タイプ
レポート
プロジェクト
日付
2010/11/17

2010年10月1日 現代アメリカ研究会報告

報告者:吉原欽一(社団法人アジアフォーラム・ジャパン理事長)
テーマ:アメリカ政治における「政策知識人」の役割とその活用

本報告では、現代アメリカ政治における「政策知識人」が果たす役割とその活用について、報告者の見解が明快に論じられた。本報告の特徴は、報告者が実際にリベラル・保守の立場で活躍するジャーナリストとのインタビューをベースに行われたことで、現代アメリカ政治における「政策知識人」についての議論がより具体性を持ったことである。

報告ではまず、「政策知識人」についての簡単な定義がなされた。政治思想の専門家である、加藤節氏によれば、知識人は「規範表象としての知識人」と「存在表彰としての知識人」との2 類型に分類できるという。さらに加藤氏は、「規範表象としての知識人」とは普遍的知識人とも言うべき存在であり、これに対して「存在表象としての知識人」とは、部分的知識人であり、知の技術者であるという。そのうえで、「政策知識人」は、あえていうならば後者に分類される存在であるという。しかし、政策知識人は、存在と規範とが一致するように問いかけ、現状を乗り越えていくことで「規範表象としての知識人」へとつながることができる。

こうした加藤氏の認識をベースにして、報告者は、政策知識人について、「政治に様々な形で関わり合いを持っている人々を『政治知識人』と呼び、そして、特にそのなかでも政策形成に関わり、影響を与えようとする人々」と定義した。そのうえで、報告者は、「政策知識人」にはおよそ以下の二つのタイプがあると指摘した。

?「政権中枢や連邦議会の有力政治家の『政策スタッフ』として、彼らの政治的理念を現実のものとするために影響力を行使しようとする人々」【吉原】
?「エリート層または政府に密着し、政策と行動の目的に自らの知識を役立てる専門家および助言者」【ダニエル・ベルなど】

本報告の中心的課題は、バラク・オバマという有能な政治家が何故、わずか一年余りで政策運営に行き詰ってしまったかということである。報告は、この点を中心に行われた。

報告では、リベラル系のジャーナリストと保守系のジャーナリストとの間には、「政策知識人」に対してのイメージが大きく異なることが明確になった。例えば、リベラル系のジャーナリストにとって、「政策知識人」とは、ケネディ政権時のベスト・アンド・ブライテストである。リベラル系ジャーナリストにとって、政策知識人の位置は非常に高いものなのである。これに対して、保守のジャーナリストにとっては、選挙を担当するカール・ローヴ氏なども政策知識人として認識している。こうした政策知識人に対する認識の違いは、次のようにいえるだろう。つまり加藤氏のいう規範表象としての知識人(普遍的知識人)は、リベラル系のジャーナリストの認識に近い。そして、存在表象としての知識人(知の技術者)のイメージは保守系ジャーナリストたちのそれである。

また、保守系『ナショナル・レビュー』のポヌール氏などのジャーナリスト達は、保守の再生の理由について、ティー・パーティ運動(茶会運動)だけに目を奪われてはならないと指摘した。むしろ今日、保守主義にアイディアが枯渇していることにこそ目を向けるべきであるとの認識を示した。いかに現在、茶会運動が盛り上がろうとも、かつて保守が活力としていたアイディア、運動、対立軸がなければ、保守は本当の意味で復活したことにはならないと指摘した。このことをリベラルに当てはめると、リベラルはリベラル運動を保守のように「運動体」としてまとめあげることができなかったということである。オバマ大統領が2008年の大統領選挙時の勢いを維持できなかったのは、リベラルがリベラル運動を「運動体」として作り上げる事が出来なかったからである。

オバマ政権の政権運営が、うまく機能しなかったことはこの点に関連するといえるだろう。つまり、オバマ政権には、W・ブッシュ政権のカール・ローヴ氏のような「政策知識人」が、政権内部に存在しなかったのである。


質疑応答

Q:普通、ローヴ氏のような人は政策知識人と呼ぶより政治的アドバイザーと呼ぶ。あえてそういう言葉を使うのはなぜか?

A:私は、政策知識人とは、「政権中枢や連邦議会の有力政治家の『政策スタッフ』として、彼らの政治的理念を現実のものとするために影響力を行使しようとする人々」であると認識している。その意味において、ローヴ氏のように、個々の人間が自身の理念を権力者を通して実現していきたい、という人であれば、選挙担当でも、「政策知識人」であると考えている。アメリカでも保守系のジャーナリスト達は、ローヴ氏のような人物を政策知識人であると考えている。

Q:自身の定義においては、政治的知識人は機能的。だからローヴ氏は違う。民主党が運動を形成できなかった、というのはその通り。オバマ運動としてしまったため、オバマが政権を取った時点で終わってしまったのだろう。保守については、かつての保守主義運動は正しく終わっていて、その残っていた衝動が茶会運動を動かしている、という認識。それが新しい運動の基盤になるかはまだわからない。

A:70年代の保守主義運動(ニュー・ライト運動)とティー・パーティ運動の共通点は、アンチ・エスタブリッシュメントである。アメリカの保守運動を見るときには、この点を忘れてはならない。質問者のいうところの「衝動」だろう。アンチ・エスタブリッシュメントとは、保守のリベラルに対するある種の劣等感ともいえるかもしれない。逆にリベラルは保守に対してある種の優越感を持っている。

Q:少なくとも、1970年代から政策を担うことになって次第に知識をつけていき、エスタブリッシュメント化していっただろう。

A:リベラルと保守の「知識人」に対するイメージの相違は面白い。この相違は、どこから出てきているのか?知識人に対するやっかみ、劣等感なのか?それとも運動体として保守はまとまるが、リベラルはまとまらないというものなのか?

Q:この点は、保守系とリベラル系のシンクタンクの相違に照らし合わせて考えるとわかりやすいかもしれない。1950年頃の保守は、アメリカの知識人階級からは、相手にされないという劣等感があったように思える。当時、大学もリベラルな教授ばかりで占められていた。こうしたリベラルな知に対抗するため、保守系のシンクタンクができた。ゆえに保守は、常に知の部分で後れをとっているのではないかという「強迫観念」に駆られているといってもよい。

Q2番目のタイプの政策知識人は選挙を意識しない。1番目のタイプのそれは選挙も政策も考える人たちといえるだろう。

A:その通りだと思う。

Q:ペイリンが大統領になったらアイディアは出てくるか?ペイリンと60~70年代のレーガンは似ているところがある。

A:彼女は新しい方向を打ち出していくということではなく、過去の保守系の政権の方針を踏襲していくのではないかと思う。しかし、スター・ウォーズ計画など新しいアイディアを次々取り入れたレーガン大統領とは異なるだろう。

Q:ブッシュのアンチ・テーゼとしてでてきたオバマ(クリントンは第三の道)。実際、オバマは何を考え、何をやろうとしてきたのか。アクセルロッドは知識人ではないし、周囲に知識人はいない。マイクロマネージする大統領は現代では難しい。他方で保守については、実態はないのに選挙でおカネだけ集まって選挙で献金するような保守系シンクタンクがあったりする。

A:あくまで想像の話だが、最初の段階でオバマはどんな人を首席補佐官にもってきたらうまくいったか?

Q:誰をもってきてもうまくいかなかったのではないか。エマニュエル氏には大変期待していたのだが・・・。W・ブッシュ大統領にはチェイニー氏という敏腕副大統領がいた。彼は連邦下院議会に事務所を持つなど、連邦議会とホワイトハウスの蝶番の役割を見事に果たした。一方でオバマ政権のバイデン副大統領は、いま一つ物足りない。あえていうならば、副大統領人選を間違えたのではなかろうか。

Q:茶会運動のようなアンチ・エスタブリッシュメントがエスタブリッシュメントと近づき組織化することはあるか?

A:過去の似たような事例としては、92年ペロー・ボーターの動向かもしれない。当時は、プア・ホワイトを共和党が94年中間選挙に彼らを取り込んだ。2010年現在では、茶会運動は動員はするものの、目立った組織化の動きは今のところみられていない。ツイッターなどの動きを後から検証していけば、何か見つかるかもしれない。

Q:現在までの科学技術の発達により、動員する技術が増大。また94年の「アメリカとの契約(contract with America)」と2010年の「アメリカからの契約(contract from America)」とが類似。

A:前者は業界団体の利害関係が政策的に絡み合い、組織的に選挙を戦った。しかし後者は大雑把なもので、業界団体の動員があるようには思えない。今のところ単なるムードでしかないと思う。

Q:リベラルに政治的理念を現実のものにするという姿勢
がない、というのに納得。民主党側はリベラルな中道派の人たちにアプローチする必要があるが、リベラリズムとは何かという点で訴えることはない。リベラルはこうだ、ということに目がいかない。

A:?オバマは雄弁であるがゆえに、彼の主張をかみ砕いてメディアや国民に説明するような報道官(例えば、デビッド・ガーゲン氏のような)を置けなかったのだろうか??今後オバマ大統領の演出は、誰が担当していくのだろうか?これまでは、オバマ大統領をただそのままメディアに露出させていたように思えるが。

Q:オバマは2004年上院当選からの仲良し組のまま今まできており、その取り巻きが今後どうなるのかが鍵を握る。

Q:今後、中道派を取り込んでいくために、オバマ大統領にアドバイス出来る人はいるか?

A:「オバマが言いたいことがこうなんだ」と伝える人と、演出家が必要だろう。

Q:オバマ支持者は中間選挙には無関心だが、大統領選挙では戻ってくるだろう。


■報告:石川葉菜(東京大学法学政治学研究科博士課程)