タイプ
レポート
プロジェクト
日付
2009/12/18

第21回 現代アメリカ研究会報告

11月19日に第回現代アメリカ研究会が開催されました。今回は、2009年1月に成立したオバマ政権と、9月に成立した鳩山内閣との間での日米同盟の再編について、本プロジェクトメンバーである川上高司氏に報告していただきました。

「オバマ・鳩山政権下の米軍再編日米同盟」川上高司氏(拓殖大学)

1.米軍再編についてのこれまでの経緯
今日の日米関係の重要課題である米軍基地の再編についての経緯は、クリントン政権期の1996年12月の沖縄に関する特別行動委員会(Special Action Committee on Facilities and Areas in Okinawa : SACO)にまでさかのぼることができる。

SACOの最終報告の中では、「在日米軍の能力及び即応体制を十分に維持」しつつ、「沖縄県における米軍の施設及び区域の総面積の約21%(約5002ha)が返還される」ことが明記された。普天間飛行場は、返還される予定の土地の一つであった。1

SACOの最終報告に付随する文書の中で、普天間飛行場についての詳細な取り決めがなされており、その中では、日米安全保障協議委員会(SCC)によって、「海上施設の開発及び建設」が決められ、「普天間飛行場の運用及び活動は、最大限可能な限り、海上施設に移転する」と定められた。2

前ブッシュ政権期には地球規模での米軍の再編成が行われ、その一環として、日本とは、防衛政策見直し協議(Defense Policy Review Initiative: DPRI)が行われた。2006年5月にまとめられたDPRIの骨子は、在日米軍と自衛隊との一層の協力関係の構築であったが、沖縄の基地について目を向ければ、「沖縄の負担の軽減と抑止力維持」が指針として掲げられ、最終報告では、普天間飛行場代替施設は辺野古岬とこれに隣接する大浦湾と辺野古湾の水域を結ぶ形で設置すると明記された。

同時に、第3海兵機動展開部隊(?MEF)司令部がグアム及び他の場所へ移転され、約 8000 名の第3海兵機動展開部隊の要員と、その家族 9000名は、部隊の一体性を維持するような形でグアムに移転することが決められた。

DPRIの通りに普天間飛行場が県内移設された場合には、普天間飛行場(約481ha)に加え、6施設(牧港補給地区、キャンプ瑞慶覧、キャンプ桑江、那覇港湾施設、陸軍貯油施設第一桑江タンク・ファーム)が返還されることとなり、合計1500ha相当規模土地の返還が見込まれた。

2006年のDPRIの意義は、日本政府が米国に対して、主体的かつ積極的に働きかけて、沖縄から大規模な米軍の削減と、土地返還の合意を取りつけたことであったと評価できる。この一連の合意には日米ロードマップとして順序が設定されており、普天間基地代替飛行施設の完成に向けた具体的な進展と、日本の資金的貢献によるグアムにおける所要の施設及びインフラ整備の後に、沖縄からグアムへ第三海兵機動展開部隊の移転がなされ、さらにその後に、普天間基地を初めとする嘉手納飛行場以南の土地の返還がなされるというパッケージ・ディールとなっていた。すなわち、現在、新聞をにぎわせている普天間移設問題は、その後に続くはずの在日米軍再編全体を左右するのである。

2.日本側の事情
9月に政権をとった鳩山民主党政権は、そのマニフェストにおいて「対等な日米同盟関係」を謳い、「米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」と政策目標を掲げている。民主党政権には、政策の見直しをする機会があったかもしれないが、閣僚の足並みの乱れが問題であった。

政権発足後すぐに、鳩山首相と北沢防衛大臣、さらには岡田外務大臣との間に、認識の相違があることが明らかになった。そのような中で、岡田外務大臣は、新政権の方針を煮詰める前にアメリカとの交渉を始めてしまった。これは、民主党新政権は、従来の路線を踏襲するのだというメッセージとして、アメリカに受け取られた。

民主党政権は、社民党との連立を維持しつつ、米軍再編を進めなければならないという難しい課題も抱えている。社民党との連立を維持するためには、普天間の計画を見直すと言わざるをえず、これはアメリカとの過去の取り決めに変更を加えることを意味している。

3.アメリカの事情
沖縄の米軍再編について、アメリカは日米合意の履行を求めている。国家間の合意なのだから当然履行するべきであるという建前の裏側には、アメリカ側の事情が存在している。基地移転の問題は、グアム関連予算という点で、アメリカ政府の予算編成と密接に関係しているのである。

アメリカの予算形成は日本と異なって、議会がその主導権を握っており、政権がどれだけ予算を必要としていても、議会で削減されてしまえばそれまでというのがアメリカの予算形成の特徴である。日本側が早期に結論を先延ばしにしたために、例えば上院国防委員会では、グアム移転費用の7割が削減された。

日米合意は日本とアメリカ政府の合意であるが、その前段階として、アメリカ政府内での合意形成があった。沖縄の基地移転にあたっては、国務省、国防総省ならびに海兵隊との間の合意形成があり、一度移転が頓挫すれば、アメリカ政府内での再びの合意形成が必要となり、これはアメリカにとって非常に大きな負担となる。

また、日本とって沖縄の米軍再編は日米同盟の課題であるが、アメリカにとっては日米同盟の問題であると同時に世界戦略の問題である。もしも、普天間を起点とする米軍再編に変更が加えられれば、アメリカとしては世界戦略の全体像を再考する必要が出てくるのである。

4.今後のシナリオ
2009年12月15日、鳩山首相は、普天間飛行場の移設先を改めて選ぶとして、年内の決着をあきらめ、結論の先送りを決定した。12月16日には、オバマ大統領は、駐沖縄海兵隊8000人のグアム移転関連費の約3億ドルを含む2010会計年度の統合予算法案に署名し、同法を成立させている。

今後のシナリオは三つ考えることができる。第一のシナリオは、2010年1月24日の名護市長選までに結論が出されるというシナリオである。このシナリオは最も早い解決であり、この政治日程であれば、日米双方にとって問題が少ない。

第二のシナリオは、2010年7月の参議院選挙後に解決するというシナリオである。現在の鳩山政権において、普天間移設問題を複雑化している一つの要因は、社民党である。現行案の場合、民主党政権は社民党を失いかねない。そこで、来年の参議院選挙の後に社民党との間の関係を整理した後に、移転先について解決をするというシナリオである。第三のシナリオは、参議院選挙後にも移転先が決着しないというシナリオである。この場合には日米関係は悪化の一途をたどるだろう。

質疑応答
Q 普天間飛行場代替施設の問題は、未解決のままだと、日米関係はどれほど悪化するのか?

A アメリカは、日米関係を解消するということはないだろう。しかし、日米同盟でのお互いの信頼感は低下し、その結果として、中身が空洞化する可能性はある。例えば、周辺事態の際に、米軍が日本を守らないという事態が起きるかもしれない。あるいは、アメリカが日本を守らないかもしれないという不安を、日本は抱えることになるかもしれない。

Q 鳩山首相はオバマ大統領を、あえて突き放しているように見えるが、日本国民はそのような鳩山首相をどう捉えているのか?

A アメリカに対して強い態度を取っているように見える鳩山首相には、例えばブッシュ前大統領に対するシラク首相のような人気がまきおこる可能性はある。現在、アメリカから日本への信頼感と、日本からアメリカへの信頼感がちぐはぐになっている感があるが、今後のこのちぐはぐな信頼感がどのような方向に向かっていくのかを注視する必要がある。

Q オバマ政権の外交は、最初は低姿勢に出て、その後、交渉相手が期待はずれである場合には態度を硬化させていくということを、基本的な方針としているように見える。日本に対するアメリカの態度は、今後どうなっていく可能性があるか?

A アメリカは、日本が今の時期にどれくらいをうち払うかによって、民主党政権の質を見極めている。今が今後の日米関係を決めることになるだろう。もちろん、普天間代替施設は早急に解決すべき課題である。


*1 「SACO最終報告」http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/saco.html

*2 「普天間飛行場に関するSACO最終報告」http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/saco.html


■報告:梅川健(東京大学法学政治学研究科博士課程)