タイプ
論考
プロジェクト
日付
2011/6/8

ティー・パーティ運動を理解するためのフレームワーク―世論調査の横断的な評価― 石川 葉菜

1 はじめに
ティー・パーティ運動とは何か。ある識者はこの運動をリバタリアンによる運動だといい、また別のある識者は、共和党保守の運動だと述べている。反エスタブリッシュメントの運動であるとか、ポピュリズム運動だという指摘もある。果たしてどれが正しく、どれが間違っているのだろうか。おそらく、どれもがティー・パーティ運動の一部分を説明している点で正しく、他方で、全てを説明できない点で、どれも不十分だろう。その意味で、ティー・パーティ運動の全体像は見えてこない。一般に流布しているこうした様々な議論は、なぜ、特には相容れないような様々な結論を提示しているのだろうか。その問いを解く手掛かりは、こうした議論がしばしばその根拠として用いている、数々の世論調査結果の見方にある、と筆者は考える。そこで本稿では、そうした世論調査結果を用いて、横断的に評価を加える。その上でティー・パーティについての様々な議論を吟味し、さらに、ティー・パーティ運動の全体像を理解するためのフレームワークを提示したい。

本稿の構成は、まず、いくつかの主要なティー・パーティ運動の議論とその根拠を提示し、その説明枠組みの限界を明らかにする。次に、ティー・パーティ運動を、ポピュリズム運動、反エスタブリッシュ運動、リバタリアンの運動だと特徴付ける議論の限界を指摘した後に、反「大きな政府」(anti big government) という枠組みを提示したい。おわりに、本稿の議論から得られる知見を近年の分極化の議論に当てはめ、ティー・パーティ運動の中に見出せる分極化について触れたい。

尚、先ほど述べたように、本稿ではその目的のために、ティー・パーティ運動を扱う議論がその論拠とする様々な世論調査結果を横断的に用いている。この手法には、三つの問題点がある。第一に、今回用いた全てデータが、未加工のデータではなく、あらかじめ集計され、処理されたデータである、ということである。本分析では、主にPew Research Center、Gallup、New York Timesによる世論調査結果を用いた。そのどれもが非常に洗練された世論調査をすることで有名で、また、社会的地位も高く、ティー・パーティ運動についても、多くの議論の根拠として利用されている。そのうち一部の世論調査結果については、生の、未加工のデータセットを公開しているものの、ほとんどは公開されていない。加えて、本分析が、ティー・パーティ運動というまさに今現在生じている現象を扱うため、容易に入手可能な統計データが存在していない。こうしたことから、本稿では加工済みのデータを用いた分析をおこなっており、その意味で、不確さがある。第二に、異なる世論調査を横断的に評価することに対する不正確さが挙げられる。それぞれの世論調査は、その調査時期、手法、質問内容、質問対象などがそれぞれ異なるため、それらを同じように評価することは、必ずしも緻密な議論に適すとはいえないだろう。最後に、本稿で用いる世論調査結果が、全ての世論調査結果をカバーしているわけではない、という点である。議論をわかりやすく、かつ簡潔にするために、用いる世論調査結果を取捨選択する必要があったものの、用いるデータに何らかの恣意性が含まれている可能性を否定することはできないだろう。

このような問題から、現状では、簡単な統計的な分析すらも困難であり、数字を扱う議論にもかかわらず、論理的に厳密な議論が困難である、という限界が予め設定されてしまっている。しかしながら、そのことが必ずしも、本稿の議論の価値を減じるものではない。その理由は、三つある。第一に、本分析の目的が、世論調査結果分析の解釈について検討を加えることにあるからである。なぜ様々な解釈が生じたのか、ということを示すのに、世論調査結果自体を一次資料として扱うことは必要不可欠である。第二の理由は、本分析が、現状分析という性格を帯びているからである。一般に分析というものは、これまでの議論やデータの蓄積の上に成立するものである。本稿のような現状分析についていえば、限りある蓄積の中で、いかに、今後の議論の在り方や方向性を指し示せるか、という重大な役割を担っているといえるだろう。そうした今後の指標足りうる役目は、本稿のような分析でも十分可能だろう。第三の理由は、必要十分なデータセットがなければ何も分析できないわけではなく、また、データセットを用いた分析が常に論理的に正しいわけではないからである。世論調査結果からでも、多くの含意を引き出すことは可能であり、精確さには欠けるかもしれないが、広範な議論を扱えるという長所がある。ただし、評価には注意深さが不可欠であり、それは一般的な統計分析にもいえることである。以上の点に留意し、議論を始めたい。

2 ポピュリズム運動?
当初、ティー・パーティ運動はポピュリズム運動といわれることが多かった。その根拠としてよく挙げられるのは、この運動がオバマ大統領に対して投げつけた中傷の数々と、それを信じる運動支持者の存在である。運動支持者や参加者の一部は、『オバマ大統領は社会主義者で、イスラム教徒で、そして黒人の人種主義者だ』などとする中傷を、真実だと信じていたようである。例えば、次のような世論調査結果がある。図 1 は、オバマ大統領の生まれた国についてティー・パーティ運動支持者がどのように考えているのかを示したものである*1 。ティー・パーティ運動支持者のうち実に30% もの人が、オバマがアメリカ以外の国で生まれたと信じているのである。


図 1 ティー・パーティ運動支持者に対する ⌈ オバマ大統領が生まれた国はどこだと思いますか? ⌋ という質問への回答

しかし、運動支持者のうち 3 分の 1 に満たない割合のものを、ティー・パーティ運動全体の特徴だと理解することは、誤りであろう。また、運動支持者以外の人たちも、一定程度、大統領の出生地をアメリカではない国だと信じているという事実も、忘れてはならない。図 2 は、ティー・パーティ運動支持者以外の人たちがオバマ大統領の生まれをどのように考えているのかを示したものである*2 。実に 20% もの人が、オバマ大統領の生まれをアメリカ以外の国だと信じている。


図 2 ティー・パーティ運動支持者以外の人に対する 「オバマ大統領が生まれた国はどこだと思いますか?」という質問への回答

さらに、もしティー・パーティ運動がポピュリズム運動によって支えられたものならば、なぜ社会の様々な層からの支持を得ているのか、という問いに答えることができない。実際、運動支持者の構成を見る限り、社会的に立場の弱い層からの支持が強い運動とはいい難い。教育水準と収入についての世論調査結果を示し、この運動が、社会の様々な層からの支持を得ていることを明らかにしよう。表 1 は、ティー・パーティ運動支持者とそれ以外の人との間の教育水準を比較したものである*3 。運動支持者に高卒未満の低学歴層が多いわけではないのである。また、運動支持者とそれ以外の人たちとの間に、明確な教育水準の差異を見ることはできない。表 2 は、同様に、収入を比較したものである*4 。ここからはむしろ、運動支持者には収入の高い人の割合が多く、低収入の人たちの割合が少ないことがわかる。したがって、この運動が単なるポピュリズム運動であったとはいい難いことは明らかである。

表 1 ティー・パーティ運動支持者とそれ以外の人との教育水準の差異


表 2 ティー・パーティ運動支持者とそれ以外の人との収入の差異


3 反エスタブリッシュメント運動?
ティー・パーティ運動を反エスタブリッシュメントの運動だと捉える見方もある。これには、次の二つの裏付けが存在する。まず、図 3 は、ティー・パーティを支持する人と、それ以外の人に対して、「再選を目指す現職候補に投票したいと思いますか」という質問に 「いいえ」と回答した人の割合である*5 。ティー・パーティ運動支持者の半分以上 (55%) が、現職候補に投票したくないと考えているのに対して、それ以外の人々の割合は、16% である。次に、図 4 は、先の質問の 「現職」を、「新人候補」に置き換え、その質問に 「はい」と回答した人の割合である*6 。ティー・パーティ運動支持者の 42% が、新人候補を好むのに対し、それ以外の人々の割合は、わずかに 17% に過ぎない。こうした事実をもとにして、ティー・パーティ運動が反エスタブリッシュメント運動だと指摘する議論がよくみられる。

図 3 ティー・パーティ運動支持者とそれ以外の人について、それぞれ、「再選を目指す現職に投票したいと思いますか?」という質問に 「いいえ」と答えた人たちの割合




図 4 ティー・パーティ運動支持者とそれ以外の人について、それぞれ、「一度も公職についていない新人候補に投票したいと思いますか?」という質問に 「はい」と答えた人たちの割合


スコット・ラスムッセンとダグラス・ショーンも、ティー・パーティ運動は反エスタブリッシュメントによって結束した運動だと主張している*7 。彼らは、ティー・パーティ運動を単なる保守運動や共和党運動と位置づけるのではなく、二大政党に対する反エスタブリッシュメントの運動だと位置付けているのである。

しかしながら、もしこの運動が反エスタブリッシュメントを強い動機としているならば、なぜ、この運動は保守の方向へとベクトルを向けているのだろうか。この運動を支持する人々のイデオロギー構成と支持政党の構成を見てみよう。図 5 と図 6 は、それぞれ、ティー・パーティ運動支持者のイデオロギー構成と支持政党構成とを示したものである*8 。図 5 から、この運動の 71% の人が、自らを保守だと自認していることがわかる。リベラルだと答えた人はわずか 7% に過ぎない。この運動は、リベラルな運動ではなく保守的な運動なのである。また図 6 では、ティー・パーティ運動に参加している人の政党帰属意識が、共和党は 49%、無党派は 43%、民主党はわずか 8% という値を示していることがわかる。この運動は、民主党の支持が少なく、共和党と無党派の支持が同じくらい多い運動でもあるのである。



図 5 ティー・パーティ運動支持者のイデオロギー構成



図 6 ティー・パーティ運動支持者の支持政党構成


さらに、先ほど示した図 3、4 からは、一見すると、ティー・パーティ運動は反エスタブリッシュメント運動のように見えるのだが、実はそれが不適切な帰結だということを、別の二つの世論調査結果を用いて、指摘したい。まず、図 7 は、ティー・パーティ支持者とそれ以外の人たちについて、それぞれ、「健康保険法案に賛成の票を投じた現職の候補者に投票したいと思いますか?」という質問に「いいえ」と回答した人たちの割合を比較したものである *9。ティー・パーティ運動支持者のうち健康保険法案に賛成票を投じた現職の候補者への投票を嫌う人は 75% にもなり、運動を支持しない人の 19% と比べて圧倒的である。次に図 8 は、同様に、ティー・パーティ運動支持者とそれ以外の人について、それぞれ、「2008 年金融危機での、銀行への政府ローン法案に賛成票を投じた現職の候補者に投票したいですか?」という質問に「いいえ」と答えた人たちの割合を示したものである*10 。運動支持者のうち政府ローン法案に賛成した候補者への投票を好まない人は、73% にものぼる。これらと図 3、4 とを比較すると、ティー・パーティ支持者は、現職候補者に対して反発するよりも、こうした政府の肥大化を認める法案を支持した候補者に対してはるかに強く反発していることがわかる。よって、ティー・パーティ運動支持者は、エスタブリッシュメントに対して反発しているというよりも、「大きな政府」化に対して反発していると考えた方が適切だろう。



図 7 ティー・パーティ運動支持者とそれ以外の人について、それぞれ、「健康保険法案に賛成票を投じた現職の候補者に投票したいと思いますか?」という質問に 「いいえ」と答えた人たちの割合


図 8 ティー・パーティ運動支持者とそれ以外の人について、それぞれ、「2008 年金融危機での、銀行への政府ローン法案に賛成票を投じた現職の候補者に投票したいですか?」という質問に「いいえ」と答えた人たちの割合


4 共和党保守運動?リバタリアン運動?
ティー・パーティ運動を、反「大きな政府」運動として理解することは、一見、ティー・パーティ運動を共和党保守運動であるとかリバタリアンの運動だと捉える議論と同じように見えるかもしれない。本節では、ティー・パーティ運動を共和党保守運動やリバタリアン運動として捉える議論の限界を指摘したい。
先に、図 5 において示したように、ティー・パーティ運動は、保守派の運動という側面を持っている。このことから、ティー・パーティ運動を共和党保守運動とする議論は、少なからず存在する。

社会争点についての運動支持者の傾向を見ると、このような見方がますます正しいように見えてくる。ここでは、ティー・パーティ運動支持者における、同性婚についての立場、中絶についての立場、そして宗教保守派の運動との関係性を示した世論調査結果を例に挙げる。第一に、図 9 は、ティー・パーティ運動支持者とそれ以外の人について、「同性婚を支持しますか?」という質問への回答から、同性婚に対する姿勢の違いを示したものである *11。運動支持者のうち同性婚を支持するのはわずか 26% なのに対し、不支持だと答えた人は 64% にものぼる。これに対し、支持者以外の人は、それぞれ同性婚支持が 49%、不支持が 42% である。運動支持者は同性婚を支持しない傾向が強いことがわかる。第二に、図 10 は、同様に、ティー・パーティ運動支持者とそれ以外の人について、それぞれ、「中絶は合法であるべきだと思いますか、違法であるべきだと思いますか?」という質問への回答の割合を示しており、中絶に対する立場の違いを明らかにしている*12 。運動の支持者のうち、中絶は合法であるべきだと考えている人は 34% で、違法であるべきだと考えている人は 59% であることがわかる。これに対して、支持者以外の人はそれぞれ 60%(合法であるべき)、34%(違法であるべき) である。中絶問題について、運動支持者は中絶は違法であるべきだと考える人が多い傾向が強いことがわかる。最後に、図 11 はティー・パーティ運動に対する宗教保守派の態度を示したものであり、図 12 は、宗教保守派の運動に対するティー・パーティ運動支持者の態度を示したものである*13 。これら二つの図から、宗教保守派の運動とティー・パーティ運動との間の密接な結び付きが指摘できる。以上挙げた三つの具体例は、どれも、ティー・パーティ運動を共和党保守運動とする議論の正しさを補強するように思える。


図 9 ティー・パーティ運動支持者とそれ以外の人について、それぞれ、「同性婚を支持しますか?」という質問への回答の割合の比較



図 10 ティー・パーティ運動支持者とそれ以外の人について、それぞれ、「中絶は合法であるべきだと思いますか、違法であるべきだと思いますか?」という質問への回答の割合の比較



図 11 宗教保守派の、ティー・パーティ運動に対する態度



図 12 ティー・パーティ運動支持者の、宗教保守派の運動に対する態度



しかしながら、ティー・パーティ運動を、従来の共和党保守派の運動もしくは宗教保守派の運動と混同することは大きな誤りである。ティー・パーティ運動の主要な目的として、宗教的な争点があげられることはほとんどなく、経済争点が主であるということを忘れてはならない。図 13 は、ティー・パーティ運動支持者が考える、この運動の主要な目的についての回答割合である*14 。ここからわかるように、彼らの関心は経済争点にある。また、2010 年にインターネット上で公募して決めた、ティー・パーティ運動のマニフェストである「アメリカからの契約」は、宗教争点どころか、親は自身の子をどのように教育するかについて選択できるようにすべきという主張を除き、社会争点すらも含んでいないのである。


図 13 ティー・パーティ運動支持者たちに対して、「ティー・パーティ運動の主目標は何ですか?」という質問への回答の割合



さらに、ティー・パーティ運動を共和党保守運動だとする説明では、図 6 にあるように、ティー・パーティ運動支持者の半分近くが無党派層であるという事実を、説明できない。この運動は、保守的であり、また、共和党員と無党派層とが混合した運動なのである。この点について、有権者を支持政党とイデオロギーとで分類し、それぞれのカテゴリーの人々が、ティー・パーティ運動をどのように見ているのかを明らかにすることで、補足する。図 14、15 は、共和党支持者の人たちについて、それぞれイデオロギーごと (保守、穏健・リベラル)、ティー・パーティ運動に対する支持・不支持の割合を示したものである*15 。同様に、図 16、17 は、民主党支持者についてそれぞれイデオロギーごと (保守・穏健、リベラル) に、図 18、20、19 は無党派についてそれぞれイデオロギーごと (保守、穏健、リベラル) に示したものである*16 。これらの図から、ティー・パーティ運動を支持する人の割合は共和党保守と無党派保守が大変高く、ともに 53% である。その一方で、共和党員の穏健・リベラルの支持は 27%、民主党員は保守・穏健が 7%、リベラルが 3%、無党派のリベラルが 7%、穏健が 12% と、いずれも低い。


図 14 共和党支持者であり、かつ保守的なイデオロギーを持つ人の、ティー・パーティ運動支持・不支持の割合



図 15 共和党支持者であり、かつ穏健もしくはリベラルなイデオロギーを持つ人の、ティー・パーティ運動支持・不支持の割合



図 16 民主党支持者であり、かつ保守的もしくは穏健なイデオロギーを持つ人の、ティー・パーティ運動支持・不支持の割合



図 17 民主党支持者であり、かつリベラルなイデオロギーを持つ人の、ティー・パーティ運動支持・不支持の割合



図 18 無党派であり、かつ保守的なイデオロギーを持つ人の、ティー・パーティ運動支持・不支持の割合



図 19 無党派であり、かつ穏健なイデオロギーを持つ人の、ティー・パーティ運動支持・不支持の割合



図 20 無党派であり、かつリベラルなイデオロギーを持つ人の、ティー・パーティ運動支持・不支持の割合



ティー・パーティ運動が、経済争点のみを重視する、二つの集団の混合だという事実に着目した議論として、ケイトー研究所の記事が挙げられる*17 。カービィらは、リバタリアンを、財政保守ではあるが、社会文化争点については穏健もしくはリベラルな人たちとし、また伝統的な保守を、小さな政府が望ましいと考え、さらに、政府は伝統的な価値を奨励すべきと考える人たちと定義した。その上で、ティー・パーティ運動参加者に対する世論調査をおこなったところ、リバタリアンが 48% に対し、伝統的な保守は 51% であった。そして保守と回答した人のうち共和党員だとした人は 63% で、無党派と答えた人は 30% であった。また、リバタリアンは 39% が共和党員だと答え、44% が無党派だと答えた。ティー・パーティ運動を代表する政治家として、リバタリアンはロン・ポールを、共和党はグレン・ベックやサラ・ペイリンを選ぶ傾向があった。こうした独自の世論調査結果から、彼らはティー・パーティ運動を、リバタリアンと伝統的保守とが、経済保守という共通点によって結びついた運動だとした。

また、ナショナル・ジャーナルの記事でラウンチは、主にピューの世論調査を参考にしながら、「共和というレッテルを嫌う、潜在的な共和党員(Debranded Republicans)」という人々が、運動を支えたと論じた*18 。彼によれば、共和党系無党派とは、経済争点に対して保守的な人々である。だが、社会的にリベラルもしくは穏健というわけではなく、必ずしも共和党と社会的争点で断ち切れる傾向があるというわけではない。ただ、共和党の社会的保守主義に対して関心は高くなく、さらに、共和党のエスタブリッシュメントに対して強い敵意を持っているという。

これらの記事は、ティー・パーティ運動において、その支持者と運動参加者とのどちらのレベルにおいても、二つの集団に大きな隔たりがあることを強調している。そしてそうした差異にもかかわらず、経済争点に対する態度の一致という点で、両者は結束できたと指摘している。

確かに、この運動は保守的であり、また、共和党員と無党派層とが混合した運動であるのだが、そもそもなぜティー・パーティ支持者のうち半分にも迫るほどの割合を、無党派が占めているのか、ということについては、こうした理解では説明できない。さらに、こうした両集団の差異を強調するような理解では、経済保守として団結しているこれら二つの集団の間に存在する大きな隔たりが、いまだにこの運動を瓦解させるに至っていない理由も、説明できない。カービィは先ほどの記事の中で、今後、社会争点を共和党が取り上げることはリバタリアンの離反を招く恐れがあると警告しており、ラウンチも先ほどの記事において、二つの集団間の相容れない立場、つまり社会争点に共和党は苦しむことになると指摘しているものの、なぜ今まで分裂しなかったのか、という点については触れていない。このように、ティー・パーティ運動を二つの異なる集団の運動として理解したとき、両者の間にある隔たりである社会争点が、いずれ争点化することは示唆しているものの、なぜ今まで争点化しなかったのか、という点については十分説明できないのである。

もちろん、運動の指導的立場にある者たちが、社会争点を争点化させなかったと指摘することはできるかもしれない。ニューヨーク・タイムズ紙でゼルニケは、ティー・パーティ運動支持者の中に存在する二つの異なる集団の差異を強調した上で、運動の指導者たちが、社会争点を締め出しておくことは難しいことを認識しつつも、社会争点から距離をとれば、無党派を引きつけることができると考えていた、と指摘している*19 。彼女は 「アメリカからの契約」のオーガナイザーであるライアン・ヘッカーの、⌈ 我々は経済的保守争点によって団結できる。社会争点を含めることは論外である ⌋ という言葉を伝えている。このように、多くのティー・パーティ運動の支持者たちは社会争点を抱えていたのだが、指導者たちは、社会争点を持ち出すことは運動をばらばらにする危険性があると認識していたために、戦略的に活動をしていた。

しかしながら、草の根の大衆運動であり、明確な指導者が不在であり、そしていくつもの多様な組織の集合体であるティー・パーティ運動が、幾人かの指導的な立場にある者たちの思惑によって誘導されていたとは考えにくい。したがって、ティー・パーティ運動が二つの異なる集団の混合の運動だという認識自体は正しいものの、そもそもなぜティー・パーティ支持者の半分近くが無党派で構成され、また、異なる二つの集団が分裂せずにいられたのかという点については、十分な説明がなされてはいない。


5 反 「大きな政府 」運動
以上のことから、ティー・パーティ運動をめぐる様々な議論では、この運動を包括的に説明する枠組みを提供することはできないことがわかった。この運動をポピュリズム運動として捉えると、この運動が人口動態的に幅広い層から支持されていることを説明できない。この運動を反エスタブリッシュメント運動として捉えても、この運動がリベラルではなく保守的な運動であることを説明できない。たとえこの運動を二つの異なる集団が混合した運動として捉えたとしても、なぜ無党派が半分も占めているのか、そしてなぜ異なる集団間の差異である社会問題が争点化せずにいるのかという問いに答えられない。

そこで、図 7、8 に示されているように、ティー・パーティ運動の支持者たちは、「大きな政府」に強く反対していているという事実から、この運動を説明する土台になりうる説明枠組みとして、反「大きな政府」運動だという可能性を提示したい。

共和党政権下における財政赤字の増大と経済危機、その後の民主党政権下での経済不況の継続と政府の規模の拡大により、両政党、そしてエスタブリッシュメントに対する失望と怒りが幅広く様々な階級の大衆の間に生じていた。こうした失望と怒りは、もともと経済保守であった多くの共和党支持者はもちろん、「大きな政府」化によっても好転しない現状に反発する人たちとの間にも、強く生じていた。その証拠として、近年のアメリカ市民の保守派の急増が指摘できる。USA Today/Gallupの世論調査によれば、2008 年から 2010 年において、自らのイデオロギーを保守と答えた人が37% から 5% も増大して 42% になった一方で、穏健と答えた人は 37% から 35% に、リベラル派は 22% から 20% に減少している *20

加えて、近年の無党派層の急激な保守化、さらにいうと、無党派層の急激な経済保守化も、「大きな政府」化によっても好転しない現状に対する反発として理解できるだろう。表 3 は、無党派層の人たちの保守 (特に経済保守) への変化を示したものである*21 。最初の行は、2006 年と 2010 年のそれぞれについて、無党派層の人のうち、イデオロギーが保守だと答えた人の割合を示したものである。最後の列は、2006 年から 2010 年の変化を示している。ここから、2006 年から 2010 年にかけての無党派層の保守化が見て取れる。次の項目は、「雇用状態の改善に相応しい二大政党はどちらか?」という質問に対する回答割合である。以下の項目は同様に、「財政赤字の改善に相応しい二大政党はどちらか?」、「政府の運営に相応しい二大政党はどちらか?」という質問に対する回答割合である。これら3つの項目から、2006 年から 2010 年にかけて、無党派層が保守化、しかも経済保守化したことがわかる。

表 3 無党派層の人たちの保守 (特に経済保守) への変化


これらの事実は、次のような可能性を示唆している。つまり、「大きな政府」化を行っても好転しない現状に反発する人たちのうち無党派の人たちは、その多くが近年になって保守化、しかも経済的に保守化した。そしてそうした人たちが、ティー・パーティ運動の支持者の半分近くを占めるようになった、というものである。残念ながらこのことを必要十分に実証するデータがないものの、既存のデータや経験的な事実は、この仮説を否定するものではない。この仮説が正しいとすれば、図 13 にあるように、一見すると無党派層はリバタリアン的な政策選好のように思えるが、実は、それは現状に対する反発に過ぎない、と捉えることも可能になる。さらにいうと、経済保守の無党派は、リバタリアンとラベルを貼れるほど固定的でもないし長期的でもなく、流動的で短期的で多様な人々の集まりと考える方が適切だということも指摘できるだろう。なぜなら、この反発が、経済危機という今この時における閉塞感から生まれる反発という、非常に持続性の弱い可能性をも示唆しているからである。

こうしたことから、もともと保守であった人々と、「大きな政府」に反対するという意味での経済保守とが、ティー・パーティ運動支持者の中に混在していたと考えることができるのではないだろうか。図 5 のようにこの運動は保守的な運動ではあるが、それは反 「大きな政府」という熱意に突き動かされているという意味での保守の運動なので、なかなか社会争点が主要な争点にはなりえない、と考えることができる。また、図 9 や図 10 のように、この運動支持者の中に社会的保守の立場の人が多いという事実がありながらも、図 13 のようにこの運動の主要争点は反 「大きな政府」 であり、決して社会的保守運動や宗教保守の運動ではない、と指摘できるだろう。今なお、この運動が分裂せずにいるのもまた、両者が、「大きな政府」化でも改善されない現状に対する怒りで結びついているためだと考えられるだろう。


6 おわりに
はじめに述べたように、本稿は、多くの制約のもとで議論が進められた。その原因は、加工された世論調査結果を横断的に評価する、という手法を用いたためであった。その理由は、一般に流布しているティー・パーティ運動についての様々な議論の根拠が複数の世論調査結果であり、本稿の目的の一つが、なぜそうした様々な議論が生まれたのか、という問いであったためだった。それに加え、生の、未加工のデータセットが容易に入手できないためであった。そのため本分析は多くの限界があるが、議論の方向性を指し示す、という現状分析の目的を考慮すれば、決してその価値を減じるものではないこともまた、既に指摘した通りである。

実際、本稿では、ティー・パーティ運動を反「大きな政府」という、短期的には強力であるが、長期的には脆い熱によって突き動かされた運動として捉える仮説を設定することで、扱いにくいこの運動を明快に理解することができると指摘した。この仮説が正しいことを立証するのにはまだ議論が不十分だが、逆に、否定するのに十分な証拠も経験的な事実もないことは、既に述べた通りである。現状分析という本稿の目的から、今後のこの運動の分析に対する指標として、この反「大きな政府」運動というフレームワークに基づいた見方を提示できたことは、一定程度、現状分析の役割を果たせたものと考えたい。

さらにこの仮説が正しいとすれば、次の二つの点を指摘できるだろう。第一に、この運動が急ごしらえのエネルギーによって突き動かされたものであるがゆえに、しっかりとしたイデオロギー的土台、指導者、そして明確な支持者がおらず、識者による多様な理解が生まれた、と捉えることができるという点である。第二に、非常に持続性の弱い可能性を秘めているために、この運動の崩壊がそれほど遠くはないかもしれない、という可能性である。本稿の仮説が正しければ、この運動が分裂するとしたら、それは反「大きな政府」という熱が冷めたときだと考えられ、そしてそのとき、無党派は経済保守として団結するのではなく、散り散りになってしまうように思われる。

最後に、近年の分極化の議論との関連性について、触れておきたい。過去 30 年ほどの間、アメリカの政治においては、性、モラル、宗教、イデオロギー、政党帰属意識などといった要素において、中道派がいなくなり、どちらかの極に偏る現象が生じてきた。ただし、注意しなければならないことは、有権者の中には、保守派、中道派、リベラル派はそれぞれ温存されていたことである。フィオリナによれば、60 年代までには存在していた、リベラルな共和党支持者と、保守的な民主党支持者がイデオロギーに沿って正しく区分され、前者は民主党支持に、後者は共和党支持になったために、連邦議会において、中道派を代表するような議員が減少したのである*22

従来のアメリカ政治の分極化の議論における重要な点は、無党派層の変化がほとんど議論されていないことと、保守のイデオロギーを強く持つ人ならば共和党への帰属意識を持つか、もしくは持つようになると考えていることである。本稿では、2006 年から 2010 年という非常に短期的期間ではあるものの、無党派の保守への大きな変化が、非常に重要な役割を果たしたことを指摘している。この変化こそが、ティー・パーティ運動支持者の半分を占め、2010 年度中間選挙結果に大きな影響を及ぼした。しかも、共和党の大躍進に貢献を果たしたティー・パーティ運動の支持者の約半数が、2006 年以降に急速に保守化した、「共和党に帰属意識を持っていない」無党派層によって占められているのである。ティー・パーティ運動という具体例から、無党派層が保守に強い偏りを持っても、そのイデオロギーにしたがって共和党候補に票を投じることはあっても、共和党に帰属意識を持つとは限らないことが明らかになった。この事実は、分極化の議論を考える上で非常に重要な示唆を与えているだろう。

*1:New York Times/CBS News poll (April, 2010)の世論調査結果。以下のサイトをもとに、筆者作成。
“Polling the Tea Party.” April 14, 2010. New York Times.
http://www.nytimes.com/interactive/2010/04/14/us/politics/20100414-tea-party-poll-graphic.html?scp=4&sq=New%20York%20Times/CBS%20News%20poll%20%E3%80%80obama%20born&st=Search#tab=1. Last accessed March 31, 2011.
*2:同上。
*3:USA Today/Gallup( March, 2010) の世論調査結果。以下のサイトをもとに、筆者作成。
Saad, Lydia. “Tea Partiers Are Fairly Mainstream in Their Demographics.” April 5, 2010. Gallup.
http://www.gallup.com/poll/127181/tea-partiers-fairly-mainstream-demographics.aspx. Last accessed March 31, 2011.
*4:同上。
*5:Pew Research/National Journal Congressional Connection Poll (May, 2010) の世論調査結果。以下のサイトをもとに、筆者作成。
“Willingness to Compromise a Plus in Midterms.” May 24, 2010. Pew Research Center.
http://people-press.org/2010/05/24/willingness-to-compromise-a-plus-in-midterms/. Last accessed March 31, 2011.
*6:同上。
*7:Rasmussen, Scott and Doug Schoen. 2010. "Mad As Hell: How the Tea Party Movement Is Fundamentally Remaking Our Two-Party System." Harper.
*8:ともに、USA Today/Gallup( March, 2010) の世論調査結果。註3と同様のサイトをもとに、筆者作成。
*9:Pew Research/National Journal Congressional Connection Poll (May, 2010) の世論調査結果。註5と同様のサイトをもとに、筆者作成。
*10:同上。
*11:Pew Research Center(August-September, 2010)の世論調査結果。以下のサイトをもとに、筆者作成。
“The Tea Party and Religion.” February 23, 2011. The Pew Forum on Religion & Public Life.
http://pewforum.org/Politics-and-Elections/Tea-Party-and-Religion.aspx. Last accessed March 31, 2011.
*12:Pew Research Center(July-August, 2010)の世論調査結果。註11と同様のサイトをもとに、筆者作成。
*13:ともに、Pew Research Center(November, 2010 – February, 2011)の世論調査結果。註11と同様のサイトをもとに、筆者作成。
*14:New York Times/CBS News poll (April, 2010) の世論調査結果。註1と同様のサイトをもとに、筆者作成。
*15:Pew Research Center survey (March, 2010)の世論調査結果。以下のサイトをもとに、筆者作成。“Distrust, Discontent, Anger and Partisan Ranco.”April 18, 2010. Pew Research Center.
http://people-press.org/2010/04/18/section-6-tea-party-and-views-of-government-overreach/. Last accessed March 31, 2011.
*16:同上。
*17:Kirby, David and Emily Ekins. “Tea Party's Other Half.” October 28, 2010. Politico.com. 
http://www.cato.org/pub display.php?pub id=12515. Last accessed March 31, 2011.
*18:Rauch, Jonathan. “The Tea Party Paradox.” July 31, 2010. National Journal.
http://conventions.nationaljournal.com/njmagazine/cs_20100731_1026.php. Last accessed March 31, 2011.
*19:Zernike, Kate. “Tea Party Avoids Divisive Social Issues.” March 12, 2010. New York Times.
http://www.nytimes.com/2010/03/13/us/politics/13tea.html. Last accessed March 31, 2011.
*20:Saad, Lydia. “In 2010, Conservatives Still Outnumber Moderates, Liberals.“ June 25, 2010. Gallup.
http://www.gallup.com/poll/141032/2010-conservatives-outnumber-moderates-liberals.aspx. Last accessed March 31, 2011.
*21:Pew Research Center(August-September, 2010)とNational Election Pool(November, 2006) の世論調査結果。以下のサイトをもとに、筆者作成。
“Independents Oppose Party in Power...Again. September 23, 2010. Pew Research Center.
”http://people-press.org/2010/09/23/independents-oppose-party-in-power-again/. Last accessed March 31, 2011.
*22:Fiorina, Morris P., Samuel J. Abrams and Jeremy C. Pope. 2005. “Culture War? The Myth of a Polarized America (Great Questions in Politics Series)”. 2nd ed. Longman.

■石川葉菜:東京大学大学院博士課程