タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/1/13

アメリカNOW 第87号 ニューハンプシャー共和党予備選挙結果、およびアイオワ・ニューハンプシャーの意味 (池原麻里子)

ニューハンプシャー予備選挙結果

ニューハンプシャーの予備選では予想されていた通り、ミット・ロムニーが1位の座を確保した。共和党大統領予備選で、特定の候補がアイオワとニューハンプシャー両方で1位となるのは1976年以来のことである。各候補に対する支持は次の通り。


ニューハンプシャーの共和党予備選参加者にとって一番の優先問題は経済(65%)、次はオバマに勝てる候補を支持すること(35%)、そして財政赤字対策(24%)と続く。ロムニーは経済と答えた者の34%、オバマに勝てる候補の支持と答えた者の(何と)62%、そして財政赤字対策と回答した者の34%と、すべての層で最多の支持を獲得した。特にオバマに勝てる候補という点が重視された。

4年前のニューハンプシャーで、ロムニーは32%の支持を得たが2位に終わり、37%獲得したマケインに1位の座を奪われた。今回の予備選で、ロムニーは「保守ではない」という批判の対象になっているが、4年前は共和党主流でないとみられたマケインを支持しない保守派の票を集め、今回も保守、そしてティー・パーティー支持層からかなりの支持を集めることに成功した。また、アイオワではリック・サントラムの支持に回ったカソリック、福音主義者からの支持も得た。ただし、アイオワ党員集会出席者の約5分の3が福音主義者だったのに比べ、ニューハンプシャーにおける福音主義者は5分の1以下に過ぎない。またロムニーは年収5万ドル以上の層、特に10万ドル以上の富裕層の票を多く獲得した。

これに対し、ロン・ポールはアイオワ同様、無党派層と若年層、年収5万ドル以下の層の支持を集め、アイオワでの3位に次いで、ニューハンプシャーでは22.9%を獲得、2位につけた。

ジョン・ハンツマンはニューハンプシャーでの勝利をめざして全力投球していたが、16.9%で3位という結果に終わった。共和党員の10人に1人しか獲得できなかったためだ。一方、無党派層の4分の1の支持を得た。またティー・パーティーに反対する層の支持を得ることができた。

サントラムとギングリッチはそれぞれ9.4%という結果に終わった。アイオワより社会保守主義者が少ないニューハンプシャーにおいて、サントラムは福音主義者でない層からは6%の支持しか得ることができず、ブルーカラーを狙った経済ポピュリズムのメッセージは浸透しなかった。

各候補者の支持層の内訳は次の通りである*1


予備選のかなり前からロムニーの勝利が予想されていたせいか、実際に投票場に向かった有権者数は、州知事をはじめとする関係者が期待していた25万人には達せず、盛り上がりに欠けた。


アイオワとニューハンプシャーの特徴

さて、大統領予備選挙をキックオフする州として4年毎に注目されるアイオワとニューハンプシャーだが、全米平均と比べ、特に人種構成や失業率で決して「代表的」な州とは言い難い州である。参考までに、両州を全米平均と比較してみたい。


両州がいわゆる白人の州であるという点は、特に民主党内で問題視されてきた。例えば、民主党全国委員会のために2012年のスケジュールを審議したDemocratic Change Commissionは2009年12月30日付の報告書*2 で、アイオワとニューハンプシャーのポジションは尊重しながら、他の州にも早期に予備選挙に参加させることによって、より多様性を確保すべきであると提言している。具体的にはネバダ、サウスカロライナのような黒人やヒスパニック人口がより多い州を念頭に置いている。(2010年の人種構成はネバダが白人54.1%、ヒスパニック26.5%、黒人8.1%、サウスカロライナが白人64.1%、ヒスパニック5.1%、黒人27.9%)また近年、一部の州は両州以前に党員集会や予備選を開催しようと試みているが、全国委員会の介入によって阻止されている。そもそも、選挙人数もアイオワが25名、ニューハンプシャーが23名(2012年は12名)と大票田でもない両州が、大統領予備選挙において今日のような重要な存在となったのはいつからか。

アイオワが大統領予備選挙のキックオフの場となったのは民主党が1972年、そしてその後を追って1976年、共和党が党員集会を1月に動かして以来だ。州法上、どの州の党員集会、予備選挙より最低8日前に党員集会を実施することが決められている。では、アイオワが両党の大統領候補指名を獲得する候補を予測するための正確なバロメーターになっているかというと、必ずしもそうではない。民主党ではカーター(1976、1980)、モンデール(1984)、ゴア(2000)、ケリー(2004)、オバマ(2008)がアイオワで勝利し、その後、大統領候補となった。これに対して共和党ではフォード(1976)、ドール(1996)、ブッシュ(2000)が大統領候補となっている。しかし、1972年のケースでは民主党フロントランナーとみられたエドワード・マスキー上院議員(メイン州)に次いで、予想以上に支持を集め2位となったジョージ・マクガバン上院議員(サウス・ダコタ州)がメディアの注目を浴び、その後、大統領候補となった。期待値を下回る結果だと1位でもその後苦戦することになるし、善戦すれば2位でもその後の戦いに有利となるのだ。また1976年のカーターのように、無名でも1位になることで全米から注目された結果大統領候補の座をしとめたケースもある。党員集会では夜に数時間拘束されるから、就業時間が不規則な党員、病気や不在の党員は参加できないし、不在投票もできない。州の党が集会を管理しているため、政治活動家や政治献金者が影響力を行使しがちである。

ニューハンプシャーは伝統的に1920年から全米初の予備選を実施してきた。そして、州法によって3月の第二火曜日、または他の州が同様の選挙を行った7日後に予備選挙を実施するように定められている。全米7番目に小さい州で、ロータリークラブやコーヒーショップなどを回るいわゆる「ドブ板活動」的な売り込みが必要である。しかし、ニューハンプシャーでの勝者が必ずしも大統領候補になっていない例としては、民主党ではエステス・キフォーヴァー上院議員(テネシー州、1952、1956)、ポール・ソンガス上院議員(マサチューセッツ州、1992)、最近ではヒラリー・クリントン上院議員(ニューヨーク州、2008)のケースが記憶に新しい。そして共和党ではハロルド・スタッセン州知事(ミネソタ州、1948)、ヘンリー・キャボット・ロッジ上院議員(マサチューセッツ州、1964)、政治評論家パット・ブキャナン(1996)、ジョン・マケイン上院議員(アリゾナ州、2000)が挙げられる。一方、ニューハンプシャーもアイオワ同様、メディアによって作られた期待値に見合う支持を獲得できたか、期待値を上回る支持を得たかによって、トップの座を争う候補達の運命が左右される。1992年にはビル・クリントンが期待以上に奮戦したため、2位でも「カムバック・キッド」として勢いをつけ、民主党大統領候補になったのがその好例だ。

当然ながら両州にとって全米初の党員集会、予備選を開催することに伴う金銭面でのプラス面は多大である。2008年の選挙でアイオワでは候補の広告、州戦挙本部の家賃、ホテル、食事、交通費などに100万ドル使われたと言われている。2012年では広告費用だけでも240万ドル以上が使われた。ニューハンプシャーでも今回の予備選では報道陣も含めて1億ドル以上の金が費やされた。

以上のような経済的観点からも、両州が全米初の座を決死に守ろうとするのも無理はないが、近年、その他の州がその座を脅かそうとして、党の全国委員会が介入するケースが頻繁になってきた。また2007年には、両党の全国委員会がより選挙人の多い州での予備選挙を早めることでその影響力を高めようという動きを見せた。2012年についても、フロリダが1月3日に予備選挙を設定しようとしたため、ニューハンプシャーは2月に実施する予定だったものを1月10日に早めたという経緯がある。

2012年大統領予備選について、共和党全国委員会は2008年の大会でいわゆる「オハイオ・プラン」と呼ばれる改革案を検討した。これは早期選の州、小さい州、大きな州の3つに分類するという案である。同案では早期選の州は従来の伝統を維持し、2月末までには19の小さい州、そして3月には大きな州が予備選挙を実施することになっていた。つまり、オハイオ案でもアイオワ、ニューハンプシャーのポジションは維持される予定だった。最終的には2008年同様のルールの適用が採決された。そして、2012年1月3日から2月2日までは従来通り、アイオワ、ニューハンプシャー、ネバダ、サウス・カロライナ、2月7日から3月24日は選挙人比例割り当て方式の州、4月3日以降は勝者総取り方式の州と決定された。しかし、上述のように、2011年秋にニューハンプシャーは予備選挙を1月10日に早めたため、サウスカロライナ、フロリダ、アリゾナ、ミシガンと同様に選挙人半減という罰則を受けた。今後の大統領選挙でも毎回、両州に対するチャレンジは無くならないだろうし、そのポジションの妥当性についても議論は続くことだろう。

このようにアイオワ、ニューハンプシャー両州は人口構成などからは平均的ではないにしても、候補をある程度ふるいにかける役割は果たしてきた。また有権者の意識のバロメーターにはなる。例えば、今年、アイオワ党員集会参加者は122,255名で、2008年より3%増、ニューハンプシャー予備選で投票したのは247,223名と2008年の241,039名より2.6%増えた。両州とも2008年には民主党党員集会や予備選に参加していた無党派層の割合が増えたことから、前回オバマを支持した無党派層が今回初めて、反オバマ票を投じる場となったことが分かる。特にニューハンプシャーではオバマに勝てる候補という理由から、ロムニーに投票をした有権者が多かったことは、今後ロムニーが共和党大統領候補に指名される可能性を高めたと思われる。サウスカロライナは過去、アイオワとニューハンプシャーのどちらかで1位にならなかった候補を選んだことはないし、保守派がロムニー以外の候補への支持をまとめることができなかった現在、新たにサプライズ候補が出現しない限り、ロムニーの勝利はほぼ確実のようだ。



*1:http://elections.nytimes.com/2012/primaries/states/new-hampshire/exit-polls
*2:http://www.thegreenpapers.com/P12/Democratic_Change_Commisison_Report-2009-12-30.pdf

■池原麻里子(ワシントン在住ジャーナリスト)