タイプ
論考
プロジェクト
日付
2011/1/4

ソーシャルメディアと2010年中間選挙 前嶋和弘

2008年のオバマ陣営が本格化させた、ソーシャルメディアの選挙への利用が2010年の中間選挙ではさらに大きく深化し、選挙戦術だけでなく、有権者と候補者との関係、さらには有権者どうしの関係が大きく変わりつつある。2010年選挙では、各候補者陣営はフェースブックに代表されるSNSや、ミニブログのツイッターを使い、支援者との双方向性をできる限り保つ形で情報を提供し続けた。動画共有サイトのユーチューブや写真共有サイトのフリッカーを選挙広報の一部として積極利用する戦略も完全に定着した。草の根保守のティーパーティ運動が勢いを増したのも、ソーシャルメディアの力がなければありえなかった。まだ、課題は多いものの、候補者と有権者を有機的に結ぶ双方向のソーシャルメディアを総動員した選挙戦略は、既にアメリカの選挙マーケティングの主流となっており、今後も大きく深化していくのは間違いない。

2010年以前:アメリカの選挙とソーシャルメディア
技術の変化とともにインターネットは、アメリカの選挙をこれまでも大きく変貌させてきた。2000年の大統領選挙予備選では、共和党のジョン・マケイン陣営がインターネットでのオンライン献金を本格導入し、支持者が小切手で献金するという従来の選挙献金のスタイルが大きく変わった。2004年の民主党予備選では、ハワード・ディーン陣営が公式選挙サイト内に初歩的なSNS機能を作り、選挙戦術におけるソーシャルメディアの利用の先鞭をつけた。2006年の中間選挙では、現職として優位に選挙戦を戦っていたジョージ・アレン上院議員の人種差別的な発言が8月にユーチューブにアップロードされて以来、状況は一変し、11月の選挙の惜敗につながっている。

2008年のバラク・オバマ陣営は、ソーシャルメディアを本格的に使いこなす戦術を追求した。オバマ陣営は技術に熟知したスタッフをそろえ、選挙公式サイトを使った「垂直型」の情報伝達に力を入れただけでなく、公式サイト内に特設したSNS(「マイ・バラク・オバマ・ドットコム」)で、支持者相互の「水平型」の支援構造を作り出していった。さらに、支援者はオンラインの世界だけでなく、実際に街に出て、草の根レベルのオバマの支援集会を行い、これに共感する人々の輪が広がっていった。ソーシャルメディアを駆使することによって、オバマ陣営は、有権者からの支持を大きな社会運動に昇華させていった。

2010年中間選挙とソーシャルメディア
2010年中間選挙では、このオバマ陣営の手法がデフォルト的に各候補者の選挙戦術の一部となった。SNSについては、フェースブックの利用者が急増しているのを背景に、オバマ陣営のような独自のものではなく、各候補者陣営はフェースブックをそのまま利用した。さらに、ユーチューブ、フリッカー、ツイッターも必須のソーシャルメディアとして、公式ウエブページに組み込まれるようになり、アメリカの選挙でのソーシャルメディアの利用は2010年選挙で完全に定着した。

特に、オバマ陣営がやり残したといえるツイッターの積極利用が2010年中間選挙では、大いに進んだ。オバマは「選挙戦にツイッターを使った」ということで日本では有名になったものの、実は実際にはオバマ自身がツイッターを書いておらず、選挙戦中にはスタッフがオバマ名義で「つぶやいた」ことが発覚していた(オバマが実際に初めてツイッターを使ったのは2010年1月のハイチ大地震の際だった)。

2010年選挙では非常に多くの候補者がツイッターを導入し、中には頻繁に「つぶやき」を書き込んでいる候補者もいた。特に、接戦となっている選挙区の議員の場合、ツイッターで有権者とつながることで何とか対立候補をしのごうと必死になった。

中でも目立ったのが、2008年選挙でソーシャルメディアの導入に大きく出遅れた共和党側の巻き返しだった。例えば、同年選挙で共和党大統領候補だったジョン・マケインは「パソコンも電子メールも使えない」と当時公言していた。しかし、大統領選挙での敗北以後、ITを苦手とする点を深く反省したといわれており、上院議員再選を狙う2010年の中間選挙に合わせて、パソコンの利用に始まり、ツイッターやフェースブックなどのソーシャルメディアを常時活用するようになった。マケインがツイッターに入れ込んでいる様子は他の議員を大きく凌駕しており、政治情報紙「ポリティコ」が「ツイッターの天才・ジョン・マケイン」という記事を掲載したほどである。

デジタル革命を研究するシンクタンクの「L2」の「上院議員のデジタルIQ指数」の分析結果でも共和党の各議員が積極的にソーシャルメディアを利用していることが明らかになっている。この調査では、各上院議員のソーシャルメディアについて、フェースブック、ツイッター、ユーチューブの利用者数や内容、ウエブサイトの利用者数などを基に「デジタルIQ指数」を算出している。調査によると、「デジタルIQ指数」の上位3人を占めたのが、マケインのほか、ジム・デミント、スコット・ブラウンら、共和党の議員であり、リベラル派が先んじていたソーシャルメディアの利用について、共和党側の巻き返しが目立っている。ブラウンは2010年中間選挙より一足早い、同年1月に行われたマサチューセッツ州上院議員補選で勝利しており、有権者とのコミュニケーションの核として各種ソーシャルメディアを利用し、熱狂的な支持者の輪を生み出した。また、デミントは保守派の草の根運動のティーパーティ運動から熱烈に支持されており、ツイッターやフェースブックの書き込みも運動参加者のものが数多い。

このティーパーティ運動の場合、運動そのものがソーシャルメディアの利用で急速に大きくなった経緯がある。ティーパーティ運動が初めて大々的に知られるようになったきっかけとなった2009年9月12日のワシントンでの大集会の参加者48人に筆者が聞き取り調査したところによると、「集会を最初知った情報源」として、過半数以上を占めたのが、フェースブック、マイスペース、ツイッターなどのソーシャルメディアであった。参加者たちはソーシャルメディアで知った情報をさらに友人に伝え、運動が大きくなり、フォックスニュースやトークラジオなどの保守メディアが注目することで、運動はさらに拡大していった。このようにして、ソーシャルメディアが運動を雪だるま式に大きくさせていった。

ソーシャルメディアが選挙に与えた変化
ソーシャルメディアは選挙をどのように変えたのか。候補者にとっては、ソーシャルメディアによって、選挙運動が効率化するだけでなく、支持者相互の自然発生的な支援の輪の広がりも期待できる。支持者相互の双方向のやり取りを視野に入れた高度な次元の選挙戦術が可能となり、統計データを利用したマイクロターゲティングなど、各種の選挙マーケティングを駆使できる土壌が切り開かれる。その一方で、ソーシャルメディアを使った支持者相互の双方向のやり取りは、その性格上、地域的な枠を超えていく。この選挙運動の広域化・全国区化もソーシャルメディアがもたらした大きな変化である。

さらに、ソーシャルメディアを使った「サイバー戦」はそれだけにとどまらない。戸別訪問に代表される「地上戦」や、テレビの選挙スポット(選挙CM)との「空中戦」と、「サイバー戦」を有機的に組み合わる総合戦略は、「オバマ以降」の政治マーケティングの基本的な形となり、2010年選挙でも活用された。

政治参加という点からは、最も特筆できるのが、情報の送り手である選挙陣営と受け手である有権者とのコミュニケーションが双方向なものに大きく変貌しつつある点である。これまでのテレビの選挙スポット中心の選挙マーケティングの場合、あくまでも選挙陣営の動きを有権者に伝えるという一方通行のものであった。これに対し、ツイッターやフェースブックの場合、有権者が反応する機会があり、必然的に情報を提供する側も支持者の動向に敏感にならざるを得ない。政治的有効性感覚は必然的に増加する2008年の「オバマ現象」は、ソーシャルメディアを通じ、選挙に参加することで世の中を変えているという意識が支えていた。

「ソーシャルメディア選挙」の課題
選挙におけるソーシャルメディアの利用には現段階ではもちろん課題は少なくない。例えば、前述のように2008年選挙ではオバマ本人になりすます形でスタッフがツイッターに「つぶやき」を書き込んでいたように、忙しい候補者が書き込みに比較的時間がかかるソーシャルメディアに割くエネルギーは限られている。たとえ、候補者だけでなくスタッフもソーシャルメディアを担当したとしても、有権者との双方向性がどれだけ保てるかというのは技術的にも人的にも大きな課題である。大統領選の当選後、オバマの政権移行チームは公式選挙サイトなどを通じ、支持者から政策についてのアイディアを募ったが、あまりにも膨大な数の意見が寄せられたため、技術的にも人的にも対応は不可能だった。政策アイディアについて、候補者と有権者が双方向でツイッターをやり取りし、政策の決定の質そのものを高めていくような理想的な状況にはまだ時間がかかりそうだ。

ソーシャルメディアを使った政治マーケティングの分野は発展途上である。その分、「ハンドラー」といわれる「選挙産業」が活躍する余地がさらに大きくなり、選挙費用がさらに高騰してしまう。オンライン献金分が潤沢になったこともあって、テレビの選挙スポットの利用がソーシャルメディアの登場以前よりも実際には増えている。選挙スポットには膨大な費用がかかるため、すでに先進国でも最大であるアメリカの選挙費用がさらに右肩上がりで増えていくであろう。

また、そもそもソーシャルメディアに適した魅力ある候補者が現段階ではアメリカでもどれだけの数がいるか疑問でもある。2008年の「オバマ現象」は、ひとえにカリスマ性のあるオバマという人物に頼る部分も大きい。共和党が巻き返した2010年選挙でも、ソーシャルメディアを巧みに利用しているのは、全米的な知名度があるカリスマ性のある候補者ばかりである。有権者と距離がソーシャルメディアで近くなるにつれ、候補者の資質が一層、重視されるようになっている。

ソーシャルメディアを利用する側の課題もある。2008年のオバマ人気がブッシュ前大統領や共和党多数議会に対する不満に支えられていたのに続き、2010年選挙のティーパーティ運動はそれ以上の「怒り」に基づいた運動であった。ソーシャルメディアをクリックして、オンライン上の友人につながるには、憤りという衝動が必要なのかもしれない。そうなると、ソーシャルメディアから生み出された運動自体が、熟慮の上での行動ではなく、短絡的な衝動に突き動かされたものになりかねない。ソーシャルメディアを利用する側の市民性も今後、さらに求められるようになる。

おわりに
このような様々な課題はあるものの、ソーシャルメディアは候補者陣営にとっては、高度な選挙戦術が可能となる絶好の次世代型の武器である。また、政治そのものの質を向上させる潜在的な可能性もあるため、政治参加の観点からもソーシャルメディアは魅力的だ。今後の選挙戦術の中心として、ソーシャルメディアが位置づけられていくのは間違いない。

2011年を迎え、アメリカでは既に2年後の2012年選挙に向けた動きが活発になりつつある。インターネットを使った各種アプリケーションのそのものの技術革新が激しい中、ソーシャルメディアを使った選挙戦術は今後もさらに深化を続けていく。この動きは見逃せない。



■前嶋和弘:東京財団「現代アメリカ」プロジェクトメンバー、文教大学准教授