タイプ
論考
プロジェクト
日付
2011/10/5

アメリカ大統領選挙UPDATE 1:共和党指名争い、ペリー氏失速で再び不透明に?~終わらない『本命探し』 (袴田奈緒子)

本命不在でかつてない混戦とされてきた今回の共和党指名争い。ライアン下院議員、ジュリアーニ前ニューヨーク市長、クリスティー・ニュージャージー州知事、ペイリン・元アラスカ州知事、ダニエルス・インディアナ州知事など数々の名前が浮上してきたが、8月に出馬したペリー・テキサス州知事がすぐさま支持率首位につけ、華やかなデビューを飾ったことで「ペリー対ロムニー」の一騎打ちの構図が固まったかに見えた。

レースを再び流動的にしたのは、9月22日にフロリダ州オーランドで実施した共和党候補者による討論会だ。
「あなたが大統領になったとして、パキスタンの核兵器がタリバンの手に渡ったと午前3時に報告を受けたら、まず最初に何をしますか?」
「(オバマ大統領は)新型F16戦闘機をインドに売る機会を逃した・・」
ペリー氏は的を射ない答えや事実誤認に基づく発言を連発。口調ももたつきがちで、米メディアは一様に「(ペリー氏が参加した3回の討論会のなかで)最低」との評価を下した。 「オバマに勝てる候補」を渇望してきた共和党内主流派はペリー氏の資質に疑問を抱き、資金提供者らも献金にも二の足を踏むようになったという。

討論会を境に、ペリー氏から離れていったのは党内主流派だけではない。ロムニー氏を「十分に保守でない」と敬遠し、当初ペリー氏の出馬に沸いた保守強硬派からも失望の声が上がった。きっかけは、不法移民の子供の大学授業費で「州民割引」をテキサス州で適用していることを擁護しようとしたこの一言だーー「親に連れてこられただけの子供には何も罪がないのに、(その子たちに)教育を施してはいけないと言うのなら、あなたたちには心がないのか」。不法移民への厳しい対応を求める保守派にとって、「穏健すぎる」この発言は許しがたいものだった。討論会会場の聴衆からブーイングを受けたほか、翌日以降も繰り返しこの場面がテレビで流され、保守派の間でのペリー氏の評判はがた落ちとなった。(激しいバッシングを受けたペリー氏はその後、討論会での発言について「表現が不適切だった」とコメント)

知事選での討論会の経験が少なく(本人が拒否したこともあるという)「討論下手ではないか」と懸念されていたペリー氏。討論会の2日後にフロリダ州で行われた模擬投票は、伏兵ケイン氏が圧勝。直後の世論調査(FOXニュース調べ)では、ペリー氏の支持率は前回より7ポイント低い19%で2位。1位の座をロムニー氏に奪われたばかりか、3位のケイン氏にも2ポイント差に迫られるという散々の内容で、「前評判」の正しさを証明してしまった格好だ。

こうしたなか、出馬しない旨を既に発表していたライアン議員やダニエルス知事と違い、公式には否定してこなかったクリスティー知事には出馬を促す圧力が集中。米メディアでは討論会の翌日から「クリスティー知事、出るか出ないか」の報道が過熱した。歯に衣着せぬ物言い、リベラルなニュージャージー州で知事に当選した力量、教職員組合と激しく対峙するなど「難敵」にひるまない姿勢、と共和党内で支持される理由はいくつかある。ただ、まだ知事1期目で政治家としての経験も少ないクリスティー知事にここまで期待が高まること自体、「党が一致団結できる候補の不在」というアキレス腱が、共和党のホワイトハウス奪還に向け、依然として影を指していることを印象づけた。

ペリー氏の失速で、が然勢いづいているのが「下位候補」たちだ。なかでも、一躍「時の人」に躍り出たのは元実業家のケイン氏。ピザチェーン「ゴッドファーザーズピザ」などの業績を劇的に回復させた経営手腕で知られ、ティーパーティーの熱い支持を集めるケイン氏。「9―9―9」(所得税9%-法人税9%-消費税9%)と銘打った明快な経済政策への評価も高い。フロリダ州の模擬投票に先立って行われた宗教右派の会合では、フロントランナーさながらの大きな歓声を浴びていた。
模擬投票でのケイン氏の勝利は討論会で失敗したペリー氏への不信任という面が強いのは確かだが、しばしば「人種差別的」と批判される共和党で数少ない黒人としてのケイン氏の「価値」を一気に高めたのは間違いない。今後の政治家人生において一定の立ち位置を確保したかに見える。

もう一人、最近の世論調査で支持率が上昇しているのはギングリッチ氏だ。選対幹部が6月に相次ぎ離反して以来、選挙戦は事実上崩壊。メディアの注目を浴びること自体少なくなっていたが、最近の討論会では「アイデアマン」としての本領を発揮。9月末には、1994年の中間選挙で共和党が大勝する布石となった公約集「アメリカとの契約」の改訂版を発表した。最新の世論調査での支持率は11%と前回調査に比べ、8ポイントも上昇している。

一方、凋落(ちょうらく)傾向にあるのはバックマン氏。「子宮頸がんワクチンが知的障害を引き起こすと聞いた」など相次ぐ失言が災いし、8月のアイオワ州模擬投票で勝利した頃の勢いは見る影もない。候補者への風向きがめまぐるしく変わる今回の指名争い。オバマ大統領と争う相手が固まるまでには、当面時間がかかりそうだ。