タイプ
レポート
プロジェクト
日付
2009/11/12

第20回 現代アメリカ研究会報告

10月1日に、第20回現代アメリカ研究会が開催されました。本研究会では、まず、オバマ政権のエネルギー政策の詳細について杉野綾子氏(日本エネルギー経済研究所)について報告していただき、次に本プロジェクトメンバーである細野豊樹氏(共立女子大学)から、オバマ政権のエネルギー政策と民主党の選挙戦略の関係についての報告をしていただきました。

第一報告「オバマ政権のエネルギー政策」杉野綾子氏(日本エネルギー経済研究所)

アメリカ国内のエネルギー需要は1990年以降右肩上がりであり、今後もその傾向は持続すると予想されている。オバマ政権は、エネルギー需要の増加という、ブッシュ政権と同様の必要に迫られながら、ブッシュ政権とは異なる政策を打ち出している。エネルギー政策のそれぞれの分野において、オバマ政権がどのような政策を打ち出しているのかを把握することが、本報告の目的である。

石油政策:石油政策は、アメリカのエネルギー政策の根幹である。ブッシュ前政権とオバマ政権に共通する目標は、石油を輸入に依存することからの脱却である。ただしその目的を実現する方法は異なっている。ブッシュ政権はアメリカの中での石油探鉱開発を奨励し、設備投資を促進するような減税政策を採用した。他方、オバマ政権では、石油消費の抑制が議題に上がっており、例えば、運輸部門における石油消費についての対策に乗り出している。また、オバマ政権は石油が過剰な金融商品化の対象となっていることを問題視しており、先物市場の監視強化や、石油への税制上の優遇措置の撤廃を目指している。気候変動政策との関連では、オバマ政権は石油業界に対策コストを負担するよう求めているが、これについては産業界全般から反対の声があがっている。

天然ガス:ブッシュ前政権では、国内での増産とそのためのインフラの拡充が進められた。他方で、オバマ政権は天然ガスについて選挙キャンペーンの頃からはっきりとした態度を明らかにしてこなかった。この点について、オバマ政権はクリーンなエネルギーの重視を訴えているにもかかわらず、比較的クリーンな天然ガスについて言及そのものがないことについて、批判の声があがっている。

石炭:石炭については前政権の政策を現政権が踏襲している。石炭需要はアメリカ国内での産出分でまかなうことができ、輸入に頼る必要がない。消費の場面では、アメリカのエネルギー消費の約50%を石炭が占めている。ブッシュ前政権は、石炭を燃やした際に発生する二酸化炭素の回収技術(CCS)の開発に投資し、オバマ政権はCCSの商業化にむけて乗り出している。ただし、アメリカ国内に新たな石炭火力発電所が建設されることはなさそうである。この5年間の間に、連邦は火力発電所の建設許可を出しているものの、住民の反対運動のために、一つも新設されていない。

送電インフラ:アメリカにおける送電線網の老朽化は、両政権を悩ませる問題である。ブッシュ前政権はインフラの刷新とグリッド近代化に乗り出し、安定した電力供給を目指した。オバマ政権は、インフラの刷新を継続して進めると共に、電力消費の節減と低炭素電力の拡大を目指している。送電インフラのモデルとして、「スマート・グリッド」が提示されている。これは、どこで電力が使われているのかをリアルタイムで把握し、価格メカニズムを強化することによって、需要家の省エネインセンティブを高める。同時に、風力や地熱等、不安定な再生可能電力の供給もリアルタイムで把握し、柔軟な需給調整を行うというシステムである。

再生可能エネルギー:再生可能エネルギーとは、風力、地力、潮力、太陽光、バイオ燃料などから得られるエネルギーである。この新しいエネルギーには二つの問題がある。風力などの自然の力を利用する場合に、得られる電力が一定ではないことが、送電線に負担を掛けてしまうという問題と、バイオ燃料の原料が食料や飼料と競合するという問題である。ブッシュ政権は、再生可能エネルギーを国産エネルギーとして重視し、補助金や減税によって保護した。オバマ政権でも補助金と減税制度は継続されており、さらに非食料系バイオ燃料の開発に力を注ぐことで問題を解決しようとしている。

核エネルギー:ウランはアメリカ国内で産出され、その価格は石油やガスに比べて安定している。1979年以降、アメリカでは新たな原子力発電所は建設されなかったが、ブッシュ政権はこの方針を積極利用へと転換し、新設を支援するとともに、既存原子炉の耐用年数を延長するという政策を打ち出した。他方で、オバマ政権は原子力政策について沈黙を保っている。

2008年の大統領選挙は、これまでに見られないほどに、エネルギーが政策イシューとして取り上げられた選挙であった。オバマ政権はそれぞれのエネルギー分野において、新しい政策を打ち出しているが、エネルギー政策について重要なのは、エネルギー間のバランスと安定的な投資環境である。オバマ政権が沈黙を保っている天然ガス政策や原子力政策の今後が特に注目される。

第二報告「オバマ政権『緑の雇用』の選挙政治:最適の公共政策と支持基盤利益誘導の一致に向けた試み」細野豊樹氏(共立女子大学)

アメリカの環境政策は、1970年の環境庁(EPA)設置以来、規制政策が中心であり、経済面では雇用や物価にネガティブな影響を与えるものだと考えられてきた。オバマ政権は、新しいパラダイムで環境政策を論じている。すなわちオバマ政権は、環境政策を経済の圧迫要因とは捉えず、「緑の雇用」(green job)を創出する手段であり、成長の源泉として位置づけているのである。

民主党系のシンクタンクであるCenter for American Progressによれば、環境産業は労働集約型であり、財とサービスの国内調達率が高く、熟練労働者であることを要しないエントリー・レベルの雇用を広く創出する。Van Jonesは、そのような環境産業が若者や黒人に職をもたらし、黒人や労働組合(旧ニューディール連合)と環境保護団体、さらには進歩的企業とを結びつけ「グリーン・ニューディール」という新たな民主党系支持基盤をつくりあげる可能性を指摘している。

「緑の雇用」は、オバマ政権にとって、金融政策による景気刺激に代わる、財政政策による景気刺激の目玉となっている。「緑の雇用」は、景気刺激以外の側面も持ちあわせている。「緑の雇用」は西海岸と北東部の民主党左派の支持基盤にアピールすると同時に、郊外居住の政党支持無し層の共感を得やすい政策であり、オバマ政権にとっても政治的メリットが大きな政策だと言える。

「緑の雇用」はそれぞれの地域の選挙政治の実情とも合致している。オバマ政権のエネルギー政策の飴である税制上の優遇や再生可能エネルギー発電比率目標は、共和党の強い州(レッド・ステーツ)での支持の獲得につながる可能性がある。特に、風力発電は政治的意義が大きい。風力発電が現在伸びているのは、共和党の強いテキサス、穀倉地帯や激戦区の中西部である。中西部では自動車部品を生産する機械工業がかつて盛んであったが、風力発電機の部品生産へと業種の転換を促し、雇用を創出している。石炭産業からの雇用転換が図られている事例も見られる。また、風力発電機は人口密度の低い地域へと設置されるために、民主党が従来弱かった農村部への所得移転と利益誘導につながる可能性がある。

エコカーの是非を巡っても、州の間の駆け引きが存在している。車の燃費規制の強化に対して、長年反対してきたのはビッグ・スリーに依存するミシガン州議員団であった。2008年に、下院エネルギー委員会委員長が、ミシガン州選出のJohn Dingellから、カリフォルニア州の環境派Henry Waxmanに代わったことによって、燃費規制の強化が今後の流れとなろう。燃費規制の強化は、オバマ政権にとっては、ミシガン州の支持基盤と関係しているのである。また、総じて燃費で勝る日本の自動車メーカーの工場が、共和党が強い南部に多いことも、燃費規制を超党派で推進しうる点で重要と言える。

Q 保守・リベラルのイデオロギー対立が、現在のアメリカ政治のあらゆる分野に散見されるが、エネルギー政策の分野ではイデオロギーはどのような役割を果たしているのか?

A 細野氏:民主党は1984年のモンデール敗北によって、あまりに左傾化することの危険性を熟知しており、オバマ政権では環境政策についても、共和党に手をさしのべる姿勢を見せるように思われる。ただし、民主党から差し出された手を共和党の側が握るかどうかはわからない。共和党保守派の中には、オバマ政権の諸政策を「Socialist」呼ばわりすることで、支持率低下を狙う者もいる状況である。

A 杉野氏:民主党は理念のレベルで、原子力に反対の立場をとっている。反面、共和党は原子力発電にも理解を示している。
A 細野氏:高レベル放射性廃棄物処分場の候補地はネヴァダ州のヤッカ・マウンテンであるが、ネヴァダ州は反対している。同州選出のハリー・リードが上院院内総務であるため、高レベル廃棄物処分場の確保は政治的に難しい。

Q アメリカの田舎は過疎の状態である。オバマ政権のスマート・グリッドは過疎地域にはどのような意味があるのか?

A 杉野氏:スマート・グリッドは、大都市地域を想定したインフラ整備に限ったモデルではない。アメリカの過疎地域では、協同組合がつくられ、ローカルなエネルギーをローカルに消費するというスタイルが典型だが、そこでも地域の電力と熱の最適利用を目的とした「スマートエネルギー・ネットワーク」という試みがある。

Q アメリカにおける天然ガスの利用は今後拡大するのか?

A 杉野氏:アメリカの議会では石炭産出州の政治力が強いのに対し、天然ガスの政治力は弱い。天然ガスはエネルギーとして優れてはいるが、天然ガス利用推進の政策は、簡単には実現しないかもしれない。

Q アメリカの天然ガス市場は、EUにおける天然ガス利用の拡大から影響を受けるか?

A 杉野氏:アメリカの天然ガスの90%はカナダからの輸入であり、アメリカの国内市場によって価格が決定されている。それゆえ、EUの市場からの影響は間接的・限定的だろう。

■報告:梅川健(東京大学法学政治学研究科博士課程)