タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/3/19

アメリカ大統領選挙UPDATE 4:モルモン教に対する有権者の意識と「脆弱な筆頭候補」(細野 豊樹)

ミット・ロムニーは、共和党の予備選挙において着実に獲得代議員を増やし、一貫して首位に立っている。しかし、2位のリック・サントラムを突き放すことができず、予備選挙は長期化すると予想されている。また、現時点で大統領選挙の投票が行われたとすると、ロムニーはオバマに勝てないことを、各種世論調査は示している。こうした状況を受けてニュート・ギングリッチは、ロムニーは「1920年のレオナード・ウッド以来最も脆弱な共和党筆頭候補」だと、先日のフォックス・テレビのインタビューにおいて評している。

前回のブログでは、ロムニーの得票を、共和党の予備選挙・党員集会におけるキリスト教福音派の割合と関連付けた。その後の予備選挙・党員集会においても、キリスト教福音派の割合が高い州ほどロムニーは苦戦する傾向を、出口調査は引き続いて示している(図)


PEW調査センターの最新の調査は、キリスト教福音派のロムニーへの支持率が突出して低いことを示している。有権者登録を行った共和党支持および共和党寄りの支持政党なし層全体のロムニー支持率は33%、サントラム支持率24%である。これに対し白人のキリスト教福音派のロムニー支持率は19%、サントラム支持率は33%となっている*1。こうした数字と、図1は符合する。宗教は、2012年共和党予備選挙の重要説明変数なのである。

たしかにロムニーを扱った『ニューズ・ウィーク』のカバーストーリーが指摘するように、宗教的偏見を正確に測るのは難しく、また、ロムニーの弱点は庶民性の欠如を始め他にも複数あるのも事実である*2
また、宗教は学歴、所得、都市化の度合いなどと相関するので、どの変数が一番利いているかを断定することは簡単でない。

しかし、ヴァージニア州予備選挙における共和党亜流のロン・ポールの得票率が40%に達したことに象徴されるように、ロムニー以外ならだれでもよいという異常に強い反ロムニー感情を説明できるのは、学歴、所得といった人口動態変数でなく、宗教に起因する理屈抜きの感情的な要因(gut feeling)だというのが、筆者の分析である。

以下では、有権者、特に宗教保守層のモルモン教に対する態度と、ロムニーの脆弱性を関連付けてみたい。

モルモン教徒の大統領候補に対しては、一部の有権者が長年にわたり一貫して拒絶反応を示している。2007年12月のギャラップ調査では、概ね大統領に相応しい資質を持った候補がモルモン教徒であった場合に支持するかという設問に対して、17%が支持しないと答えている。こうしたモルモン教アレルギーを、2割弱の有権者が持っているという傾向は、1967年以来概ね一貫している*3

では、どういった有権者に、モルモン教アレルギーがみられるのか。2007年3月公表のギャラップ調査は、モルモン教に対する好感度と反感度の差を、様々な有権者カテゴリーごとにまとめている。好感度と反感度の差が最も大きいのが、イデオロギー的にはリベラル派(-33ポイント)、共和党支持層(-10ポイント)、毎週教会に通う者(-21ポイント)、プロテスタント(-16ポイント)などとなっている*4。毎週教会に通う敬虔なプロテスタントは、モルモン教へのアレルギーが強いと言えよう。こうした傾向は、出口調査において自らの宗教的信条を候補が共有することが「極めて大事」とする有権者の間で、ロムニーが苦戦していることと符合する。

上記の調査は、自由回答形式で、モルモン教への印象を尋ねている。最も多い回答は、一夫多妻制であった(18%)。モルモン教が一夫多妻を認めていたのは19世紀末までの話である。モルモン教アレルギーは、モルモン教のことをよく知らないことから来る面もあるのだろう。

皮肉なのは、モルモン教徒は、共和党支持率が最も高く、保守を自認する者の割合が各宗派の中で最も高いことだ*5

モルモン教会は、「福音と整合的な考え方は、全ての政党の綱領に見いだせる。」としており、政治的に中立である。モルモン教の拠点であるユタ州は、今日でも人口の6割以上がモルモン教徒である。2008年までの9回の大統領選挙のうち、6回において共和党得票率が最も高い州であるものの、ニューディール期や1964年のように、民主党大統領候補が勝っている場合もある*6。このことから、近年のモルモン教徒の高い共和党支持率は、1980年代以降の社会的争点に関する共和党の右傾化が、保守的な信者が多いモルモン教徒にアピールしたためと言えよう。

今回の選挙で誠に興味深いのは、カトリック教徒のサントラムが、キリスト教福音派からの支持を集めていることである。その理由は、上述のPEW調査センターによる最新の調査が明らかにしている。キリスト教福音派の34%はサントラムがカトリック教徒だと正しく理解しているが、35%はプロテスタントだと誤解しているのだ。ちなみにギングリッチもカトリック教徒なので、2012年共和党の予備選挙における唯一のプロテスタントは、リバタリアンのポールである。

最後に宗教関連の今後の展望であるが、共和党大統領候補がロムニーになれば、2012年大統領選挙は、共和党も民主党も非白人プロテスタントという戦いとなる。サントラムが指名を獲得しても同じである。

その意味では、非白人プロテスタントのケネディーが、民主党一党支配だった南部において、プロテスタント(クエーカー教徒)のニクソン相手に苦戦した1960年大統領選挙などとは隔世の観がある。

他方で、1960年大統領選挙は、候補の宗派が従来の得票パターンをかく乱したという意味においては、2012年との比較で興味深い。ケネディーは、当選したらローマ法皇に従うことになるといった偏見を払しょくするための、演説やパフォーマンスを余儀なくされた。これを意識したロムニーは、かつてケネディーが演説したテキサスのヒューストンにて、政教分離などに関する演説を2007年12月に行ったものの、あまり注目されなかった。2012年大統領選挙のロムニーは、選挙本におけるモルモン教に関する記述が希薄であるなど、宗教について多くを語るのを避けている。対立候補も同様なので、宗教という重要説明変数が水面下にもぐっていることは、前回にコラムにて指摘したとおりである。

もしもロムニーが夏の共和党大会において大統領候補に指名されて、モルモン教アレルギーのキリスト教福音派が大量に11月の投票で棄権するような場合は、民主党を利することになる。しかし、キリスト教福音派が棄権するかは流動的である。なぜなら、彼らにはモルモン教アレルギーがあると同時に反オバマでもある。オバマに対して怒りの一票を投じに来る可能性もある。

最近のガソリン価格の高騰が続いた場合は、こうした怒りの一票の土壌となるかもしれない。どの候補も宗教について語らないのに宗教が底流で選挙を規定している現在の状況から、ポケットブック的経済争点が中心という、普通の選挙に回帰するのだ。



*1:Pew Research Center for People and the Press. “Romney Leads GOP Contest, Trails in Matchup with Obama; Gas Prices Offset Good News about Jobs”. March 13, 2012
http://www.people-press.org/2012/03/13/section-1-the-gop-primary/
*2:2012年2月6日の『ニューズ・ウィーク』のカバーストーリーが挙げる、宗教以外のロムニーの弱点には、「ロムニー・ケア」問題、真面目すぎて面白みに欠ける「ミット・ボット」要因、ロムニーの企業買収への反感などである。
*3:Lydia Saad. “Percentage Unwilling to Vote for a Mormon Holds Steady; 18% of Republicans would not support a Mormon presidential nominee”. Gallap Poll. December 11, 2007.
http://www.gallup.com/poll/103150/Percentage-Unwilling-Vote-Mormon-Holds-Steady.aspx
*4:Frank Newport. “Americans' Views of the Mormon Religion; Most frequent top-of-mind impression of Mormons is polygamy”. Gallap Poll. March 2, 2007.
http://www.gallup.com/poll/26758/Americans-Views-Mormon-Religion.aspx
*5:Frank Newport. “Mormons Most Conservative Major Religious Group in U.S”. Gallup Poll. January 11, 2010.
http://www.gallup.com/poll/125021/Mormons-Conservative-Major-Religious-Group.aspx
*6:Michael Barone and Chuck McCutcheon. “Utah”. The Almanac of American Politics 2012. Chicago and London: The University of Chicago Press. pp. 1617-1619.