タイプ
論考
プロジェクト
日付
2010/3/18

第22回 現代アメリカ研究会報告 「グローバルな視点から見た米軍再編」

2月2日に現代アメリカ研究会が開催されました。今回は本プロジェクトメンバーである秋元千明氏より、日米間の重要なイシューとなっている沖縄の基地移設問題を米軍再編という広い文脈に位置づけてご報告をしていただきました。

「グローバルな視点から見た米軍再編」秋元千明氏(NHK解説委員)

1. 同盟国間の軍の統合
米軍再編とは基地の配置場所の再編成だけを意味するわけではなく、米軍の組織をはじめとして戦略や戦術など、軍事組織の大幅な改革を意味している。現在の米軍再編の作業は、ブッシュ政権からオバマ政権にそのまま引き継がれている。

米軍再編の目標は、まず、軍隊の統合的な運用を可能にすることである。軍隊を統合して運用すれば、全体の戦力、つまり抑止力を維持しながら兵力を削減することが可能になる。そのため、米軍は、二種類の統合を目指している。第一に、同盟国の軍隊との統合であり、第二に米軍内の軍種間の統合である。

同盟国軍との統合の動きは、すでに90年代後半からNATO(北大西洋条約機構)で試みられてきた。NATOでは、国別に編成された各国の部隊が横の連携を取りながら行動をするという方式から、一つの部隊に各国が人材を提供するMultinational Force(多国籍部隊)の編成が試みられてきた。

日本での米軍部隊の再編もその一環であるが、日本の場合は集団的自衛権の行使に政治的制約があることから、自衛隊と米軍の統合にまでは踏み込むことはないが、それに向けた第一歩として、部隊間の連携を密にするという方向で組織の改編が進められた。

たとえば、沖縄の嘉手納基地駐留の空軍部隊が、日本各地の航空自衛隊の基地へ展開し、各地で共同訓練を行ったり、陸上自衛隊の中央即応集団の司令部が、神奈川のキャンプ座間に移駐し、同じ座間に司令部を置く米陸軍第一軍団前方司令部との連携を深めることになったし、東京の横田基地では航空自衛隊とアメリカ空軍が共同運用調整所という司令部で、連携しながら、弾道ミサイルの脅威への対処などにあたることになっている。

2 米軍内での軍種間の統合
米軍内の軍種間の統合は、陸軍・海軍・空軍・海兵隊という四つの軍隊を一つの統合的な軍隊として運用しようという試みである。例えば、海兵隊の戦闘機は海軍の艦載機と同じFA18戦闘攻撃機を保有しており、それぞれの軍が同じような兵器を保有し、別個に軍事作戦を行うのは不効率だという指摘は古くからあった。1980年代には、海軍と海兵隊の間で航空機の交換計画が行われたこともあった。同じ機材を共同で使い回すという試みであったが、こうした試みは軍種間の壁を越えることができず、結局、戦術や文化の違いという理由で、4軍は別個に活動を続けてきた。

ところが、2000年代に入って、革命的な変化が起きてきた。IT技術の発達である。これによって、軍種間の統合が一挙に進みつつある。Network Centric Warfare(NCW)という概念が生まれたのである。よく、軍事の革命(RMA)という言葉で表現されるが、その核心は戦場のネットワーク化である。それは、同じ戦域にある米軍部隊同士や、前線と司令部がデータ・リンクによって結び付けられることを意味している。

NCWは戦域を劇的に変化させた。従来の前線部隊なら、あらゆる事態に対してすべて自分で対応しなくてはならず、応援を期待して、装備を減らすなどありえないことだった。一つの部隊は歩兵から戦車までさまざまな装備を携えて移動していた。ところが、ネットワークによって部隊同士が結び付けられた結果、すべての前線部隊が有機体のように結合することが可能になり、それぞれの部隊が置かれている状況を瞬時に、リアルタイムに把握して行動することが可能になったのである。

例えば、イラク戦争で、クウェートからイラクにまっさきに進攻した陸軍第三師団は砲兵部隊を伴ってはいなかった。重い大砲や大量の砲弾を装備した砲兵部隊を伴って移動するということは、部隊にとって大量の鉄のかたまりを引きずりながら前進するようなものであり、その分、部隊の機動性はそがれることになる。一方、砲兵部隊を伴わない部隊は非常に身軽であり、部隊の機動力は飛躍的に高まる。

そして、第3師団の砲兵の役割を担ったのは、実は、ペルシャ湾に展開した空母キティ・ホークの海軍艦載機であった。海軍艦載機FA18は、陸軍の部隊から支援要請を受け、具体的な攻撃目標も知らされないまま空母から発進した。前線の上空に近づいたところで、FA18のパイロットは地上の陸軍部隊から、攻撃目標のデータを通信ネットワークを通じて受け取り、パイロットがそのデータを精密誘導爆弾に入力し、爆弾が地上の目標に向かって投下されたのである。つまり、海軍の攻撃機は陸軍の大砲の役割を演じたのである。

最近では、パイロットがわざわざ攻撃目標のデータを入力しなくても、現場の上空に達するだけで、攻撃機に搭載したコンピュータが地上から送られてきた攻撃目標のデータを受け取り、自動的に爆弾の誘導装置に、書き込んで、最もふさわしいタイミングで爆弾を投下させる仕組みが完成している。この一連の地上部隊と航空部隊の連携は、戦場の通信ネットワークによって初めて実現したものであり、これこそがNCWである。これによって、地上の陸軍部隊は従来の数倍もの速度でイラクの奥地まで猛スピードで進撃することができたのであり、メディアが「快進撃」と評した陸軍部隊の活動は、実はこのNCWによって支えられていたのである。

3 戦場と司令部の分離:リーチバック構想
戦場のネットワーク化は戦場における部隊間の統合を進めただけではなく、後方の司令部と前線の関係をも変化させた。司令部は前線に縛られる必要はなくなり、遠隔地から俯瞰的に広い地域にまたがる複数の前線を把握し、指示を出すことが可能になった。これが、2005年国家防衛戦略の中で言われていたリーチバック(Reach Back)構想である。

現在では、中東における軍事作戦においてハワイから指令を出すということすら可能である。事実、アフガニスタンでテロリストを掃討する作戦を行っている無人の偵察・攻撃機プレデターは、フロリダの中央軍司令部から衛星を介して操縦されることもある。

4 太平洋における司令部の再編
リーチバック構想では、司令部は広い視野で前線の軍隊を運用することが可能であるから、軍種間での統合も進めやすくなる。この構想は、アジア・太平洋地域においてはこれまで各地に分散配置されていた司令部を、三カ所の司令部に集約し、それぞれの司令部が三角形の頂点をなすように形作られつつある。

具体的には、沖縄の海兵隊司令部をグアムへ移転し、ワシントン州の陸軍第一軍団司令部をキャンプ座間へ移し、ハワイにケニー空軍司令部を創設して、この三つの司令部をネットワークで結びつけようというものだ。日本にとって地元負担の軽減のために行われる沖縄の海兵隊司令部のグアム移転は、実は日本側の事情にだけ配慮したものではなく、アメリカの司令部機能の再編という大きな構想の一部を成していると言って良い。

この構想が実現すると、グアムの海兵隊司令部は、2000キロの距離を超えて、沖縄に駐留する歩兵・ヘリコプター部隊、岩国の戦闘機部隊、佐世保の揚陸艦部隊に指示を出し、アジアのどの地域にも迅速に海兵隊を展開できる体制が整う。

ハワイのケニー空軍司令部は、世界に10カ所ある空軍の戦闘司令部の一つであり、太平洋からインド洋までを指揮下に置いている。最近、最新鋭のF-22戦闘機が、しばしば、ヴァージニア州のラングレイ基地から沖縄へ、アラスカ州のエルメンドルフ基地からグアムへと展開しているが、これはケニー司令部の新しい指揮系統を試す訓練でもある。グアム島には、グローバル・ストライク・タスク・フォース(Global Strike Task Force)と呼ばれる空の緊急展開部隊が編成され、F-22戦闘機の部隊もその一部を成している。

陸軍の司令部機能は日本の座間基地に集約されることになっている。平時には座間は第一軍団前方司令部として機能するが、有事の際には第一軍団司令部として格上げされ、太平洋地域の4軍を指揮する機能がある。また、陸軍と海軍第七艦隊の連携も進んでいて、朝鮮半島での有事の際、在韓米軍司令官が第七艦隊の旗艦ブルー・リッジに乗り込み、海上から指揮をとるという体制が実現しようとしている。

5 海兵隊
在日米軍の再編に伴って、沖縄からグアムへと移転するのは、海兵隊の司令部機能だけである。海兵隊の部隊移転について考える際には、海兵隊という部隊の特殊な能力を理解する必要がある。海兵隊は他の三軍とは異なり、陸と空の戦力を備える自己完結型の軍隊であり、他の軍隊の支援がなくても、一定の期間、戦闘を継続できるよう装備や兵員が配置されている。つまり、紛争地域へ緊急展開し、短期間でも単独で戦闘を継続できる能力が重視されている。警察に例えれば、パトロールカーに乗った外勤の警察官のようなものだ。

したがって、海兵隊の部隊を再編し、基地の整理縮小を行う場合、海兵隊の緊急展開能力が損なわれないことが必要条件となる。海兵隊は、規模が異なるものの、相似形のユニット(部隊)で構成されている。どの大きさのユニットであっても部隊の構成は変わらず、歩兵・砲兵・戦車、ヘリコプター・戦闘機・揚陸艦を装備している。

最小規模のユニットの名前をAir Contingency Marine (ACM)といい、18時間以内に全世界のどこへでも展開できる能力を備えている。次に小さなユニットは2000名から構成されるMarine Expeditionary Unit (MEU)であり、平時には洋上に遊弋していて、有事の際、48時間以内に紛争地域に展開する。アメリカの海兵隊は世界に7つのMEUを配置している。

さらに、その上には、8000人規模のMarine Expeditionary Brigade (MEB)、そして最大規模のものとして18000人からなるMarine Expeditionary Force (MEF)と呼ばれるユニットがある。アメリカは世界に3つのMEFを持ち、沖縄の第3海兵遠征軍(Third MEF)は、アメリカ本土以外に駐留している唯一の海兵遠征軍である。

一般的に言って、海兵隊は、移動手段である揚陸艦から500キロ以内に他の全ての部隊(歩兵部隊、ヘリコプター部隊、戦闘機部隊など)が駐留していなければ、緊急展開能力が損なわれる。警察官とパトロールカー、携帯用の拳銃を、別々の警察署に配備するようなものだからだ。

また、海兵隊には作戦を支援する民間の部隊がある。事前集積軍(MPF:Maritime Preposition Force)と呼ばれ、事前集積船(MPS :Maritime Preposition Ship)を保有する三つの部隊から構成されている。MPSは海兵隊の一個旅団が一ヶ月間戦闘を継続できる物資を提供する能力があり、日本周辺では、グアム・テニアン近海に配備されている。
 
6 沖縄と海兵隊と普天間移設先
普天間基地の移設先を検討する場合、上記のような海兵隊の作戦活動に配慮しなくてはならない。一般的に言って、有事の際、日本に駐留する海兵隊は、まず岩国の航空機部隊のFA-18戦闘攻撃部隊が直接紛争地域へ向かうか、洋上の空母に着艦し、紛争地域に向かう。垂直離着陸機ハリアーは、佐世保の揚陸艦部隊と合流する。揚陸艦は沖縄へ向かい、ホワイトビーチで兵員と装備を積み積み込んだ後、普天間基地のヘリコプターが揚陸艦に移動して、紛争地域に展開する海兵隊のパッケージが整うことになる。

ヘリコプターの実用的な飛行距離は500キロ程度であり、この飛行距離内に他の部隊が駐留していなければ、海兵隊の緊急展開に悪影響が出る。すなわち、普天間基地の移転先を考える場合、こうした移動距離を念頭に置く必要があり、グアム島や硫黄島に普天間基地を移設することは海兵隊の緊急展開能力を維持する限り、極めて困難だろう。 

普天間基地の移設先を検討するにあたっては、もう一つ条件がある。垂直に離陸し、水平飛行ができるMV22オプスレイと呼ばれるチルト・ローター機が、将来配備されることである。 沖縄以外のMEFには既に配備が始まっており、普天間基地の移設先にも配備される見通しである。

オプスレイは垂直に離着陸することも可能であるが、実際の基地での運用にあたっては、滑走路を使った方が効率的であるために、やはり一定の長さの滑走路は必要になる。もちろん、MV22は、通常の固定翼の航空機よるははるかに短い滑走距離で離着陸できるが、航空基地には物資を定期的に搬送する必要があり、やはり、C-130やC-17といった一般的な輸送機が離着陸できる滑走路は必要になるだろう。

普天間基地からの移設先について議論をする場合には、このような海兵隊という特殊な軍隊の特徴を理解した上で、軍事的合理性に基づいた判断をすることが、政策の立案のために必要である。

Q アメリカは、沖縄の海兵隊の司令部機能の移設にともない、8000人のグアムへの移転を決定しているが、そもそもアメリカにとってこのプランは受け入れ易いものだったのか?
A もともとは沖縄の地元負担の軽減のためのアイデアだったと思うが、後に、リーチバック構想の一部に組み入れたのだろう。しかし、沖縄の司令部では、地元の人々と良い関係を築く意味でも、やはり前線部隊と司令部の距離は短い方がよいと考えていたし、その意見は現在でも強いと思う。

Q アメリカは普天間基地から、どこへも動きたくはないと考えているのか?
A 海兵隊も市街地に近接した基地でヘリコプターを運用したくはない。基地周辺に住む人々が住宅のそばでヘリコプターを飛ばしてほしくないように、兵士も住宅のすぐ上空でヘリコプターを飛ばすのは不安に思っているはずだ。

Q アメリカは現行案が廃案になった場合、どのような代替案なら受け入れるだろうか?
A アメリカにとって現在考え得る最善の策は現行案だ。ただ、アメリカもその他の案はすべて拒否するというわけではなく、現行案より良いと思える案か、もしくは、これまで検討したこともないような全く新しい案がでてくれば前向きに検討するだろう。しかし、過去に検討はしたが採用しなかった案を、今回は再検討して受け入れるということはまずないのではないか。もし、代替案が成立するとすれば、報告の中で述べたように、部隊の運用上、基地の移設先は九州から沖縄のどこかになるだろう

Q リーチバック構想は画期的な方式だと思うが、前線と司令部の距離を離すことによって生じる問題はないのか?
A ネットワークのセキュリティと安定した運用が構想実現にとっての肝要な部分となっている。そのため、米軍は最新の方法と古典的な方法とを共存させている点にも注目する必要がある。例えば、海兵隊は部隊間の連絡のため昔ながらの伝令部隊も持っており、必要に応じて伝令が重要なメッセージを手渡しで運ぶこともある。

Q アメリカでは財政赤字の拡大が深刻だが、軍事費の観点から見ると、米軍再編は縮小になるのか、拡大になるのか?
A 米軍再編を進めたラムズフェルドは安くなるのだとアピールした。しかし議会調査局は、様々なコストによって以前とさほど変わらないとする報告書を公表している。

■報告:梅川健(東京大学法学政治学研究科博士課程)