タイプ
論考
プロジェクト
日付
2011/12/12

アメリカ大統領選挙UPDATE 2:ギングリッチ氏が急浮上、南部初戦のサウスカロライナ州〜大票田のフロリダ州でも、序盤で勢いづけるかが焦点 (袴田奈緒子)

「オバマ大統領は無能な急進論者だ」「オバマ大統領が選挙に負けて初めてアメリカの景気回復が始まる」

11月29日、サウスカロライナ州中部の小さな町、ニューベリーで開かれたギングリッチ氏の有権者集会。次から次と飛び出す辛らつな「オバマ批判」を、超満員の会場は大きな拍手と歓声で迎えた。
12月上旬に発表された同州の世論調査(CNN/TIME)では、ギングリッチ氏への支持率が43%とトップ。約1ヶ月前の調査から35ポイントも上昇、2位のロムニー氏(20%)を大きく引き離した。「時の人」を前に、約400人収容の小劇場は熱気でいっぱいに。同州での集会に30人前後しか集まらなかった10月とは大違いだ。
経済、イラン、中国、宗教、銃規制、信仰など多岐にわたる分野について、紙を見ることもなく80分間にわたり持論を展開したギングリッチ氏。集会後、参加者は「議会での経験と知性を合わせ持つ理想的な候補」「討論会でオバマを打ち負かすところが見たい」などと興奮気味に話していた。

今年の夏以降、保守派の支持の変遷に伴い、バックマン、ペリー、ケインとほぼ月替わりでフロントランナーが交代してきたが、今回のギングリッチ氏の浮上は次の2点で大きく異なる。第一に、ピークを迎えた時期が年明けの予備選スタートの直前だということ。アイオワ州党員集会まで既に1ヶ月を切っており「ほかの候補者が浮上する時間がない」(リヒトマン・アメリカン大学教授)第二に、他の候補者は全国レベルでの知名度や実績が少ない「新顔」で、政策論争でめっきがはげることも多かったが、下院議長経験者のギングリッチ氏はテレビ討論会での強さで支持を広げてきた政界きっての政策通だ。
南部で最初となるサウスカロライナ州での共和党予備選は、1980年以来、その勝者が必ず党の指名を獲得してきたため、予備選の行方を占う上で注目度が高い。80年、88年、96年、2000年、08年の過去5回の予備選において、アイオワ州の勝者が党指名を獲得したのはわずか2回、ニューハンプシャー州の勝者が選ばれたのも3回にとどまる。

当初、本命不在と言われた前回の選挙では、ニューハンプシャー州を制したマケイン氏がサウスカロライナ州での勝利で一気にレースの「主役」に躍進、指名獲得に向け大きく前進した。

比較的規模が小さいサウスカロライナ州では「何度も州を訪問し、有権者と多く触れ合った候補者が勝利する」(同州共和党のコネリー委員長) 大規模な州と違い、資金力や組織力に劣る候補でも「どぶ板選挙」を徹底すれば、十分勝利の芽があるという。

有権者の特徴は、中絶・同姓婚反対などの社会的価値観を重んじる社会保守、小さな政府を求める財政保守、退役軍人という共和党内で主流の3つのグループがそれぞれ重なり合いながら、大きな比率を占めていることだ。なかでも、全体の半分程度を占めるキリスト教右派(エヴァンジェリカル)は選挙戦に与える影響力の大きさで注目される。
 キリスト教右派に人気の地元ラジオ局でリスナー参加型番組のパーソナリティーを務めるトニー・ビーム氏は、不倫の末の離婚・再婚など3回の結婚暦があるギングリッチ氏について「過去の過ちを認め、正直に話し、悔い改めたのなら問題にならない」と指摘する。キリスト教右派は軍隊への同性愛者の参加を認めるなど「リベラル」な社会政策を進めたオバマ大統領に根強い不信感を抱いているほか、「大きな政府」で債務を拡大させた経済政策への反発も強い。「オバマ大統領に勝てるか否かを最優先に、誰に投票するか決めるだろう」(ビーム氏)

サウスカロライナに続く予備選の舞台は全米4位の人口を抱える大票田、フロリダ州だ。共和党が来年8月の党大会の舞台に同州タンパを選んだことは同州の政治的重要性が増してきたことの表れとみられてきたが、今回の予備選に至っては逆に影響力が低下する可能性が出てきた。

フロリダ州が共和党の規則に反し、1月31日に予備選を設定したため、割り当てられる代議員数は通常の半分の50となった。そのうえ、今回の選挙から、1月から3月までに予備選を実施する州に限り、従来の「勝者総取り方式」を改め、得票数に比例して各候補者に代議員数を割り当てる方式が導入される。つまり、前回の予備選と比べて二重の意味で、フロリダ州での勝者が獲得できる代議員数が大幅に減少することになる。序盤の得票数比例式の段階では各候補者に票が割れてしまうため、予備選の勝者がなかなか決まらない可能性があり、州内の専門家たちからも「フロリダ州予備選は長いマラソンの途中の一つの通過点に過ぎない」とする見方が出ている。

ただ、2月に予備選を実施する州が少ないことを鑑みても、1月末のフロリダ州での勝利がレースのすう勢を左右であろうことに変わりはない。現在、同州で勢いがあるのはギングリッチ氏だ。直近の世論調査(CNN/TIME)では、ギングリッチ氏の支持率が48%。2位のロムニー氏(25%)を大きく上回った。

従来、フロリダのような大規模な州は、CMを頻繁に流したり、選挙事務所を数多く設置したりできる経済力を持つ候補が優位とされてきたが、最近はこの定説が崩れつつあり、全国レベルでの勢いが波及する傾向が顕著だ。また、フロリダ州は中南米系のヒスパニック層が多い。ヒスパニックを対象にしたニュースレターの配信などギングリッチ氏が続けてきた地道な活動が奏功するかもしれない。
4年前の共和党予備選では、一時は「大本命」と言われたジュリアーニ前ニューヨーク市長。知名度も資金力も抜群だったが、ニューハンプャー州とサウスカロライナ州での勝利で弾みをつけたマケイン氏の勢いが勝り、あえなく敗北、撤退の憂き目にあった。今年の選挙も序盤の3州での勝敗、そこから生まれる勢いがフロリダ州予備選を大きく左右することになるだろう。