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ワシントンUPDATE  「プーチン氏のクレムリン復帰」

November 15, 2011

ポール・J・サンダース
センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト常務理事
東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・海外メンバー

ロシアのドミトリー・メドヴェージフ大統領は、来年予定されている大統領選挙の候補者としてプーチン首相を支持すると表明した。大統領によるこの演出は、今後もロシアの国内政治や外交政策に大きな変化は望めないことを示唆している。メドヴェージェフ大統領とプーチン首相の相違点は実は表面的なものにすぎず、プーチン首相が再び正式に主導権を握れば、現状の政策が継続されていくだろう。しかし現状のロシアの指導体制の維持が可能であるかは不透明である。

法治強化や汚職追放、そしてロシア経済の多様化と革新を呼びかけたメドヴェージェフ大統領はアメリカでも多くの注目を集め、同大統領はプーチン首相よりも魅力的だと考える向きも多い。しかし実際には大統領の発言に特に目新しい点はなく、プーチン首相も大統領時代にはほぼ同様の目標を掲げていたのである。これらの目標がプーチン元大統領の案出したものであることは、ロシア連邦議会における両者の年次教書演説(米国の一般教書演説に相当)を見ればわかる。

また民主主義や人権派の活動家と定期的に会合を持ち、時にロシア政府の慣行を批判したことなどから、メドヴェージェフ大統領はプーチン首相よりも「民主的だ」とする声もある。あまり議論されていない点だが、もしメドヴェージェフ大統領がプーチン首相への支援を表明する代わりに、大統領再選を狙ったとしたらどうであったろう。自由で公正な選挙の実現や、クリーンな選挙運動を求めていただろうか。メドヴェージェフ大統領自身、公正な選挙戦を戦ったであろうと思わせることは何もしていない。

大統領時代のプーチンの外交政策に目を向けると、彼もまた2001年の9-11テロの後、ブッシュ政権に働きかけ米露関係の「リセット」をはかったのである。しかし最終的には、イラク戦争や米国による民主主義の推進にロシアが失望し、またロシアの国内統治や強引な外交政策を米国が懸念したことから、この関係は決裂する。そして2009年、両国の新たな指導者は再度の関係改善を試みたが、その後のオバマ、メドヴェージェフ両大統領の関係において、メドヴェージェフ大統領はプーチン首相の支持あるいは黙認なしには行動することができない状況にある。

独立後のロシア外交政策の根本は、実用的、かつ自己防衛的なものであった。90年代のロシアは弱く、ボリス・エリツィン初代大統領の選択肢は限られていた。その後、主にエネルギー価格の上昇によりロシアは経済成長を達成し、プーチンやメドヴェージェフの選択肢は広がったかのように見えたが、国内の諸問題や投資の必要性などに鑑みれば、それは幻想にしかすぎなかったのである。プーチンが虚勢を張っても、ロシアの成功には平和で安定した国際環境、そして西側諸国であれどこであれ、資金力のある海外のパートナーが欠かせないのである。

こうした事情を考えると、プーチン大統領の復帰は、米ロ関係の改善を引き続き目指すものとなるだろう。しかし両国の関係改善が実際に順調に進むかは別問題である。米国議会、特に共和党議員は、プーチンに対しかなり懐疑的な目を向けるだろう。米国大統領選の共和党候補は、プーチンのクレムリン復帰をオバマ政権のリセット政策の失敗とみなすと思われる。そしてこれらは、大統領職に復帰したプーチン氏の対米協力への意欲を失わせる要因となりうる。

当然のことながら、ロシアが何よりも必要としているのは対外的安定よりも国内の安定である。そしてこのことこそが、プーチンが大統領職への復帰を決意し、メドヴェージェフがこれを支持し、彼らが協同して国の指導にあたることを国民の多くが受け入れる理由であると思われる。プーチンとメドヴェージェフが互いの職務を交換することで国内の安定を保とうとするその試み自体が、ロシアの不安定さを露呈しているのである。プーチンは自らの将来に不安を感ずることなく退任することができず、メドヴェージェフには問題を抱えた国を単独で統治するだけの政治力がない。そしてこの二人は、ロシアの前進を可能とするような新たな国民的指導者の出現を阻んできたのである。第一副首相であったアレクセイ・クドリンが、(プーチン大統領の下で)メドヴェージェフ首相の率いる内閣には参加しないと表明したことは、野心のある次席レベルの高官が見せた失望の表われである。

メドヴェージェフ大統領のプーチン首相への恭順は、誰もが問い続けてきた疑問への答えであるかもしれないが、ロシアの将来に関するより大きな問題については疑問が残る。第一に、プーチンとメドヴェージェフが本当にロシアの法の支配の強化に尽力するのか、という点。これなしでは汚職はなくならず、民主主義同様、投資、革新、そして多様化がロシアで実現することはないだろう。大方の予測通りにロシア経済が減速すれば、彼らに対する民衆の怒りが増大し、タッグを組みなおした双頭体制が不快な選択を迫られる可能性もある。ソヴィエト連邦の崩壊から20年、ロシアの指導者は当時のミハイル・ゴルバチョフ大統領と同じジレンマに直面しているように見える。すなわち、政治的支配を断念することなく経済成長を促進するにはどうすればよいのか、そして大規模な暴力の行使に訴えることなく停滞した非民主的体制を維持するにはどうすればよいのか、ということである。

■オリジナル原稿(英文)はこちら

    • Senior Fellow in US Foreign Policy at the Center for the National Interest President, Energy Innovation Reform Project
    • ポール・J・ サンダース
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