針を根本的に変えるような日がくれば、米国のオンショア・バランサーとしての建設的な役割がなくなるかもしれない。しかし、近い将来にはこのようなことは起こらないであろう。

中東及びヨーロッパ地域においては、米国のオンショア・バランサーとしての役割はほぼ皆無である。


Q:過去の例から言って、インドやパキスタン、イスラエルなどの国家が核保有に踏み切るや否や、米国はこれらの国々に対する態度を軟化させてきた。北朝鮮や、今後イランが核開発能力を手に入れれば、米国政権の態度も一変するのではないだろうか。特に現ブッシュ大統領の北朝鮮に対するアプローチについてどう思うか。

A:核保有を宣言した国に対する米国の態度が軟化することについては、プラグマティックな理由があると思う。ブッシュ政権内では、核を保有した北朝鮮、そしてこれから保有するかもしれないイランへの対応として、次のような議論があったのではないだろうか。米国はできればそれぞれの国のレジーム・チェンジを行ないたいところであるが、それは無理である。これらの国々に対して軍事力を単独で行使する余力は米国には無く、周辺国からの支持や支援を集めることは見込めない。特に北朝鮮の場合、米国が北朝鮮政府を転覆させるような行動に出れば東アジア地域内により大きな混乱をもたらしてしまう。よって、米国政府は外交及び経済手段を通じた制裁措置に踏み切った。まず強制的な外交経済措置により、北朝鮮が核に関する方針を変えない限り米国は外交交渉に応じず、また経済制裁を加えた。しかし周辺諸国の対北朝鮮政策戦略が異なっており、米国は各国と足並みを揃える必要があったために、米国のこの強制的制裁措置はあまり効力を発揮しなかった。例えば韓国は独自の外交戦略を持っており、米国は韓国と行動を共にする必要があった。イランの場合、ヨーロッパ諸国は米国とは違う独自の戦略を持っている。軍事行動に踏み切ることが現実的でなく、強制的制裁措置も長続きしないとすれば、米国のこれらの国々に対する態度は、軟化したように見えるであろう。

ただしここで立ち止まって考えるべきは、米国の姿勢が軟化する理由が、本当に相手国の核開発能力だけを理由としているのかという点である。私の考えでは、部分的にはそうであるが、理由はそれだけではない。なぜなら、米国のイランに対する態度がシフトしたのは、イランが核開発能力の獲得を宣言する前のことだったからである。米国の政策立案者らの間では、相手国家が核を保有すると、交渉ゲームも変化するという見方がある。ただしこれは、相手国家の政府を米国がどう認識しているかという点によっている部分が大きい。国際関係理論の学者にとっては、北朝鮮が核兵器を二つ所持しているからといって、さして大きな影響力は無い。米国の核兵器は一万発あり、北朝鮮とは比べ物にならず、たとえ北朝鮮が核兵器攻撃を行なったとしても、米国は北朝鮮を跡形無く消し去り、最低でも確証破壊することができるからだ。しかし、米国の政策立案および決定者らにとっては、北朝鮮が一、二発の核兵器を保持していることは大きな問題である。これは、国際関係理論の善し悪しによるものではなく、米国は相手国が合理的判断を行なっているとは考えられないからである。核抑止理論では、国家は合理的な決断主体であると想定されている。冷戦期を通じて米国は、「悪の帝国」ソ連が合理性を持っていると考えるようになった。よって、ソ連が三万発の核兵器を持っていたとしても、相互確証破壊により問題があるとは考えられていなかったのである。しかし、イランや北朝鮮の指導者らには合理性は無く、たとえ米国がこれらの国々を破壊することができても、相手国はただ一つの核兵器を使うかもしれないために、これらの国々の核保有を認めることはできない。このように米国の政策立案者らは考えている。


Q:民主党が大統領政権党となった場合の対アジア地域政策について。現在の民主党多数議会は、対中国政策を重視するあまりアジア地域大の多国間戦略から遠のいてしまっているように見える。2011年に米国が主催予定のAPEC会議を控え、アジア地域における米国の多国間主義政策と戦略についてどう考えるか。

A:米国の歴代政権は、アジア地域においては地域内取り決めがハブ・アンド・スポークシステムと折り合いがあわず対立すると考えられてきた。しかし今では、多国間主義制度とハブ・アンド・スポークは相互補完関係にあることを米国が受け入れつつある。米国国務省内では、アジア地域内における多国間主義制度が重要であるという認識が常識となってきた。オバマ候補が政権就任した場合の安全保障政策は、彼のレトリックからもわかるように、多国間主義制度を無視するようなものになるとは考えにくい。よって、特に中国との安全保障問題を重視するあまり、アジア地域の多国間主義を軽んじるような外交政策を行なうことはないのではないだろうか。一方中国の側も、アジア地域における多国間主義制度が効果を持ち得ることを認めるようになっているため、米国が多国間主義制度を推進しない場合には、米国がアジア地域でのプレーヤーとしての存在感を失ってしまうことになる。このような失敗を、既に現ブッシュ政権がしてしまったところもある。よって次期政権は、安全保障問題に関する限りは中国を巻き込みながら、多国間主義制度にも積極的に関与して行くものと考えられる。

ただし経済政策に関しては、問題がありそうだ。民主党政権の場合は、アジアにおける経済政策は複雑な局面を迎えるかもしれない。私が聞くところによれば、日本は経済貿易問題に関しては共和党政権のほうが好ましいと考えるらしいが、実際に民主党内では民主党支持者から、特に対アジア貿易政策については取引相手国に対して強硬な姿勢に出るよう圧力がかかる。つまり貿易収支赤字の増大、米国国内雇用の流出などに対処するために、米国政府は中国に対して為替レート問題、知的所有権の保護、人権問題といった争点を通じて断固とした姿勢を見せるべきだとする民主党内の一部の声は強いのである。よって、民主党政権にとっては、安全保障問題について多国間主義アプローチを維持しつつ、経済問題においてナショナリスティックになりすぎないようにすることが大きな課題となるだろう。これに対して共和党内ではビジネスの声が強く反映されることが多いために、共和党政権の場合には貿易自由化政策を優先させるだろう。


Q:近年イデオロギー的両極化が進み、党派的対立が激しくなった米国国内政治と、米国外交政策のパターン、またはそのパターンの変化について、何か関連性は見いだせるだろうか。現政権において以前よりも単独主義行動が増えた例のように、両極化が進んだ国内政治と外交政策の関連性はどのように説明できるだろうか。民主党内左派は、安全保障政策に関して単独主義行動を支持しているわけではないし、共和党内の保守派は経済政策において保護主義を支持しているわけではないため、これらの二つの勢力が互いに打ち消し合うなどという可能性は考えられないだろうか。

A:党派的対立が進んだ国内政治と外交政策は、互いにもう一方を引きをこす原因となっていると言えるだろう。まず米国国内政治が外交政策に及ぼす影響であるが、かつて米国内に超党派で中道政策を支持する勢力がいた際には、外交政策が大きく変動することはあまりなかった。両極化に伴い、外交政策がより左右に振れるようになったといえるだろう。また、安全保障および経済政策の二つの争点において、米国内左派と右派の支持が交差するかたちで異なっているという指摘は興味深い点である。

次に外交政策が国内政治に及ぼす影響についてだが、これは国際政治秩序において米国の力が単極化していることと、脅威認識に大きく関連している。冷戦中の米国国内政治を見れば、冷戦が国内政治を抑制していたということができるだろう。外敵の脅威の度合いが非常に高かったために、民主党にせよ共和党にせよ政策決定者は、国内において外交政策を政治化することができず、基本的な合意がある必要があったのである。しかし冷戦の終結に伴い、米国にとっての外敵は消え、国内政策が外交政策におよぼす影響が増えた。クリントン政権期の外交政策、特にイスラエルやキューバへの経済政策の例のように、冷戦期とは異なり国内政治利益が外交政策に大きな影響を持つようになったのである。このように、国際秩序において米国とソ連という勢力の二極化の時代が終わり、米国を中心とする単極パワーの出現という構造的変動が、米国国内政治が外交政策に影響を及ぼすようになったことを説明しているといえるだろう。


Q:米国国内政治の両極化と、2008年大統領選挙について。今年の選挙では、民主党オバマ候補はこれまで共和党基盤となってきた南部および山岳部州で、また共和党マッケイン候補は北東部州などの民主党よりの地域で票を集めようとしている。このように政党支持基盤の地域的再編が行なわれることにより、二大政党の外交政策も変化するのではないだろうか。11月の本選挙でこれらの地域でどのような結果が出るかはまだ予測不可能であるが、再編の可能性をどう考えるか。

A:1980年代にレーガン・デモクラッツが登場した背景に、1970年代末に経済政策と外交政策の両方で失敗した民主党カーター大統領がいたように、今回ブッシュ政権も経済と外交の両争点で国民の不満をかっている。よって、今年の選挙が政党再編の契機となることは考えられるが、まだ断固としたことは言えない。
ただし大統領選挙が終わった後に、大統領は支持者らの意見に拘束されつづけるかと言えば、そうともいえない。大統領は政権就任後の二年間で経済の立て直しをはかり、外交政策でひどい失敗をしないようにし、次の中間選挙で自らの政党が議会議席を大きく失うことの無いように執政するものであるが、必ずしも支持基盤に忠実な政策を施行するわけではない。もしオバマが本選挙において、対立候補に大差で勝利し選挙による信任を得た場合には、彼の直感に従った政策を行なう可能性もあり、これはさらに現在の国内政治の両極化を促進させるかもしれない。


(速記翻訳: 平松彩子 東京大学法学政治学研究科博士課程)