タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/4/11

ワシントンUPDATE 「中国を悩ます北朝鮮問題」

ポール・J・サンダース
センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト常務理事
東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・海外メンバー




 北朝鮮は、金日成主席生誕100年にあたる4月15日前後に人工衛星の打ち上げ―ミサイル発射実験だというのが大方の見方である―を行うと発表した。これを受け、一部では、中国に期待する声が上がっている。中国政府ならば北朝鮮の煽動的な動きをなだめられるのではないか、というのだ。しかし、米国と同盟国の関係同様、中国もまた、北朝鮮への対応には大きなジレンマを抱えている。ただし、米国政府とは異なり、中国政府は、事態の変化をもたらす選択を採らないことで、こうしたジレンマを回避するつもりのようだ。そうした姿勢が、最終的に中国の国益保護につながるのかについては、今後の展開を待つほかない。

 当然ながら中国は、安全保障、政治、経済において北朝鮮と大きな利害関係にある。まず、安全保障という観点からすれば、北朝鮮は、中国と韓国(米国の同盟国であり、大規模な米軍部隊が駐留している)の間に位置し、緩衝国しての役割を果たしている。北朝鮮の核兵器および予測不能な行動は、東アジアの不安定化を助長し、米国、日本、韓国からの反発を招いているが、これは中国政府としては避けたい事態である。同時に、北朝鮮国内の不安定化は、中国にとって大量の難民流入につながる恐れがあり、状況次第では、韓国主導による南北統一を促す可能性もある。

 政治的視点からみると、北朝鮮=中国の従属国であり、中国が大きな影響力を持っている、という認識が、中国の国際的立場を押し上げている。これは、北朝鮮政府が大胆な行動に出るたびに、国際社会の注目が中国政府に集まることからも明白だろう。また、経済的には、北朝鮮は比較的小規模とはいえ、中国にとって貴重な貿易相手国となっている。おそらくその重要性は、貿易の損益よりも、中国のどの関係者が関わっているのかということに起因するものだろう。

 中国にとっての中心的課題は、北朝鮮が現状維持を保つことが、他の可能性よりも好ましいものに思われる、という点である。以下において、中国政府の視点から見た、現状維持以外の選択肢(可能性)を検討する。

戦争その他の継続的軍事活動。どの国が発端であろうと、中国国境の目と鼻の先で戦争が繰り広げられるのは決して望ましい事ではない。安全保障上のリスクや北朝鮮政府の崩壊の可能性のみならず、中国政府はそうした軍事活動に関与するか否かの選択を迫られることになる。関与することになれば、多大な費用がかかるだろう。一方、関与しないとなれば、北朝鮮政府が中国唯一の同盟国であることを考えると、中国の国際的役割の弱体化につながりかねない。

厳しい制裁措置。―国際社会のからの強い圧力は、北朝鮮の崩壊を助長しかねない。中国が、経済制裁に反対、あるいは一部の制裁措置に留まってきたのは、こうした理由からである。

北朝鮮と米国(および米国同盟国)との一括妥結案(grand bargain)の成立。特に、米国、欧州、韓国による多額の経済援助、あるいは北朝鮮の外交政策上の優先事項に影響を及ぼすような約束が成立する事態になれば、中国政府にとって厄介なことになる(なお、依然として反北朝鮮の姿勢が強い日本からの投資の可能性は、まだ先の話になるだろう)。

北朝鮮の自滅による経済崩壊。多数の難民が発生し、国連安保理の了承の有無にかかわらず、北朝鮮への外部介入につながる。

韓国との統一化。中国は、東アジアに誕生する新たな大国―しかも米国同盟国―と、国境を接することになる。

 これらのことから、中国の指導者層は、北朝鮮への対応に頭を悩ませている。北朝鮮の扇動的行動や、米国をはじめとする国際社会からの圧力を抑制しながらも、米朝関係や南北朝鮮の不和が大幅に改善されるのは中国の望む展開ではない。また、北朝鮮が崩壊に至らぬよう、政治・経済改革を支援する必要があるものの、行きすぎた支援により、現政権の交代や国際社会における立ち位置が変わる程に改革が進んでしまうのはよしとしないわけである。

 広く世界に目を転じると、中朝関係は、ロシアとイランの関係と興味深い類似性が見られる。中国同様、ロシアも不安定な現状をそのまま維持することに腐心している。戦争、「致命的な制裁措置、政権交代、イランと西側諸国の関係改善、これらすべてを回避しなければならないのだ。ロシア政府も、表向き協力的な姿勢を見せ、ロシアが影響力を有すると思われることも多いイランとの関係に難儀している。実際のところ、現在、ロシア指導者の影響力は限定的な範囲にとどまっている(北朝鮮との折衝時における中国も同様である)。

 しかし、北朝鮮とイランでは、2つの大きな相違点がある。まず、北朝鮮はイランと異なり、実際に核兵器を保有している。もうひとつは、イランの指導者層は扇情的発言を続けているが、同国政府の動向は北朝鮮に比べ予測しやすく、危険性も少ない。これら2点の相違点が相まって、北朝鮮は重要な局面で、イランよりも危険かつ対応の難しい脅威となっているのだ。

 ここから、4つの重要な疑問―3つが中国について、残る1つが北朝鮮について―が生じる。1)中国の目標を達成するのに必要な複雑さと繊細さを兼ね備えた政策というものは、果たして立案可能だろうか。2)もし可能だとしても、中国の指導者はそれを実行するだけの力があるだろうか。3)不可能な場合、中国の指導者は北朝鮮へのアプローチを再考するための時間的制約を認めるだろうか。4)最後に、これが最も重要な問題であるが、中国が望む北朝鮮の現状維持は、実際問題として、今後数年間以上持続し得るのだろうか。それが不可能ということになれば、今後中国政府は、数々の不快なサプライズを経験することになるだろう。

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