タイプ
論考
プロジェクト
日付
2011/6/7

ティー・パーティー運動とオバマ政権のテレコミュニケーション政策 ―FCCによるネットワーク中立性の規則制定をめぐって― 清原聖子

ティー・パーティー運動とオバマ政権のテレコミュニケーション政策
―FCCによるネットワーク中立性の規則制定をめぐって―*1
はじめに
オバマ政権の大きな政府批判を強めるティー・パーティー運動の矛先は、テレコミュニケーション政策にも向けられている。本章の目的は、テレコミュニケーション政策に関してどのような観点からティー・パーティー運動が批判を強めているのか、その具体的な文脈を明らかにし、本政策分野におけるティー・パーティー運動の展開を検討することにある。

テレコミュニケーション政策については、ティー・パーティー運動はオバマ大統領が指名したジュリアス・ジェナカウスキー委員長が率いる連邦通信委員会(Federal Communications Commission:以下FCCと略記)を標的にしている。FCCは1934年通信法によって議会が定めた通信と放送を規制監督する独立行政委員会である。しかし委員長を含むFCCの5人の委員は大統領に指名され、上院の承認を必要とする人事プロセスであることから、FCCがホワイトハウスから文字通り独立しているかどうかという点は議論の余地がある。とりわけジェナカウスキーFCC委員長は、大統領のロースクール時代の級友であり、2008年大統領選挙戦ではオバマ陣営で技術顧問を務めた人物でもある。また、同FCC委員長はホワイトハウスを頻繁に訪れており、大統領との個人的な面会の回数も多いことから二人の関係は非常に近いと考えられている *2

これまでのところティー・パーティー運動は、FCCがネットワーク中立性の規則を制定したことに関連してFCCへの非難を強めている。ネットワーク中立性とは、インターネットの利用者が増えてきたことで2002年ごろからアメリカで顕在化した問題である。多くの帯域を必要とするリッチ・コンテンツの利用が増加したことで、帯域が逼迫されるようになると、大手電話会社やケーブル事業者のようにネットワーク設備所有事業者が、特定のコンテンツ事業者やアプリケーション事業者のネットワーク利用をブロックしたり、その品質を低下させたり、あるいは優先順位付けを行うのではないか、という懸念が生じた。そこで、インターネットの混雑に対応できる帯域制御のためのルールや、ネットワーク設備を有する事業者がインターネットのゲートキーパーにならないように新たにネットワーク設備所有事業者にオープン・アクセス・ルールを課す必要がある、という声が強くなった *3。他方でインターネットや関連サービスの発展を妨げる可能性があるとして、新たな規制の導入に批判的な主張も根強い。

共和党のケビン・マーチン委員長率いるFCCが2005年にネットワーク中立性に関する一般原則として政策声明を発表した後、議会でもFCCでも新たな規制の導入の是非を問う政策論争が長く続いた。2008年大統領選挙戦中には、民主党のオバマ候補が「私はネットワーク中立性に関する取り組みにおいて何者にも劣らない」と演説し、他の候補と比べこの問題に積極的に取り組む姿勢を表明したのに対し、共和党のマケイン候補はネットワーク中立性の規則制定に反対する立場を明らかにした*4 。そして2010年12月21日、ついにジェナカウスキー委員長の下でFCCがネットワーク中立性に関する規則を多数決により採択し、長年の政策論争に一つの区切りをつけたところである。オバマ大統領はそれに対して「インターネットの自由でオープンな性質を確保することに役立つ」と述べ、FCCの決定を強く支持する声明をすかさず発表している *5

ティー・パーティー運動はこのFCCの規則作成過程においてネットワーク中立性問題に関心を持つようになり、テレコミュニケーション政策の分野においても新たな勢力として台頭してきた。彼らはなぜとりわけネットワーク中立性問題に関与し、この問題を用いてFCCへの批判を強めているのであろうか。本章はその要因を文献資料に関係者へのヒアリング調査も加えて検討し、最後にティー・パーティー運動によるFCC批判の今後の展望を示したい。

ネットワーク中立性に関する政策議論の展開―揺らぐFCCの権限
まず、ネットワーク中立性に関する政策議論の展開について概要を説明したい。表1は、2005年から2010年までのネットワーク中立性をめぐる政策論争の流れを整理したものである。

表1 ネットワーク中立性をめぐる政策論争の主な流れ(2005年~2010年)

アメリカにおけるネットワーク中立性をめぐる政策議論の基盤にある考え方は、2005年のFCCの政策声明である。その内容を示したものが表2である*6

表2 FCCの2005年政策声明
FCCの政策声明発表の動きに呼応するように、第109議会ではネットワーク中立性に関連する法案が多数提出された。たとえば下院ではエドワード・マーキー(民)がH.R.5273法案を提出し、上院ではオリンピア・スノー(共)やヒラリー・クリントン(民)、バラク・オバマ(民)などが共同法案提出者となってS.2917法案を提出した。両法案はいずれもインターネットの二重構造化の阻止を求めたものであった*7 。しかし多くの法案が提出されても、共和党多数議会においてネットワーク中立性に関する法案が議会を通過することはなかった。ネットワーク中立性に関する立法化推進議員には民主党議員が圧倒的に多いのである。

そこで、2006年中間選挙の結果上下両院で民主党が多数派となった第110議会において、いよいよネットワーク中立性を確保するためネットワーク所有事業者に規制をかける法案が成立するのではないか、という期待が立法化を望む「インターネットを救おう連合」の間では高まった*8 。再び下院ではエドワード・マーキー(民)がH.R.5353法案を提出、上院でもバイロン・ドーガン(民)とオリンピア・スノー(共)、それにバラク・オバマ(民)などが共同法案提出者となってS.215法案を提出した。しかし公聴会は開かれたが廃案になっており、ネットワーク中立性の規則制定に向けた議会での立法化は現実的ではないことが、かえってはっきりしたと言えよう。 

一方、FCCでは2007年4月、ネットワーク中立性を含むブロードバンド・ネットワーク管理行動に関して広く関係者の意見を徴収するため情報調査告示(NOI)を行った。しかし共和党委員長の下でFCCが政策声明よりもさらに踏み込んだ規則制定に進むことはなかった。このようにワシントンの政治の舞台ではネットワーク中立性議論に関して、規則を作成すべきかどうか、という点で膠着状態が続いていたのである。そこに大きな風穴を開けた事件がおきた。それが、コムキャストのブロードバンド・ネットワーク管理問題である。

ことの発端は2007年11月にリベラル系アドボカシー団体のフリー・プレスや消費者団体からFCCに対して出された請願であった。その内容は、ケーブル事業者最大手のコムキャストが自社のネットワーク上で消費者がP2P(Peer to Peer)サービス事業者のビットトレントのアプリケーションを利用することに対して差別的な取り扱い、いわゆるネットワークの遅延を行っているというものであった。フリー・プレスらはFCCに対して、コムキャストにそのようなネットワーク上の干渉をやめさせるように要請した。この請願についてワシントンポスト紙は、「ネットワーク中立性問題に関するFCCの試金石になる」と報じた *9

FCCは請願に応じて調査した末、2008年8月には3対2の賛成多数により、コムキャストに対してFCCの2005年政策声明に違反しているとして、差別的なネットワーク管理行動を止めるように命令を下した。この命令決定に際し、これまでネットワーク中立性の規則作成に反対の立場をとってきた共和党のマーティンFCC委員長が民主党の2名の委員とともに賛成票を投じたことは、関係者の間では衝撃的であった*10 。一方コムキャスト側は、FCCの政策声明では「これらの4原則は合理的なネットワーク管理に従う」とされていると主張し、ビットトレントのP2Pアプリケーションを利用して映画をダウンロードする消費者が増えてネットワークの混雑が生じていることから、自社の取った措置には正当性があると反論した。同社はFCCの決定に従いながらも、2005年のFCCの政策声明には強制力はないと主張して、FCCの決定の法的根拠に異議申し立てを行い、連邦ワシントン巡回控訴裁判所に提訴したのであった *11

コムキャスト事件は、後に民主党のジェナカウスキーFCC委員長が進めるネットワーク中立性をめぐる規則作成作業に非常に大きなインパクトを与えることになる。冒頭で述べたように彼はオバマ陣営の技術顧問を務めた人物であり、ネットワーク中立性の規則制定に積極的であると広く知られていた。ジェナカウスキー委員長率いるFCCは2009年10月、ネットワーク中立性に関する規則制定案告示(NPRM)を発表したが、その7カ月後、連邦ワシントン巡回控訴裁判所からコムキャストがFCCを相手どり起こした訴訟の判決が出された。同裁判所は、現行の通信法では、通信事業者が特定のサービスへのネットワークの速度を遅延させることを禁止する権限はFCCにはないとして、ブロードバンド・サービスに関するFCCの規則作成権限について否定的な判決を下した。これは今まさにネットワーク中立性の規則作成を行っているFCCにとって彼らの法的正当性を揺るがす一大判決であったと言える。

また、第111議会では、下院でエドワード・マーキー(民)がH.R.3458法案を提出し、FCCにネットワーク中立性に関する規則制定権限を与えようとした。一方上院ではジョン・マケイン(共)が、インターネット・サービスに関するFCCの規則作成の動きを阻止すべくS.1836法案を提出した。いずれも廃案になったが、要するにFCCは規則制定作業を進める過程で、議会からのお墨付きを得られなかったことになる。

ここまでの展開で重要な点は、議会ではネットワーク中立性に関する立法化が非常に困難であること、そして、FCCが2009年から2010年にネットワーク中立性の規則を制定する過程で、その権限を正当化してくれる司法や立法からの後ろ盾を得られなかった、ということである。この点を踏まえて、次節では、ティー・パーティー運動がネットワーク中立性問題に取り組む要因を検討したい。

ティー・パーティー運動にとってネットワーク中立性問題はなぜ重要か
それでは、なぜティー・パーティー運動は多くのテレコミュニケーション政策の課題の中でネットワーク中立性問題に高い関心を持ったのだろうか。ティー・パーティー運動は様々なバックグランドを持った活動家から成り、核になる団体が存在しない。しかし、フリーダムワークス*12 の会長を務める元下院院内総務のディック・アーミーは、『我らに自由を与えよ―ティー・パーティー・マニフェスト』を著し、運動には核になる共通の理念があると述べている*13 。それは、個人の自由と経済の自由を守ること、そして、憲法にあった制限された政府を維持することである *14

この運動の理念とネットワーク中立性をめぐる政策論争の展開とを照らし合わせて検討すると、彼らがネットワーク中立性の規則作成過程に入り込んできた要因は2点考えられる。第一に、イデオロギー的色彩が強いというこの問題の特殊性である。第二に、FCCがネットワーク中立性に関する規則を制定する権限を議会から付与されていない、という点がはっきりしたことが挙げられる。
第一の要因から見ていこう。減税や教育改革などに比べれば、テレコミュニケーション政策の課題は技術的専門的な色彩が強い。しかし、ネットワーク中立性問題はそれだけではなく、イデオロギー的対立が長く続く珍しい問題の一つである。図1は、規則作成支持派と反対派に分けて主だったアクターを整理したものである。

図1 ネットワーク中立性に関する対立構図

(筆者作成)


ネットワーク中立性問題の特徴について、グーグルの通信・メディア政策担当部長兼経営顧問のリチャード・ウィットは「5年間の議論での共通認識は、オープン・インターネットは消費者にとってもインターネット自身にとっても、イノベーションや競争にとっていいことだ、と言う点である。問題は政府がオープン・インターネットを確保するために介入すべきかどうかである」と指摘する *15。つまりネットワーク中立性問題の論点は、ブロードバンド市場における政府の介入の是非をめぐるイデオロギー対立が特徴的である。図1に示した規則制定支持派は政府の介入が必要だと主張しており、一方の規則制定反対派は、規制が必要だと言う十分な根拠を示すことができないとして政府の介入を不要と主張する。

経済問題への強い関心、そして行き過ぎた規制を否定するティー・パーティー運動の原則は、ネットワーク中立性をめぐる政策論争において自由市場を強く擁護するフリーダムワークス、アメリカンズ・フォー・プロスパリティー(Americans for Prosperity:以下AFPと略記*16 )やヘリテージ財団などの主張と重なる。フリーダムワークスのウェイン・ブラウは「(自分たちは)ティー・パーティー運動が出現する以前からネットワーク中立性問題に関わってきた。そこにティー・パーティー運動が出現し、自由市場擁護の観点からフリーダムワークスがネットワーク中立性問題の背景を伝えた」と述べる*17

ジェナカウスキー委員長に交代してFCCが5年間の政治的均衡を破り規則作成に着手した時期と、ティー・パーティー運動が全国的に台頭してきた時期はほぼ一致する。ティー・パーティーがオバマ政権への大規模な抗議集会をワシントンで行ったのが2009年9月12日。一方、FCCが規則制定案告示(NPRM)を発表したのは2009年10月22日のことであった。FCCが規則制定に向けて動き出したことで、ネットワーク中立性をめぐるイデオロギー的問題点がティー・パーティーの活動家にも可視化されたと言える。AFPのフィル・カーペンは「2009年10月がネットワーク中立性に多くの草の根運動に関わる人々が関心を持つようになったターニングポイントだと思う」と述べた*18 。活動家らには、ネットワーク中立性問題は技術的な問題ではなく、より政治的でイデオロギー的な論争と映ったのである *19。ティー・パーティー活動家でレス・ガバメント代表のセトン・モトレーは、「インターネット・サービス・プロバイダーがユーザをブロックするかもしれないが、その時は別の事業者に乗り換えればいい。しかしもし政府がインターネットをブロックしたらどうするのか」と問う *20。彼らは医療保険同様、インターネットを政府よりも大企業がコントロールする方がましだと考えている*21 。しかし、ティー・パーティーの草の根運動がこの問題に強い関心を持つには、もう一つ重要な要因が重なった。それが第2の要因である。

前節で説明したように、2010年4月、連邦ワシントン巡回控訴裁判所からコムキャスト事件の判決が下された。これにより、FCCはブロードバンド・サービスに関する規制権限について議会から承認を得ていないと裁判所から判断されてしまった。これは、ネットワーク中立性の規則作成を進めるFCCにとって非常に深刻な問題である。そこでジェナカウスキー委員長は2010年5月、ブロードバンド・サービスに関するFCCの役割について広くコンセンサスを得られる方法を模索して「第3の道」構想を発表した。

ブロードバンド・サービスは現行の通信法の第1編において規制を受けない「情報サービス」と分類されている。それゆえ控訴審ではFCCの規制権限が不確かなものと判断された。一方、通信法の第2編において規制されている「電気通信サービス」にブロードバンド・サービスを再分類するならば、FCCの権限は明確になるが、ブロードバンド・サービス提供事業者には、電気通信事業者と同様の厳しい規制が課せられることになる。それはこれまで超党派で受け入れられてきたインターネットは非規制という原則から離れ、消費者を保護し公正な競争を確保するという政策目標からも外れてしまう。そこでFCCの多くの弁護士が知恵を絞り考え出した規制アプローチが「第3の道」であった。その内容は表3にまとめたとおりである *22

表3 ジェナカウスキーFCC委員長の「第3の道」構想


さらにFCCは2010年6月、通信法におけるブロードバンドの規制再分類に関する情報調査告示(NOI)を実施した。これはブロードバンド・サービスを現行のまま「情報サービス」と分類することが法的に適当であり、FCCの行動を支持するものなのか、それとも「電気通信サービス」と再分類することが適当なのか、あるいは「第3の道」が良いのか、広く一般から意見を募るためのものであった*23

このように、コムキャストの控訴審判決を受けてブロードバンド・サービスに関して通信法上のFCCの規制権限が揺らぐと、それがティー・パーティーの草の根運動にとってFCCを攻撃する重要な論点となった。クリーブランドのティー・パーティー・パトリオットはホームページ上で「FCCは南北戦争以来の連邦政府の最も危険な権力強化の道を進んでいる」と題し、ブロードバンド・サービスの再分類に強く反発した*24 。またバージニアのティー・パーティー・パトリオット連合は2010年8月、レス・ガバメントなどティー・パーティー運動に関わる35団体と共にFCCに対し、ブロードバンドの再分類を通じて規制権限を強化しないように求める書簡を送った。同連合のジェーミー・ラドック代表は、ネットワーク中立性に関する関心が、増大する政府の権力という問題意識からティー・パーティー運動の中で高まってきている、と述べている *25。同様に、AFPのフィル・カーペンは、ティー・パーティーの活動家たちが非常に警戒していることは行政機関の肥大化、権力の濫用の問題であると指摘し、「これは広い意味で規制機関の権力の濫用の問題だ。FCCが議会の承認を得ないで進めようとしているやり方は、環境保護庁が地球温暖化に関する規制を強化しようとしていることと似ている」と述べた*26 。また、レス・ガバメントのセトン・モトレーは、控訴審でFCCにネットワーク中立性に関して規則を制定してはならないと言っていると指摘して、この問題に関して議会の行動を支持するが、FCCが頭ごなしに規制を押し付けることは間違っていると主張する*27

先述のとおり、ティー・パーティー運動の原則の一つは、憲法に見合った制限された政府を維持することである。テレコミュニケーション政策の分野では、議会が定めた通信法が憲法に匹敵する原則と言ってもよい。よって、FCCは通信法の範囲内で許された権限を行使するにとどまるべきというのがティー・パーティーの基本的な考え方である*28 。それをコムキャスト事件の控訴審判決後、FCCは「第3の道」やブロードバンド・サービスの通信法上の再分類を検討するといった行動に出た。そして、議会から承認を得ていないまま、ネットワーク中立性の規則を制定しようとしている。これはティー・パーティーから見れば理念や原則に著しく抵触する行政府の権力の濫用の由々しき問題だと捉えられる。
以上これまで見てきた2つの要因と文脈から、ティー・パーティー運動に関わる活動家や組織の中に、ネットワーク中立性問題に高い関心が広がっていったと考えられる。そして、彼らはこの問題を医療保険制度改革とパラレルで論じ、2010年中間選挙に向けオバマ政権を批判する材料の一つに加えたのである。

終わりに
最後に、ティー・パーティー運動のネットワーク中立性をめぐる政策論争への参加の意義について考察し、運動が強めるFCC批判の今後の展望を述べたい。

彼らがネットワーク中立性に関心を持ったことには、自由市場擁護の立場から規則作成に反対していた団体にとって、草の根運動という大きな味方を得た意味がある。それまでの政策論争の展開では、フリー・プレスが指導し立法化を求めるリベラル系の大連合による運動が議会に強力に働き掛けてきたことに比べ、対抗する反規制団体の活動は控えめであった。ティー・パーティー運動がネットワーク中立性をめぐる政策論争に参入したことで、反規制団体側の規則作成に反対する声を強力に後押しすることになったと言える。フリーダムワークスのウェイン・ブラウは、「ティー・パーティー運動がネットワーク中立性問題に目を向けたことで、さらにこの問題は政治的に発展したが、それはある意味よかったと思う。それがなければ、規制過程においてFCCや議会にプレッシャーをかけるのがもっと難しかっただろう」と運動の存在を高く評価している*29

また、2011年に入り第112議会が始まると、共和党が多数派となった下院では、早速ティー・パーティーに支持されたグレッグ・ウォルデン下院通信・技術小委員会委員長が議会評価法に基づきFCCの決定に異議を唱える決議案(H.J.Res.37)を提出した。議会評価法では、規制機関が新たな規制を制定してから60日以内に反対決議案を可決すれば規制を元の状態に戻すことができる。ウォルデンは「FCCにはいわゆるネット中立性の規則を制定する権限がないと思う。そう思うのは私だけではない」と述べた *30。3月に同決議案は下院の同小委員会を通過、続いて4月7日、下院本会議で240(共和党234名、民主党6名)対179(共和党2名、民主党177名)の多数決により可決された。賛成票を投じた議員は圧倒的に共和党に多くみられたが、ティー・パーティーの活動家たちが下院本会議での採決を前にして、民主党中道派13名の議員にも反対決議案に賛同を呼びかけるよう電子メールや電話をかけるといった働きかけを展開したところ*31 、そのうちの2名、スタンフォード・ビショップ(ジョージア州第2選挙区)とデビッド・スコット(ジョージア州第13選挙区)が賛成票を投じた点は、注目すべきであろう。

もっとも上院での反発やオバマ大統領が拒否権を発動することが想定されており*32 、FCCのネットワーク中立性規則決定が覆る可能性は少ないと考えられる。しかし議会の動きがFCCに対し相当のプレッシャーをかけたことは間違いない。さらには、ティー・パーティー運動は今後、大きな政府批判や規制機関の権力の濫用という側面から環境保護庁など他の規制機関の問題と併せて、2012年大統領選に向けてオバマ大統領を批判する材料の一つとしてFCC批判を使うことが予測される。既述の通り、オバマ大統領自身上院議員時代からネットワーク中立性の規則制定を支持してきたこと、そして規則を制定したジェナカウスキーFCC委員長と大統領が非常に親しい関係にあることから、この問題はティー・パーティー運動にとっては、再選を狙うオバマ大統領を揺さぶる好材料の一つと言えるだろう。


*1: 本論文は、科学研究費若手研究(B)研究課題番号[22700261]による研究成果の一部である。
*2:Phil Kerpen氏(Vice President, Policy, Americans for Prosperity・肩書きはインタビュー当時)とのインタビュー、2011年3月25日実施。
*3:谷脇康彦『インターネットは誰のものか』日経BP社、2007年、160-161頁。
*4:清原聖子「第10章テレコミュニケーション政策におけるイデオロギー的対立」五十嵐武士、久保文明編著『アメリカ現代政治の構図―イデオロギー対立とそのゆくえ』東京大学出版会、2009年、323-324頁。
*5:The White House Office of the Press Secretary, Immediate Release, Statement by the President on Today’s FCC Vote on Net Neutrality, (December 21, 2010) (http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2010/12/21/statement-president-today-s-fcc-vote-net-neutrality).
*6:FCC Policy Statement, (Adopted August 5, 2005, Released, September 23, 2005) (http://hraunfoss.fcc.gov/edocs_public/attachmatch/FCC-05-151A1.pdf).
*7:土屋大洋、「ネットワークの中立性と政策のエミュレーション―日米間における議論の比較―」『法学研究』第83巻第3号、慶應義塾大学法学部内法学研究会、2010年3月、228-229頁。
*8:K.C. Jones, “Net Neutrality Proponents Claim Victory, Prepare for Next Battle”, Informationweek, (December 11, 2006) (http://www.informationweek.com/news/internet/showArticle.jhtml?articleID=196603104).
*9:Kim Hart, “Groups Press FCC on Comcast, Net Neutrality: Petition Alleges Internet Interference”, Washington Post, (November 3, 2007) (http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/11/02/AR2007110201973.html).
*10:清原聖子(2009年)前掲論文、321頁。
*11:清原聖子「3米国のネットワーク中立性議論の新たな展開」情報通信総合研究所編『情報通信アウトルック2009NGNが開く未来の扉』NTT出版2008年、263頁。
*12:FreedomWorksは、各州に広がる様々なティー・パーティーの活動グループたちに情報提供を行い、彼らを結びつける重要な役割を果たしている。
*13:Dick Armey & Matt Kibbe, Give Us Liberty, A Tea party Manifesto, (HarperCollins Publihsers, NY.), 2010, p.65.
*14:Ibid., p.123.
*15:Richard Whitt氏(Director/ Managing Counsel, Telecomm and Media Policy, Google・肩書はインタビュー当時)とのインタビュー、2011年3月7日実施。
*16:Americans for Prosperity(AFP)は自分たちをティー・パーティー運動の重要な同盟相手だとみなしている。AFPのローカル・メンバーの中にはティー・パーティーの活動家たちが多い。
*17:Wayne T. Brough博士(Chief Economist and Vice President of Research, FreedomWorks・肩書きはインタビュー当時)とのインタビュー、2011年3月11日実施。
*18:Phil Kerpen氏とのインタビュー、2011年3月25日実施。
*19:Seton Motley氏(Less Government代表・肩書はインタビュー当時)とのインタビュー、2011年3月10日実施。
*20:Seton Motley氏とのインタビュー、2011年3月10日実施。
*21:Bartholomew Sullivan, “Tea Party Activists Join Forces with Telecoms”, The Commercial Appeal, (September 5, 2010) (http://www.commercialappeal.com/news/2010/sep/05/strange-allies-in-fight-for-net/?preventMobileRedirect=1).
*22:Julius Genachowski, The Third Way A Narrowly Tailored Broadband Framework, (May 6, 2010) (http://fjallfoss.fcc.gov/edocs_public/attachmatch/DOC-297944A1.pdf).
*23:“FCC to Seek Best Legal Framework for Broadband Internet Access: Agency Sees Problems from Comcast Case, Begins Public Proceeding to Examine Options for Moving Forward”, FCC News, (June 17, 2010) (http://hraunfoss.fcc.gov/edocs_public/attachmatch/DOC-298861A1.pdf).
*24:“FCC on Path to Most Dangerous Expansion of Federal Power”, Cleveland Tea Party Patriots, Press Release, (August 20,2010)
(http://clevelandteapartypatriots.blogspot.com/2010/08/fcc-on-path-to-most-dangerous-expansion.html).
*25:Sara Jerome, “Tea Party Groups out Against Net Neutrality”, The Hill’s Technology Blog, (August 13, 2010) (http://thehill.com/blogs/hillicon-valley/technology/114101-tea-party-groups-come-out-against-net-neutrality).
*26:Phil Kerpen氏とのインタビュー、2011年3月25日実施。
*27:Eliza Krigman, “How Tea Party Might Help Net Neutrality”, National Journal, (October 13, 2010) (http://www.nationaljournal.com/congressdaily/tpp_20101013_9102.php), Sara Jerome, “Republicans who support net neutrality caught between industry”, Tea Party, The Hill’s Technology Blog, (September 28, 2010) (http://thehill.com/blogs/hillicon-valley/technology/121245-republicans-who-vote-to-regulate-the-internet-may-get-cover-from-telecom-groups-but-not-the-tea-party)及びSeton Motley氏とのインタビュー、2011年3月10日実施。
*28:James Gattsuso氏(Senior Research Fellow in Regulatory Policy Thomas A. Roe Institute for Economic Policy Studies, The Heritage Foundation・肩書きはインタビュー当時)とのインタビュー、2011年3月21日実施。
*29:Wayne T. Brough博士とのインタビュー、2011年3月11日実施。
*30:Peter Roff, “GOP’s Walden Pushes to Repeal FCC’s Net Neutrality Policy,” USnews.com ,(February 11, 2011) (http://www.usnews.com/opinion/blogs/peter-roff/2011/02/11/gops-walden-pushes-to-repeal-fccs-net-neutrality-policy).
*31:Sara Jerome, “Tea Party activists pressure Dems to vote down net neutrality”, the Hill’s Technology Blog, (April 6, 2011) (http://thehill.com/blogs/hillicon-valley/technology/154379-tea-party-activists-pressure-dems-to-vote-down-net-neutrality).
*32:Edward Wyatt, “House Votes Against ‘Net Neutrality’”, The New York Times, (April 8, 2011) (http://www.nytimes.com/2011/04/09/business/media/09broadband.html?amp;nl=todaysheadlines&pagewanted=all).

■清原聖子:東京財団「現代アメリカ」プロジェクトメンバー、明治大学情報コミュニケーション学部専任講師