タイプ
論考
プロジェクト
日付
2011/9/14

アメリカNOW 第80号 第三の大統領候補への道 (池原麻里子)

アメリカ政治は長年、民主党と共和党の二大政党によって牛耳られてきた。しかし、最近の財政再建と債務上限の引上げに関する交渉に象徴される両党間のグリッドロック状態に対して、「ワシントンが機能していない」という国民の不満はますます高まっている。皮肉なことに今議会のグリッドロックは、2010年中間選挙で当選したティー・パーティー系共和党議員の一切の妥協を拒む姿勢に起因している。

失業率が下がらず、景気が停滞気味の現在、オバマ大統領に対する不支持率が高まっているが、二大政党に対する不支持率はそれ以上である。その結果、第三政党を求める声が高まっている。たとえば5月のギャラップ社による世論調査では52%が第三政党が必要であると回答した。特に共和党支持者の52%がそのように回答しており(民主党支持者は33%)、うち60%がティー・パーティーを支持している。ティー・パーティー的選挙公約を掲げる大統領候補は15~25%の票を獲得できるという世論調査結果もある。民主党系スタン・グリーンバーグの世論調査では共和党支持者の58%、そして無党派の70%が第三政党の大統領候補を支持することを検討すると回答している。この傾向は、特にブルーカーラー層で顕著だ。

過去にも二大政党に対する不満が募ると、ジョージ・ウォレス(1968年)、ジョン・アンダーソン(1980年)、ロス・ペロー(1992年)、ラルフ・ネーダー(2000年)など、第三政党の大統領候補が登場してきた。12年毎に第三政党の候補が一定の支持を集めたことを考えると、2012年もその時期が熟してきたのかも知れない。

そこで、注目したいのが大変に新しい試みといえるAmericans Elect(AE)*1 という組織である。AEは中道派の大統領候補を選び、国民に選択肢を与えることで、二大政党のグリッドロックを解決しようと考えている。「中道」というのがキーワードで、これはAEの規約上も規定さられている。

AEはインターネットを中心に活動しているが、大統領選挙に向けての動きは次のようなプロセスを辿ることになっている。
1)全米50州でAEが選出した大統領候補名を登録する資格を確保する。
2)有権者ならば共和党員、民主党員を含め、誰でも代議員になれる。代議員は移民、外交、社会問題、経済、教育、ヘルスケア、エネルギーの7分野で、詳細に政策を選択する。AEは同様の考えを持つ代議員同士を紹介し、組織活動ができるようにする。代議員は自分達の思想にマッチした大統領候補を推薦する。
3)大統領候補は自薦も可能だ。過去の大統領と同等のstatureがあることが候補になる条件である。
4)Candidate Certification Committeeは候補の実績を審議して、候補となる資格があるかを審査する。資格を得た候補は上記7分野に関し、政策を明らかにする。2012年4月に代議員は候補の回答を吟味し、3回の投票を通じて、候補を6人に絞る。
5)6人の候補は副大統領候補を選ぶ。6月にオンラインの代議員大会でAEの大統領・副大統領候補を選ぶ。
6)選ばれた候補は大統領・副大統領候補討論会に出席し、11月の本選挙に向けて候補としてのポジションを確立する。

興味深いことに、AEは大統領候補は自分の政党と異なった副大統領候補を選ぶことを条件としている。つまり、民主党員であれば共和党員か無所属の者、共和党員ならば民主党員か無所属の者とチームを組まなければいけない。AEが決めたプロセスに従うならば、例えばオバマ大統領が共和党のジョン・ベイナー下院議長を副大統領候補に指名して、AEから出馬することも可能なわけだ。

さて、そもそもAEはどういう背景から誕生したのだろうか。2005年に生まれたUnity 08という組織が基盤となっている。Unity 08は元ホワイトハウスのベテラン3人、民主党の故ハミルトン・ジョーダン(カーター大統領首席補佐官)とジェラルド・ラフシューン(カーター大統領報道官)、および共和党のダグ・ベイリー(共和党系政治コンサルタント)のアイデアで、彼らはウェブによる超党派の政治改革活動を考え出した。ところがUnity 08は連邦選挙委員会には「政党」と定義されてしまったため、2大政党に有利な選挙システムで不利な立場におかれ、その活動はうまくいかなかった。その教訓を踏まえて、AEは政党ではなく、501(c) 4の非営利団体として活動している。

AEのCOOはエリオット・アッカーマンというイラク・アフガン戦争参戦者である。アッカーマンは前述のベイリーと国際関係大学院フレッチャー・スクールで知り合った。AEの会長はエリオットの父ピーターが務めている。ピーター・アッカーマンは投資家として成功しており、AEに155万ドルという大金を出資している。

その他、リーダーシップとしてカーラ・ヒルズ元USTR代表と夫のロデリック、クリントン政権の大統領経済政策担当補佐官ボーマン・カッター、ウィリアム・ウェブスター元FBI ・CIA長官、ジョージ・W・ブッシュ大統領やジョン・マッケイン上院議員の大統領選挙顧問だったマーク・マッキノン、ウィル・マーシャル進歩的政策研究所代表といった共和・民主両党の関係者や、ビジネス界から50数名が名を連ねている*2 。なお、彼らは必ずしも出資者というわけではないとのことだ。

すでに300人から400人が総額2,000万ドルを出資し、1万ドル以上を出資した者は50人以上いるが、500万ドル以上を出資した個人はいない。資金が豊かになった時点で、1万ドル以上を出資した者がいなくなるようにする予定だ。つまり1万ドル以上を出資した者には、1万ドルを越えた額を低利子融資として扱い、返済することになっている。このような大手出資者以外に、ウェブを通じて数千人が色々な額を寄付しているとのことである。大手出資者の氏名を公表していないため、金権政治を批判する民間団体「デモクラシー21」のフレッド・ワートハイマー代表はAEの手法に批判的である。これに対しAE側は、501(c) 4として寄付者名は公表できず、名を明らかにするかは寄付者本人次第との立場を取っている。

AEのニューヨーク、ワシントンの事務所には約50人のスタッフが勤務している。その他、25人ほどが各地で活動中である。ボランティアも100人ほどいるが、この人数は増えているとのことだ。全米千以上ある州議会上院議員選挙区で活動する代議員リーダーもリクルート中だ。

さて、50州に登録するのは大変に複雑で、資金を要する作業である。弁護士やサイン収集の費用に1,500万から2,000万ドル要するといわれている。つまり、AEは登録活動に必要な資金はすでに確保していることになる。

登録のプロセスだが、各州の法規が異なるため、年内に29州、2012年に21州で登録することになる。例えばカリフォルニア州では前回の州知事選挙の投票数の10%に相当する人数、つまり100万人以上のサインを集める必要がある。主要都市に散在する地元マネージャーたちが、州全体の800人の「サーキュレーター」と呼ばれるサイン収集担当者たちを監督している。サーキュレーターの多くは、これまでにも選挙活動に関わった経験があるプロである。また、それ以外にも、大学生など初めて政治活動に関心を抱いた者たちもいる。サーキュレーターたちが通勤場所やキャンパス、ショッピング・センター、ガソリン・スタンド、戸別訪問などで集めたサインは58の郡に提出されることになる。こういったサイン収集活動は、AEの存在とその意義をPRするチャンスでもある。AEはすでにアリゾナ、カンザス、ネバダ、アラスカの4州での登録は済ませた。

これまでにAEのサイトに1,755,707人の有権者が登録した(2011年9月13日時点)。彼らが登録時に記録したイシューの優先順位には州格差がある。意識調査では150以上の選択肢があるが、例えばタバコ、アルコール、ソフト・ドリンク、ガソリンに対する増税について、すべてを対象とすべきという回答は43%、どれも対象にすべきでないという回答は24%だった。内訳を見ると、タバコを対象とすべきという回答が多かったのはカンザスとサウス・カロライナ、一方ソフト・ドリンクを対象とすべきという回答はニューメキシコとネバダだった。アルコールに増税すべきという州はなかった。このような様々な意見をあらゆる政策についてAEとしてまとめ、それを代表する一人の大統領候補に絞っていくのは大変に複雑なプロセスだが、ウェブサイトはそれに対応できるようになっている。二大政党が提示する候補に満足できない有権者が自分の理想とする候補と巡り合うための場が提供されたわけだ。

AEの報道官は「我々は大統領選挙で第三の候補を提供するためのレールである」と語る。そのレールを走る列車の車掌を選ぶのは有権者なのだ。ニューヨーク・タイムズの論説員トーマス・フリードマンは「書籍に対してアマゾン、新聞に対してブログ、音楽に対してiPodに変化をもたらした様に、『アメリカンズ・エレクト』は二大政党による独占状態という障壁をなくし、本当の競争をもたらし、現職議員を打倒する」とAEに多大な期待をかけている。

しかし、AEの候補が奇跡的に当選を果たしたとしても、どちらの政党にも属さない大統領が、政党政治ばかりに熱心な連邦議会を相手に、効果的に施政することは可能なのだろうか。「もし、米国民が第三候補を大統領として当選させることができれば、そのモーメンタムによって、議会も動くだろう」とAEの報道官は楽観している。なお、2012年以降、例えば連邦議員選出までに活動を拡張するかは現時点では全く未定だそうだ。

グリーン・パーティーやリバタリアン・パーティーの第三政党大統領候補も出馬する中、AEという「レール」が果たして2012年大統領選挙でどれだけのファクターになるのだろうか。最近のリック・ペリー・テキサス州知事の躍進を見れば、ティー・パーティーのメンバーは共和党大統領予備選でその力を発揮していくのは明らかだ。一方、2008年にオバマを支持した無党派の大半は、浮動票となっている。AEの現在の支持層はどちらかというと左派が多いと分析されているが、浮動票を掴むような中道の候補を果たして擁立できるのか、その候補がどれだけ指示を集めることができるのか、今後の活動ぶりを見守る必要がある。


*1:http://www.americanselect.org/
*2:http://www.americanselect.org/who-we-are
■池原麻里子(ワシントン在住ジャーナリスト)