タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/3/19

アメリカ大統領選挙UPDATE 4:サントラム候補躍進の2月(池原麻里子)

本稿は3月6日スーパーチュースデー以前の2月の党員集会と予備選挙の結果、およびその分析に限定する。

1月のアイオワ州党員集会に始まり、ニューハンプシャー、サウスカロライナ、フロリダ州と続いた予備選挙は、ロムニー、サントラム、ギングリッチ各候補が勝つという異例の結果となった。そして、2月の特徴はサントラムの躍進である。アイオワでの勝利後、サントラムはロムニーでない保守候補としてのポジションを2月に確立し、同じく保守候補としての座を競っていたギングリッチより有利な立場につくことになった。

2月の党員集会、予備選挙の結果は次の通りである*1 。(カッコ内は代議員数)

ここで簡単に、各州の結果を分析してみたい。

ネバダ:ロムニーはネバダのモルモン教徒ばかりか、カソリック、福音主義者からの支持まで集めることに成功した。福音主義者の43%がロムニーを支持し、28%はギングリッチを支持。これに対して、カソリック教徒として保守的政策をアピールしているサントラムは15%の支持しか獲得できかった。一方、福音主義者以外からのロムニーに対する支持はあまり熱烈ではない。

ミズーリ:代議員の割当てとは無関係の全く象徴的な予備選挙だったが、サントラムは7日にミズーリを筆頭に、ミネソタ、およびコロラドの3州において勝ったことがきっかけとなり、勢いをつけた。その結果、世論調査によると、全米でもロムニーより支持を集め、最有力候補の座に躍り出た。

ミネソタ:サントラムは他のどの候補よりもミネソタでの遊説活動を熱心に展開し、同州に多い福音主義者からの支持を得ることで勝利を獲得した。これに対し、2008年に41%の票でかろうじて同州で勝ったロムニーは、今回はここでの勝利はあきらめ、遊説したのも一度だけだった。

コロラド:2008年に60%の票を獲得したロムニーが勝つと確実視されていたが、サントラムが奮闘した。都市部以外と保守的なコロラド・スプリングスでの支持がサントラムの勝利につながった。

アリゾナ:ロムニーが圧勝し、ニューハンプシャー以来、久々の好調な結果となった。不法移民に対する厳しいポジションがアリゾナ州民に支持されたことが主な勝因である。一方、サントラムはアリゾナではあまり熱心に遊説せず、ロムニーのホームグラウンドであるミシガンで勝つための活動に専念した。

ミシガン:父が州知事を務めた出身地のミシガンは、ロムニーにとって楽勝と見られていた州だった。しかし、ミズーリ、コロラド、ミネソタ3州での勝利によって、勢いをつけたサントラムの人気が急上昇したため、苦戦を迫られた。そのため、ロムニー陣営はサントラムを攻撃するテレビ広告に数百万ドルを投じた。スーパーチュースデーを控え、ロムニーにとってアリゾナとミシガンにおける勝利は必須だったが、ミシガンでは保守層の支持を獲得できていないことが明らかになった。一方、サントラム陣営は特定の政党に登録していなくても投票できるミシガンの予備選挙制度を活用し、民主党支持者にも共和党予備選に参加を呼びかけるという手段も駆使した。実際、出口調査によると、9%の投票者が民主党支持者だった。これは民主党支持者にとっては、ロムニーより保守のサントラムが共和党大統領候補になった方が、浮動票を集めにくく、オバマの再選に有利に働くという計算に基づく行為である。また、討論会で不調だったサントラムにとっては、ミシガンが勝者総取り制でないことが救いとなった。

2月の特徴
サントラム支持スーパーPACの役割
資金力、組織力の面でロムニーに全く敵わないサントラムが、アイオワでの勝利後、2月に台頭できたのは、一重に彼を支持するスーパーPAC Red, White and Blue Fundのおかげといえる。その大手寄付者はフォスター・フリースというミューチュアル・ファンドで一財を築いた富豪で、1月末の時点ですでに100万ドルを寄付していた。フリースは2008年にはロムニーを支持したが、宗教保守であることから、サントラムの中絶反対とタカ派の外交政策が気に入り、今回はサントラム支持に回った。フリースはまた、ティーパーティーの信念を支持する候補やTea Party Expressにも寄付している。
Red, White and Blue Fundは、ロムニー支持のスーパーPAC Restore Our Futureによるサントラム攻撃テレビ広告に反撃するテレビ広告をうったり、電話作戦を展開した。Campaign Media Analysis Groupによると、サントラムのスーパーPACが費やしたテレビ広告費は代議員1人あたり$17,500の計算になり、ロムニーの$67,700に比べ格安である。
ロムニーを支持するスーパーPAC Restore Our Futureにも、100万ドルかそれ以上を寄付している支持者は投資家を中心に9名いるが、サントラムとギングリッチがそれぞれたった1名のスーパーPACへの多額な寄付によって予備選挙で生き残り、浮上できたことは、注目すべき点であろう。

ロムニーの強みと弱点
ミシガンでサントラムに追いつき、最終的に勝利を得たことはロムニーの候補としてのしぶとさを示した。ロムニーの強みは何といっても資金力、組織力、そして他の候補に対する容赦ない攻撃である。
弱点は、今回のようにこれといった有力候補がいない争いでも、彼の支持者は白人の比較的裕福な高齢者が中心で、共和党のベースからの支持を固めることができない点である。ミシガン遊説中には米国車を所有していることをアピールするつもりで、「キャディラック2台を含め、デトロイト製の車は4台持っている」と言ったが、キャディラックは$35,00から$49,000する高級車で、労働者階級にとっては年収である。この発言に象徴される非庶民的な感覚と、弱者に無神経に見えるたびたびの発言が、いけすかない人物という印象を強めている。その結果、2月時点ではまだ最有力候補としてのポジションを確立できなかった。

ギングリッチの苦戦
1月のサウスカロライナでの勝利後、ギングリッチは2月にはネバダでロムニーに次ぐ支持を得て代議員6人を獲得した以外は、ミネソタやミシガンではポール以下の票という低迷ぶりだった。選挙資金不足で、遊説せずに、選挙活動を持続するための資金集めに専念せざるを得なかったことが災いした。ギングリッチを支持するスーパーPAC Restore Our Futureはカジノ経営者シェルドン・エイデルソンが1月末時点で1000万ドルを寄付し、サウスカロライナ、および特にフロリダ選でのテレビ広告を支援した。2月にも同額を寄付したと言われているが、スーパーPACは広告費用などを支援できても、候補自身の遊説・組織活動を直接には支援できないから、ギングリッチ自身が資金集めに翻弄するはめになった。
苦戦を迫られても、3月半ば時点では今後も選挙戦に残ると宣言している。ギングリッチとサントラムが保守層からの支持を二分しているため、どちらの候補とも大統領候補指名を獲得するに十分な票を集めることはできないことは、ロムニーにとって有利な展開となっている。しかし、一部にはギングリッチが残ることで、サントラムに加え、更にロムニーからより多くの票を奪い、ロムニーが候補任命に必要な代議員1144人を早期に確保することを阻止しているという見方もある。実際、ギャロップの3月初めの調査によると、ギングリッチに投票した有権者が次に支持する候補として40%がロムニー、39%がサントラムと回答しており、ギングリッチが退場しても、彼の支持者全員がサントラム支持に回るわけではない。

サントラム台頭の意味
今回の予備選挙では各候補が次々に急浮上しては退場した。ロムニーという候補に不満を抱く共和党支持者たちがNot Romneyを求めて、今月のお気に入りとしてケイン、ペリーといった候補を支持した結果である。
しかし、2月のサントラム台頭については事情が違うと、バージニア大学ラリー・サバト教授は分析している。つまり経済回復に伴い、オバマ大統領の支持率も上昇してきたことから、経済通であることをセールスポイントとするロムニーではなく、社会保守でブルーカラーのサントラムが望ましいと共和党支持者たちが考え始めた。また、共和党幹部もサントラムがティーパーティー支持者や福音主義者といったベースを活性化できる候補だと見直し始めている。接戦となる州での浮動票の獲得は別問題であるが。
サントラム陣営は自身が代議員1144人を確保できなくても、ロムニーがそのマジック・ナンバーを獲得することを阻止し、1948年以来の共和党大会での指名争いに持ち込むことをもくろんでいるようである。


*1:http://www.politico.com/2012-election/delegate-tracker/