タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/2/14

アメリカ大統領選挙UPDATE 3:共和党予備選挙・党員集会序盤戦の説明変数は宗教(細野 豊樹)

1月3日のアイオワ州党員集会から約1か月間の、共和党大統領候補予備選挙・党員集会序盤戦においては、党内穏健派を支持基盤とするミット・ロムニーが総じて優勢である。宗教保守が強い南部のサウス・キャロライナでは、ロムニーは南部出身で党内右派のニュート・ギングリッチに2桁の差の得票率で負けたものの、1月末までの他の予備選挙・党員集会において大勝または善戦した。特に大票田フロリダでの大勝利が、ロムニー優位の雰囲気に大きく貢献している。2月7日のミズーリ、ミネソタおよびコロラドでの低投票率の予備選挙・党員集会においては、リック・サントラムに負けたものの、ロムニーの圧倒的な資金力・組織力に鑑みれば、大勢には影響ないと評されている*1

以上のような序盤戦の展開を、最もうまく説明する変数が何かを、以下では論じたい。個別の予備選挙・党員集会については、他のコラムを参照してほしい(アイオワは渡辺コラム、サウス・キャロライナとフロリダは袴田コラム)。

『ワシントン・ポスト』は、序盤戦の展開は概ねロムニー陣営の想定どおりだったと評しているが、同陣営による予測のベースとなったのは、予備選挙・党員集会参加者の宗教だった*2。当初から最も苦戦が予想されたのは、アイオワおよびサウス・キャロライナだったが、両州とも共和党の党員集会参加者の宗教保守の割合が高い州であった。アイオワの党員集会における入口調査では、56%がキリスト教福音派(Born-again or evangelical Christian)である。サウス・キャロライナの党員集会の出口調査におけるキリスト教福音派の割合はさらに高く、65%に達している*3

序盤戦におけるロムニーの得票率を最もうまく説明できるのが、出口調査・入口調査にみるキリスト教福音派の割合である。アイオワ、ニュー・ハンプシャー、サウス・キャロライナ、フロリダおよびネヴァダの予備選挙・党員集会におけるロムニーの得票率と、それぞれの選挙におけるキリスト教福音派の割合をプロットすると、きれいに相関する(図)。これに対して、教福音派の割合の代わりにティーパーティー運動の支持率とロムニーの得票率の関係を図にしても、相関はみられない。

              図 序盤戦投票におけるキリスト教福音派の割合とロムニー投票率の相関


ロムニーがキリスト教福音派の共和党支持者の間で苦戦するのは、ロムニーがモルモン教徒だからである。イデオロギー的には同じ宗教保守でありながら、福音派その他のキリスト教保守派のモルモン教に対する不信感は依然根強い。

2008年大統領選挙に向けて、信仰について著書で1章を割いたオバマとは対照的に、2012年選挙においてロムニーは自らの信仰につき沈黙している。同様に共和党予備選挙におけるロムニーのライバルたちも、ロムニーの信仰を話題・争点にしていない。だが、新聞等では取り上げられている*4

宗教だけが、ロムニーの得票を説明する有力変数では決してない。ライバル達のネガティブ広告の形で表に出ている、リベラルなマサチューセッツ州の知事だったという政治家としての経歴への不信感、あるいは巨万の富を得たベンチャー企業に対するポピュリスト的反感などは、間違いなく存在する。また、共和党がイデオロギー的に過去数十年間で最も保守化・右傾化した状況にあるという、構造的な要因も極めて重要である(中山コラム参照)。宗教問題は、これら表に出ている変数と絡み合うところの、水面下にもぐった説明変数なのだと解釈できよう。

こうしたロムニーの宗派問題は、数量化できるレベルで尻尾を捕まえることは困難だが、その存在を無視した説明も説得力に欠ける。そいう意味で、2008年大統領選挙における人種問題の影と似ている面がある。

予備選挙・党員集会参加者の宗派の構成が、ロムニーに有利に働く州もある。2月4日のネヴァダ州の予備選挙において、ロムニーは得票率50%で、2位のギングリッチに29ポイントの差を付けて圧勝した。その背景には、出口調査回答者のキリスト教福音派等の割合が、予備選等序盤戦4州の中では2番目に低いこと(24%)、そしてモルモン教徒の割合が25%に達することが挙げられる。

今後の予備選挙・党員集会においても、キリスト教福音派が強い州ではロムニーの苦戦が予想される。それでも、全米規模で長期間の選挙戦を戦える組織力と資金力を有するのはロムニーだけという、基本的な構図は揺るがない。共和党内には、現状に不満でアメリカを右方向にチェンジしたい情熱的な右派勢力と、現状に概ね満足でラジカルな変化を嫌う穏健保守勢力がある。ロムニーは、後者の票を独占できる。そしてロムニーは、キリスト教福音派やティーパーティー支持者からも一定の票は取れる。それは、アイオワの党員集会でみられたように、「オバマに勝てる候補」だから仕方なく一票を入れるという、消去法的な投票行動がみられるからである(渡辺コラム参照)。

党内穏健派を支持基盤とするロムニーであるが、今後は党内右派へのアピールを強化して、「勝てる候補」への一本化を狙っていくであろう。先日の講演会においてロムニーは、「激しく保守的」(severely conservative)な候補だと自らを規定した。党内融和を狙った勇ましいレトリックである。

唯一の「勝てる候補」という構図には不安材料も無くはない。仕方なく投票する消極的支持が多いため、投票率が上がらないという問題である。ロムニーが三連敗したミズーリ、ミネソタおよびコロラドの党員集会では、2008年と比べて得票数が減ったと指摘されている*5。2008年と異なって、今回ロムニーは大統領候補の本命であるにも関わらずである。

投票率低迷の問題は、ロムニーが大勝したフロリダの予備選挙でも顕著である。ロムニーは、穏健派の有権者が多い同州の中部と南部で得票し勝利したものの、これらの地域では投票総数が2008年と比べて減った郡が多い。低投票率は、ネガティブ広告主体の選挙戦術の代償だった可能性もある。共和党支持層は、投票意欲が民主党支持層および支持政党無し層と比べて高い。この共和党のせっかくの利点を、ロムニーが共和党の大統領候補になった場合に生かしにくいという潜在的脆弱性を、フロリダが示唆している。

根強い宗教保守の不満が簡単には消えないことを見越して、ギングリッチもサントラムも、今のところ予備選挙から脱落する気配は無い。党内右派は、南部ではギングリッチを、北部ではサントラムを支持するというのが、序盤戦にみられるパターンである。今後もしもどちらかの候補に宗教右派の票が一本化されると、ロムニーには脅威になろう。

しかし、簡単にそうはならないかもしれない。なぜなら、ギングリッチは、オバマに勝てないという点で各種世論調査が一致する候補だからである。ギングリッチには絶対に投票しないという、世論調査でのネガティブ(反感)が高すぎる。ではサントラムかと言うと、南部では一貫して苦戦している。全米的知名度に欠ける北部出身者という地理的な要因に加えて、カトリック教徒である点も不利になっている可能性がある。1960年の大統領選挙において、当時民主党の金城湯池だった南部でケネディーは苦戦したが、50年後の今日においても、南部の宗教をめぐる保守性は案外変わっていないのかもしれない。

最後に直近の展望であるが、3月6日のスーパー・チューズデーまで保守的な南部州の予備選挙・党員集会が予定されていない。予備選挙・党員集会の前倒し見直しの文脈で、1月および2月に党員集会・予備選挙が行われるのは、早期の予備選挙・党員集会について長年の実績が既得権化したアイオワ等の一部の州と、フロリダのように党の全国委員会の意向に逆らって強引に前倒しを行った州に限られている。こうした背景があって、2月は初旬と月末の間が空白の中だるみ的日程になっている。

2月末の予備選挙・党員集会が行われるのは、ロムニーの父親が知事だったミシガン州およびモルモン教徒が比較的多いアリゾナ州である。総じてロムニーに有利な予備選挙等の日程となっていると言えよう。ただし先日のコロラドのように、ロムニー優勢と期待される州において苦戦する番狂わせの可能性も、消極的支持が多いが故に否定はできない。

3月は、スーパー・チューズデーを含めて党内右派が強い州の予備選挙・党員集会が多いため、ギングリッチとサントラムがある程度巻き返す余地も残されていると言える。スーパー・チューズデーの注目点は大票田のオハイオだろう。スーパー・チューズデーの予備選挙・党員集会では、構造的に党内右派が強い、人口が少ない田園型の州と南部の州が数の上で多いで、ロムニーはオハイオで負けられない。以後3月については、人口が多く都市型で右派に偏らない州はイリノイくらいであり、総じてロムニーのライバルたちが戦いやすい州が多い。

これに対して、4月以降は、都市型の北部の州が代議員数では多くなり、しかも勝者総取り方式の予備選挙が解禁となるので、総じて相対1位のロムニーに有利な日程となっている。

たとえ最終的にロムニーが勝っても、ギングリッチまたはサントラムが最後まで善戦した場合は、副大統領候補は保守的な人物を選ぶことをロムニーは余儀なくされよう。現段階で「勝てる候補」に収れんしないのは、副大統領候補選びを通じた党内右派勢力の発言力確保を狙った駆け引きという含みもある。



*1: Beth Reinhard. “Romney Hits Speed Bump Named Santorum”. National Journal. 02/07/2012.
http://decoded.nationaljournal.com/2012/02/romney-hits-speed-bump-named-s.php.
*2: Dan Balz, “For Romney campaign, race unfolding almost precisely as predicted”. The Washington Post. 02/02/2012
http://www.washingtonpost.com/national/columns/mitt-romneys-disciplined-campaign-strategy-has-paid-off/2012/02/01/gIQAR6e0hQ_story.html?hpid=z1
*3: 出口調査のデータは、CBS放送公式ウェブ。
*4: Laurie Goodstein. “The Theological Differences Behind Evangelical Unease with Romney”. The New York Times. 01/14/2012.
http://www.nytimes.com/2012/01/15/us/politics/evangelical-christians-unease-with-romney-is-theological.html
*5: Ronald Brownstein.” Low Turnout Highlights Romney Squeeze”. National Journal. 02/08/2012.
http://decoded.nationaljournal.com/2012/02/low-turnout-highlights-romney.php