タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/3/19

アメリカ大統領選挙UPDATE 4:サントラム候補の経済政策(西川珠子)

共和党の大統領候補選びは、スーパー・チューズデーを経てもなお混戦が続いている。予備選挙開始前は泡沫候補と目されていたリック・サントラム元上院議員は、大票田オハイオ州で善戦し、南部のアラバマ、ミシシッピ両州を制するなど、「ロムニー以外」を求める保守派の影響力の強さを改めて印象付けた。妊娠中絶や同姓婚などソーシャル・イシューを重視する社会的保守派の旗手であるサントラムだが、豊富なビジネス経験を誇るミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事に比べ、経済政策運営の手腕は未知数である。経済が最大の争点である今回の大統領選挙において、社会的保守派としてのアピールは予備選挙では有利でも、それだけでは本選挙に勝てない。サントラム候補はどのような経済政策を掲げているのだろうか。

サントラム候補は、Wall Street Journalへの寄稿*1 で、就任100日以内に立法提案を行う優先課題として10項目を掲げている。その内容は、減税・歳出削減や、医療保険改革(オバマケア)・CO2排出規制をはじめとする規制撤廃など、基本的には他の共和党候補と同様に小さな政府を志向するものだ。一部政府機関や連邦準備制度(FRB)の廃止を主張するロン・ポール下院議員や、一律15%の均一所得税率(フラット・タックス、現行制度との選択制)を掲げるニュート・ギングリッチ元下院議長に比べ、サントラム候補の立ち位置は保守的な急進性が強いとはいえない。

他方、ロムニー候補との比較で見ると、オバマケアのみならず、ロムニーケア(州知事時代の医療保険制度改革)も痛烈に批判するなど、経済政策面でもロムニー候補より一見保守的にみえる。減税については、所得税率を2段階に簡素化(10%、28%)、法人税率も半減し(35%から17.5%へ)、製造業はゼロとすることをサントラム候補は提案しており、ロムニー案(所得税率は6段階を維持し一律20%引き下げ*2 、法人税率は25%に引き下げ)より「成長促進的(pro-growth)」であると主張している。歳出についても、5年間で5兆ドル削減・GDP比18%以下抑制をめざし、GDP比20%以下を掲げるロムニー候補より踏み込んだ内容としている。

しかし、サントラム候補の提案のなかには、一部リベラル色の強い施策も含まれている。サントラム候補は、税制改革の理念としてpro-growthと同時に「家族支援(pro-family)」を重視しており、児童税額控除を3倍にする提案を行っている。こうした提案は、炭鉱労働者だった祖父を持つブルーカラー出身者として製造業を重視する姿勢と相まって、ブルーカラーのレーガン・デモクラットの支持獲得に寄与する可能性が指摘されている一方で、財政保守派の受けは悪い。

例えば、Wall Street Journalは論説記事*3 で、「ロムニーよりサントラムの経済政策提案のほうが大胆であり、サントラムが有力候補として浮上したことで経済政策論議の質は高まった」と評価しつつも、「児童税額控除は、経済政策というより社会政策であり、税制を社会・政治的目標達成に利用するリベラル派の発想に本質的に合意するもの」であると批判している。

また、サントラム候補はかつて、保守派が忌み嫌うブッシュ前政権の「思いやりのある保守主義(Compassionate Conservatism)」を積極的に支持しており、上院議員時代に籍をおいた銀行委員会では、貧困層支援の観点から住宅取得促進政策を熱心に推進していた。今回の選挙戦では、住宅市場における政府の役割が大き過ぎ、返済能力のない借り手に信用供与したことが金融危機の原因であるとして、住宅公社(Government Sponsored Enterprises, GSE)への政府の関与を段階的に廃止することを公約するなど立場を修正している。家族・共同体の価値を重んじる主張が経済政策面で行き過ぎると、財政保守派の反発を招くことになりかねない。

サントラム候補の存在は、今後の選挙戦にどのような影響を与えうるのだろうか。2月7日のコロラド、ミネソタ両州党員集会での勝利により急浮上したサントラム候補だが、その後支持率はピークアウトしてロムニー候補を下回り、代議員獲得数でも大きく水をあけられている。指名獲得に向けたハードルは高いが、票を分け合っている保守派候補がサントラム候補に一本化されれば、一気に躍進の可能性も残されている。
サントラム候補とロムニー候補のどちらが最終的に共和党候補の指名を獲得するか次第で、本選挙の争点も変わり、オバマ陣営の戦略も修正を余儀なくされる可能性がある。ロムニーを対立候補として念頭においた「共和党=富裕層擁護、民主党=中間層の味方」というオバマ陣営のレトリックは、「ブルーカラー出身」のサントラム候補が相手ではインパクトを欠くものになるため、製造業復活や中間層支援の具体策を競うことになるだろう。オバマケア攻撃に対する防御・反論も、対ロムニー以上に綿密な準備が必要だ。

最終的にロムニー候補が指名を獲得する場合でも、サントラム候補の批判に呼応してロムニー候補が当初は抽象的だった税制改革案を具体化するなど、サントラム候補は経済政策論議を深める一定の「功績」を挙げた点は見逃せない。一方で、長期化する予備選挙でのネガティブ・キャンペーンの応酬や、ロムニー候補がより保守的な政策を打ち出さざるをえなくなることによって、本選挙でのロムニー候補のElectability(当選可能性)が低下する弊害も指摘されている。共和党にとっての功罪は相半ばするものの、有力な対抗馬としてのサントラムの存在は引き続き軽視できない。



*1:“My Economic Freedom Agenda,” February 27, 2012
*2: 最高税率は35%から28%へ、最低税率は10%から8%へ引き下げ。
*3: “Rick Santorum’s Economy?” January 9, 2012