タイプ
論考
プロジェクト
日付
2011/12/12

アメリカ大統領選挙UPDATE 2:予備選挙における内政上の争点 (池原麻里子)

共和党支持者が重視しているのはオバマ大統領の医療保険改革撤廃、財政赤字削減、所得税引き下げである*1 。財政赤字解消については歳出削減によって達成することを望み、企業や富裕層向け増税は念頭にない。2010年中間選挙におけるティーパーティの台頭に象徴されるように、「連邦政府は無駄が多い諸悪の根源」という政府不信は高まっている。また、2008年大統領選時ほどではないが、不法移民問題も争点である。これに対し、過去の予備選で重視された中絶や同性婚といったソーシャル・イシューは影が薄い。

1.医療保険改革

共和党支持者が連邦政府のプログラムで最も不満を抱いているのが、いわゆる「オバマケア」と呼ばれる医療保険改革である。

フロントランナーのミット・ロムニーはマサチューセッツ州知事時代(2003~07年)に将来の大統領選挙出馬用の実績構築を目的とし、国民皆保険制度導入をずっと念願としてきた「リベラルのライオン」エドワード・ケネディー上院議員の協力を得ながら、同州に州民皆保険を導入させた。しかしながら、共和党予備選候補としては、大統領就任初日に大統領指令によって、全米50州を医療保険改革法から免責し、議会に同法の撤廃を求めると発表*2 。規制緩和等の市場改革を推進することで、民間医療保険のコスト削減を目指し、より多くの国民がより手軽に医療保険にアクセスできるように計り、治療費の自己負担分については税額控除を認めるとの立場もとっている。

最近、支持が急上昇してきたニュート・ギングリッチ元下院議長は、国民に州を越えて医療保険を加入する選択肢を与えることで競争が活性化し、保険が低価格になると主張。身体障害を予防、援助する技術の開発には税額控除対象とすることを提案しているのが目新しい。またメディケアの重点を治療から病気予防に転換することで、例えば糖尿病の治療費140億ドルが節約できるとも主張している*3 。が、出馬以前、医療保険企業や業界から8年で370万ドルを受け取り、年収5万ドル以上の国民に医療保険加入を義務付ける政策を推進して点が問題視されている。

なお、医療保険改革法を違憲とした一部の州高裁の判決をオバマ政権が上訴したため、最高裁は医療保険改革法の合憲性について来年3月に審理を始め、6月までに判決が下ることになる。

2.財政赤字削減、経済政策

ロムニーは政府歳出の上限をGDP20%とした政府縮小を提案している。また年金対象年齢の引き上げや連邦政府職員の10%を解雇、予算の均衡を政府に義務付ける憲法修正などを主張している*4。企業税は25%に引き下げる。個人の貯蓄と投資に対しては減税し、相続税を廃止するとしている。特に年収20万ドル以下の世帯に対するキャピタルゲイン税撤廃を提案している。しかしながら、プログレッシブなCenter for American Progressの分析によると、中産階級にとって本案は全く無意味である*5

ロムニーの経済顧問は、ジョージ・W・ブッシュ政権の大統領経済諮問委員会議長だったグレン・ハバード・コロンビア大学ビジネス・スクール校長である。ハバードはサプライサイド経済学者として2003年のブッシュ減税を推進した人物であり、現在の経済問題を解決するには企業税減税による投資推進と住宅ローン借り換え支援を提案している*6 。ただし、ロムニー自身は住宅ローン問題については、底が見えるまで、現在の差し押さえのプロセスを続けるべきとの立場を表明している。

なお、今回の予備選挙過程で注目を浴びたのがビジネスマン、ハーマン・ケインの「9-9-9」税制案である。これは個人所得税、企業税、消費税を一律9%とする案。キャピタルゲイン税は全面的に廃止する。一律税制は逆進税であり、富裕層のみが減税の恩恵を受け、大半の納税額は増額。政府の税収は激減し、財政赤字が悪化する。セクハラや不倫疑惑が相次いだケインは12月3日に予備選挙撤退を発表したが、かつてスティーブ・フォーブスが1996、2000年の共和党大統領予備選でメイン・メッセージとした一律税率案を再浮上させる役を果たした。まず、リック・ペリー元テキサス州知事も一律20%を提案。

ギングリッチも個人所得税を一律15%とすると発表。相続税は廃止。経済成長、歳出抑止、改革、規制緩和によって財政均衡化を達成できるとしている。企業税については12.5%に引き下げ、新規設備投資は全面税額控除することで、イノヴェーションと製造業を刺激できると主張。
これに対し、ロムニーは包括的な税制改革案は提示しておらず、1996年にフォーブスが一律税率を提案した際、「金持ち向けの減税」と批判した経歴もある。
さて、各候補が提案している減税案だが、議会調査局によるとジョージ・W・ブッシュ政権の富裕層向けの所得税やキャピタルゲイン税の切り下げは、経済成長に全く貢献しなかった。しかし、共和党大統領候補たちの政策案は、減税による景気刺激に尽きる。

3.不法移民

不法移民問題は2008年ほどではないが、優先課題の1つである。比較的支持率が高い候補たちは、不法移民に対してはソフトなスタンスをとってきたため、共和党支持者にとっては不満である。

例えばメキシコからの不法移民が多いテキサス州でペリーは州知事時代、不法移民の子弟に対しても合法の州民と同様の高等教育授業料を認めていた。ちなみに、テキサスの380万人の移民労働者のうち、160万人が不法移民。

ロムニーも2008年大統領予備選挙候補になる以前は、不法移民にも定住権や市民権を申請する権利を与えるべきとの立場をとっていた。また2006、7年に自宅の庭園整備に雇った会社が不法移民を雇用していたこともある。

ギングリッチは子孫が長年、アメリカに定住している不法移民に合法な定住権を認めるべきであるとの立場を表明している。ちなみに、全米の不法移民は1200万人で、うち80%はヒスパニックだと言われている。これだけ多数の不法移民を国外追放することは、非現実的である以上、市民権ではなく、定住権を与えるというギングリッチ提案は、長期的には共和党にとってプラスになる動きである。

4.ソーシャル・イシュー

経済問題が最優先問題となっているため、ソーシャル・イシューへの関心度は低く、例えば社会保守候補のリック・サントラム元上院議員の支持率は伸びていない。

ロムニーは10年ほど地元マサチューセッツのモルモン教会のトップとして中絶に反対していたが、1994年に共和党上院議員候補になると突然、中絶の権利を支持する立場をとった。しかし、2003~07年の州知事時代から、将来的に大統領出馬することを念頭に置いて、徐々に中絶や同性愛について保守的な立場をとり始め、現在に至る。

これに対して、ギングリッチは一貫して中絶、同性婚について反対の立場をとっている。しかし、本人は不倫の末、3度目の結婚で、カソリックに改宗。一方、ロムニーはモルモン教徒と、キリスト教福音派を中心とするソーシャル・コンサーバティブは苦しい選択を迫られている。


*1:Q25 NBC News/Wall Street Journal Survey, October 6-10, 2011
http://msnbcmedia.msn.com/i/MSNBC/Sections/NEWS/A_Politics/October_Poll.pdf

*2:p.59 “Believe in America: Mitt Romney’s Plan for Jobs and Economic Growth” September 6, 2011
http://mittromney.com/sites/default/files/shared/BelieveInAmerica-PlanForJobsAndEconomicGrowth-Full.pdf

*3: http://www.newt.org/solutions/healthcare

*4:pp.141-145 “Believe in America: Mitt Romney’s Plan for Jobs and Economic Growth” September 6, 2011
http://mittromney.com/sites/default/files/shared/BelieveInAmerica-PlanForJobsAndEconomicGrowth-Full.pdf

*5:http://thinkprogress.org/economy/2011/10/14/343560/romney-middle-class-tax-cut-no-benefit/

*6:5 questions for Romney’s economic advisor Glenn Hubbard, The American Enterprise Blog, November 15, 2011
http://blog.american.com/2011/11/5-questions-for-romney-economic-adviser-glenn-hubbard/
Economist Glenn Hubbard ’We need a radical change’, Washington Post, August 25, 2011
http://www.washingtonpost.com/blogs/ezra-klein/post/economist-glenn-hubbard-we-need-a-radical-change/2011/08/25/gIQAPTQALN_blog.html?wprss=ezra-klein