タイプ
論考
プロジェクト
日付
2011/4/19

アメリカNOW 第70号  オバマ政権の財政再建案~見極め難い共和党案との規模の差~

2011年4月10日、米国のオバマ政権が新たな財政再建案を発表した。「12年間で4兆ドルの財政赤字削減」を謳う今回の提案の規模は、一見すると「10年間で4兆4,000億ドルの財政赤字削減」を目指す共和党の財政再建案に近いようにみえる。しかし基準となる財政赤字の予測が異なっている可能性などがあり、両者の規模の差は見極め難いのが現実である。

1.期間の違い
今回のオバマ政権の提案(以下、オバマ政権案)は、4月始めに共和党のライアン下院予算委員会委員長が発表した2012年度予算決議案(以下、共和党案)への対案として位置づけられる。具体的な再建策の内容にこそ違いはあるが、「4兆ドル程度の財政赤字削減」という再建案の規模については、一見すると両者のあいだに合意が存在するように報道されている傾向がある。

しかし、両者の提案には異なった前提が置かれており、単純に総額を比較するわけには行かない。出来るだけ同じような前提に揃えて比較するためには、少なくとも二つの点で注意が必要だ。

第一は、再建案が対象とする期間を揃える必要がある。オバマ政権案は、2012~2023年度までの12年間を対象としている。これに対して共和党案の大きさは、2012~2021年度の10年間で計算されている。削減される赤字の額が毎年同じであると仮定すると、共和党案を2023年度まで延長した場合の赤字削減額は累計で約5兆3,000億ドルになる。つまり、同じ期間で比較すれば、共和党案による赤字削減額は、オバマ政権案の約1.3倍の規模になる。

実際には、期間の違いから来る再建案の規模の違いは、これよりも大きい可能性が高い。削減される赤字の金額は、後年度になるほど大きくなる傾向があるからだ。具体的には、共和党案では2021年度の財政赤字削減額を約770億ドルと見込んでいる。これと同じ額が2022、2023年度に削減されるとすれば、共和党案による12年間の赤字削減額は6兆8,000億ドルを超える。これはオバマ政権案の約1.7倍に相当する規模である。

そもそも今回の提案で、オバマ政権はどこまで新たな財政再建策を上積みしたのだろうか。既にオバマ政権は、今年2月14日に発表した2012年度の予算教書で、約2兆2,000億ドルの赤字削減策を提案していた。このうち、対テロ戦争関連の予算削減による約1兆1,000億ドルを除いた約1兆1,000億ドルは、今回の合計(4億ドル)にも含まれている模様だ *1。このため、今回の提案でオバマ政権は、財政再建案を約2兆9,000億ドル上積みし、全体では3.6倍の大きさに膨らませた計算になる。

しかし、ここでも期間の違いには注意が必要になる。オバマ政権が予算教書で示した提案は、2012~2021年度の10年間を対象にしている。各年度の赤字削減額が均等だと仮定すると、予算教書の提案を単純に2年間延長するだけで、再建案の規模は1.2倍に拡大する。仮に2021年度の赤字削減額(約1,800億ドル)が2022、2023年度にも続くとすれば、12年間の赤字削減額は約1兆5,000億ドルである。こう考えると、今回オバマ政権が新たに上積みした財政再建策の規模は約2兆5,000億ドル(12年間)にとどまり、予算教書の提案を単純に2年間延長した場合(約1兆5,000億ドル)と比較して、約2.7倍の大きさに膨らませた計算になる。

2.基準となる財政赤字額の違い
両者を比較する上でもう一つ調整する必要があるのは、基準となる財政赤字額の違いである。

オバマ案と共和党案には二つの点で基準とする財政赤字額に違いが存在する可能性がある。第一は、2012年度予算教書の取り扱いである。既に説明したように、オバマ案の「4兆ドル」には、2012年度予算教書の提案(対テロ戦争関連を除く。10年間で約1兆1,000億ドル)が含まれている。対象とする期間が2年間延長されていることを勘案すれば、今回のオバマ政権案による10年間(2012~2021年度)の追加的な赤字削減額は2兆ドル程度だと考えられる *2

これに対して、共和党案の「4兆4,000億ドル」は、オバマ政権の2012年度予算教書(対テロ戦争関連の削減分を含む)に純粋に上積みされた削減額である。このため、両者の10年間の赤字削減額を同じベースで比較するのであれば、民主党案の赤字削減額が「2兆ドル」であるのに対して、共和党案の規模はその2.2倍に相当する「4兆4,000億ドル」という計算になる。

もっとも、両者の比較はそう簡単ではない。第二の違いとして、2012年度予算教書が実施された後の財政赤字の水準に対する想定が違う可能性があるからだ。2012年度の予算教書でオバマ政権は、予算教書実施後の10年間の財政赤字額を約7兆2,000億ドルと見込んでいる。今回の提案がこうした前提に従っているとすれば、上積みされた2兆ドルの追加的な削減によって、向こう10年間の財政赤字額は約5兆2,000億ドルになるはずだ。

これに対して共和党案は、予算教書実施後の10年間の財政赤字額を約9兆5,000億ドルと見込んでいる。これは2012年度予算教書による提案を議会予算局(CBO)が改めて試算した結果を用いているからだ。このため、共和党案が「4兆4,000億ドル」の財政赤字削減策を追加的に実施した場合でも、10年間では約5兆1,000億ドルの財政赤字が残る。それぞれの前提に基づき、再建案が実施された後の財政赤字額で比較した場合、オバマ政権案と共和党案の差は約1,000億ドルにまで縮まる。

3.再建策の規模でもすりあわせが必要に
以上みてきたように、財政再建に関するオバマ案と共和党案の規模の差は、見かけよりも特定が難しい。共和党案の方がオバマ案よりも大きな赤字削減を提案していることは想像できるが、オバマ政権が基準としている削減前の財政赤字額の見通しが明らかではなく、両者を完全に同じ前提で比較できないからだ。

共和党案に続き、オバマ政権も財政再建案を発表したことで、米国では具体的な財政再建策の作成に向けた話し合いが始まろうとしている。ともすると、両者の立場の違いに関しては、富裕層増税の有無や医療改革のあり方など、個別の再建策の内容や組み合わせに注目が集まりがちだ。しかし、これから進められるオバマ政権と共和党との協議では、財政削減策の規模や目標とする財政赤字の水準についても、共通の前提に立った議論の整理が必要になりそうだ。


*1:「4兆ドル」の総額から2012年度予算に含まれた対テロ戦争関連の赤字削減を除いたのは、今回のオバマ政権の提案に関するファクト・シートからの推測。対テロ戦争関連の赤字削減も含まれるとすれば、新規提案の規模はそれに応じて小さくなる。

*2:前述のように12年間の新規提案額は約2兆5,000億ドルとみられるが、このうち5,000億ドルが2022、2023年度に発生すると仮定した。

■安井明彦:東京財団現代アメリカ研究プロジェクトメンバー、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長