タイプ
論考
プロジェクト
日付
2011/5/25

ワシントンUPDATE  「ビン・ラディンの死―米国の対アフガニスタン政策はどう変わるか?」

ポール・J・サンダース
センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト常務理事
東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・海外メンバー



 アメリカがオサマ・ビン・ラディンを探し出し、殺害するのに成功したことは、アフガニスタンでの戦いに対する米国の考え方に大きな影響を及ぼしたように見える。だがオバマ政権は、米国の国益を守るために慎重に事を進めざるを得ないだろう。

 バラク・オバマ大統領は、すでにビン・ラディンが死亡した以上、「我々は現在ほど大規模な恒常的駐留を行う必要がない」と述べたが、このことは、今から2014年にかけて予定されている米軍のアフガニスタンからの撤退を早めることを、大統領が検討している可能性を示唆している。バイデン副大統領は、周知のように、アフガニスタンへの派兵について、より意欲的な国づくりへの努力ではなく、対テロにその焦点を絞り込んで小規模にする方が好ましいと考えている。オバマ政権のある高官も、縮小の「スピードと勢い」が変わる可能性があると述べたと伝えられている。

 議会では、上院外交委員会のジョン・ケリー委員長と上院軍事委員会のカール・レヴィン委員長を含めた上院民主党議員の上層部が撤退を模索していることは明らかであり、上院外交委員会でケリー上院議員の相方の立場にある共和党リチャード・ルーガー上院議員も同様である。ほかに、アフガニスタンに展開する米軍のより迅速な縮減を表立って求めている共和党指導者はごく少ないが、「草の根」の共和党員は撤退推進の意欲を高めているようである。このことは、財政保守主義と、積極的な国際活動に対するティーパーティ式の無関心が一つになっていることを反映している。

 アフガニスタンにおいて米国が大規模な駐留を続けることに懐疑的な人々の一部が、共和党保守派、特に財政保守派に向けたアウトリーチ努力に着手したことは興味深い。部隊の削減と規模縮小戦略を提言してきた著名なパネルであるアフガニスタン・スタディ・グループはその急先鋒であり、同グループが最近ワシントンで開催した会議において、保守派論客の重鎮であるアン・コウルターと、一流の戦略家で課税反対活動家であるグローバー・ノーキストが行った発言はこの意味で注目すべきである。[実は、ノーキストは(筆者が所属する)センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレストの理事であり、同センター長のディミトリ・K・サイムズもこの会議で発言を行った。]
アフガニスタンに関する論争が、これと同時に行われている米国の予算上の優先順位に関する論争に及ぼす影響を、過小評価することはできない。オバマ大統領は今週、上院の民主党有力議員および共和党有力議員と個別に会談し、債務限度額の引き上げを交渉したが、共和党はこの要求に対してさらなる予算削減を連動させることで応じた。他方、アフガニスタン・スタディ・グループが述べたように、年間の国民総生産が140億ドルでしかない国に米国は毎年1,000億ドル以上を費やしているのである。

 米国の一般国民も、アフガニスタンから撤退する決意を高めている。最近のギャラップ調査によると、現在アメリカ人の59%が、米国はアフガニスタンでの「使命を達成した」と述べているのに対して、アフガニスタンに残る必要があると考えているのは36%に過ぎないことが明らかになった。ワシントン以外では組織も個人もますますアフガニスタン紛争に対するアメリカ人の考え方の流れが変化しつつあると見ている。この顕著な例の1つが、先週ピッツバーグで起きた。フットボールチームのピッツバーグ・スティーラーズの社長が、ある選手によるツイッターへの投稿は、チームとは関係がないとする声明を出したのである。この選手は、なぜこれほど多くのアメリカ人が、ビン・ラディンを知りもせずに彼を憎むのかという疑問を発し、アルカイダが実際に飛行機でワールド・トレード・センターに突っ込んだことに対して懐疑的な態度を表明していた。チーム側はビン・ラディンが死亡したことについて、「私たちにできるのは、このことが我が国の軍隊の早期帰国につながるのを期待することだけです。」と述べた。アメリカで極めて重要な政治的戦場となっている州の一つペンシルバニアで活動するスティーラーズの広報室は、おそらく誰よりも、チームの地元で暮らす人々へどのように語りかければよいかを知っているはずである。スティーラーズの面々は、2年に一度あるいは4年に一度の選挙戦を戦う候補者と違って、毎日お金を払って試合を見に来る人々に依存しているからである。

 オバマ大統領はこの現実をよく認識しているようで、米国の政策の再評価を始めた。2度目になるこの作業は、前回より簡単になることが期待される。最初の政策評価には何ヵ月もかかり、何度も遅れが出た。今では、大統領も主要アドバイザーも、問題点にもっと通じているはずである。さらにもっと重要な点は、今回オバマ政権は一方でアフガニスタンに注力するという自身の選挙公約と共和党の政治的圧力、他方で民主党の撤退の要望の間に挟まれて政治的に身動きが取れなくなることはない、ということだ。ビン・ラディンの殺害はこの構図を変えた。すなわち、世論をシフトさせ、政権および同様の考え方を持つ共和党員に、アメリカの使命を定義し直し、勝利を宣言し、米国の撤退計画を加速させるための政治的な大義名分を与えたのだ。

 しかし、それでもなおアフガニスタンからの撤退は困難を伴うだろう。なぜなら、細心の注意を払う綱渡りのようなバランスがもとめられるからだ。イラクとアフガニスタンからの撤退期日を定めることに反対する共和党は、撤退にあまり熱意を示すと米国の敵対勢力に自信を与えることになる、と述べたが、これは正しい。アフガニスタン紛争では、厳密に軍事的な解決が要求されているのではなく、政治的解決が求められる。したがって、スケジュールに目立った変更を加えると、ワシントンにとって魅力的な条件の和解案をタリバンが受け入れるのを思い止まらせる可能性がある。このことを念頭に置けば、オバマ政権は注意深く戦略的決定と外交活動との歩調を合わせることが求められ、米国の撤退のスピードアップが不可避であるような印象を与えることは、何としても避ける必要があろう。このことを、視野に入って来たばかりの2012年の選挙と同時に達成するには、大統領とそのチームがいまだ実証して見せるに至っていない程の手腕と駆け引きが必要となるだろう。

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