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ワシントンUPDATE  「F-22をめぐる事情」

November 10, 2009

スコット・ベイツ(前バージニア州務長官、コネチカット・カレッジ客員教授)

アメリカのアジア戦略

中国の台頭に伴いアジアにおけるアメリカの優先順位が変わるのではないかという根本的な問いを、多くのアメリカの同盟国が発するようになった。「アメリカは伝統的な同盟国に対する配慮を減らしてまで、中国との関係構築を図るだろうか?」という問いかけがその典型である。

この問いかけは、部分的にはアジア地域におけるパワーバランスの変化から来ているが、アメリカの伝統的な同盟国が抱くこの不安の一部はまた、彼ら自身の将来への不安に根ざしている。こういう状況においては、アメリカの行動がワシントンとアジアで異なる受け止め方をされる恐れがあり、誤解を生じるリスクも大きい。

F-22と日米同盟

F-22戦闘機をめぐる状況はその典型例である。F-22は世界最新鋭の性能を備えており、アメリカは航空戦力において30年間は他国の追随を許さないという狙いをもって作られた戦闘機である。2009年初めの時点で、187機が製造され、米空軍に配備されたこの航空機は、高度な性能を備えているが、また高価な兵器でもある。

日本政府、とりわけ防衛省ではこの最先端の戦闘機を購入しようという機運が高まった。この戦闘機の導入によって、どのような敵であれ空からの侵略から日本を守ることができると考えたのだ。高額な戦闘機の購入によって、日米関係が強化されると見る向きもあった。アメリカにとっては、最新鋭の戦闘機を日本に提供することによって、日米間が強い信頼のきずなで結ばれており、相互に自衛の意思が固いことを示す材料となる。つまり、F-22の日本への輸出は、アメリカにとって日本が東アジアにおけるもっとも重要な国であると宣言することになるのだ。

F-22戦闘機の日本への輸出は、アメリカの戦略にも合致している。太平洋地域においてアメリカが最も信頼する同盟国との関係が依然として強固であることを示す政治的意味合いとともに、日本の防衛能力を強化することにもなるからだ。また、F-22の輸出が実現すれば、その生産に携わる数千人の雇用が維持されるだけでなく、巨額の貿易赤字の削減にも役立つのだ。このように、F-22の日本への輸出はいろいろな意味でアメリカにとって合理的であるにもかかわらず、実現しなかった。

ゲーツとペンタゴン改革

ワシントンでは政策の優先順位が変わったのだ。ラムズフェルド前国防長官の後任にゲーツ長官が就任すると、国防総省ではリストラが始まった。ラムズフェルド前長官は任期中に軍隊の再編を推進し、次世代のハイテク兵器の獲得や機動的で小規模編成の戦力構造を好んだ。ところがゲーツ長官がペンタゴンの指揮権を握ると、未来志向の戦力を発展させることではなく、イラクやアフガニスタンなど現在戦っている戦争に勝利する方向に資源や戦略を向けるべきだと考えた。

すなわち、ゲーツ長官はアメリカの防衛体制の優先順位を根本的に見直し、調達する兵器および調達方法を改革することが自分の優先課題だと宣言した。ゲーツ長官はまず陸軍において、対反乱作戦の原則と安定化作戦の地位を引き揚げることから始めた。このことは、大規模な通常軍と戦うための戦力から、反乱分子に打ち勝つことのできる戦力への転換を意味した。ゲーツはまた、現在の戦争に役立たない兵器を削減することで陸軍拡大のための資金を得ようとした。ゲーツ長官にとっては、イラクでもアフガニスタンでも実戦配備されたことのないF-22は、まさにそのような兵器だったのだ。

オバマは、2009年大統領に就任すると、ゲーツ国防長官の留任を決定、同長官に信認を与えた。未曾有の経済危機に見舞われたアメリカにとって、ペンタゴンにおける経費削減は新たな緊急性を帯びた課題であり、オバマ大統領はゲーツ長官のF-22生産中止を支持したのだ。

F-22問題の政治的意味

しかし、F-22は、全米44州1000を超える部品メーカーによって支えられているため、その製造中止はそう簡単ではないことがわかった。F-22の製造を中止すれば、何千という雇用が失われることになり、再選を目指す多くの議員にとっていい材料ではないからだ。

それでも、ペンタゴンの改革を実現するにはF-22の生産を中止することが必要であるとの大統領と国防長官の決断は揺るがなかった。オバマは政権初期に議会で勝利を収める必要があり、大統領とそのチームは議会での攻防に全力を注いだ。オバマは、F-22に金を使うのは浪費以外の何物でもないとして、F-22関連予算を含むすべて法案に拒否権を発動すると宣言した。こうして、ペンタゴンの経費削減と優先順位の見直しのために、国防長官と大統領はF-22プログラムを終了したのだ。

日本へF-22を輸出することになっていれば、何年かの間は生産ラインが維持され、F-22の支持者たちはプログラムを存続させる時間的余裕を得たであろう。そうなれば、日本の防衛上のニーズは満たされる一方で、ワシントンではより大きな政治的対立が引き起こされたであろうし、それは日米の安全保障関係に何の関わりも持たなかっただろう。

アメリカが日本に対するF-22の輸出を拒否したことは、日米関係の力学ではなく、アメリカの内政の脈絡で捉えるべきだ。それは、同盟国日本への信頼の欠如と受け止めるべきではない。この問題におけるオバマ大統領の選択は、ペンタゴンの優先順位の見直しと、議会での影響力を政権初期の段階で確保したいという大統領の願望から出たものなのだ。

(翻訳:政策研究部 片山正一)


■オリジナル原稿(英文)はこちら 【PDFファイル 13.0 KB】

    • 元東京財団研究員兼政策プロデューサー
    • 片山 正一
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