タイプ
論考
プロジェクト
日付
2008/9/12

2008年共和党全国党大会をめぐる雑感  久保文明

2008年共和党全国大会は、9月1日から4日にかけてミネソタ州セントポールにて行われた。党大会の実際については、すでに民主党を例にとってある程度詳しく雑感を記したので、ここでは党大会そのものについては簡単に報告するにとどめ、ペイリン要素、両大会の比較などにも触れることにしたい。

ペイリンについて
民主党大会終了の翌日、8月29日のニュースは朝から、マケインが副大統領候補としてサラ・ペイリンを選んだとの報道で埋め尽くされた。本来は昨晩のオバマの演説が何回も再放送されるはずの時間帯であったが、それをマケイン陣営が奪取した形になる。ただ、共和党大会も9月1日から始まるため、29日でなくても30日あるいは31日の発表となる。いずれにせよ、民主党大会の余韻を奪うことになったのは確かであろう。かなり確実に、民主党大会後の「バウンス(支持率の上昇)」を相殺したものと推測される。

ペイリンの選択は意外であった。予想していた人は、本人も含めてほとんどいないはずである。あるテレビのコメンテーターは、天気の予報とマケインの予想ほど難しいものはないと語った。ポーレンティ、ロムニー、リッジらが最終候補に残っていたようである。とくにマケイン自身はリーバーマンに固執したが、彼が人工妊娠中絶容認派であるために、それを絶対に阻止しようとする党内の動きが強まり、結局断念したようである。

ペイリンは妊娠中絶反対派であることから、共和党の保守派は強く支持した。他方で、州知事1期目であり、政治家としての経験があまりに少ないため、それに対する批判や不安が多数提出された。

党内保守派がペイリン起用によって急速にマケイン支持で固まったことは、確実とみてよい。たまたま話しをする機会をもったスティーヴ・シャボット下院議員は、オハイオ州シンシナティ地域から選出されている。保守派の彼自身、当初はマケインを強く支持する気分でなかったようであるが、ペイリン起用で熱烈支持に変わったと述べた。同時に、彼の選挙区の保守的な支持者も、それによってマケインを強く支持するようになったと語った。

女性票が大きく動くという見方もあるが、二つの見方がある。ヒラリー・クリントン支持者は人工妊娠中絶支持派がほとんどであり、女性だから女性候補を支持する人がそれほど多いわけではないという見方。もう一つは、無党派はもちろんのこと、民主党系女性票にも食い込むはずだというもの。

女性票の動向は、次のギャラップの調査が興味深い。詳細は省略するが、共和党系女性有権者の支持を固めるという効果はあったようである。ただ、1980年以来存在してきたいわゆるジェンダー・ギャップ(男女で政党支持パターンがかなり異なり、民主党の方が女性支持率が高い現象)が、最終投票において今回消えるかどうかは疑わしい。http://www.gallup.com/poll/110002/Will-Abortion-Issue-Help-Hurt-McCain.aspx)。
 
マケインが会合で一度顔を合わせただけで、その後いきなり「面接」し、その直後に彼女に決めたその決め方に対して、刹那的、衝動的との批判もある。長女の妊娠問題も登場して、それについて大量の報道がなされたため、その後数日間、マケイン陣営は自分のメッセージを発信することができなくなった。

ハリケーン・グスタフ襲来
もう一つ、共和党を悩ませたのは、ハリケーンがルイジアナ州方面を襲来する可能性が高まったことであった。共和党にとって、ハリケーンは鬼門である。2006年中間選挙での大敗も、カトリーナへの対応の遅れが、少なくとも重要な原因の一部であった。
 
延期などの案も検討されたようだが、共和党は結局、初日は最低限の議事だけに済ませ、二日目から通常の形に戻すことにした。これによって、共和党は宣伝の機会を1日失うことになったが、マケインはハリケーンに配慮した思慮ある政治家を演出した。予定されたブッシュ大統領の演説は翌日のホワイトハウスからの生中継の映像でのそれに変更され、チェイニー副大統領の演説は中止された。ヒラリー・クリントンが民主党大会で、「マケインとブッシュは同じ。実際彼らは来週Twin Cities(セントポールとミネアポリス)で一緒になる」と批判していたが(会場ではとてもよく受けていた批判であった)、結局、大統領のセントポール訪問はキャンセルされた。
 
ブッシュ大統領の支持率は30%台に低迷しているが、共和党員の間では依然として60%程度の支持率を保っており、大会に出席して話をすれば参加者からきわめて好意的な反応があったことは確実である。しかし、結局、共和党に2期8年間の政権をもたらしてくれたこの大統領は会場に足を踏み入れることはなかった。同じ2期目を終えつつあった過去の大統領の扱い(2000年のクリントン大統領、1988年のレーガン大統領)と比較すると、大きな違いである。ハリケーン襲来という口実が存在するにせよ、現職大統領の扱いとしても異例であろう。そして、チェイニー副大統領の演説は、結局葬られてしまった(彼は大会中、遠くグルジアの地にいた)。
 
かくして、大会初日となった9月1日、最低限の事務的な議事だけで処理され、静かな幕開けとなった。わずかに、ローラ・ブッシュとシンディー・マケインが揃って登場した場面が華やかであった。ニュースもグスタフに独占された。これでは何を行っても、メッセージを発信することは不可能であろう。ただし、夜には相当派手なパーティが各所で開催されていたようだ。党大会は同時に多くの政治団体、利益団体、ロビイスト、そしてジャーナリストやコンサルタントなど、政治で生きる人々にとって、4年に一度のオリンピックであり、就職活動の機会でもある。ABCの記者がその場面の写真を撮ろうとして追い出されたとの報道があった。

大会第二日目
 共和党も一日ごとにスローガンが付けられていた。初日はServing a Cause Greater Than Self, 二日目はService、三日目はReform、最終日はPeaceであった。(http://www.gopconvention2008.com/参照)。
 
二日目には、前述したようにブッシュ大統領がビデオ映像にて登場した。また、大統領選挙に出馬しながらまったく精彩を欠いたフレッド・トンプソンが演説し、マケインを強く支持した。彼にしては珍しく(?)、迫力のある演説であった。この日のハイライトは、リーバーマンの演説であった。
 
2000年には民主党副大統領候補であった政治家が、その8年後に共和党大会で演説することは、まことに異例である。しかももう少しで、他党の副大統領にもなるところであった。
 
他方で、民主党大会においても、アイオワ州選出元下院議員ジム・リーチ、アイゼンハワー大統領の孫娘スーザン・アイゼンハワーら、リーバーマンほどの大物ではないにしても共和党員が出席し、手厳しい共和党批判を展開した。民主党大会では、一般的には共和党系が多いといわれる退役軍人も多数動員し、壇上に並べていた。
 
リーバーマンが演説で語りかけたのは、明らかに会場の共和党員ではなく、テレビで見ている無党派層ないし民主党員であった。その重点は、外交・安保政策であり、マケインの経験を強調することによって、危機の時代に指導力を発揮でき、また政党対立を打破できるのは彼だけであると力説した。実際のところ、リーバーマンと共和党保守派の共通点は、タカ派的、あるいはネオコン的外交観だけであり、ほとんどの国内政策で意見を異にしている。その点を考えると、彼の登場はきわめて興味深い。なお、会場での反応はそれなりに熱烈であった。(http://edition.cnn.com/2008/POLITICS/09/02/lieberman.transcript/index.html)。

大会第三日目
この日の最大の注目点は、副大統領候補に指名されたペイリンの演説であった。その前には、ロムニー、ハカビー、そしてジュリアーニといった、マケインと指名を争った候補者たちが揃い踏みをして、マケインを讃え、オバマをこきおろした。経験がないこと、リベラル過ぎること、そして中身がないことなどである。とくにジュリアーニの演説はパンチが効いていて、会場で拍手喝采を受けていた。
 
ペイリンの演説は、期待値が低かったこともあるが、十分に合格ラインを超えるものであった。家族を大事にし、small town 的価値の体現者、ワシントン政界のアウトサイダー、および改革者としての自己像をアピールしたあと、オバマを厳しく批判した。その中には、コミュニティ・オーガナイザーとしての経歴をまったく責任が伴わないものとして一蹴する発言もあった。政治家としての「タフネス」を示すと共に、家族を大事にする女性としてのfeminineな側面(たとえば夫は、高校で20年前に出会い、5人の子供を作った後でも、依然として自分が夢中の人である(he is still my guy)、と述べた)も示した。副大統領候補指名受諾演説を済ませたその壇上で、生後5ヶ月のわが子を抱く光景・・・そう頻繁にあることではない。

これほど大会直前の指名であればある意味で当然であるが、このスピーチのドラフトはすでにペイリンが指名されたときには出来上がっていて、一部のみが彼女に合うように修正された、と報道された(保守派は、リベラル派はペイリンの演説が良過ぎたため、唯一彼らが批判できる点が、ドラフトがこのように事前に書かれたということだけであったと反撃した)。他方で、民主党女性議員は、小学生でもこのくらいのスピーチはできると酷評した。
 
会場の反応は熱烈であった。翌朝出席したナショナル・ジャーナル誌主催のラウンド・テーブルにおいて、共和党系専門家から、彼女はいずれ大統領候補にもなるであろうとの指摘が数回なされていた。マケインはペイリン指名によって、保守派を固めることには、当初の期待以上に成功したようだ。29~30日の1日で700万ドルもの献金を、マケインは獲得した。これは、彼が昨年10~12月に集めた献金の総額も上回る。会場にいて感じたことは、ペイリンの名前が触れられたときの歓声は、実はマケインの場合よりも上回るくらいである、ということであった。
 
ペイリンはこれから、メディアによって容赦のない粗探しをされることになる。日曜日の政治番組にも出演して、厳しい質問にも答える必要がある。遊説でさまざまな質問を浴びせかけられることになる。バイデンとの討論も大きな関門であろう。これらをうまくこなせるか。これまでのところ、遊説中に一切質問を受けない方針(“no question, please”)を貫いている。このままで逃げ切ることができるであろうか。
 
ただ、過去、1988年のクウェールを指名したブッシュの例のように、指名に失敗しても大勝した例はある。このとき、デュカキス陣営が流したCMは傑作であった。ブッシュ陣営の参謀たちがひそひそ話し。「大変な失敗をした」。「思い切って取り変えよう」。「いや、もう手遅れだ・・・」。やや記憶が曖昧だが、このような会話であった。オバマ陣営にこのCMをリサイクルする機会はめぐってくるであろうか。

大会第四日目
当然、フィナーレを飾るマケインの演説が注目点である。その前にビデオが上映され、捕虜となった時代の映像も紹介される。これを見せられるだけで、多くの有権者は涙を流し、掛け値なしにマケインを尊敬する。
 
マケインの演説は、共和党をも一緒に批判し、共和党への信頼の回復を訴えたところに特徴がある。Big spenderと既得権益に対抗する姿勢を示し、オバマとは違った意味での改革者であることを示そうとした。フロアの聴衆ではなく、テレビを見ている無党派層と民主党支持者に語りかけた。ブッシュ政権との距離を可能な限り大きくしようとしていることは明白である。右派の支持者はペイリンによって固めたという判断であろう。ただし、具体的な政策的としては、基本的に小さな政府であり、減税であった。(http://edition.cnn.com/2008/POLITICS/09/04/mccain.transcript/index.html)。
 
おそらく1時間近くかかったかなり長い演説であった。聴衆の反応は、熱狂的であった。マケインにとって、一世一代の大演説であったといってよいであろう。力のこもった演説でもあった。彼のいわば英雄的生涯とも合わせ、大きく引き寄せられた有権者も多いであろう。ブルーカラー層を含む愛国心の強い有権者に強くアピールしたことは、間違いない。ただし、弱いのは、愛国心が強いのと同時に、毎日の生活に苦しむブルーカラー層に、これといった具体的な対策を提示できない点である。ブッシュ大減税の継続が経済政策の柱であるが、これがどの程度彼らの支持を獲得するうえで効果的であるか、かなり疑わしい。マケインが重視するのは、そして実際に演説で強調したのは、沿岸での石油採掘の実施である。長いことマケインはこれに反対であったが、最近態度を変え、原油価格引き下げの切り札として前面に押し出している。そして、かつて反対、そして最近場合によると賛成と動揺しているオバマに対して攻勢をかけている(会場では、”Drill! drill!”の大合唱であった)。
 
マケインの演説はふつう、かなり完全にプロンプターに依存している。プロンプターが止まったり、早く回りすぎたりして演説が止まるシーンがよくテレビに映る(そのシーンを集めたプロ野球の珍プレー特集のような映像もある)。その意味では、指名受諾演説は非常にいい出来であったといえよう。

共和党大会の評価
ペイリン指名効果と一体となっているために、党大会だけの効果を取り出して測定することは困難である。ただ、おおよそ6%から10%程度の支持率上昇がみられることは確かである。それまでオバマ・リードの世論調査が多かった中で、一挙にマケイン・リードの数字が多数登場した。
 
党大会後のバウンスの評価について、もっとも難しいのは、そのうちのある部分は確実に有権者の心の中に残り、投票日まで持続するが、他の部分は忘れ去られ、一過性のものとして消えていく。その比率を見極めることである。
 
ペイリン指名によって、それから10日程度たった時点での調査によれば、白人女性のマケイン支持率が、オバマ支持に対して、それ以前で-8%であったのが+12%へと一挙に20%も動いた。先に紹介した二つの見方でいえば、この期間に限れば、民主党系の女性にも食い込んでいると見られる。少なくとも短期的には、”game changer”であることは否定しがたい。
 
ペイリン、ジュリアーニ、リーバーマン、トンプソン、そしてマケインと、それぞれ強烈なスピーチを揃え、そして実際に大きなバウンスを生み出した共和党大会も、成功であったと評価できよう。オバマ演説を見た人間の数も驚異的であったが、実はマケインはそれをさらに上回り、3890万人を記録した。(http://www.reuters.com/article/politicsNews/idUSN0439266820080905)。
 
最後に、全体としてみた両党党大会の簡単な、かつ非学問的・印象論的比較を行いたい。

代議員の数は民主党が4,000人以上、共和党が2,000少々であるため、当然、民主党大会の方が規模が大きい。参加者の数も多い。民主党の代議員には若者が多く、半分以上が女性であり、またネイティヴ・アメリカン、黒人、アジア系なども多く、人種・民族的に多様である。
 
民主党のバックグラウンド・ミュージックは生バンドであったが、共和党は録音であった。民主党大会にて私どもに割り当てられた席は生バンドのすぐ後ろであった。候補者を見るのに適した場所ではなかったが、(少しうるさいが)バンドの迫力は楽しめた。
 
共和党の方がセキュリティ・チェックがはるかに厳しい。車も一台一台、ボンネット、トランクを開け、また警察犬を使って、徹底的な検査を行っていた。民主党ではそこまで行っていなかった。会場外での抗議運動が凄まじかったのも共和党大会であった。また、会場の代議員が着席するフロアには通常のメディア・パスでは入れないが、民主党大会では、早めに入れば大丈夫なようであった。共和党大会ではそこもチェックが厳重であった。
 
興味深い違いは、代議員らが掲げるサイン(紙のプラカード)である。共和党大会は2~3日目は一種類しか出回ってないようであったが、最終日になって、ようやくスピーカーにある程度合わせたサインが複数配布されていた。それに対し、民主党大会では、膨大な数のボランティアを動員して、一つのスピーチの中でも、そのキャッチ・フレーズに合わせて、サインが配布されていた。おそらく30分ごとといってもよいのではなかろうか。そして配布する若いボランティアたちは「このサインはすぐにかざさないで、演説の最後に掲げるように」といった指示も伝えていく。この組織力には驚いた。もちろん、伝言ゲームのように指示はうまく伝わらず、配布されたサインがすぐに掲げられてしまうケースもまま見られたが、テレビ・カメラ用にここまで演出しようとする民主党大会企画者の熱意には感心させられた。
 
最後に、代議員の座る場所であるが、民主党の場合(共和党については未調査)、オバマとバイデンの出身州であるイリノイとデラウェアは正面・最前列のもっとも良い席が与えられていた。それ以外では、オハイオなど接戦州の代議員が厚遇されて、良い場所があてがわれる。そして、ほぼ確実に民主党が勝てる州とほぼ確実に勝てない州は、遠い席、あるいは横ないしほとんど後ろの席に座らされる。民主党代議員の座る場所を厚遇することが、接戦州を勝ち取ることに貢献するか否か、かなり疑問ではあるが、すべてが政治的に決定される世界であることが思い知らされる。

いうまでもなく、夜の華やかなパーティに招待されるかどうかも、献金額次第である。

註) 共和党大会についても朝日新聞社の加藤洋一アメリカ総局長ほか、同社スタッフのお世話になった。記して謝意を表したい。