タイプ
論考
プロジェクト
日付
2011/8/8

アメリカNOW 第76号 六者会合再開の可能性と今後の展望 (池原麻里子)

2007年3月以降、動きがなかった北朝鮮の核開発問題に関する六者会合(北朝鮮、米国、中国、ロシア、韓国、日本)だが、最近、再開に向けた動きがみられる。それに伴い、ワシントンのシンクタンクの専門家から色々な意見が出ており、これらを検討しながら今後の見通しを考えてみたい。

まず、簡単にこれまでの六者会合の経緯、そして最近の動きをまとめてみよう。

2003年8月に第一回会合が開かれた六者会合は、紆余曲折を経て、2007年3月の第六回会合まで開かれてきた。第六回会合では、経済制裁としてバンコ・デルタ・アジアで凍結されていた資金の返還が確認できないと北朝鮮が首席代表会合に参加することを拒否したことから、実質的な協議は行われなかった。そしてその後、北朝鮮の挑発的な行動が続いたため、今日に至るまで凍結状態となっていたのである。
例えば北朝鮮は2009月4月、「人工衛星」と称するロケットを発射。1段目のロケットは日本海に落下し、2段目は太平洋上に進んだ。国連安全保障理事会がこのミサイル発射は安保理決議違反と北朝鮮を非難したことから、北朝鮮は核兵器開発を再開し、六者会合からは離脱すると表明した。
その後も北朝鮮の挑発は続き、2010年3月には韓国の哨戒艦「天安」を攻撃し、沈没させ、再び国連安全保障理事会に非難された。そして11月には延坪島砲撃事件が発生し、南北関係はさらに悪化した。

しかし、12月ころから北朝鮮は六者会合の復帰の意図を示し始める。中国の戴秉国(たいへいこく)国務委員(副首相級)が訪朝し、金正日と会談したところ、六者会合再開に積極的だったと報告。また北朝鮮はリチャードソン州知事(民主・ニューメキシコ、クリントン政権国連大使、エネルギー長官)をオバマ政権の強硬姿勢を打破するために同国に招待し、(1)国際原子力機関(IAEA)監視要員の寧辺核施設復帰(2)保管している核燃料棒の売却と国外搬出(3)南北の軍事的衝突防止措置への取り組みという3点に同意すると伝えたのである。

北朝鮮の姿勢に応じて、2011年1月にはボズワース北朝鮮政策特別代表やゲーツ国防長官が韓国、中国、日本を訪問し、中国の楊潔篪外相が米国、前原誠司外相が韓国を訪問し、北朝鮮問題が検討された。また、北朝鮮は韓国側に無条件での会談を提案した。
そして、5月の秘密会談の後、韓国と北朝鮮は7月22日、ASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚会議開催中のインドネシア・バリ島で南北高官協議を開き、六者会合の早期再開に合意した。従来、北朝鮮は、核兵器開発計画を米政府との関係改善に利用しようと、同計画に関する韓 国との1対1の協議は拒否してきたので、今回の会談は方向転換と言える。

中国が関係国に提示した3段階案では、南北対話、米朝協議を経て6カ国協議を再開するとしており、バリでの南北対話に続き、7月28、29日にはニューヨークで米朝協議が行われた。米側の出席者はスティーブン・ボズワース北朝鮮担当特別代表、ロバート・キング北朝鮮人権担当特使、およびクリフォード・ハート六者会合担当特使。北朝鮮側は2004年の第二回六者会合以降、一貫して核交渉を担当してきた金桂冠外務次官である。米側は六者会合再開のためには行動で示すように要求した。食糧援助問題も取り上げられたようだが、米側が厳しいモニタリングを条件としていることに不満を抱いているようだ。また、ウラン濃縮活動は電力生産のためであると主張し、停止の求めには応じることはできないとの立場も表明している。なお、米側は北朝鮮側に対し、日朝関係改善に向けて、拉致問題解決に取り組むよう求めたようである。7月10日~17日、拉致議連、家族会、救う会の代表が訪米し、国務省ではカート・キャンベル国務次官補(東アジア・太平洋担当)、ハート六者協議担当特使と会談したことが、改めて本件に言及する成果になったと思われる。

専門家の分析
ワシントンではこの一カ月あまり、専門家による北朝鮮関連の研究書や論文の発表が目についた。特にジョナサン・ポラックとマーカス・ノーランドは研究書に関するプレゼンテーションを行なった。彼らのプレゼン内容、そしてその他の専門家の論文の中から主なものを簡単に紹介する。(順不同)

ジョナサン・ポラック、ブルッキングス研究所上級研究員
ランド研究所、海軍戦略大学に在籍したことがある中国、朝鮮半島問題の専門家。
“No Exit: North Korea, Nuclear Weapons and International Security” (International Institute for Strategic Studies)
北朝鮮の核開発の歴史についてまとめた研究書である。金日成が建国した北朝鮮はマルクス・レーニン主義でありながら、実は伝統的な王朝的な性格を持っている国家だ。金日成時代から中国やソ連といった大国を手玉にとり、自らの意図と目的を達成してきた。中ソは北朝鮮に大々的に経済、政治、軍事な支援をしていたにもかかわらず、フルシチョフ、ブレジネフ、?小平は北朝鮮をコントロールしたり、封じ込めることに失敗している。ソ連崩壊後も北朝鮮は西欧、韓国、日本、米国を手玉にとって、経済援助を得てきた。
金日成は?小平に対して非核化の約束をしたが、次世代にそれを守る意思はなかった。つまり、金日成時代が北朝鮮非核化の最後のチャンスだった。金正日が合意枠組み締結後も、秘密裏にウラン濃縮計画を90年代初めから続けていたことが明らかになっている。この計画はパキスタンとA.Q.カーン博士の協力、および日本や欧州、旧ソ連諸国から密輸した材料で実施された。
2006年10月、北朝鮮が核実験の成功を発表した後、六者協議に基づき、核開発を中止しようと活発な交渉が展開された。北朝鮮は寧辺の核関連施設で核兵器4~8発分に十分なプルトニウムを生産した後、この老朽化した施設を交渉のネタとして利用したが、それ以外に関して決して譲歩することはなかった2009年には再び、核実験を行い、核保有国を宣言。その後も中国からの経済援助は継続しており、核開発計画を放棄する理由はない。
北朝鮮のリーダーは核兵器保有し続けることで権力、戦略上の国益、国家の生存を保持できるという結論に達している。
では、国際社会はどうすべきか。残念ながらこれといった解決法はないので、制裁等を通じて政治的、経済的な痛みを与え、リスクを最小限化し、拡散防止に努めるしかない。北東アジアの安保の秩序、NPTの効力への影響は計り知れない。

マーカス・ノーランド、ピーターソン 国際経済研究所副所長、東西センター上級研究員
アジアをはじめとする経済問題の専門家。南北統一のコスト分析、制裁の効果など、北朝鮮に関する研究書が幾つかある。
“Engaging North Korea: The Role of Economic Statecraft” (Policy Studies 59, East-West Center)
経済制裁はそもそも各国のコーディネーションが難しい上、国民の弾圧も厭わない金政権にはあまり効果がない。2006、2009年の金融制裁は多少、功を奏したが、近年の食糧危機にもかかわらず、ミサイルや核兵器の実験、韓国哨戒艦攻撃、延坪島砲撃など挑発的な行動に出ている。2008年夏以降、金正日の病いと後継者問題に直面して以来、態度は硬化した。
ブッシュ政権の圧力をかける努力は、関係諸国のバラバラな行動で効果が薄れた。韓国は2007年まで融和政策を展開し、日本も拉致問題が表面化するまでは国交正常化路線を追求した。中国は六者会合で中心的な役割を果したり、2009年には制裁を支持するなどの姿勢は見せたが、実際に経済支援を中止するなどの本当の影響力は行使していない。一方、北朝鮮経済の中国依存度は減った。
北朝鮮に対する制裁も取り込み政策も影響力を期待できない。北朝鮮の行動は国内政治事情と政権の存続に基づいている。従って、世代交代が無事に行われ、政権の権力が固まれば、よりリスクをとり、交渉に前向きになる可能性もある。悪化した食糧事情によって、人道的支援を求めることもあるだろう。逆に、金正日の後継者が権力を固めるまで、政治不安が続いたり、意見が分裂し、対外的譲歩は不可能になるかも知れない。また、次政権がよりハードラインとなる可能性もある。その場合、政治体制が根本的に変化するまで、核問題の究極的な解決はない。

ブルース・クリングナー、ヘリテージ財団上級研究員
元CIA、DIAスタッフ。1993-2001年、朝鮮半島問題を担当。
“Talks about Talking Okay, but the Ball is in Pyongyang’s Court” (WebMemo, July 25, 2911)
南北の対話、米朝会談は交渉の場に戻るかどうかの模索の場に過ぎない。オバマ政権が従来、表明している通り、非核化や交渉の場に戻らせるために報酬を与えるべきではない。北朝鮮が再び、非核化の約束を破ることがないように、慎重に進めるべきである。
まず、六者会合の再開は北朝鮮が韓国に対して昨年の2つの攻撃について謝罪すること、および核施設解体の再開を条件とすべきだ。寧辺の核関連施設にIAEA査察官が戻ること、同施設の解体を再開すること、濃縮ウラニウム核施設を含めた正確なデータの申告を前提とすべきである。

ジョエル・ウィット、元米朝合意枠組みコーディネーター、米韓研究所客員研究員
“Stopping the Nuclear North” (ForeignPolicy.com, July 26, 2011)
北朝鮮は現在、核兵器開発の重要な移行時期にあると思われる。すでに小型の核兵器は完成しており、短距離ミサイルの弾頭として利用できるかも知れない。北朝鮮がこの動きを加速化するかどうかが問題だ。北朝鮮がインド、パキスタン、イスラエルのように他の核保有小国家と同様の行動をとるのであれば、各種ミサイルの弾頭となるより洗練された核兵器を開発するはずだ。
ソウルや東京、米国の一部を破滅できる核ミサイルが数十発配備されれば、核保有国としてこれまで以上に勝手に振る舞うようになるだろう。韓国を頻繁に挑発し、報復を恐れずに国際闇市場で核ノウハウを売る。
これはワシントンにとって戦略的敗北を意味する。米国の核の傘の信頼度は落ち、韓国や日本は米国に対して安保上のコミットメントを強化するように求めるだろう。また両国が核開発の道を歩めば、NPTの空洞化が進む。北朝鮮の核が増えても中国が北朝鮮を支持し続ければ、米中の対立も深まることになる。
金正日はすでに核能力を拡張する決意を固めたかも知れない。交渉の姿勢を見せているのは、単にその裏で開発を進めるための見せかけかも知れない。
交渉に成功するための第一歩は、双方が政治的基盤を再構築し、北朝鮮の核開発を封じ込めるためのステップを明確にすることである。例えば、朝鮮戦争で行方不明となった米兵の遺骨を探す作業を再開するのもよいだろう。政治、経済面に関する南北対話も奨励すべきだ。
第二段階としては、核兵器とミサイルの実験のモラトリアムを受け入れさせることである。恒久的解決策でないとしても、より洗練された兵器の開発を遅らせることができる。北朝鮮がトラック2で提案した重油等の代償を得る代わりに、プルトニウム燃料棒を国外に持ち出すというオファーを受け入れるべきだ。
最大の問題はウラン濃縮計画だ。原子炉のプロトタイプは2012年に完成する予定だ。透明性を求めるべきだ。トラック2で、北朝鮮はボズワース大使との公式会談の場で計画についての情報を提供する用意があると述べている。
問題を解決できるか否かは、北朝鮮に対して十分なインセンティブを与えることができるか次第である。北朝鮮はトラック2で、原子炉に対して支援されるのであれば、寧辺もウラン濃縮計画も放棄する用意があると述べている。この申し出が本気かは明らかでないが、実際に交渉してみないと分からない。
北朝鮮に核兵器を放棄させることが究極の目的ではあるが、核兵器計画がこれ以上に拡張することを阻止することが緊急の課題である。

今後の見通し
南北、そして米朝会談が終わり、中国、ロシアの支援もあり、今後、六者会合再開に向けての動きがさらに進むと思われる。日本政府も8月中には日朝協議を行う方向で検討に入った。

六者会合の再開に合意できた場合、とりあえずは第4回六者会合で六カ国が初めて発表し、北朝鮮が核兵器の放棄に合意した共同声明(2005年9月19日)、そして具体的には第5回六者会合で採択された『共同声明の実施のための初期段階の措置』(2007年2月13日)に戻り、交渉を再開することになるだろう。その過程で、ウラン濃縮計画についても新たに詰める必要がある。7月23日のバリでの日米韓外相による共同声明でも、2005年の六者会合共同声明に対するコミットメントを改めて表明し、ウラン濃縮計画が安保理決議・六者会合共同声明違反であり、六者会合再開のためには同計画への対処が必要であることが盛り込まれた。さらに、拉致及び離散家族再会の問題を解決するための行動を要求した。

六者会合の5つの作業部会が再開されれば、日朝関係正常化部会でも再び拉致問題を取り上げていくことになるだろう。しかし、2008年8月の日朝実務者協議で合意した再調査を早期に実施することを重要とするバリに於ける日本側の主張に対して、北朝鮮が従来通り、解決済みと拒否したことからも、北朝鮮のトップが方針を転換しない限り、残念ながら本件の進展は大変に難しそうである。(なお中井洽元拉致問題担当相が首相の意向で、北朝鮮の宋日昊・朝日国交正常化交渉担当大使と中国で極秘に接触し、拉致問題の進展を求めたのに対し、北朝鮮側は見返りを要求したが、拉致問題解決に向けた可能性があれば、首相自身が訪朝し交渉するつもりだったという報道もある。)
実際に六者会合が再開されたとしても、過去の6回の交渉過程でも明らかだったように、紆余曲折が多い前途多難のプロセスになることは間違いない。北朝鮮側が交渉の場から退場したり、交渉の末、一旦、査察などに合意しておきながら、実際の場面では査察官を追放するといった過去に見られた行動パターンを再びとることは想像に難くない。

さて、北朝鮮が核保有国となったインドとパキスタン、そして核開発を放棄したリビアから得た最大の教訓は「絶対に核は放棄できない」というものであろう。インドもパキスタンも核実験直後には制裁対象となったが、今では米国は米印原子力協力協定を締結し、パキスタンにはテロ対策の同盟国として軍事支援をしている。一方、対照的にリビアのカダフィ大佐は米軍とNATOから爆撃を受け、追放される立場に陥ってしまった。
つまり、北朝鮮が金日成以来の国家目標だった核開発を決して放棄することはあり得ない。従ってウィットの指摘通り、現在保有している以上の核兵器の開発を阻止することを第一目標とすべきであろう。また核兵器、関連技術の流出も阻止しなくてはならない。

しかし、北朝鮮は濃縮ウランを2008年からイランに輸出することを約束し、見返りに遠心分離機の開発のための資金をすでに20億ドルほど受けているという情報もある。両国が弾道ミサイル開発でも協力関係にあることを考えると、北朝鮮の国連大使が7月の米朝協議前に、米国がイランを仮想敵国としてミサイル防衛システムを欧州に配備することは、新たな核兵器競争につながると非難したことは、両国の密接な関係をうかがわせる。

さて、中国は北朝鮮が崩壊して大量の難民問題が発生したり、韓国の支配下で朝鮮半島が統一され、それが米国寄りになるよりも、現状維持の方が好ましいと考えているフシがある。北朝鮮が核保有国家になることで、日韓の核保有化というドミノ理論は現実性がないと高をくくっているのであろう。またレアアースなど北朝鮮に対する直接投資も進めており、今後も食料援助、経済援助は続けていくと思われる。

肝心の北朝鮮は世代交代でしばらく不安定な状況が続く。金一族が幹部入りはしたが、当面は軍部の力が増し、核やミサイル問題ではなかなか譲歩しないだろう。今年1月、ロバート・ゲーツ国防長官(当時)は北朝鮮が5年内に大陸弾道ミサイルを使って米国に核攻撃をしかけることができるようになるとの警告を発した。これはきわめて現実性を帯びた警告であり、北朝鮮の核、そしてミサイル問題はイランのそれ同様、放置できないが、これといった解決策もない難問題である。当面、北朝鮮に効果がありそうなインセンティブや弱点を模索しながら、辛抱強く交渉を重ねていくしかなさそうだ。


■池原麻里子(ワシントン在住ジャーナリスト)