タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/3/19

アメリカ大統領選挙UPDATE 4:アメリカンズ・エレクト:分極化を打開する新たな「方法」か?(西川 賢)

はじめに:分極化は第三政党の躍進を促すのか?

2012年の大統領選挙において、2012年3月現在、目下の話題は共和党の本命候補選びに集中しているようである。第三政党に関しては今までのところ相対的に大きな話題を提供していない感もあり、せいぜい我々の記憶に新しい話題は、共和党候補の一人であったギャリー・ジョンソン(前ニュー・メキシコ州知事)がリバタリアン党から出馬することを宣言したことぐらいであろうか。

しかし、2012年選挙における第三政党の役割について、目立たないながらも一部で熱心な議論が行われてきたことも確かである。例えば、ルース・マーカスのように2012年選挙における第三政党の躍進を肯定的に見ている論者が存在する(Marcus, 2011)。このような2012年大統領選挙における「第三政党躍進期待説」の背景となっているのが「イデオロギー的分極化」(Polarization)と呼ばれる現象であろう。

分極化とは、アメリカの二大政党における政党内部でのイデオロギー的凝集性の拡大と、それに伴う政党間におけるイデオロギー的距離の拡大というものが最大公約数的定義とされている(松本、2009、192頁)。すなわち、かつては民主党、共和党はともに党内に穏健派を抱えており、イデオロギー的に多様な集団であった(Levendusky, 2009, p.2)。だが、いまやアメリカの二大政党はともにイデオロギー的純化を進めて異なった政党になっており、両党から穏健派が姿を消すことでアメリカ政治から中道が失われ、激しい党派対立と分断が生じ、それが政治的停滞の一因をなしているとも指摘される(Hacker & Pierson, 2005, pp.2-7; Stonecash, Bremer, & Mariani, 2003, p.7; 待鳥2008年、76頁)。

つまり、第三政党躍進説の根拠となっているのは、有権者が党派的に偏りすぎ柔軟性を失った二大政党にかわる「中道的オルタナティブ」(Centrist Alternative)を求めているという視点である。そこで最近注目されているのが、「アメリカンズ・エレクト」(Americans Elect)と呼ばれる団体である。

1:「アメリカンズ・エレクト」への注目
池原麻里子氏が別のコラムにおいて既に指摘されているように、アメリカンズ・エレクトは既存のいかなる政党、イデオロギー、政治家からも距離を置く、正真正銘の不偏不党の政治団体を標榜しており、無党派の大統領候補を擁立することで政治的停滞の打開を試みるものであると主張している(池原、2011)。

アメリカンズ・エレクトは2005年に生まれたUnity 08という組織が基盤となっている。Unity 08は元ホワイトハウスのベテラン3人、民主党の故ハミルトン・ジョーダン(カーター大統領首席補佐官)とジェラルド・ラフシューン(カーター大統領報道官)、および共和党のダグ・ベイリー(共和党系政治コンサルタント)の発案で設置された組織であり、ウェブによる超党派の政治改革をその活動の眼目としていた(池原、2011)。

同団体は既存の政治対立や停滞特殊権益中心の既存の政治のあり方に倦む多くの有権者の声を拾い上げ、それを組織化することを目標に据え、そのためにインターネットを活用した支持者の組織化を試みている点が最大の特色といえよう。池原氏のコラムにあるように、アメリカンズ・エレクトは2012年の大統領選挙においては以下のような手順を経つつ、現在も活動を展開中である(以下の6項目は池原、2011に依拠)。

1:全米50州で大統領候補名を登録する資格を確保する。
2:有権者ならば党を問わず、代議員になることを可能とする。代議員は移民、外交、社会問題、経済、教育、ヘルスケア、エネルギーの分野でイシューを選択する。同様の考えを持つ代議員同士を紹介し、組織活動に連結していく。代議員は自分達の理念に合致する大統領候補を推薦する。
3:大統領候補は自薦も可能とする。ただし、過去の大統領と同等の資格要件を満たすことが候補になりうる必要条件である。
4:候補者審議委員会(Candidate Certification Committee)は候補の実績を審議し、候補となる資格があるかを審査する。資格を得た候補は上記のイシュー分野に関し、政策を明らかにする。2012年4月に代議員は候補の回答を吟味し、3回の投票を通じて候補を6人に絞る。
5:6人の候補は副大統領候補を選ぶ。6月にオンラインの代議員大会でアメリカンズ・エレクトの大統領・副大統領候補を選ぶ。
6:選ばれた候補は大統領・副大統領候補討論会に出席し、11月の本選挙に向けて候補としてのポジションを確立する。

また、アメリカンズ・エレクトは大統領候補は自分の政党と異なる副大統領候補を選ぶことを条件としている。民主党員であれば共和党員か無所属、共和党員ならば民主党員か無所属の副大統領候補とチケットを組まなければいけない(池原、2011)。


2:「政党」なのか、「方法」なのか?
ここで注目しておきたいのは、アメリカンズ・エレクトが自らを「第三政党」であると考えておらず、むしろ自らを「大統領を選ぶための第二の方法(a 2nd way)」、もしくは「21世紀型の候補者のノミネート・システム」であると位置づけていることである。おそらくアメリカンズ・エレクトの前身にあたるUnity 08が連邦選挙委員会から「政党」と定義うけたことにより不利な立場におかれ、活動が軌道に乗らなかった教訓を踏まえてのことでもあろう(池原、2011)。しかし、アメリカンズ・エレクトが新しい《政党》ではなく、新しい《方法》だというのはどういう意味を持つのであろうか。

ここでアメリカにおける候補者選出の方法を簡単に振り返ってみると、18世紀の最初の数十年間はキング・コーカスと呼ばれる議会内のエリート集団が大統領候補者を選出する方法が取られてきた。そのようなエリート中心的なやり方にかわって、1830年代には全国党大会制度が導入されるようになり、大統領候補の指名権は議会内部の少数の特権的エリートから州・地方の政党リーダーへと移行していった。さらに直接予備選挙の導入によって大統領候補の指名の中心は一般有権者へと更に移っていった。このような候補者指名方法の変遷に伴って、アメリカ政治の「質」も大きく変遷してきたということがよくいわれる(Fabbrini, 2005, pp.314-318)。

アメリカンズ・エレクトの面白い点は、政党ボスでも有権者による予備選挙でもなくソーシャル・メディアを活用する方法によって、候補者選出方法そのものを根底から革新しよう、そして「方法」を革新することで既存の政治のあり方を打破し、政治の「質」を変革しようと試みている点ではないだろうか。

ソーシャル・メディアがウォール・ストリート占拠運動のような社会運動の組織化や、あるいは中東における政治社会の変動に果たした役割は既に様々な形で多くの議論を呼んでいる。アメリカンズ・エレクトもこのような文脈で、ソーシャル・メディアの役割が政党や社会運動のあり方を変えつつあることを示す現象であると考えることも可能である。それがこのような形での活用方法を見出し、政党の組織化や候補者指名のあり方に影響を与えようと試みていることは注目されるべき現象であろう。


3:アメリカンズ・エレクトは躍進するか?
エモリー大学のアラン・アブラモウィッツ教授はアメリカンズ・エレクトの躍進については懐疑的な見方を崩していない。アブラモウィッツ教授が2012年の大統領選挙でアメリカンズ・エレクトが期待されるほどの躍進を遂げそうにない根拠としてあげているのは、第一に出馬を表明している知名度のある候補者が今のところ存在しないこと。第二に、資金力や運動員の確保などの面でも圧倒的に不利な状況に置かれていること。さらにアブラモウィッツ教授が第三政党の躍進を阻む最大の要因に上げているのが、他ならぬ分極化である(Abramowitz, 2012)。

分極化の進んだ今日において、有権者もイデオロギー的に二分された状況にあることをアブラモウィッツ教授は数値を上げて論証している。つまり、有権者は分極化しているから中道的オルタナティブとして第三政党を求めるのではなく、イデオロギー的に二分された有権者は中道的なアメリカンズ・エレクトが擁する候補者が存在してもそれに投票することは考え難いという訳である。このような状況下でアメリカンズ・エレクトに投票すると考えられるのは純粋な無党派層(しかも、こうした層は通常あまり政治参加に強い関心を持たない)に限られるであろうが、それは全有権者の10%にも満たない――このような根拠をもって、アブラモウィッツ教授は2012年の大統領選挙でアメリカンズ・エレクトはさほど躍進しないのではないか、とする帰結を導いている(Abramowitz, 2012)。

ジュリアン・ゼリザー教授(プリンストン大学)も2012年選挙で第三政党が躍進する可能性については懐疑的である。しかし、第三政党は躍進こそせずとも――かつてセオドア・ローズヴェルトが率いた革新党やヒューイ・ロングがそうであったように――何らかの形で二大政党のいずれもが無視しているイシューに対する注意を喚起し、政治のあり方に一石を投じる役割を果たすことはありえよう(Zelizer, 2011)。

すでにバディ・ローマーが共和党予備選挙を諦め、アメリカンズ・エレクト(或いは改革党)からの出馬を宣言しており、一部で注目を集めている(Easley, 2012)。そのほかにも、「統治があまりにも党派的になりすぎており、それがあまりにも我々が大きな国家的課題と向き合うことを阻害していることに当惑している」ことを理由に、アメリカンズ・エレクトに「興味をもっている」と語るジョー・リーバーマン上院議員やデイヴィッド・ボーレン元上院議員のような有力政治家も存在する。今後意外な候補者がアメリカンズ・エレクトから出馬し、予想外の注目を集める可能性も全くないではないであろう(Raju, 2012)。


終わりに
はたして2012年の大統領選挙で第三政党が躍進するのか否か、また分極化は第三政党の活動を後押しする要因となっているのか、それとも第三政党の躍進を阻害する要因であるのか、アメリカンズ・エレクトが企図する候補者指名方法の革新を通じた政治的刷新の試みはうまくいくのか――いずれも興味深い研究課題であるが、軽々な結論をここで下すことはできないであろう。今後の動向を虚心坦懐に見守りたい。

いずれにせよ、今回の選挙であまり話題になっていない(特に日本では)感もある第三政党ではあるが、アメリカ政治を見る上で、様々なヒントを提供する興味深い現象であるといえるのではないだろうか。


参考文献(アルファベット順)
:Abramowitz, Alan. “The Third Party Illusion,” Sabato’s Crystal Ball, February 12, 2012. :Easley, Johnathan. “Buddy Roemer to make Third-Party Bid,” The Hill, February 22, 2012. :Fabbrini, Sergio. “The Semi-sovereign American Prince: The Dilemma of an Independent President in a Presidential Government,” in Thomas Poguntke and Paul Webb (eds.) The Presidentialization of Politics: A Comparative Study of Modern Democracies (Oxfords: Oxford University Press, 2005).
:Hacker, Jacob S. and Paul Pierson. Off Center: the Republican Revolution and the Erosion of American Democracy (New Haven: Yale University Press, 2005).
:池原麻里子「第三の大統領候補への道」『アメリカNOW』第80号、2011年9月14日。:Levendusky, Matthew. The Partisan Sort: How Liberals Became Democrats and Conservatives Became Republicans (Chicago: The University of Chicago Press, 2009).
:待鳥聡史「イデオロギーと統治の間で」『アステイオン』第69号(2008年).
:Marcus, Ruth. “Third-Party Wild Card in 2012: Washington gridlock lends some allure to Internet-driven Americans Elect, but its secrecy about money is troubling,” The Commercial Appeal, December 27, 2011. :松本俊太「アメリカ連邦議会における二大政党の分極化と大統領の立法活動(一)」『名城法学』第58巻・第4号(2009年3月).
:Raju, Manu. “Joe Liberman could back Third-Party Candidate,” Politico, March 5, 2012. :Stonecash, Jeffrey M., Mark D. Bremer, and Mack D. Mariani. Diverging Parties: Social Change, Realignment, and Party Polarization (Massachusetts: Westview Press, 2003).
:Zelizer, Julian. “Third-Party Candidate still matter,” Politico, October 13, 2011.